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【改稿版】最強最悪の魔女に転生してしまったので巻きで呪いを回収いたします  作者: マダム良子
第二部 賢者と砦のドノヴァッテン魔法王国編

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忘れたもの






『だぁかぁらぁ〜っ!

 あんなぁ、魔女はん!

 ()()()()っちゅーとるわけちゃうんやで?

 そら、急いでたっちゅーのも

 わかるけども〜!!

 問題は()()や、ば〜ぁしょっ!』

「え、だって、(ここ)ぐらいしか思い付かなくって」

『ちゃうって!

 わいを瓶入れて、かばん中入れたやん!

 薬にされて死ぬかと思ったわ!

 それにな!?

 かばん中、ものごっっつう物入れとるやろ?

 パンッパンやんけ!足の踏み場なし!

 薬にされる前に死ぬぅ、思いましたわ。

 あかんで、かばん中、整理整頓せな。』

アグリッパと一緒にミケラがやってきて

開口一番、ダメ出しだ。


「ご、ごめんね?

 なんとかしたかっただけなんだけど

 でも・・・あぁ・・・そっか〜!

 あ、そういうことなんだね〜ぇ」

『は?何ぃ?なんて?

 何を納得してますのん?』

魔女は納得したように頷き

肩掛けかばんをゴソゴソしだした。


「瓶に入ってたから、臭いんだね!」

空になった瓶を取り出し、見せつけた。


アグリッパは笑いを堪えられず肩を震わせて笑った。

「ブフッっ!

 酸っぱくて死ぬって

 み、ミケラ、ふはっ!

 い、言ってたくせにっ

 酸っぱ臭、ブフフッ」

『なっっっ』

「 ()()()()()()() 」


その話題(匂い)から離れたかったミケラ。

酸っぱい匂いで死ぬ、と騒いでたのに

死んでないから、死んでなくてよかった。

『しっっ知っとるわっっっ!!

 匂いで死んでたまるか!!』

「ぶはっっ!!

 死んでないじゃないかっ!ふふっ!!」


なおも、アグリッパは笑う。

ミケラが羽をパタパタさせるたびに

ピクルスの酸っぱい香りが辺りの空気に漂う。


魔女は蓋のなくなった瓶を見た。


「あー、やっぱり。

 蓋、なくなっちゃった、えへ。」

言いながら、タオルで拭き取っている。

ミケラは魔女がマンイーターを

瓶でぶん殴った瞬間を思い出した。

『あんなバケモンを瓶で殴るなんて

 よう思いついたな〜。

 魔女なら魔女らしく

 魔法使わなあかんで!戦士じゃあるまいし

 素手で殴る魔女なんか、おるかいな!

 ここにおったわ!アホくさっ!

 い、今 クサイんは、わいやけど・・・』

「っプーッッッ!!」

ミケラの一人ノリ・ツッコミに

アグリッパはとうとう笑いながら泣き出した。


魔女は別のピクルス瓶を取り出し

中の大根をかじり始めた。


「魔法より、手の方が安定感、ありません?」

『?ー 安定感??

 な、殴るのに!?』

「あー、そのイメージ、なんとなくわかります。」

アグリッパはピクルス瓶から

きゅうりを取り出してかじる。

ポリ。

魔女は瓶を持ち上げ

「瓶の蓋の開け閉めとか

 作業とかする時に

 魔法使うのもかっこいいんですけど〜。

 私、開けたか閉めたか忘れちゃうし

 確認できる方が、良いかな〜って思います。」

結局、(誰かを殴って)瓶の蓋無くすなら

素手でも確認したって

魔女にはあまり意味はなさそうだ。

魔女が魔法使わない方が、問題な気がすることには

誰も突っ込めなかった。


それよりミケラは開いたピクルスの香りが

先ほどより気にならなくなっていたことに驚いていたのだ。

『・・・

 (ただ酸っぱいだけじゃないねん。

  酸っぱさの向こう側に

  奥深い香りがする気ぃすんねんな)』

ハーブとスパイスの香りが

ミケラに気付きを与えた。


ミケラは、ピクルスの瓶を覗き込む。


『なぁなぁ魔女はん。

 これ、何入っとん?ハーブか?』

「お、ミケラく〜ん。さすがだねえ

 えぇっと、このピクルスには

 うちで採れた、え〜っと・・・

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()とぉ」

魔女は言いながら、肩掛けかばんの奥からゴソゴソと

取り出して見せた。


「これこれ。わかる?」

『ー?この、束になっとるんは、ローズマリーやろ。

 でぇ、この小瓶の・・・?

