全裸男と片腕男
*
「(どこだ、どこから音が?!
っくそ!
地下で音が反響して位置がわからない、
魔力さえ封じられていなければ!)」
遠くで何かがバタバタと音を立てている。
どうやら人がいるらしかった。
「ーーーっすっ!!」
残響に混じって誰かの声が聞こえた。
「(誰かが何か叫んでいるのか?
なんて言って、)」
「ラァああーーーースっっっ!!!!」
その名を呼ぶのは、勇者 アムラン。
心臓の音が跳ね上がる。
「(アルファイだっ!)
アルファイここだっっ!!
ここにいるっっっ!!」
声を荒げたが、ラースの声は届かない。
この階には居るらしいが、爆発音に続いた声も
反響して位置の特定が難しい。
「ラァっース!!ー 声を上げろ!!」
「ここだっっ!アルファイ!」
ラースは牢の鉄柵を握りしめ、叫ぶ。
「アルファイっっ!!!ーっ」
程なく二度目の爆発音が、近くで鳴った。
爆音と同時に空気を伝わる振動が地下を伝う。
「(ー?!っ耳が、ー)」
あまりの爆音に、耳鳴りがして
まわりの音が聞き取りにくくなる。
音が消えた世界に
飛び込んできたのは
アルファイの走る姿だ。
「!?っアルファイ、アルファイなのか!!
どうした、その格好はっっ!!!」
自分が上手く喋れているのかわからなかったが
ラースは叫ぶように言った。
アルファイは何か、言っている。
「?(なんだ?なんて言って)」
鉄柵の前にきたアルファイは息を切らしながら
ラースの耳を片方だけ押さえ、言った。
口を大きく開け、何かを言うが
ラースは顔を振る。“聞こえない”と。
顔中に汗をかいたままアルファイは目の前で叫んだ。
「助けに来たぞっっ!ラース!!!
聞こえるかっっ!?」
耳鳴りが止んで、はっきり、聞こえた。
「アルファイ・・・」
この王国へ来た時とはまるで違う、
その姿を見たラースは
自分が全裸だということも忘れて
ただアルファイを見た。
「人間に戻れたのか!」
「ーっあ、あぁ」
頷くとアルファイは耳から手を離した。
アルファイは全裸に気付いた。
見たらいけないと思って
下なんか気にしてませんよ、という気持ちで
いつかの姿のままのラースを見た。
「ネズミじゃなくなったのだな!
呪いは解けたのだな?!」
ラースの下半身がネズミじゃないのも見ない。
「いや、そうではない。
一時的なものだと思う。」
「そうか、ー」
残念そうな顔をするアルファイに
「さっきのあの音はなんだ?」
「あぁ、それは師が」
ラースはアルファイの口を押さえた。
「?」
「ちょっと待て。・・・」
ラースは別の音を聞き
アルファイに小声で伝える。
「誰かくるぞ・・・」
二人の耳に金属音がかすかに聞こえた。
一瞬の剣筋がラースの目の端に映り込み
ラースはアルファイの胸当てを掴み
アルファイを下へ押し込むように投げ倒す。
「?!っ」
鉄格子に火花が散った。
「アルファイ!!逃げろ!」
ラースが叫ぶ。
投げられたアルファイは
鎌ってちゃんに手をかける。
「(誰だ?!)」
黒ずくめの装備を身につけ
首だけ真っ白な首巻き。
「(翔煙隊だ ー)」
直剣を構えた男が一人、アルファイの前に立つ。
くるり、とアルファイが柄を回せば
鎌ってちゃんは白く光り始めた。
「(逃げないさ、私はお前と一緒に行く)」
ラースはその光景に息をのんだ。
暗い牢の廊下は光に満ち溢れ
鎌からこぼれ落ちる光の雫が
アルファイの足元を照らし出す。
「(あれは ー
呪い鎌なんかじゃない。
・・・“欠月の鎌” だ)」
黒炎は今や消え去った美しき白の鎌 ー。
金色のリボン付き。
ゆらり、男の直剣が揺らめいたように見えた。
「ーっ!」
アルファイに向かって
身を屈め男の体は一直線に伸びた。
疾風がアルファイの間合いに踏み込んでいた。
「(っ低いー!)」
潜り込むように入った男の直剣は
アルファイを斬り上げた。
影の一筋が床から天井に向かう
っガッ!!
アルファイは柄で切先を止め
ひらり、と宙に舞うように飛んだ。
「(?!)」
その姿がスローモーションのように見えた。
アルファイが笑っていた。
「(笑った?)っあ」
ラースの口から小さく声が漏れた。
剣は弾かれながらも男は身をひるがえし
飛んだアルファイに剣を突く。
トン、という音がして
アルファイの鎌ってちゃんが光った。
白い光がまばゆくて、何が起きたか見えなかった。
ドンっっ
男は膝をついて倒れた。
*
「っはぁっ、はあっ、はあっ!
