相違点
そろそろ下弦の月が東の空を支配する頃
魔女とネズミとそれからケトルが何やらコショコショ秘密の話。
ー 知りたい子は寄っといで。
*
「作戦だ、作戦を立てる必要があります!」
食後のスイーツを紅茶といただきながら、魔女が言ったのは
眠気が襲ってくるような時間帯だ。
「・・・作戦?」
ラースは魔女のいう“作戦”に怪訝な顔をした。
『へえ、ぜひ聞きたいね』
テーブルに置かれたケトルは興味津々だ。
「だって、勇者がエレーミナルス王国に来るんだったら
勇者より先に解呪しないとだし・・・
(主要なイベントとサブイベントも確認したいし
アイテムもリスト化しておくべきでしょ。
フィールドでの立ち回りも大事になってくる。)」
「魔女、勇者など倒してしまえばいいのでは?」
魔女は、ラースに驚愕の眼差しを向けた。
「!(私の貴重な努力の結晶を倒せと?!
イケメン拝めるのに倒す?!モンスターじゃねえ、
イケメンだぞ、ネズミ!!)ダメだよ!!」
謎の圧もある。
「っ、だ、だが邪魔だてするなら・・・」
「だから、先回りするんだよ!」
「先回り?」
「そう、勇者が最初に向かうのは
森の神殿と、祠でしょ?だから
そこに先に行って、アイテムをゲットするの」
魔女の脳内には、正確な作戦があった。
「(私が魔女である以上、勇者の立場で
城に向かうのとは訳が違う。)」
食事をしながら、魔女はアイスクラピウスに魔法ではない解呪方法を聞いた。冷静になれば、その通りだったが勇者が集めることになる解呪アイテムを使用することで、呪いが解けることがわかった。
「(ただ問題は・・・3分魔法が使えない間は
普通のプレイヤーと変わらない難易度だってこと。
むしろ“縛り”のおかげで難易度上がってるっていう。)」
ちら、とラースを見る。
「(いくらラースがネズミだからって
そんな、せっpを頻繁にはできないよ・・・
ていうか、なんの罰ゲームなんだぁ〜。)」
『魔女、勇者を出し抜くのはいいが
解呪に必要な道具はわかっているのかい?』
ケトルことアイスクラピウスが聞いてきたので
魔女は、ちょっとドヤ顔していう。
「もちろんですよ〜!
全部で3つあるんですけど〜。
えっと、“ナナカマド”と“獣人のサンザシ”、そして
“咎の雄牛の角”です。」
ポカ〜ン(魔女除く)
「あれ?知りません?えっとナナカマドていうのは〜」
「ナナカマドぐらい知っている。」
「え?」
『・・・我々が驚いているのはね、魔女。
解呪できるのは、呪いをかけた者だけなんだ。』
「そ、それは当然、私が呪いをかけたから ー」
ラースが魔女を見上げ、言った。
「それらは、エレーミナルス王国の建国に関わる
神話上のものだ。」
「え、だから、」
『黄金のナナカマド、森の女神ディアナの神殿を護る二頭の獣、
森の民を救う代わりに命を落とした半神の雄牛。』
「(そんな大層なお名前があったんだ。)」
魔女が知っていたのはもっと簡単な名前だった。
だがー、
「魔女、どういうつもりだ。」
ラースの声が少し、低い気がした。
「ど、どういうつもりって、だから解呪のための、」
『魔女、神話を知らないわけじゃないだろう?』
「え、知らない(キッパリ)」
「!!知らないだと?!神話ではその3つの道具は
封印するためにあるものだ!知らないとは言わせないぞ!!」
「は?封印?(え?呪い解くアイテムだよ?)」
魔女、こんらん。
ネズミ、こうふん。
ケトル、お湯が沸きました。
なんだなんだ、呪いを解くっていうのに封印?
穏やかじゃないわね・・・。
*
「ふ、封印って何を封印するの?」
魔女の知っているゲーム上のアイテムと
彼らの認識には大きな違いがあるらしい。
ここら辺で相互理解を深めたいよね。
『神話だからな・・・、それもどこまで正しいのかわからないが
エレーミナルス王国だけじゃなく、ドノヴァッテン魔法王国と
それからシーガピオン王海国に渡って伝わる封印だ。』
「?(あれ、なんかそれ、どこかで聞いたな・・・)」
『正確には伝わっていない、ということさ』
「だが、魔女ー、あなたは”金枝”が欲しいと言っただろう」
「あ、うん、それは必要だからね。」
ラースはケトルを見た。
当然だがケトルに目はないが、2人は見合ったように見えた。
ラースはため息ひとつついて、魔女を見た。
「封印するのに最後、必要になるのが“金枝”だ。」
魔女、ポカ〜ン(ネズミとケトル除く)。
なんか、話デカくね?
お姫さまの呪い解く、ファンタジーじゃなかった?
「(え、え、え???ー げ、ゲームと違う!
封印なんてしないよ?
“金枝”の使い方、ゲームじゃ全然違うよ?!)
何を封印するかもわからないのに、“金枝”を使うの?!」
『神話では、ね。』
「そもそも3つの道具があるのかすら怪しい。」
「へ?」
「だから言っているだろう?神話の話だ、と。
つまり、魔女、あなたはこの世に存在するかどうか
わかってもいないものを手に入れる、と言っているのだ」
魔女、唖然。
「(え、ないの?私が知ってるアイテムと
ラースたちが言ってるアイテムって違うの?
私が知ってるゲームの世界じゃないの?これ。
私が知ってるナナカマドってあのナナカマドじゃないの?
