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【改稿版】最強最悪の魔女に転生してしまったので巻きで呪いを回収いたします  作者: マダム良子
第二部 賢者と砦のドノヴァッテン魔法王国編

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魔女、消える










昇降機が上がった。

誰だろな、だ〜れかな〜。



魔女一同は皆、その昇降機に乗っている“誰か”に目を向けた。

昇降機の無機質な機械音は

時計のネジが巻き取られるような音をして

静まる気配に吸い込まれていった。


「ー?・・・あれ、誰もいないね」

魔女は首を傾げた。

「レバーを上げないと昇降機は動かないのに」

つぶやく魔女の声に

アグリッパだけが目を凝らしていた。


「(どうしてあの人がここにいるんだ)」


アグリッパだけが、その空気が動くのを感じた。

「(なんで、?約束が違う。

  でも、ーっ)」


アグリッパはこちらに向かってくる

風の動きに反射的に反応できたのに

彼自身の運動神経はそれに応えられなかった。


アグリッパは抜けていく風を見送ることになる。

「ーっ」

苛立ちがアグリッパに降りかかる。

抜けた先、魔女を狙った風は

「まっ魔女さ」

アグリッパが後ろを振り返った時にはもう


「え」


ミケラは魔女が

見えない空気に持ち上げられることに

声を荒げた。

『魔女はんっ!!!』

魔女は空気に持ち上げられていた。

「え、なに、へ?ー」


持ち上げられた魔女の体は

ちょうど体が二つに折られた状態。

見えない何かに顔をぶつけたらしい。


「い゛っい゛だっっっ!!」


ぶつけた拍子に、魔女のポケットから

触媒がポロポロとこぼれ落ちる。

「わっ、え、」

宙に浮いた魔女は

螺旋らせんを描きながら上へ上へと塔の天井へ向かう。

魔女のポケットから触媒が

足跡のように空から降りおちてくる。


「魔女さまっ!!

 ーっど、どうしようっミケラ!

 どうしよう!!」

『わいが追いかけたるっ!!』


ビシュンッッッ(一発目)


『じょっジョセはんっ』


ジョセフィーヌはその空気に向かって粘液を発射したが

壁に向かってその粘液はべったりと張り付いただけだった。

だが、なおもジョセフィーヌは粘液の発射を止めずに

連射で空気を追った。


『そんなっ“行くな”って

 なんでそんなっ』


ビュンっっ(二発目)


「ジョセフィーヌ先輩の言う通りだよ。

 ミケラ、魔女さまのまわりには

 結界が張られてる。ものすごく精密な

 結界だよっ!」


ビュルルっっっ(三発目)

「今行ったらミケラ燃えちゃうよっ!!」

『ジョセはんの勢い止まらんがなッッ!!』


粘液の音が途切れた瞬間、


ー ピコーン


回廊に響く機械音。

それに続くわざとらしいあの魔女の声。


『“目的地”付近で〜す。

 およそ 20メートル真上に

 目的地”魔女” で〜す!ほんとだよ〜!

 よく周りを見てね〜ぇ!

 あとこの辺で落ちてるアイテムが欲しければ

 ”はい” と答えてね〜!

 超必要なアイテムはないけど〜

 この辺は()()()()()から気をつけt』


わざとらしい魔女の声をさえぎって

「っ魔女っっ!!どこだッッ!! 」


アルファイが回廊に現れた。

やだ〜、かっこいいじゃ〜ん。


宙を行く魔女を見上げた。

オレンジ色の光はまさしく魔女を指し示していた。

アルファイは口の中で小さく何かを唱え

魔女へ向かって飛んでいた。

「っっアルファイさんっっ!!」

魔女はアルファイに向かって手を伸ばした。


魔女のまわりをまとう結界に触れたアルファイの指先が

弾かれるように、バチンっと鳴った。

「!?っ(結界?ー 魔女のものじゃない)」

「なっなんかっ

 よくわからなくてっ!」

魔女の体は塔の中を空へ向かってく。

二つ折りのまま。無様だ。

「!」

「魔女さまっ!ミケラ!魔法をっ!!」

アグリッパの目はすでに消えかける魔女を見続けた。

『わかっとるわっっ!』

ミケラは風魔法を使って、魔女を包んだが

弾き返されて風は四散した。


『弾かれた?な!ー んなバカな』

「ミケラ!逆風を起こせ!