 なんやこれ粉やんけ。

 ハーブを乾燥させて粉にしたんか?

 分かるわけな、っ』

クンクン香りを嗅いだミケラは、閃いた顔をした。


『!こ、この香り、これはっ

 ローレル、タイムに

 セージにディルやろ?

 チャービルは・・・少しやな?!

 どやっ!正解やろ!』

自信満々のミケラは

ハーブの粉の香りを嗅いでイキイキしている。


「ご、ごめん、

 私あのハーブよくわかんなくって

 家にあったやつを

 な、なんか適当に入れたんだ、よ、ね」

『っなんでやね〜〜〜ぇん!!』

ベタベタなツッコミだったが

魔女には新鮮に感じられた。


「でもね、あの、

 スパイスもちゃんと色々入ってるから、ーその。

 ただ、酸っぱいだけじゃ、ないんだよ?ーね、?」

魔女の差し出すピクルスを、ミケラはちら、と見つつ

少しだけ空を仰ぎ、ため息ついでに諦めて大根を取った。

『あんなぁ、わいかてただただ、ポリっ

 酸っぱいのぉ嫌や言うとるんやないで?

 ポリポリっ

 基本的に言うて、ポリっ

 食いもんの酸っぱいんは

 ポリっ危険、や、言うことや。

 知らんのかいな、モグモグ。ごくん。

 ええか?酸味、苦味はな?危険物の意味がー』

「ミケラ」

アグリッパに促され

きゅうりをボリっといった。

「ね?美味しいよね。ポリポリ」

アグリッパの笑顔に思わず

『・・・うまいやんけ。ポリポリ。』

気付いたら、食べてた。



食わず嫌いというのは

大きく分けると二パターン、ある。

ひとつ目は

食したものの、味覚が合わない、など。

そして

ふたつ目。ミケラがこのパターンだ。

大抵人から見聞きした話だけで

物事を判断してしまうこと。

これはよくあることだ。


これを

“オーバーハード効果”(漏れ聞き効果)という。

そして、その口コミとも言える影響で

事実どういうものか、

よく知らないけど聞きかじった情報のみで

さも自分は知っている風なことを

言ってしまうのはよくあることだ。


ほんとは知らんけど。


だが、ミケラは今日 事実を味わって

二つの意味で

その食わず嫌いを克服したと言えるだろう。


ひとつ。

ピクルスはただ酸っぱいだけじゃない。

ー うま味もある。

ふたつ。

魔女はひょっとしたら、

思ってるような魔女じゃ、ないかも

ー しれない。


『(敵が死ぬのを涙で見送る魔女なんて

  見たことないわ)』


魔女の差し出すピクルスを

ミケラは食べていた。



なんだか、優しい味がした。







「っっないっ!」


「ー?何が?」

魔女はジョセフィーヌの背に寝そべっている。

その横をアグリッパとミケラは付いて歩いていたが

急に立ち止まって言い出した。


昇降機に向かってゆるりと歩き出したところだった。


「っな、ないんですよ!

 あ、ああああの!」

『なんや、にいやん。

 たて笛なら部屋置いてきたんとちゃいますのん。』

「違うよ!・・・ないんだ。

 “()()()()()()()()()”とー、”()()()()()()()”。」


アグリッパはポケットを叩いてみたり

胸を叩いてみたり

落としてないかの確認のために

歩いてきたとこを振り返ってみたりした。


「ポケットの中のもの、確認した?」

魔女は起き上がって

アグリッパのポケットを見た。

「(ポッケ、パンパンだあ〜。ふふ。)」


ポケットに手を突っ込んだアグリッパは

片手で掴めるだけ掴んで引っこ抜いた。

バラバラと数個の飴玉が落ちる。


『わっ、にいやん、

 ()()()()そないに持ってどないしたん。』

「ち違うよ、魔女さまが

 さ、さっきくれたのもあるんだ」

言いながらもう片方の手に飴玉を移動しつつ

またポケットに手を突っ込んだ。

「持っててあげるよ」

魔女はアグリッパから

飴玉を受け取り

アグリッパの手を自由にしてあげた。

「あ〜っ、どうしよ〜。

 鍵はまあ良いとして、

 あ、ほんとは良くないけどさ

 それより

 “魔法学徒の紋章”がないと僕、

 お、お怒られるっっ」

「誰に?

