15話 また会いましたね、ストーカーさん
「ひぃ、ちべたーい! 頭キィーンてする、キィーンって!」
「ははっ、お子ちゃまだね——痛っ! なんか頭キィーンてしてきた!」
「あはははは! 幸果ちゃんもお子ちゃまじゃーん!」
「う、うるさい!」
観覧車を降りた後は、約束通りソフトクリームを買って食べた。園内のベンチに腰かけて、二人並んで頭を痛めている。
側から見たら、だいぶシュールな光景なんだろうなぁ。
「……あ」
ふと、目の前を歩く五人グループが目に入った。制服を着た高校生集団だ。
その中の一人に、見覚えのあるやつがいた。
「どうしたの幸果ちゃん?」
「いや、なんでもない」
アイスで咄嗟に顔を隠す。バレませんようにと強く願いながら。
でも、そんな祈りも虚しく終わる。先方の男が。いや、ストーカーがこちらに気づいたのだ。
「……あれ? うわっ! 花守じゃん!」
うわぁ、最悪。マジ最悪。なんでそんなに気づくの早いんだよ。
さすがはストーカーこと、王塚魔人さんだ。
「めっちゃ奇遇じゃん! 何してんだよこんなとこで」
気づくや否や、王塚君は嬉々としてこちらに迫ってきた。いや、来ないでぇ。
「……べつに、ただ遊びに来てるだけですけど。何か悪い?」
「いや、そうは言ってねぇだろ」
まさかこんなところで会うとは思わなかった。
この人、どこにでもいるなぁ。何体かクローンでもいるんじゃないの?
「お、なんだよその子。……まさか、隠し子?」
「バカ、そんなわけないでしょ」
「はじめまして! 僕は異世界からやって来たポナペティア王——ぐわっ!?」
即座にポメッコの口を押さえた。まーた余計なことを口走りよって、このちびすけは!
「はははっ、ちょっと親戚の子を預かってるの! 今はこの子と二人で暮らしててぇ」
「ふ、二人っきりで……?」
咄嗟の言い訳にしては悪くない。親戚の人とは何年も顔を合わせてないけど、このくらいの嘘は許されるでしょ。
「ふーん、そっか」
とりあえず、納得はしてくれたみたい。よかったよかった。
「なんか変わった髪色だな。顔つきも外国人っぽいし……」
鋭いなぁ。ほんっと無駄に鋭いなぁ。マジでなんなのこの人。
「は、ハーフなのよ」
「へぇ、そうなんだ……」
なんでもいいからさっさと行ってほしい。こっちはプライベートで来てるんだから。元同級生と話す気なんてさらさらない。だって嫌じゃん? 現役の学生と会話するなんて。こっちは学生じゃなくなったんだからさ。青春の過剰摂取は精神的に辛いって。
「どうしたの魔人? 遅いよぉ」
とうとう、後ろにいた連れの人たちがやってきた。しかも全員見覚えがある。たしか、高校で同じクラスだった人たちだ。男子二人、女子二人、合わせて四人くらい。王塚君を合わせると五人か。
みんなで遊びに来ていたのかな。いやー、青春してるねぇ……。
「え、その子誰? 魔人の友達?」「やっべ、けっこう可愛いじゃん。まさか彼女?」「ちょっと、彼女いないって言ってたじゃん!」「バイトの子?」
「…………」
あー、そうだよねぇ。数ヶ月しか通っていない同級生の顔なんて、覚えていなくて当然だよね。
なんか、こうやって同級生たちを眺めていると胸の奥がちくちくしてきた。
自分が学校を辞めた後も、他の子たちは変わらず学校生活を送っている。当たり前の話だけど、その事実が否が応でも自分の心をモヤつかせた。
少しだけ、肩身が狭くなってきたよ。
「あっ、思い出した!」
女子の一人が、急に幸果を指差した。
「いつも一人で本読んでた人だ!」
「…………」
嘲笑するようなデカい声で、そんなことを言ってきた。今時、こんな感じ悪い人いるんだなぁ。もう高校生でしょうに。
あと、人に指を向けてはいけないって習わなかったのかな?