 ジョセフィーヌ先輩!魔女さまの足元を狙ってー

 っアルファイルス君っ!!

 君は魔女さまの結界を解いて!!」

アグリッパの目は空気を追っている。

「わ、わかった」

アルファイはこの場にアグリッパがいることに

驚きを隠せなかったが

今は、魔女の結界を解く必要があった。

「(結界を解くためには

  術師に直接触れるか

  媒介する何か、ーくそっ

  魔女は何で(不恰好に)浮いてるんだ。

  どこかで操作系の術を使っているのか!?)」

アルファイは後を追うが、何かに阻まれる。


「?!阻害?」

それは魔女の(雑な)阻害(ジャミジャミ)ではなかった。

透明な壁ともいうべき何かが

それ以上のアルファイの進行を妨げる。

ジョセフィーヌは壁伝いに魔女を追う。

やや遅れて息を切らしながら

アグリッパが上を見上げる。

ミケラは魔女を追いながら

魔法の詠唱を始めていた。


「はーなーしーぃってっってばあっっ!!」

魔女は体を起こしてもがき、

「おろしてっ!!」

何やら喚き散らかしながら

空気を叩いている。


「魔女!魔法を使えっっ!」

アルファイは叫んだ。

「つ、使えないんですけどーっっっっ!!」

こいつ、ほんと使えねー。

ここぞって時に魔法使えねーの

ほんと、使えねー。

紋章、出すときだけドヤ顔しただけじゃん。


その間もジョセフィーヌは粘液を発射した。

勢いは衰えることを知らなかったが

塔の壁を、真っ白なベトつく何かを発射しただけで

魔女を背負う何かにうまいことかわされている。


ミケラが魔女へ向けて逆風を起こしたー

「!!当たった!」

『当たったでっ!』


その逆風は、その横頭を覗かせ

「!っ」

『!』

「っっ!」

それより下にいた者たちの目に映るのは ー

「っ!!!(ぱ、パンツ見え)」

「!!(なんで破れた服を着てるんだっ!)」

『魔女はんっっ!

 パンツ丸見えでっせ!!!

 (ほんとはずっと見えとったけど)』


老賢者のローブは

これまでの(動作だけで)すでに布切れと化し

ややもすれば肌が透けて見える状態で

魔女は前かけ(エプロン)で

()()()()()という妙技を思いついたが

さすがに背後と下からの視認情報を得るまでの知識はなかった。

今や、()()()()()()()である。


だが魔女は暗闇の中のその顔をー 見た。

「え、だれ」

男だった。

暗闇に浮かぶ口元だけが、小さく笑ったように見えた。


「魔女さまっっ!!」

「魔女!!!」

『魔女はんっっ!そいつ殴ったれ!!』


(渾身の)ビュルルルルルーーブバっっ


ジョセフィーヌが粘液を吐き出した。

その粘液の端はその空気の隅に当たった。

粘液の当たった箇所は粘液と一緒に壁に張り付いた。

「!」

張り付いた箇所は目を凝らせば、何かの布だ。

布はめくり上がり、壁へと張り付きながら

人物をもあらわにした。


青と黒銀のローブに縁取られた黒銀が微かに光る。

だが、姿を目にする間もなく

塔のさらに頂上へ暗闇に紛れた。

目だけ、ちら、とだけ下にいる

アグリッパに向けた。

「!!!っ」


アグリッパには、どうすることもできなかった。

アルファイはそのローブを見て茫然とする。


ミケラはピクルスの残り香に

「な、なんでや ・・・」

心のどこかで

魔女はすぐに戻ってくると

思いたい、と信じてる自分がいた。


魔女の姿はもう完全に闇に飲まれてどこにもなかった。

皆が、回廊の吹き抜けの天井を見上げ、呆然とした。


時間にして

数十秒にも満たないこの状況に ー

口を開いたのは、誰でもなく


ピコーン

『ルートの“再検索” を 行いま〜す!

 えーっとね〜!ちょっと待ってね〜。

 ()()()()()“魔女” への

 ルートガイドを開始しま〜っす!! 

 いっちょ元気に行きましょ〜ぅ!