ら、ラース、はあっ、ぶ無事、か」
寝転がった男を跨いで
息を切らせながら
寄るアルファイに、ラースは言葉も出ない。
鉄格子に背を預け、
大きく呼吸を繰り返すアルファイは
寝転がっている男を確認した。
「(よかった、死んで、ない、ー)」
首の後ろを峰打ち(みねうち)しただけだが
ひょっとしたら鎌ってちゃんの気分次第で
首、落ちてたかも、と
アルファイは不安だった。
ラースは
アルファイの肩に乗る鎌ってちゃんを
じっと見てしまう。
金色のリボンが風もないのに
ヒラヒラしている。
「(ー?なんだ、あのリボン・・・)」
確かに神々しくはあるが
リボンの意味不明さに何だか
「(まさかな・・・)」
そのリボンに見覚えや
心当たりがあるような、ないような
「(違う、気のせいだ)」
どうしてそんなの付けてるのか
理由も聞きたくないな、と思いつつも
「(リボンの存在感・・・)」
やけにでかいリボンに突っ込みたくなる衝動を、
ラースは抑えていた。
「どうした?」
振り向くイタズラな目は
昔の面影と何ひとつ変わりはなかった。
「いや、なんでもない。よくやったな。
それよりその鎌、どうしたんだ」
「?あぁ、名を“鎌ってちゃん”と言うんだ。
私が付けたのではないぞ?」
呼吸が整った後、ふぅ、と一息ついて
鎌を見せてきた。
白くうっすら光ってて
「か、かまって、“ちゃん”ー?」
金色のリボンが風もないのに
揺れてる。
リボンではこらえたのに。
我慢して、言わなかった。
なのに ー
「鎌ってちゃんだとっ??」
あぁ、声に出してしまった。
声に出さざるを得ないほどの
センスの欠片も無い
安直なありのままの名付けも
「ああ、鎌ってちゃんだ。」
あぁ、聞きたくない。
「アルファイ、平気なのか?!」
その、人を小馬鹿にしたような
その理由も
「仕方ないんだ、私が名付けたのではなく」
そのリボンを付けたであろう、
「(言うな、言ってくれるな)」
その脳みそお花畑の名を ー。
「魔女だ」
「(やっぱり ー)」
どー〜ん。
ラースの虚無感は絶好調だ。
「(肩掛けかばんの中身といい、
鎌の名といい、期待を裏切るという
期待を裏切らないな。あの魔女)」
アルファイは鍵の開錠をしようとした。
ラースは虚無感からぼーっとしてたが
アルファイの持つ鍵に手をかけた。
「しなくていい、アルファイ。」
言いながら、
ガチャ。
「!!開いてたのか!?」
「ああ、牢に入れられて
すぐ開けといた。」
開いた鉄格子から全裸の男、脱出。
「魔女はどうした」
倒れている男の前に立つ、全裸で。
「それが、ー、はぐれた」
しゃがんで意識を確認した、全裸で。
「?はぐれただと?
では魔女は今一人なのか?!」
全裸だが、魔女の行方を気にした。
「いや、英雄騎士オーゲル様と一緒にいる」
「っっ?!お、オーゲルとだと?!」
アルファイは不思議そうな顔をした。
ー 何が問題なのだ?、と。
全裸の方が問題じゃね?、と。
「・・・まずいな。」
全裸が問題じゃないけど
オーゲルに何か思う節があるらしい。
・・・全裸も十分問題だよ。
ラースは男をゴソゴソしだした。
「ら、ラース、何を・・・」
ラースのゴソゴソする姿に
嫌な影がちらつくし、見覚えがありすぎて
「(主がアレだと、使い魔も似るのか・・・?)」
ちょっと心配になる。
ゴソゴソしたかと思いきや
男がしていた白い首巻きだけ抜き取って
しばし何を思ったかラース。
「・・・」
シュルシュルシュルーーっ
「よし」
「?!ラー・・・s」
それは選ばれし
漢の中の漢の
一張羅 ー、
ふんどし一丁の漢前スタイル。
「流石に全裸は、なりふりがまずいからな」
ラースは言い切ったその後、男から剣を取り上げる。
ふんどしならいいの?
全裸よりはマシか。
そうかな?・・・そうかも。
人間、いや、おネズミさま。
裸が初期状態だもの。
長いことネズミ生活が板に張り付いていたからか
全裸は“ひと”として
礼儀に反する、と思ったのは紳士的だね。
だが、
“どうせなら服も装備も全部貰っちゃえよ”
と
アルファイは我が身のあらましを振り返ると
口が裂けても言えなかったし
なんかあまりにもラースが堂々としてたから
突っ込んだらいけないと思った。
「(あのラースが・・・)」
年月は人をたくましくした。
だが、違うぞ、諸君。
服なんて 飾りだ。
ひとは 裸となり、
初めてその真価を表すものだ。
着ている服なんて言ってみれば、
布ですよ。
誇らしい真価を隠すことの方が
恥ずかしいと、恥辱的であると!
