18話 花守さんって、ポメラーなの!?
数日後のお昼時。幸果はバイトの休憩室でポメッコの動画を眺めていた。
最近伸びが非常に良く、とうとう来月は数万円の収入を得られる見込みができた。
ポメッコが「僕、ミーチューバーになる!」と言い始めた当初は、正直バカバカしく思っていた幸果。どうせ三日くらいで飽きるのがオチだろうと考えていた。
でも実際はどうだ。まさか二ヶ月足らずでここまで大きなコンテンツに仕上げるとは。
正直感服してしまった。
それに比べて、自身の小説の進捗はあまりよろしくない。
その事実に酷い劣等感を感じるというか、肩身が狭い思いをする。
「はぁ……」
自然と深いため息が漏れた。ポメッコは最近、自分で稼いだお金を生活費に充ててくれている。なんなら家賃代の七割はポメッコが払ってくれているくらいだ。
それに関しては正直助かっているけど、そのうち頭が上がらなくなったらと思うと危機感を煽られる。
この状況は非常によろしくない。そのうち何か集られたりしたらどうしよう。
……まあ、あの子に限ってそんなことはしないだろうけど。
「お疲れ様です」
「あっ、はい。お疲れ様です鹿島さん」
考えているうちに、先輩の鹿島さんが休憩所に入ってきた。
それと同時に、幸果は反射的に彼女から目を逸らす。
またガミガミとバイトの失敗を指摘されるかもしれない。今だってかなりだらしない座り方をしていたから、注意されるかも。
そう思って身を固まらせた。
「……あの、花森さん」
「え、あっ、はい」
そんな矢先、横から鹿島さんが尋ねてきた。
マジかよ。まさか本当に話しかけられるとは思わなかった。
しかも心なしか、いつも以上に顔つきが真剣だ。
「ちょっといいかしら?」
何かを言いたげな面持ちで、徐々にこちらへ歩み寄ってくる。
嫌だなぁと思いつつ、幸果は咄嗟に体を縮こまらせた。
そして——
「もしかして花守さん、ポメラーなの?」
「…………はい?」
あれ? なんか急に知らんワードが飛んできたぞ。
何それ……? いったいなんの話ですか?
「な、なんですか。その、ポメラーというのは……」
「ポメッコくんのファンのことよ!」
急に出された大きな声。いや、急すぎだって。なんなの唐突に。
今自分、なんか怒られてんのかな?
「だってほら、花守さんポメくんの動画見てるから!」
「……あっ」
指摘されてようやく理解した。
幸果が開きっぱなしにしていたポメッコ動画。それを見ての質問だったのか。
……いや、だとしてもよくわからん。
なんだポメラーって。ポメッコファンの名称があるとか初耳なんだけど?
「やっぱり花守さんもポメラーなの!?」
「あぁ……はい、まあそんなところです」
「うわぁっ! ほ、本当に!?」
鹿島さんは飛び跳ねながら喜んだ。
別にポメラーではないのだけど、とりあえず話を合わせておこう。
まあ、実際本人と住んでいるわけだし、そういう意味ではポメラーといってもいいでしょ。
「まさか職場にポメラーの人がいたなんて、感激だわ! 身近にポメラーの人いなかったからすごく嬉しい!」
「は、はぁ……。そうですか」
普段は寡黙な鹿島さんが珍しく興奮していた。急に饒舌になったから、正直幸果も驚いてしまった。
この人にもこんな一面があったのかと。ギャップがとにかくエグい。
「私、実はショタコンなの!」
「自分で言うんですか……」
「最近ポメくんの動画を見つけてね、自分の癖に刺さりすぎてやばいというか。とにかく今はポメくんが最推しなのよ!」
それだけ夢中になるほどの良さはわからないけど、彼女は大きな勘違いをしている。
うちのポメはそんな可愛いもんじゃない。いつも何かしら問題を起こすし、たまにやたらと小賢しい時もある。悪い意味でね。
実物をこの人に見せてやりたいくらいだ。
まあ、自分がその子と暮らしているなんて口が裂けても言えないけど。
「ねね、花守さんはポメくんのどこが好き!? 私はやっぱり美少年すぎるお顔が好きなんだけど!」
鼻息を荒らしながらぐいぐいきた。「意外とめっちゃお金稼いでくれるところです!」とは言えまい。
まあ、とりあえず適当に答えとくか。
「えーっと、意外と甘えたがりなとこ……ですかね」
「え、そんなイメージあるかな?」
やべっ、ミスった。これじゃあまるで一緒に暮らしているみたいじゃないか。知的な鹿島さんなら、勘づかれてしまうかもしれない。
「まっ、解釈は人それぞれだものね!」
あっ、なんか助かったぞ……。
「あとさあとさ、この前の動画も最高じゃなかった!? ポメくんの大爆笑するとことか、私マジでやられちゃってさ!」
「そ、そうですね。わかりますよ。すごいわかりますとも」
鹿島さんとこんなに話をする日が来るなんて思いもしなかった。すごい不思議というか、とんでもない違和感を覚える。
数時間前の自身にこのことを話しても、絶対信じないだろうなぁ。
なんて考えながら、ひたすらにショタコンパイセンの饒舌トークを聞き流す幸果であった。