 あ、交通ルールは守ってね〜。』


あろうことか羅針盤(ラーナビ)

魔女ご本人による音声だった。


「(・・・ほんとあいつ・・・)」








アグリッパは回廊に散らばった触媒を拾い上げていた。

無言で、アルファイもまた拾い上げた。

拾った触媒を、アグリッパに向けた。

すると

「アルファイルス君が持ってて。

 僕より使う場面あるだろうから。」

そう言いながら、

さらに手渡してくるアグリッパに

アルファイは小さく頷いて、受け取った。


魔女が連れ去られた事実は

彼らに衝撃を与えたのかもしれないが

それよりも、連れ去った人物に正直なところ

彼らはー

反応できないまま

触媒を拾うという行動を起こしたと思われる。

あと、羅針盤(ラーナビ)がうるさい。

この塔の見どころとか、景色の綺麗なところとか

絶対拾って欲しいアイテムをお勧めしてくるので

アルファイは羅針盤(ラーナビ)を腰袋に入れた。


本人が消えたのに、声だけご健全(いらっしゃる)


「これで最後」

「ーあぁ」

アルファイはアグリッパと

初めて話したようなものだが

アグリッパの人懐っこさの雰囲気は

初めてではないように感じた。


「アグリッパ、その魔女とはどういう ー」

『おーっ!!勇者やんっ!』

ミケラはアグリッパの側に降りてきたついでに

アルファイの周りを緑の光を撒き散らしながら回る。

「?ー 妖精?」

「え、あ、そうだった!!

 あ、アルファイルス君すごいね!!

 勇者なんてすごいよ!

 この妖精、えっと、僕と契約してて」


アルファイはミケラを見ながらも、少しだけ口ごもりつつ

口には出さないで、頷いた。


だが、アグリッパは

アルファイの無い腕にすぐ気付いた。

「(これが呪いの・・・)」

苦い気持ちになった。

アルファイもそんなアグリッパに気付いたのか

ミケラに声をかける。

無い腕を隠すような真似はしなかった。

「魔女とはどうやって出会った?」

『おー、勇者やぁ〜。

 本物や〜。イケメンや〜ん。

 ごっつ、かっこええなぁ〜。

 なんちゅーか、こー、シュッとしてはる。

 やっぱ勇者って選ばれし者やんな〜。

 こないに輝いとんのやなぁ、ええなぁ。

 はぁ、塩系の勇者やな、あー、ええわぁ。

 ウチのにいやんにもその塩すこぉし

 爪の垢ほど分けて欲しいわあ』

ミケラは羽をパタパタさせて、話を聞いていない。


アグリッパは初めての激烈なファンを前にしたアルファイが

妖精でかつ、ドン引きしているのも分かった上で ー

「ー、ミケラ。こいつ、ミケラって言うんだ。

 見たことなかった?」


話を変えた。


アグリッパはミケラに向けて手のひらを広げると

ミケラは、手のひらにすっと収まった。

だが手のひらでも興奮冷めやらない状態で

目をキラキラさせ、アルファイを見上げていた。

そのうちアグリッパの手のひらで腹ばいになり

両肘を立て顔を乗せてアルファイに見惚れていた。

効果音をつけるなら、ポワワ〜ンが妥当だろう。


()()やわ〜ぁ』


アルファイは少しだけ居心地悪そうにしつつ

「お前、妖精と契約を?ー」

アグリッパを見る。

「あ、あぁうん。そうなんだ。

 へへ、お、おかしいだろ?

 僕みたいなのが、さ」

なぜか卑屈そうなアグリッパに

アルファイは怪訝な顔をした。

「?ー なぜだ?

 妖精と契約できる人間は限られているし

 妖精に選ばれないと契約できないのは事実だ。

 それに ー

 お前は優秀な秘術師マグスだ。

 だからオラフィス様も ー・・・っ」


言いかけて、アルファイはその言葉を飲み込んだ。

互いに、その秘術師マグスの長が

どうなってしまったのか

そして、今、自分たちがどういう状況なのか


知るには十分すぎた。


「そ、そういえば!ま、魔女さまが

 ランタンを忘れてきたとか言ってて ー!」

「ランタン?ー それならここに」

アルファイは自分の腰に結えたランタンを見せた。

「!あ、アルファイルス君が持ってたんだね!?

 ー よ、よかった」

「?」

「あ、あとその羅針盤、すごいね!

 魔女さまの場所も教えてくれるなんて、便利だね!