なぜ、なにゆえ、思わないのか。
ラースを見るんだ。
彼は今、着飾るという
コンテンポラリー派から脱却し
人類の祖である素寒貧、
トラディショナル派への回帰を果たしたのだ!
漢、裸一貫、
剣だけありゃあ、何とかなる。
(肩掛けかばんは
おしゃれな漢のワンポイントエッセンス。)
ラースは剣を肩に乗せ走り始めた。
「行くぞ!アルファイ!!」
「あ、あぁっ!ー」
アルファイはラースの横で
一緒に走り始めた。
「寒くないのか、ラース」
心配、アルファイ。
横目にアルファイは走りながら、
ふんどし姿のラースを見た。
「寒いな」
・・・諸君、聞いた?
寒いんだってさ、ラース。
寒いよね、そりゃ、寒いですよね。
だって裸だもんね〜
誰だ、トラディショナル派とか言ったやつ。
あ、お前だな?
やだも〜、裸とか真価だとか言っちゃって
めっちゃ恥ずかしい〜。
ふんどしとか、ウケる〜。
トラディショナルとか意味不明なんですけど〜。
ラースにも人権はある。
「ー、それよりアルファイ。
お前こそ、その姿はどうしたんだ。」
「あぁ、魔女のお墨付きで“勇者”になった。
はは、嘘のようだな」
「!」
アルファイに照れ臭さが滲むのを見た。
その心が軽くなったように、思われもした。
「ー、そうか。
ー よかったな」
「あのっ背中の刺青を魔女は読んだんだ」
「!そ、そうか!なんと書いてあると」
「我は 勇む者 なり ーと」
おおっと!
魔女不在の黒歴史がここで炸裂。
ホントは”俺 勇者”(悪筆)
ラースは立ち止まった。
アルファイは気付かずに、やや先に行き
振り返ってラースを見た。
「何だ?どうした、ラース」
あの日、言いたかった言葉だった。
旅立つラースが
アルファイに言ってやりたかったことだ。
「お前は勇者になれる。
いや、・・・もう、勇者だ、アルファイ」
「 ー、ラース。」
「お前なら なれると思っていた。
お前が生きていてくれて ー
本当によかった。」
背中に背負う、その鎌は
欠月の鎌。
かつてその鎌こそは、
天の軍勢を率いる軍神のものだった。
そしてアルファイの背に彫られたその印は
勇者の降臨を告げるもの。
負けず嫌いな、努力家の勇む心を振るうもの。
何より、ラースはアルファイのその“心”を信じていた。
「・・・隻腕の勇者
(ここでも神話が・・・)」
ラースの目に、その姿は真実となって映し出された。
またアルファイも、ラースの姿に声が詰まった。
信じてくれた“憧れ”が 目の前にいる。
「ーっラース、
私はっ、お、お前と一緒にっ ー!」
アルファイは感極まって、震えた。
だが ー
『感動のところ、悪いんだけど
牢に戻ってくれるかな ー』
ラースの耳に届いた声は
次には、ラースの両腕は後ろに捕らえていた。
「??」
ピーィ、ピュルルルルー!
口笛が鳴る。
「?!」
ラースとアルファイの先に影が積もる。
そこには、三人の男が
隊列を組んで各々剣を構えて立っていた。
「(翔煙隊が ー)」
ドノヴァッテン魔法王国
聖魔法騎士団 翔煙隊
彼らは秘匿を護るもの。
彼らは深淵の秘匿に
己が祈りと血を焼べるもの。
眠るそれを監視し眠りを守るもの
番人とし 隔壁を成すもの。
英雄 オーゲルの 盾と なす ー
先頭に立っている男は
全身黒い装備で
顔にも黒の布をしていて
目だけが出ていたが
その目すら、何も写してないように見えた。
ラースは何かわからない力で
動けなくなりながらも
アルファイに言う。
「いいか、アルファイ
魔女を守れ。
魔女を一人にするな」
「?な、なぜ」
ラースの表情は見えなかった。
「よお、ラース。
なんだ、人間に戻れたのかよ。
裸一貫、これぞ漢ってやつだな」
オーゲルが後ろに立っていた。
*
アルファイ情報:ラースに会えた!嬉しい!
みてみて!勇者になった!
と、言いたいがクールに処す。
ラースの下半身はネズミじゃなかった。
しっかりとした大人だった。
目に入ったものは見た、じゃない。
ラース情報:人間の全裸は寒い。
装備は特別なものだと聞くし
倒れた人間の服まで取っちゃったら
起きた時、悲劇の上、人権問題。
(元)おネズミさまの慈悲。
翔煙隊情報:ローリに言われてここに来た。
もし人に会ったら
とりあえず攻撃しろと言われた。
またあの地獄の
抜き打ち練習かと思っている。
戦闘に1人足りなかったのは、
オーゲルを迎えに行っていたから。
魔女に踏みつけられてる姿みて
オーゲル様って
そういう趣味なんだって思う。
変なブヨブヨの生き物が怖かった。
オーゲル情報:もう二、三個
おにぎり食ってから
あの魔女呼べばよかった。