(鍵も無くしたら良くはないと思うんだけど)」

「お、・・・」

アグリッパは口をつぐんだ。

()()()()やろ、

 にいやん。』

ミケラはニヤニヤしながらアグリッパを見た。

「っ!なっなんで

 魔女さまの前で言うんだよ!!

 だ、だってっしょ、しょーがないじゃんか!」


魔女はアグリッパを見て

不思議そうな顔をした。


「?ーどうしてお母さんが怒るの?」

「え、あの、いや、こ、これはその ー」

ミケラは意地悪そうに笑う。

『あー、あんな・・・ひひっ

 魔女はん。にいやんはぁ

 “魔法学徒の紋章”無くすの

 はじめてじゃないねん。へへっ 

 三・回・目。』

指を三本立て、魔女の前に出した。


「三回?!そ、それは

 (なんかすごい)」


魔女も忘れものもするし、紛失もするが

同じものを三回無くしたことはー、

あった。

あんのかよ!!!

気を付けているにもかかわらず

今までで六回、(も)

同じものを無くしたことが、ある。


それは家の鍵。

キーホルダーは助手ゲッコーのみ。

顔を押すと“ゲコ”っと鳴く。

家の鍵をなくし

その度に警察こうばんに行っては

紛失物届けに奇跡的に届けられていて

心底感謝しながら帰路に着いたことがある。 


今思えば

その奇跡に魔女じぶん

全幸運ラッキーを使い切ったのかもしれない。

小刻みに幸運を使った。


ー だから 


「あ、あのアグリッパ君。

 お母さんきっと、許してくれるよ。

 なんなら私も一緒に行って

 ごめんなさいするから、その ー」

ミケラはさらに意地悪そうにいう。

『魔女はん、ちゃうねん。

 “魔法学徒の紋章”ってな

 この国じゃ、身分証明書にもなりますねん。

 通行証っちゅーか。

 魔法で手間暇かけられた手作りやし。

 あれ、発行すんのっても〜ぉ、

 めぇっっっちゃお金かかるんですわ。』

お金がかかるとなると話は変わる。

「え。ー、い、いくら?」

ミケラは魔女の耳にコソコソ言う。


アグリッパはじっとりした目で、ミケラを追う。


ーーー、ーー、

「 ッッなっ何! 」

魔女のまなこが見開かれた。


「そ、それはダメっ!!

 ダメって言うかそのすぐ探そう!?

 見つけに行こう!!思い出して!

 どこ歩いた?

 どこ行った??

 弓取りに行ったとことか!?

 ポケットに穴空いてない?!

 確認した?!」


魔女は焦った。

「(だって、紋章それ

  新卒の初任給五人分じゃん)」

そのフレーバーはしょっぱいが現実はビターだ。

アグリッパの脳内に、鬼の形相の母がいる。


ミケラはジョセフィーヌに腰掛けた。

にいやん

 よくモノ無くすやん。

 きゅうり、机の上に置きっぱなしやったで。

 今頃、しなしな〜ぁになっとんちゃうんか?

 あれ、食べれんのかいな。

 行く先々できゅうり忘れてくなんて、

 見つけた人にしてみたらホラーやん。

 わい、きゅうりばっか見つけたら

 バケモンの仕業やぁ思うわ。

 きゅうり好きのオバケなんておるんかいな、ー

 食いかけやで、絶対なんかあるぅ思うわ。

 呪いの一種ちゃうん?』

「み、ミケラ!

 きゅうりに呪いなんてないよ!!

 きゅ、きゅうりの話はいいんだよっ

 しなくて良いからっ!」

『あ、せやったわ。

 なんやった?ーあ、“魔法学徒の紋章”やわ。

 あ〜ぁあ、そもそも見栄張らんとぉ、

 にいやんが

 あんとき馬の腹蹴らんかったら

 今頃無事に持ってたんになぁ。

 でも、どうせなくすか〜。

 なくすなぁ、なくしますわぁ。だって

 三回やで、三回。記録更新やね。』

「?馬?ー 何、どういうこと?」

にいやんな、

 ええ格好しぃで馬なんか乗って

 この学校まで来ましてん。

 見学でっせ?