 こ、声も魔女さまなんだね(それはなんかアレだけど)」


光は北を今の所は示していた。


「あぁ、ー すぐにでも行かねば。」


アルファイはすでに塔の扉へ向かおうと

アグリッパに背を向けた。

「あ、アルファイルスくん!!」

その声にアルファイが振り返ると、アルファイはぶつかる。

「?なんd?!」

茶色くておっきくてブヨブヨした、

生あたたかい 何かに ー。

「んぶっ」ボヨン。

勇者だってそんな声、出ます。

体をのけぞらせて、アルファイは見た。

「じょ、ジョセフィーヌ・・・」

ジョセフィーヌは触覚をゆらんゆらんさせた。

アグリッパが走り寄ってきた。

「あっあの!」

「なんだ」

「ぼ、僕も一緒に行くよ!」

「え?」

『ホンマかいな!?』


ミケラの妄想()は覚めたらしい。


「あ、あのさ、

 北塔なら僕、何回か行ったことあるし

 それに魔女さまにえっと・・・

 と、とにかく行くよ!

 って、アルファイルス君今までどこにいたの?」

「研究棟だ」

「え?あそこから?

 ここまで誰かに見つからなかった?

 ーあ、そうか、転送装置使ったのか。」

「あぁ」

「よかった。この先も僕がいれば

 見つからないようにできるから

 やっぱり一緒に行くよ!」

「?・・・いや、」

アグリッパにはアルファイの“核”がないことは

もう分かっているらしかった。

ジョセフィーヌはアルファイの背後に回り

ゆらゆらと触覚をアルファイの頭上で動かしている。

「(このままじゃ同行を断られる!!

  まずい!!)」

アグリッパの表情が固くなる。

チラチラ、アグリッパはチ〜ラチラと

ジョセフィーヌ先輩(パイセン)の触覚をチラチラ見ながら

アルファイにあからさまな、“営業活動おしゃべり”だ。


「えっとその、近道知ってるんだ。

 ってージョセフィーヌ先輩が言えって、えっと

 じゃ、じゃなくって、

 僕なんかでも役に立つだろうし

 ミケラもいるし、ー?

 あ、あぁ、その、えっと

 僕がいないと言うこと聞く舎弟が、

 ー?舎弟っ?!

 ちょ、ちょっとジョセフィーヌ先輩っ

 舎弟ってどういうことですかっ

 はっはいぃ!!

 あの!アルファイルス君、

 僕も連れて行ってください!!

 お願いします!

 頑張って羅針盤に負けないぐらいの

 お役立ち情報もお伝えしつつ

 う、うん、ぼ僕が案内するよ!!」

「だが ー」

『勇者はん!ええですやん!

 勇者の仲間(パーティ)言うたら、

 ()()がおりますやろ?!

 ええわぁ、かっこええやんっ

 一度それやってみたかってん。』

ミケラの瞳がキラキラと輝いた。


連れてくって ー


勇者 アムラン(片腕)

秘術師マグス アグリッパ(きゅうり)

妖精 ミケラ(妖精、よく喋る)

なんか ジョセフィーヌ(粘液)


さ、最強の(イロモノ)仲間(パーティ)じゃん・・・?


アルファイはアグリッパの顔をじっと見てしまった。

唐突に言われるまま話を聞いてしまい

人の顔なんてしっかり見たことないが

よく見れば

アグリッパのその瞳は茶色で、色白で

そばかすが鼻のまわりにあって人懐っこそうな、

気の良さそうなー でも

「(髪型はちょっと あれだな。)」

と、アルファイは率直に思った。


「いいのか?ー 命が危ないかもしれないぞ」

「うー、うん、あの

 えっと、うん、いいよ。

 ぼ、僕、魔女さまに恩があるから、

 その ー」

「恩?」

『“()()()()()()()”ー でっせ、勇者はん』

「!!!!」


その瞬間のアルファイの背筋は

鎌ってちゃんのそれどころじゃない比の緊張感で

冷や汗がすごい勢いで吹き出し

それはもう滝の如く流れ落ちたと言ってもいいだろう。

肝は当然、ヒヤッヒヤのカチンコチンだ。

やべ、盗んだ(んじゃない、借りたんだ)のバレた?


「(!なんてことだ。

  紋章を探しているのか。)」


勇者なのに、

人さまのポケット漁って取って行って挙げ句 ー

ご本人さま(アグリッパ)、目の前にご登場。

スリーパーホールドについての言及はない。


『魔女はんが、取ってきてくれはったんですわ。』

ミケラは勇者(アルファイ)の周りを回った。

「え?」

「あ、ああの簡単に言うと、

 取ってきてくれたんだ。ま、魔法だけど。」

()()()()()()

 暴れ馬の鞍から取り戻してくれはったんですわ』

「ー!(暴れ馬だと?

