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【改稿版】最強最悪の魔女に転生してしまったので巻きで呪いを回収いたします  作者: マダム良子
第二部 賢者と砦のドノヴァッテン魔法王国編

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小さな勇気





ほんの、些細なことかもしれないんだ。

けど

僕には信じていることがあって


平坦な毎日はきっと 

奇跡の積み重ねみたいなもんだって。


恥ずかしいからここだけにしておいてください。

できれば、ほ〜ぉ、って感心してください。

いや、しなくても良いんですけど

あ、あの、僕の、個人的な思いです。

はい、それで良いです。


えっと、どこから話せばいいのかな。

あぁ、じゃあ、自己紹介をします。


僕はアグリッパと言います。

ドノヴァッテン魔法王国の

魔法魔術アカデメイアの学徒です。

えぇと、学派っていうか

専攻は秘術 自然学の生命系 陰陽派です。

実家は八百屋です。

父が趣味で始めた養蜂場のはちみつが好評頂いてます。

母は代々八百屋で、父は婿です。

父の肩身は狭くない方だと思います。

それで、えぇと姉が一人います。

姉はドノヴァッテン魔法王国で

回復薬と薬草を作りながら魔術師をやっています。

魔法に向いてな、じゃなくて

薬草を作る方が適性が強いと思うんですが

どうしても魔法に未練があるみたいで

あ、魔法使い、というより占いです。

占星術をしたかったみたいですけど

占いで一喜一憂してばかみたぃ、

ー 大変です。


僕の好きな食べ物はきゅうりです。


ええと、妖精と契約してます。

僕が5歳の時からの、付き合いです。

変な喋り方だけど、時々意地悪してくるけれど

良いやつだと、思います。

名前はミケラ、と言います。


あとなんかあるかな。


え?

あ、アルファイルス君のことですよね。

あ!じゃあアルファイルス君との

出会いっていうか、その辺をお話しします。


ふー、えと、あー、あの、

僕は秘術師マグスなんですけど

この魔法魔術アカデメイアには年に一度

魔法使いだけが出場する

魔法技術大会という運動会みたいなのがあって

出たくなかったんですけど

とりあえず秘術師マグスも出なきゃいけなくて

僕が選ばれて出たんです。

じゃんけんに負けてとかじゃないですよ?


実力ですよ、ふふん。


僕、運動神経はあんまり良くないですけど

魔法はそこそこ使えるので

うまくハメたら、いいとこ狙えるんじゃないかなって

先生方もおっしゃってくださったので

うまく乗せられて、ー、勧められて、出場したんです。

ハメられたのは僕ですね。


本当に結構良い線行ったんですよ。

信じてませんね?

準決勝まで残りましたよ。すごいと思いませんか?

母なんて、終わったあと箱できゅうりくれましたよ。

三箱です。

他に野菜が一切入ってないのが母の愛です。


その準決勝で、戦ったのはラース君です。


ラース君、知ってますか?