 ほんなら、

 その馬っちゅーのがもぉ〜ぉ

 あ、悪いのはにいやんでっせ?

 けどな、馬が興奮してま〜ぁっ!

 ジャジャ馬どころの話ちゃうねん。

 も〜ぉあれは、』

聞きながら魔女はピン、ときて

つい、口に出た。

『 ()()()() 』


魔女とミケラの声が 重なった。


『?ー、魔女はん、

 なん、あんさん知っとるんか?』

「そ、それってもしかして、あの ー

 城門のひ、東の?」


魔女はアグリッパを見る。

アグリッパは口をあんぐり開けたまま

目だけ頷き、魔女を見返した。

「な、なんで知ってるんですか」

「そその馬の、あだ名っていうかその ー、

 “眠り馬”って言う?」


ゲーム本編の“眠り馬”は

アグリッパによって”暴れ馬”にされていた。


『!』

「は、はぁ、そ、そうです」

『魔女はんっっ!

 せや!それや!!

 あの馬な、

 寝てるみたいに静かやぁ言うて

 馬屋の親父が貸してくれたんやけどもぉ

 にいやん、ほれ、

 見ての通り運動神経ないですやん。

 お母はんのお腹に()()()()

 置いてきてもうたんやなぁ〜

 ないねん、運動神経っちゅーセンス。

 残念な子やでホンマ。

 希望なしですわ。

 そのくせ、ええ格好しぃで

 ポクポク歩いてる馬の腹蹴りよってん。

 アホでしょ?アホの子やねん。この子。

 ほんなら、馬かて人見ますやろ?

 馬って賢い言いますやろ。

 どないに静かぁな馬かて

 ()()に乗られるだけでストレスやのに

 急に腹蹴られてみぃ、ブチギレるで。

 そんでまぁ、振り落とされるわ、

 暴れるわ、も〜手ぇ付けられまへん。

 それまで静かぁやったんは、

 あれ、ストレス溜め込んどったんちゃいますぅ?

 人でも馬でも

 ストレスの溜め込みはあかんっちゅー話ですわ。』

話が大幅にズレてはいるが、

なんとなく納得の締め方だ。

だが、“暴れ馬”と聞いた魔女は確信を持って

心の中で、こう、つぶやいた。


「(イベント回収してんの、ウケる)」


魔女は大学ノートの記載を思い出していた。

ちゃあんと書いてある。



『魔法王国について


 城門前スタート

 北門、東門、どちらからも入れる。

 (遠回りだが北門には

  アイテム“薬壺の欠片”が手に入る。)

 中に入るには「魔法学徒の紋章」が必要。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 (眠ってないぞ!寝てないぞ!

  暴れ馬だ!気をつけろ!!)』


ってね・・・。


「その“魔法学徒の紋章”は、

 馬の鞍にある、のかな?ー」

『そ、そうですねん!にいやん。

 見せびらかしで

 “魔法学徒の紋章”付けとってな、

 そん馬に振り落とされてもて

 紋章取ることもできへんまま

 もぉその馬ほかって逃げたんですわ。』

「に、逃げたんじゃないっ!

 とりあえずそのっ、きゅ休憩をっ」

『せやから、にいやん、

 あんたけ歩きにしぃ、言うたんやって〜ぇ。

 馬かて、へたっぴぃに乗られるんは

 ストレスでっせ。』


馬はアグリッパの乗馬センスの

あまりの欠如に暴れ馬と化したのだ。

元から暴れ馬じゃなかった。

運動音痴のアグリッパ、

大人しい馬をも怒らせた。

それ以前に

乗馬したことないのに乗った可能性も浮上し始める。


通常、馬を発進させる合図は

脚で馬の体(お腹)を押すのだ。

(それでも動かない場合はかかとで蹴る)