 あの馬まだ暴れてるのか・・・)」

「そ、そういうことです。

 はい、そうです。」

アグリッパは言い訳がましい顔をしつつうつむいた。

頬がぶすむくれていたようだ。

一矢乱れぬ髪は

うつむきに合わせるように少しだけ、移動した。


アルファイは自分のポケットに入っている

盗んだ(んじゃないけど)紋章に気が行った。

研究棟へ入る時だって

ラースの元へ向かった時だって

これにはだいぶ助けられたのだ。

ー もうこれは

「(ーこれは、返すべきだ)」

アルファイがポケットに手を忍ばせようとした ー。


「アルファイルス君。

 僕は、君にあの・・・

 えっと恩があるっていうか?

 あ、あの知らないだろうけど

 知らなくっても当然っていうか

 ぼ僕が勝手にその思ってるだけで」

ジョセフィーヌの触覚が揺れるのを

アグリッパは見てしまう。

やべえ、ケツしばかれる。

「!!あっあのっ、今は時間ないから

 その、く詳しくは後でねっ」

「?」

アグリッパは目をキョロキョロして

恥ずかしそうに頭を撫でつけながら

呼吸を整えているみたいだ。

撫でつけつつ歩き出し

アルファイの横を通りぬけ

目の先の扉を向いたまま、言った。


割と、(アグリッパにしては)大きな声だ。


「それにあの、あのさ!

 あ、飴、美味しかったよ。

 だからさっ

 も、紋章は貸しておくよ。

 あげるんじゃ、ないからね。

 後で返してね。」

「!!!!!!」

アルファイは立ち尽くした。ー

「(私の仕業だと知ってー、たのか?)」


ジョセフィーヌは触覚を揺らしながら

アグリッパについていく。

ミケラはアグリッパの頭に移動していた。


立ち止まって、アルファイに向いた。

アグリッパの顔も耳も赤い ー。


「あ、で、でも鍵は返して!

 こ、今週はその、星見塔の当番は

 ぼ、僕だし、それに

 君はセルブス君の次に担当だから!」

すぐにまた扉へ向かって、

やや小走りするように歩き始める。

 

アルファイはアグリッパの後頭部をただ、何とはなく

ー 心が震えるのを

自分の心が、アグリッパに救われた瞬間を 

決して忘れまいと、思った。

ーすまなかった、と

後で伝えよう、と心に誓っていた。


心がものすごく軽くなった気がした。


「ああ、分かった。

 さぁ行こう、北塔だ」


アルファイもまた、アグリッパの後ろに続いた。


アグリッパはアルファイの所業ぬすみ

気付いていたのだろうか。

否、彼はポケットのきゅうりの安否なら気にしていた。

すぐにかじって、魔女に取られたが。


では、アグリッパはなぜ

アルファイの雨の中のスリーパーホールド後の

ポケットの中の異変を知るに至ったのか。


そして、なんだかちょっとカッコ良く

“紋章は貸しにしといてやるよ”と、

言い退けたのか。


諸君、ー アグリッパに超能力なんてない。

ましてや、アルファイの所業スリーパーホールド

抗うだけの力もまた、ない。



あるとすれば ー


「(実家にいる頃

  お姉ちゃんにしょっちゅう

  スリーパーホールドかけられてたからね、

  アルファイルス君のかけ方なんて

  甘いよ。へへ。)」

容赦のない、姉のしごきが

ここで役に立った。

意識を失うフリをしたのだ。


なんで姉ちゃんに

プロレス技かけられたんだ、アグリッパ。

そして、重要なのは

塔にあらわれた謎の男を知ってる風だ。

知ってる風にも関わらず口を割らないし

色々秘密を持ってる男、それがアグリッパだ。


持ってるの、きゅうりだけじゃないんだからね。



最強(?)の()()()()()()()()