「……どうも」
その不躾な態度に、こっちはすぐに彼女たちのことが嫌いになった。
まあ、もう二度と関わらない人たちだ。何を言われたってどうでもいいけどね!
「おいっ、やめろよ!」
王塚君が女子の指を下ろさせた。頭をかきながら、グループのみんなに伝える。
「……俺ちょっと花守に話があるから、先に行っててくれ」
それを聞いた一行は、訳のわからない顔をしながらも、素直にその場から去っていった。たぶんあの人たちとは、もう二度と会うこともないんだろうなぁ。
「ごめんな、別に悪い奴らじゃないんだけど……」
王塚君は、申し訳なさそうに言葉を発した。
「……いや、なんでもない。ごめん」
そして、頭を九十度に下げての謝罪。
なんでだろう。王塚君にここまで謝られると、なんだかすごくむず痒くなる。
別におかしくはないのに、とても気持ち悪く感じてしまった。
「……気にしてないから大丈夫。王塚君が謝ることじゃないし」
「そ、そうか? ……ならよかったけど」
「で、話って?」
幸果が切り替えるように伸びをする。
すると王塚君は、ポメッコに顔を向けた。
「いや、そっちのちびすけについてさ……」
「ん、僕?」
さっきからずっと静かにアイスを舐めていたポメッコ。
珍しく気遣いを発揮したのか、それとも単にアイスに夢中だっただけなのか。いずれにしても、よく静かにしてくれたものだ。
あの会話の中に割り込まれたら、余計にややこしくなっていたと思うから。
「お前ら、二人で暮らしてんだって? ふ、二人っきりで……?」
指をプルプルさせて、ポメッコに指を差す王塚君。なんでそんなに震えてるの? やっぱりヤバい人なのかな。薬とかやってなきゃいいけど。
「そうだよ! 僕たちは二人で、一つ屋根の下さ!」
「まーたそんな言葉。どこで覚えたの……」
「ネット!」
「でしょうね!」
お決まりのやり取りを交わし、しばらくやいのやいのと騒いでいた。
やがて王塚君を放ったらかしにしていたことに気づき、彼にも事情を説明することにした。もちろん、ポメッコの正体や自分の境遇は伏せたままで。
家の事情で今は一人暮らしをしていること。そして、訳あって親戚の太郎と一緒に暮らしていることだけを話した。
「ほ、ほーん。なるほどなるほど。それは羨ま……じゃなくて、大変だな」
ポメッコをちらちら見ながらも、どうやら話は理解してくれたみたいだ。
そのとき、不意に冷たい感触が手を伝った。
「あっ、やば。アイス溶けてる……」
真っ白なクリームが手首を伝い、つーっと流れていく。
こういうときに限って、拭くものを用意していない自分が嫌になる。
普段は何かと慎重なのに、こんな場面では妙にズボラなんだよねぇ。
「あははは! 幸果ちゃんが食べるの遅いからだよぉ」
ちびすけの茶化しを無視し、慌てて舐め取ろうと顔を近づける。
――が、すぐに我に返って動きを止めた。
王塚君の前で、そんな醜態をさらすわけにはいかない。
「おいおい、大丈夫かよ。ハンカチいるか?」
王塚君がポケットからハンカチを差し出してくれた。
なんて用意周到な男なんだろう。
白い布だから、クリームを拭いてもそこまで目立たないだろう。
しかし幸果は、即座に手のひらを突き出して拒否した。
「いや、大丈夫だから!」
人に借りを作らない。それが幸果の信条だ。
こんなくだらないことで、王塚君に恩を感じるようなことはしたくない。
「ちょっと水で洗ってくる」
そう言って幸果は席を立ち、近くのトイレへ駆け込んだ。




