11話 こういうの、好きなの?
そもそも、できればネット投稿とかやめて欲しいのが本音だ。でも、前までの生活から抜け出せたのはポメッコのおかげだし、あまりこれもダメあれもダメと言うのも心が痛む。
まだちょっと心配だけど、さっき言った約束を守ってくれるのなら、あまり心配はしなくていいと思う。
「んー! 幸果ちゃんの作った炒めものおいしいー!」
「そりゃどうも」
地べたに座ってレバニラ炒めを口に運ぶポメッコ。醤油や胡椒を使っていない、完全に炒めただけのやつだけど、それをおいしいと言ってくれている。
なんて健気な子なんだろうか。
「あっ、そうだ! お騒がせしたお詫びに、僕が魔法で家事をするよ!」
「また嫌な予感がしてきたんですけど……」
自信満々に立ち上がるポメッコに、家主は早くも心配の念を抱く。
さっきといい今朝といい、すでに前科が二つもあるのだ。あんまり手放しで信用できないのだけれど……。
「今度は大丈ブイ! 僕が幸果ちゃんを笑顔にして見せる!」
ポメッコはVサインを向けながら、やる気に満ち溢れたような足取りで台所に立つ。
『ウォーターボール』
そうして詠唱を唱えたと同時に、ポメッコの手からサッカーボールサイズの水の塊が浮かび上がった。傍にあったスポンジに洗剤をつけ、汚れ物のお皿を水の塊に突っ込んでいく。
しばらくしてから突っ込んだ皿を取り出すと、綺麗に汚れが落ちてピッカピカになっていた。
「どうどう? これなら水代も節約できるよ! 喉が渇いた時も、僕の魔法があればただで水が飲めちゃうの!」
「……すごい」
その革命的な光景を目の当たりにし、幸果はそう言葉をこぼす。そして、一気にその感動が押し寄せてきた。
「すごいよポメッコ! これならこの先、水道代払わなくていいじゃん!」
「えへへ、それほどでもあるけどねぃ!」
頭をかきながら、頬を赤らめるポメッコ。珍しく褒められて上機嫌のご様子だ。
「あのねあのね! 他にもね、いろんな魔法が使えるんだよ! 火も出せるからコンロの代わりにもできるし、怪我したら回復魔法で治せちゃうの!」
「すごいすごい、ポメッコったらたまにはやるじゃん!」
これなら光熱費も節約できるし、まさに人生イージーモードじゃないか!
「わしゃしゃしゃしゃー!」
「うへへへ、痛いよ幸果ちゃーん」
優秀な弟を勢いよく抱き寄せる。そのぷにぷにで愛くるしいほっぺに頬を何度も擦り合わせた。よしよしと可愛がるように抱きしめられ、ポメッコも顔をにやけさせて幸せそうである。
いや、待てよ……。
「………あっ、でもなぁ」
しかしだ。それを良しとしてポメッコに頼るのは、幸果の『他人からの施しや助けを受けない』という信条に反する。
さすがにそれはきついな。この子に頼り切って、あとからとんでもない要求をされたらたまったもんじゃない。
「……ポメッコにばかり頼るのも、なんか気が引けるなぁ」
後々のリスクを思えば、ポメッコを当てにするのはよろしくない。ここは今まで通り、地道に光熱費を稼ぐのが無難——
「何言ってるのさ! これは朝から迷惑をかけちゃったお詫びなんだから」
「お詫び、お詫びかぁ……」
うーん……。たしかにそういうことなら、おあいこってことにできるな。貸し借りなしってことで、素直に飲み込める。
うーん、でもねぇ……。
「だから気にしないでぃ! 僕、幸果ちゃんの役に立ちたいの!」
「マジでぇ……? い、いいのかなぁ……」
「いいのいいの! 僕に任せときぃ!」
自分の胸に強く拳を叩きつけるポメッコ。
「なら、お言葉に甘えちゃおうかなぁ。あっでも、あとから何か交換条件提示してくるとかなしだからね!」
「そんなことするもんかい!」
まあ、ならこれで良しとしよう。今後のお互いの平穏な暮らしを守るためだ。
「おいしいねぃ!」
「うん、あんまり味はしないけどね」
その後は、二人でもやし炒めを食べた。一口二口しかなかったけど。
それからはポメッコに、ミーチューバーになるために、ある程度のノウハウを教えてやる。まあ、全部ネットで仕入れた受け売りだけど。