すでに歩いている馬の腹を蹴るなど、笑止千万。

馬からしてみたら

『もう歩いてるんですけど、

 なんですか、痛いんですけど

 歩いてるように見えませんか。

 お前、降りろや、痛い言うとるやろ。

 よし、わかった。

 我が後ろ足で蹴り飛ばして差し上げよう。』


そりゃ、馬だって混乱する。

無知なアグリッパは

誰の恋路も邪魔してないのに

お馬さんに蹴られて死ぬとこだった。

振り落とされただけ

優しさの落馬であったと言えるだろう。


そんなんが契約主でええんか、ミケラ。

『(・・・そこは言わんといて)』



ミケラとアグリッパの漫才のようなやり取りを聞きながら

魔女はすごく、すごく不思議な気持ちだったし

なぜかとっても嬉しかった。

「(へえ〜・・・。

  “暴れ馬”はそんな原因があったのか。)」

ゲームの中のアイテムや、

それにまつわる話。

「(そんなことが起きていたんだ。

  そうか、だから紋章は

  馬の鞍にあったんだ。

  そういう理由だったんだ。)」


魔女は笑い出していた。

「っふふっ、ーふふふっ!

 ははっうふっ、ふっ」

気付けば、魔女はジョセフィーヌから降りて

アグリッパの前に立っていた。


「“魔法学徒の紋章”、ちゃんとあると良いね」


目を閉じた。ー


魔女はあの“暴れ馬”の鞍に手を伸ばしていた。

そして、

両手を軽く抑えるようにして

広げるようなイメージで手を開く。


『?なっ、まっ魔法使えるやん!

 魔女はんっ、それ!!!』

「“魔法学徒の紋章”だっ!それ、ぼ、僕の!!!」

“魔法学徒の紋章”が

「ふふ、はい、これ ー」

魔女の手のひらに乗っていた。


あれ?

魔女、魔法使えるの?

と、いう理由はさておき ー

なんで、アグリッパが

“魔法学徒の紋章”を自分のものだと

わかったのか。

真面目なアグリッパは

このドノヴァッテン魔法王国に入学が決まってすぐ

とある作業に取り掛かったのだ。


自分の持ち物には 名前を書く。


だがしかし。

このドノヴァッテン魔法王国随一の

選ばれた者だけが持てるという

魔法学校の格式と伝統、

そして粋を極めし魔力によって作られた

唯一にして、至高の

それを持っているだけで他国でも優遇されるという

“魔法学徒の紋章”を取り囲む縁には

こう、書かれていた。


『アグリッパ・デ・ルゥ・カーン ()()()()

  油性サインペンにて。


名前ついでに、八百屋の宣伝までする男

抜け目がない。

字はそこそこ普通。でもサインペン。

油性で書くところに意志を感じる。


紋章の格式は、遠く吹っ飛んでいた。

今や、紋章よりも

八百屋の“屋”の部分の字は書き損じに

重ね書きし黒く潰れて見えない上に

その横にさらに付け加える暴挙の方が気になる。


遠目だと“()()()()”だから

その黒い部分に何の文字が入るのか

こちらが勝手に邪推してしまうという

解釈のおまけ付きだ。ー

“発”なの? “発”をつけろって言ってる? 


大事なところに何してるんだ。

『それ、紋章やで。

 ・・・ええんか、それ・・・

 何を()()()やっとるん・・・』

ミケラだって、そばで言ってたに違いないだろう。


魔女はほほえんだ。


「もう、なくさないでね」

魔女は、なくした時の気持ちだってわかってる。

不安で、不安で

自分がやっちまったことの重大さなんて

責められなくってもわかってる。

そして、それが無事に

自分の手元に帰ってきた時の嬉しさも ー。


「(そう、忘れ物なんて

  しないに越したことはない

  ー、忘れ物なんて。

  ・・・忘れ、ー)」

魔女の笑顔が凍りつく。

『ー?どしたん、魔女はん』

アグリッパはまだ

紋章を裏返したり近くで見たりして

頬を染めて喜んでいるー。


「ー わ、忘れてきた」

魔女は顔面蒼白だ。

さっきまで、忘れ物に関する

無くしたときの絶望感と

返ってきた時の喜びなんかを

のうのうとのたまっておきながら

ついぞ言った言葉は


「ふっ、なくすでないぞ。」

とか言って(ないけど)

ちゃっかり魔法なんか使いやがって

完全に上から目線は、急に地に落ちた。

なんだよ、なんで魔法使えるようになったんだよ!



『何、忘れてきたん?ー 家か?』

「まっ魔女さまこそ、あ、あの、どこに忘れたとか

 歩いてて落としたとか、

 ぱっパンッパンのかばんの中とかー!