彼、もう 見た目だけで強かったです。

男の僕が言うのもあれですけど

髪の色とかすごく鮮やかな金色で、サラサラで

瞳の色も薄紫のアメジストみたいで

顔なんかも小さくて

足も僕の腰の高さより長くて

悪いとこ探すのが大変なぐらいです。

彼のような人に嫉妬するのがおかしいです。


僕が勝てるのって髪ぐらいですよ。

僕、母ゆずりのこの髪を気に入ってます。

髪型はきのこみたいですけど

これはこれで手がかかってるんです。

朝四時起きの努力をご理解いただけますかね。

父の頭髪はすでに若干薄いです。

将来の僕の頭髪の行方が心許ないので

誰か予防法を教えてください。

祖父は完全にいさぎよい感じなのが

僕に希望を与えません。

切実です。


話を戻します。

ラース君と戦うことになったんです。

でも僕、そういう大事な時に

きゅうりを忘れてしまって、

そのミケラに取ってきて貰おうとして

肝心の戦う場面で、ミケラがいないと使えない魔法で

ラース君はちょっと待ってくれてたんですよね。


すみません、ちょっとじゃないです。

待ってくれてたんだと思います。


けどいつまで経ってもミケラは来ないし

時間制限も残り一分を切るところで

ラース君はその、さっさと片付けるためだと

そう僕は認識してるのですが

風魔法で僕を吹っ飛ばしたっていう。


僕、風魔法、嫌いなんです。

ああいう、

気持ちで強弱を調節するようなタイプの魔法って

苦手です。いまだに風に乗れません。

自分のタイミングで行かせてください。


だいぶ手加減された風魔法だとは思いましたけど

僕の無様な姿に

会場は大笑いです。

吹っ飛ばされた僕の姿は

まあ言いたくないのでお察しくださると

ありがたいです。


僕は恥ずかしいやら、痛いやらで

立ち上がることもできないし情けなかったです。

本当に。ひとつも見せ場なんてないですし

ただ突っ立ってる僕が吹っ飛ばされたんですから

いい笑い者です。


それまであった、

なんて言うのかな、あぁ自尊心。

ちっぽけな自尊心すら、もう風前の(ともしび)です。

もう学校なんて辞めて、

実家で八百屋継ごうって、ヤケクソで

そんなこと思っていたら。


うん、あれは

あれはきっとアルファイルス君でした。


気まぐれだと言われたらそうだと思います。

助けたんじゃない、って言うなら

僕の自意識が強すぎるんだな、

ってそう思うだけです。


でも、ー でも彼は


僕の体を起こしてくれたんです。

ー 魔法だったけど。

ぶつかった場所の箱が全部自分に落ちてきていて

それをどけるのだって、

すごく重労働なはずなんですけど

それも全部、どかしてくれたのは

アルファイルス君です。

ー 魔法だったけど。



誰も気付いてない。

だって、勝者は ラース君だった。

みんな、ラース君を見て拍手する。

みんな、ラース君に声援を送ってた。


情けなさでいっぱいの僕の

惨めな心に、そっとベールをかぶせるように

見えなくしてくれた彼の思いやりに


こういうのって

なんて言えば 伝わるのか

どう言えば

このつたない僕の気持ちが

分かってもらえるのかな。

伝えるって、難しいですよね。

どうやったって

100%は伝わらないんですよ。


だって正確にわかるのは

そう感じた僕だけの心だから。


その、心をあらわす言葉っていうのかな。

それはすごくー、難しい。


心で思い出したんですけど

僕は秘術師マグスだから、自然が相手です。

だけど自然の声なんて

普通の人は聞こえないじゃないですか。


そういえば、どこかの国の王は

森の声や大地の声を聞き、対話するとか。

ー すごいなあ。

僕には、到底無理です。

こんなところで秘術師(マグス)の宣伝するわけじゃないけど

えっと、()()()()()っていうのかな

見えない力は “心”を見るそのものだと

えっと、オラフィス様は昔、仰ってて

僕はなんとなくだけど

そうかもな、と思うんです。


僕はこの 些細なことかもしれないんですけど

なんでもない毎日の積み重なった奇跡に

降って湧いたように

僕の生きる時間に入ってきた(アルファイルス君)