いざ魔女奪還への扉を開いた。






ラースは聖魔法騎士団の翔煙隊の計らいで、割と自由だった。

と、言うよりも

そこにさえいれば、問題ない、とまで言われる始末で

そのひまを持て余し、余し過ぎたものだから

持っていたかばんの、魔女の小袋を開け始めた。

ちょっと重い。


「(ー 、なんだこれ)」


見れば、人間の今の自分の手のひらに

すっぽり収まる大きさの ー


ラース(ネズミ)人形ぬいぐるみ


再現度の荒さが目に付くが、解像度は悪くない。

形、重さは大体合っているように思われた。

微妙だが絶妙にでかいのも大体合ってるのが

何となくムカつく。


「(またあの魔女は ー

  これがかばんを逼迫ひっぱくさせていたのか。

  これをどうしろって言うんだ・・・)」


ラースはラース人形ぬいぐるみを手に取って

ひっくり返してみたり横から見たりした。


「(くだらない・・・)」


じっとそのラース人形ぬいぐるみを見た。

全体的にもふもふで、金の毛並みまで再現してあるが

顔はぶっちゃけ、ブサイク。

それがまたラース自身のテンションを

確実に下げているのも一因ではあるが

問題はそこではない。

ー もし、自分がネズミのままだったら

これを使って、何をしろと

言っているのかもう、なんとなくわかった自分が

全力で 否定したいのに

わかってしまうのが 腹が立つ。


「(くそ・・・、そういうことなんだろ)」


ラース人形の目の部分が

シャルラッハロートの紐に付属された

あの薄紫のビーズと同じことに気付いた。


「ー、こんなところまで」

無意識に自分の口元が少し緩んだような気がした。

すると、ラース人形ぬいぐるみの目がキラリ、と光った。

「?」

『おい、聞こえるか、ラース』

「?!」


ラース人形ぬいぐるみが喋った。


『聞こえてるのだろう?事情が変わった。

 すぐにそこを出て星見塔へ向かえ』

「だ、誰だ?!」

『お前、見かけによらず鈍感だな、

 それともこの姿ぬいぐるみだとわからないなら

 相当お前は自己愛が激しいナルシストってことだ。』

「(アイスクラピウスか。)どうして私をここに」

『言っただろう、事情が変わった。

 分岐が増えたのだよ、ラース。

 あの、死にそうだった男は勇者になった。

 そしてやつは今、星見塔に向かっている。』

「アムランが?!」

『ーへえ。

 名前で呼ぶほどに仲がいいならわかるだろう?

 私たちも間に合うようには行くが 

 こっちでも少々問題が起きてな。

 それまで場つなぎしておいてくれ。』

「ま、待て、魔女は?!魔女は今どうしてる!!」

『妖精と秘術師マグスと何か食った後

 北塔に連れてかれたな。』

「はあ?!よ、妖精??

 秘術師マグス?!

 北塔に連れて行かれた?何してるんだ!」

『あぁ、それは私も知りたいところだな。

 ぜひ本人に聞いてくれ。

 ラース、ドノヴァッテンの呪いは

 わかってるな?』

「・・・オーゲルは何を企んでる」

『オーゲルね・・・

 オーゲルが何を企んでいるか。

 はは、お前もそういう世俗的なことを

 気にするのだな。』

「?!なんのことだ」

『オーゲルはいつでも本気だ、

 ということさ。ラース。』

「は?」


気付けばラースは、

ラース人形ぬいぐるみを握りしめていた。

見回りに来た翔煙隊のガブリエルは、

そんなラースの姿を見て

「(そんなにそのぬいぐるみ、大事なんだな)」

と、思ったが

「(でも、ふんどしだよ、お前。 

  それ元々俺の首巻きなんだけど)」

返さなくていいよ、と言って正解だった。



ー 同時刻。


オレンジ色の光が立ちあがる。

ピコーン


『行き先は “魔女” ですね〜?

 良ければ “はい” を

 目的地の変更を行うなら ”いいえ” を』

「ーはい。そこへ連れて行ってくれ」

『目的地“魔女” を セットしました〜!

 最短最速で、ナビしま〜っす!!』 



光は、北を指し示す。







ジョセフィーヌ情報:ふぅ、いっぱい出た。


アグリッパ情報:アルファイルス君と喋った!

        冷たそうだけど優しいかも。

        きゅうり、あげようかな。


ミケラ情報:わいの契約主が勇者やったらええのにな。

      ・・・嘘やって。

      いや、一日交換とかでけへん?


アルファイ情報:急に仲間とか言われて

        心がざわつく。

        ラース来ないかな〜。


ラース情報:ラース人形・・・ネズミだな

      

ガブリエル(翔煙隊の人):あの人形、ブサカワ。

             俺の彼女が好きそう。





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