 そそのローブのポケットとかっ!

 あ、なんかポケットからはみ出てますよ!」

ポケットから触媒がはみ出てた。

貪欲魔女はポケットだってパンっパン。


「どっどうしよう!

 ()()()()、どこに置いてきたか忘れたっ!」

『はあ?ランタン?』

「ランタンって、あのランタンですか。」

アグリッパよ、

ランタンに他のランタンがあるなら教えて欲しい。

ワンタンって言ったら

熱々のワンタンをお前の顔面に叩きつけてやろう。


ー 魔女の記憶では ー


確か、小書庫だった、あそこで

オーゲルとアルファイと

作戦会議したのは覚えてるし

部屋が暗かったから

自分の足元に置いていた ー。


「ー なかった(気がする)」


『何がやねんな』

「ランタン!」

『そら、ありませんやろ。

 手元にないんやから』

「違うの!部屋に置いて出て、

 戻ってきたらもう、なかったの!

 誰かが持って行っちゃったのかも!

 ど、どうしよう。あれないと困るっ」

「ーどこに忘れてきたのか、覚えてますか?」

「う、うん、あの、小書庫の部屋」

「??ー、え?

 あそこって誰も行きませんよ?」

「なんで?」

「行く必要がないので」

「?だって、あそこは小書庫に行けるでしょ?」

「魔女さま、僕らは実体ではなく

 “核”で移動するんです。

 みんな直接“核”で行くので、

 行くとしたらよっぽど歩くのが好きな人か

 “核”のない人かー、

 って分かりますよね?

 魔法使えない人です。もしくは

 なんらかの目的のある人しか

 その部屋に入ることはありませんよ?」

なんかアグリッパが偉そうでムカつく。

「え、そ、そうなの?ー じゃあ

 誰かがわざわざ入った?」

「ランタンって何に使うんですか」

アグリッパは魔女の飴玉を頬張る。

ー 自分の不安が解消されたとなると

いきなり余裕ぶっこくアグリッパ。

そういうの

喉元通って熱さ忘れてるって言うんだぞ。

やっぱりワンタン、素手に乗せるか?

ランタンにその辺を照らす以外の使い方あるの?

お〜い、ワンタンをここにー

「あ、あのここに、

 この王国に来るときにケトルさんが 

 ーあの」

『ケトル?魔女はん、湯ぅ沸かしとったんかい』

ワンタン入りのケトルでもいい。

困ってる時に横槍入れられると

話が逸れるからやめてほしい。


「ち、違うの、あのね、

 ケトルさんって人がいて

 あ、人じゃないけど、

 あのなんだっけ、

 あー、なんて言ったっけ。

 え、とあの 

 アイスキャデラック?

 違う、アイクラなんとかさんとか言って」


ほら、ごらんー 魔女の下手な説明が始まったよ。

諸君には聞き覚えのあるこの長い上に

説明になることはない造語を含んだお話と

はしょればはしょるほど、混乱を招く話が ー。


『?()()()()()()()()()のこと言うとるん?』

「ー !!!そ、それっ!!」


意外にもミケラはズバリ、言い当てた。

すごい、奇跡だ。

アイスキャデラックで、

アイスクラピウスを言い当てる妖精。


『魔女はん、アイスクラピウス様のこと

 そないに言うたらあきまへんよ。

 あの人めっっっったくそ偉い人なんやで。

 わいらかて、

 そんな偉いぃ人に滅多にお目にかかれへん。

 ここらには知らん人おらんちゃいますのん。

 なんか、むかーしに?ん、誰や ー』


ミケラの羽が何かに反応した。

ジョセフィーヌの触覚はゆらゆら揺れている。

レバーの操作もしていない昇降機が動き出した。


「あれ?昇降機が回廊こっちに上がって

 くる?ー」

アグリッパは頬を飴玉で膨らませたまま、

上がってくる昇降機を見つめた。


魔女はポツリ、つぶやく。

「鍵もない・・・星見の塔の最上階入れない。」

「あ!そっそういえばっ!」

アグリッパは鍵がない事実と

昇降機に乗る人物を見て

「   ングっ   」

ゴッッグー、ン


飴玉が喉元を過ぎていった。

一難去って、また一難。


ワンタンの出番は今はなさそうだ。チッ







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