黄金のナナカマドって単に黄金なだけじゃないの?!
そんなナナカマドが・・・え?ナナカマド?
ナナマカド?どっちだったっけ、ていうか
ナナカマドって、なんだっけ・・・。)」
ナナカマドがゲシュタルト崩壊しそうだ。
魔女自身の認識には大きな隔たりが、あるらしい。
「では、魔女。いつ出発する?」
「?いつって、」
「早ければ明日にも解呪をする必要がある。
出発は早いほうがいいのでは?」
さっきまで神話上のものなんてねえよ、と言っていたくせに
ラースは何を思ったのか、行く気満々だ。
「っっ!そ、そうだった!
何も作戦考えてなかったよ〜ぉ。勇者来ちゃうよ。
ん?...そういえばケトルさん、
勇者は、予言で選ばれるんですか?」
魔女はもう、アイスクラピウスという名前を放棄し
覚えやすい日常生活用品(通称やかん)、ケトルと呼んだ。
『あぁ、勇者には、預言者が報せるんだよ。
力と勇気と知恵を持つ者に予言を与える。』
ラースは冷笑気味だ。
「っはっ!何と都合の良い言葉か。予言?
やってることは、魔女の監視じゃないか。」
「監視??」
思わず、ちょっと引いた。
「預言者は魔女の動向を常に監視している。
何せ、あなたは最強の魔女だ。」
「私は、監視されてるの...。」
『魔女は、この世の嫌われ者だからな〜。
この世の厄災だなんて言われてるし
奴らは呪いを阻止したいのさ。
ー ”勇者”とやらを仕立てでもな。』
魔女はちょっとだけ傷ついた。
「(ー 嫌われ者・・・か)ん?ちょっと、
ちょっと待って。仕立てるってどういうこと?」
それより気になったのは、仕立てられるという言葉だ。
決して洋服のことじゃないのは、わかっているはずだ。
『?”勇者”だよ。あいつらだって呪いを前に
手をこまねいてた訳じゃない。
そうだな〜、20年に一遍ぐらいかね、”勇者”は現れてたよ』
「?!(そんなに?!)」
「ああ。今まで世界中から預言者により”勇者”は選ばれ
呪いを解くため魔法領域を目指したが
今の所辿り着いた者はいない。」
ラースのドヤ腹だ。ポヨ〜ン。
「なぜならー
あなたがすべて、排除してきたからだ。」
どーーん。
『そりゃもう、完膚なきまでにやっただろうさ』
ケトルも誇らしげ。
なんだ、何があった、お前たち。
最強最悪の名が肩で風切って歩いてらっしゃった。
「うわ〜、今の私、魔法使えないのに〜!
あ、でも敵モンスターいないだけでも楽か〜。」
魔女は顔をあげた。
「?あなたが仕掛けた罠か?」
「うん、だってあれは私が作ったんだから
敵は出てこないでしょ?」
「それはない、敵味方関係なく攻撃してくる。」
「え、うそ、最悪・・・」
とうとう魔女は天を仰ぐ。
天井からいくつもの乾燥ハーブや、花がぶら下がっていた。
それを見て、思い出し、げっそり。
「!てことは、魔法使えない間は回復系も
やっぱ持ってないとダメじゃーん!
薬草集めんのめんどくさ〜いっっ!」
作戦とは名ばかりで、時間ばかりが無駄に過ぎる。
会議にありがち。
*
ここはエレーミナルス王国のアンデリダの森 ー。
小さな5月の薔薇は、森の中に咲き乱れる。
神話にあるように5月祭では
幼い少女たちが白い衣装にその薔薇を身にまとい
村の中を歩きながら、歌う。
” 小さな 5月の薔薇は 三度回るよ
さぁ、くるくる回る あなたを見ましょう
5月の薔薇よ みどりの森へいらっしゃい
みんなで踊ろう
さぁ 5月の森へ 5月の薔薇へ 行きましょう”
5月祭の前夜、空に魔女はやってきた。
空からサクラソウの花びらが舞う。
サクラソウは舞い散り降りながら
地に着く頃には たくさんの野うさぎになった。
森を一斉にかける野うさぎは、森の先の王城へ向かう。
城門には、魔避けの”ナナカマド”がかけられ
衛兵もまた鎧の下に”ナナカマド”の十字架を首からかけていた。
『そんなもんに、何の意味があるのかねぇ 』
衛兵は戦慄した。
体はこわばり、硬直したように動けない。
(5月祭の森から動物が出てくることなんてないのに!
達しの通りなら、これは ー)
「っま、魔女 ー?!」
震えた口先からこぼれた言葉が
野うさぎに向けて出た唯一の抵抗だ。
『ああ、そうさ、ごきげんよう』
野うさぎは瞬く間に城門前に一気に集まり、”ひとつ”になっていく。
「あ・・・あ?・・!!」
衛兵の前で、野うさぎはもはやうさぎではなく
城門より大きな黒い熊のような魔物になっていた。
魔物は目だけ赤く、衛兵を見下ろしていた。
魔物は衛兵2人を音もなく飲み込んだ。
真夜中の祝福と、願いを讃える前日夜の城はこの瞬間、闇に包まれた。
”小さな 5月の薔薇は 三度回るよ
さぁ、くるくる回る あなたを見ましょう
5月の薔薇よ みどりの森へいらっしゃい
みんなで踊ろう
さぁ 5月の森へ 5月の薔薇へ 行きましょう”
途切れ途切れの声が、歌った。