「とにかく、動画で魔法を使わないって約束を守れるんなら、やってもいいよ」
「ほんとに? わーい! 今日から僕もミーチューバーだーい!」
「あんまり舐めない方がいいと思うけど……」
嬉しそうに飛び跳ねるポメッコ。なんだかまるで、ゲームを買ってもらう時の約束を交わした母と子のようだ。
「さてさて、どんなの動画を出そっかなぁ」
ポメッコは食事を終えると、幸果に貸してもらった古いパソコンでミーチューブに入り、早速準備に取り掛かった。まるで新しいゲーム機を買ってもらった小学生のようだ。
「さて、やりますか……」
一方幸果は、小説を書くために自身のパソコンと睨めっこ。ポメッコに貸したものと比べて、少しだけ新しい機種のやつだ。まあ、父が使っていたお古だけど。
小説投稿サイトを開いて、前回の途中から書き進める——
「ねぇねぇ、僕にも読ませて!」
「うわっ!?」
下から猫が顔を出してきた。いや違う、ポメッコか。
下から這いずり上がって、幸果のお膝にお尻を置いた。
それから強引にパソコンを覗き見てきた。
「ちょっと、勝手に見ないでよ!」
「えー、いいじゃんちょっとぐらい」
慌てて隠したけど、もう手遅れだったみたい……。
「……幸果ちゃんって、王子様系のお話が好きなの?」
「っ……」
触れてほしくないところを的確に突かれてしまった。相手の気持ちを考えず率直に割り込んでくるのが、この子のうざいところだ。
子供って、純粋なぶん遠慮がないよね。
「なんか意外だねぇ」
「…………」
ポメッコは興味深そうにパソコンに目を向ける。ニヤニヤしながら、表示された書きかけの小説を眺めていた。
ちなみに幸果の書いてる小説は、囚われのお姫様を国の王子様が助けに来てくれるお話だ。タイトルは『プリンセスメモリー』。……うん、タイトルはあんまり気にしないでね。
「べ、別にこれは、違くて……」
「顔が赤くなってるよ?」
「……なってないし」
「なってるよ!」
「なってないから!」
指摘されればされるほど、羞恥で死にそうになる。心拍数もどんどん上がってきた。
もう、お願いだからほっといてください……。
「いいじゃない、僕はけっこう面白いと思うな!」
「あぁ、そうですか……」
もう、何も聞きたくない……。
「幸果ちゃんはもしかして、こういうお話に憧れてるの? 白馬になった王子様がお姫様を助けに来るみたいな」
「はあぁ!? ちげーし!」
真正面から容赦なく図星を突かれ、思わず心臓が跳ね上がった。いやもう、ほんとにマジでやめてほしい!
「違うの?」
「違うよ! たまたまこういうお話の方が面白いかなぁって思っただけだから! ほら、最近こういう典型的なお話とか人気じゃん? だから書いたの! 別に私がこういうのに憧れてるとかじゃないから!」
早口で長々と言い訳をすると「わかりやすいなぁ」とポメッコにおちょくられ、幸果の顔は余計に赤くなった。
「でもさ。こういうのが好きなら、もう叶ってるじゃない。ほら、僕国の王子だもん!」
「んなわけあるかい」
一丁前に胸を張るガキンチョに、調子になるなとデコピンをかましてやる。
こんなショタ、誰が王子様認定するものか。幸果の理想は年上かつ、もっと気品のあるイケメン王子だ。若干悪人顔にも映るむっつりとした細目ならばなお良し。
「ならさならさ、いつか僕が一人前の立派な王子になって、幸果ちゃんを迎えにきてあげるねぃ!」
「はあ?」
「その時は、僕が結婚してあげる!」
生意気にも満面の笑顔でグッドサインを向けてきた。いや、年下はタイプじゃないんだけどなぁ……。
というかそれ、何年後の話になるの。
「あっそ……。まっ、あと数年経っても気持ちが変わらないようならまた言ってよ。その時になったら考えてもいいけど」
「ほんとに!? やったー!」
「……そっちが喜ぶんかい」
相変わらず元気なちびっ子だ。まっ、そんな未来が来るのかはわからないけど、そういうのもなかなかロマンがあっていいと思う。
この子は将来、どんなふうに成長するんだろう。このこまっしゃくれた言動は健在なんだろうか。
……うん、それはなんか、すごい嫌だな。