なんとなく感謝したんです。

多分。


心が動かされたのかもしれません。

けどそれがどういうことかは

僕には説明はできません。

だって

曖昧で、はっきり言えないですけど


見えない力が “心”を見たような

ミケラを見つけたときみたいな

感動はあったかもしれません。


だから、オラフィス様の願いとは逆に

予言の伝え方だとか

社会のあり方だとか

幸・不幸の不均衡だとか

そういう不満の積み重ねが

次第に膨らんでしまって

見えない力は“心”じゃなくて

まったく別の方向に行ってしまって

心を痛めていたのも事実だと思います。


僕としては 

人の心って 難しいなって思ったんです。

その人にしかわからない気持ちって

あるじゃないですか。


難しいことはよくわからないけど

みんなで

不便や不満を 少しずつ持てたら 

良いのになって

そんなことを思ったけど


オラフィス様は どうやら違ったみたいで

そうしたものを

飲み込めなくなった行き先は

僕ら秘術師マグス

最も嫌悪した方法だったんです。


あ、誰にも言わないでください。

僕は聞いてしまったのです。

恐ろしいあの、声を。


僕らはオラフィス様がおかしくなってから

星見塔の鍵を持ち回りするようになったんです。

星見塔に入れないようにするためですけど

あ、これも内緒ですよ。

共犯者は三人です。鍵も持ち回りですけど

僕の鍵、なくなっちゃたんです。

どうしよう、怒られます。


『流れ星を喚ぶ』

それは秘術で

深淵の力を呼び出して

星を動かすらしいけど

僕にはよくわからない。


今までずっと、

波風の立たない静かな毎日だったんです。

けど、僕は誰かに助けてもらって

なんでもない顔はできない。


おじいちゃんのそのまた前の

おじいちゃんからずっとずっと

僕の家では、“借りは返す”が信条だから。


僕の心に引っかかった”何か”が

僕を、動かすのなら

それは、きっと今なんだ。


草木が、植物が

この地上の生きとし生けるものたちが

太陽を浴びて

雨を受けて

いつしか己が実を付けるように

気付かれなくてもそう、あるように。

僕には 自然なことだったように 思うんです。


変ですよね。

でも、そう思ってしまったのだから

しょうがないです。


僕は

アルファイルス君みたいにはなれない。


けどさ

仲間だから助けたいって

勝手にそう、思うだけですから

きっと言いません。

勝手に、動くだけなんで

わざわざ伝えません。


あのときのアルファイルス君みたいに

なんでもない顔するよ。


だって君は僕の食べかけの

きゅうり、残しておいてくれたしね。


あの、最強で最悪の魔女に

まずは話しかけに行こうと思ったんです。

怖いなって、足がなかなか前に踏み出ないですよ。

だって知ってますか?

城門前を足を引きずって歩く縄で縛られた

アルファイルス君の姿を見たら

僕は怖気付きました。

腕がなくて、ガリガリで、もう死にそうで

フラフラなのに僕は足がすくんで動けなかった。

魔女にされたんだ、ってみんな言ってたし

僕はこわくて、隠れてしまった。


あのとき、迎えにいくことができなくて

ごめん。

君のようにさりげなく助けられなくて

ごめん。



心臓に悪いけど

僕みたいなのでも

小さな風を起こすことが

できるなら、僕は今だと思ったんです。


だから

僕はきゅうりを握りしめ

魔女に声をかける ー、

こわいけど。


「あの ー」


こわいんですよ、本当に。











「それ、必要なんですよね?

 僕取ってきましょうか?」

アグリッパはそばかすだらけの顔だった。

そばかすを数えていたわけじゃないが

魔女はボケーっとした。


魔女は

この世界にきてはじめて

誰かの援助の申し出を受けた。


「(取ってきて、・・・くれるって

  ・・・頼んでないのに・・・)」

何かしてもらうのには

それなりの対価が必要で

善意でそれらが行われることは知ってはいても

「(まさか“魔女(自分)”が)」


純粋に感動。


「取ってきて、くれるの?」

「ここからなら、僕行けると思います。

 魔女さま、実体ですよね、

 僕なら実体でも行けますよ。」

「た、ただで? ー」

「はい?(タダ?何言ってるんだろ)

 あ、僕の姉がこの塔にいるんですよ。

 あ、いるっていうか

 魔術師なんですけど、

 すっごい占い好きで自分で占いやってて

 占いより回復薬作る方が向いてるって言われてて」

「あっあのっっ!」

魔女はアグリッパの話が長くなるのを阻止した。

「アイテム取りにい、行って、くれるの?」

「え、ええ、良いですよ?ー?」



アグリッパは(マンイーターを)わかってない。

「(あいつ(マンイーター)ら、開発側の悪意なんだけど)」


アグリッパの善意を喜ぶより

魔女は不安を覚えた。


思い出している。

星見塔でボス戦は二回ある。

一人目はマンイーター。

一度目には会うことがなく、アイテム入手後

昇降機から降りてきてからマンイーター戦に入る。

だが現実を見てみれば

もう状況はそういう場面ではないことは理解していた。


円形にくり抜かれた回廊は足場が狭く、

中央に剥き出しの昇降機がある。

そして昇降機に乗らないと、上階へは行けない。


何より、その回廊は細い橋のような作りで

プレイヤーの行動は大幅に制限される。

さらにプレイヤーを防御する手すりもないので

一歩踏み外すだけで簡単に落下死してしまう。


「(何回、マンイーターの攻撃回避を

  ローリングしてそのまま

  落下死したと思うんだ。

  あからさまな不意打ち死・・・。

  そのくせ

  (マンイーター)は見えない壁に守られて

  落ちないという謎仕様。)」


今はまだ、星の回廊に出てない。

多分、自分があの回廊へ着いて足を踏み入れたら

上からマンイーターが昇降機前に、降ってくるだろう。


昇降機まで行けるかどうか、ー つまり

アグリッパは、マンイーターの攻撃を

くぐり抜けられるの?

落ちない?

落ちたら死んじゃうよ??


きゅうり持って、落ちる気?

だ。


そもそも一緒に行くべきかどうかすら、

魔女の頭の中では考えている。

だけど、マンイーターはこと、この星見の塔では

魔法が効きにくいボスでもあるのだ。

魔法をバンバン打つのは得策じゃない。

なぜなら、二人目のボスで魔法は多用するからだ。


だからこそ、星見の弓を使用したい。

のだが。

魔女の不安をよそに

アグリッパはそばかすまみれの頬をあげて笑った。


「へへっ大丈夫ですよ。

 あ、あの僕、秘術師マグスですから

 魔物の前でも、自分の存在、ていうか

 実体とか、消すことできるんで」

「え、なにそれ。」


ー トリックスター、あらわる ー



「存在を消すことができる?!何それ?!」

秘術師マグスの中でもこれできるの、

 僕だけなんです。」

アグリッパは恥ずかしそうに言って下を向く。

「そ、そうなんだ・・・それなら・・・」

魔女の頭にひらめいた考えは

すぐにアグリッパの上げた悲痛そうな顔で

ほんの一時吹っ飛ぶ。

「だから僕はここに、来たんです、

 魔女さま。

 星見塔の最上階にいる魔物、

 魔物っていうかあのー、

 魔物になっちゃったんですけど!

 オラフィス様を止めて欲しいんです!

 止める、・・・

 っていうか

 あの人はもう、人じゃない。」

「人じゃないって、ー、」

「オラフィス様の形をした、魔物です。」

「魔物?ー」

魔女は言いながらも、その意味を知る。

「(星見の塔での2人目のボス・・・

  あぁ、そうか、

  アレは元オラフィスって人なんだ・・・)」

「でも!それより、あの!!

 アルファイルス君を助けて欲しいんです!

 ー ゔわっっ!!」

急停止したジョセフィーヌに

アグリッパは魔女にぶつかった。


ジョセフィーヌの前に、一面の壁が現れた。

また大きく尾を振って、壁に向かって叩きつけた。

ドォイーーッン!!


暗がりの回廊が現れた。

ジョセフィーヌは触覚を

後ろにいる二人に向けて揺らした。

“ゆんゆら〜ん”


「た、助けるって何が?

 (え、助けるのはラースでしょ)」

アグリッパは魔女に質問されているのも無視して

後ろからジョセフィーヌの触覚を見ていた。

触覚は細かく刻むように揺れていた。

“ゆらゆらゆ〜らゆ〜ら、ゆ〜ん”

「あっあの!

 じょ、ジョセフィーヌさんがあの!

 あの今はとにかく時間がない、って

 魔女さまの力が必要だから、

 急げって、え?やっぱり!

 そうかっやっぱりそうだったんだっ ー!」

「ジョセフィーヌが何?何て??」


まともな回答を得ることがない魔女は

ジョセフィーヌから降りて

暗がりの回廊にはまだ入らずに、

ジョセフィーヌを軽く撫でながら

アグリッパの言葉を待った。


アグリッパは確信を得たように頷きつつも

呼吸が荒くなった。

焦茶のローブが震えている。

「っぁの!“贄”を守れるのはー、

 魔女しかいない、と豪語してて

 えっと、魔女に任せておけば

 間違いないそうです!!」

褒められているが

魔女は、珍しくアグリッパの言葉に

敏感だった・

「“贄”?ーーそれって

 ラース、のこと、言ってる?」

ラースが囚われていることを思えば、自然な思考だ。



時間がないのはわかっているけど

呪いを早く解かなきゃいけないし

だからこそ、ラースを連れて王のしゃくを取って

アルファイの腕を治したい、

それはもう、よく分かってる。

そんなことを

魔女は思いながら、回廊の吹き抜け天井の先を見上げた。

塔の先は暗くて何も見えなかったが、

塔外の雷の音を遮断しているようで

水を打ったように静かだった。

時折、稲光だけが点滅するみたいに

回廊を浮き出していた。


その点滅する稲光に魔女は聞く。

パリン


「(結界が、破られた?)」


アグリッパの声は結界を破る音に 

静かに付いてきた。

「違います、

 “贄”は アルファイルス君です。ー」

「ー え 」


聞こえたがー

魔女の目に

黒い翼を持つ大きな魔物が

稲光の中降ってくるのが映る。

禍々しい暗闇を背負って一緒に落ちてきた。

「(“贄”がアルファイさん・・・?)」

同時に自分の耳に届いた、アグリッパの声は

オーゲルとアルファイと逃げたときの鐘のように

魔女の脳内を反響していた ー。








アグリッパ情報:はっ恥ずかしいっ!

        自分語りってなんでこう

        あんなこと言わなければ

        よかったの連続なんでしょうか。

        きゅうりをかじって落ち着こう。


オーゲル情報:ヘムズワスめ・・・。

       

ラース情報:ふんどしのまま、また牢に入る。

      何か羽織るものがほしい。

      








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