勇者、誘拐さる
*
紳士はいつだって理性的である。
どんなにブヨブヨのキモい生き物の上でも
慌てることなく
「先陣を切らせてもらおう」
言って、
ヘムズワスは高速移動中のジョセフィーヌの背から
華麗に消えるようにいなくなる。
口の中で短く詠唱をしながら
細く長い剣を抜いた。
英雄だって黙ってない。
「じゃあ俺は、溶朽の毒蛇の首を狙うか」
オーゲルは肩に剣を担いだまま
ジョセフィーヌの背から空高く飛び出した。
ボイ〜〜ン。
「私は 呪いを祓う」
アルファイは静かに鎌ってちゃんを背から抜いた。
魔女は驚いた。
「アルファイさんっ鎌ってちゃんがーっ!」
金のリボンがはためくその鎌は
アルファイをも包み込むように白く光り始めた。
ジョセフィーヌから静かに立ち上がり、
アルファイは 初めて 魔女に 微笑んだ。
「前を見ないと怪我するぞ」
アルファイは鎌を胸に当て、騎士の礼を執り
ジョセフィーヌから飛び降りた。
「っアルファイさん、・・・みんな!」
魔女はなぜだか感動していた。
実のところ
魔女の魔力はまた不安定に使えなくなっていた。
「(助けて、くれるのかな・・・)」
涙が出そうになったが、唇を噛んでこれを回避。
それどころではないのだ。
すぐにジョセフィーヌを撫でつつ、瓦礫に目をやった。
「ジョセフィーヌ、聞いて?
ー ゴニョゴニョゴニョ。」
ジョセフィーヌの耳がどの辺にあるのかわからないから
魔女は触覚に向かって言った。
触覚は頷くように、片方だけぴょこんと揺れた。
「わかった?お願いね」
*
バリバリバリッッッ!
ジューーーッッ
ヘムズワスの詠唱した魔法の結晶の針は
溶朽の毒蛇は毒によって溶ける。
結晶ごと溶かした毒に
「っヒュ〜っ!っぶねえ!」
『とことん計画性のない動きだな、オーゲル。』
すんでのところで避けた。
「ヘムズワス、
お前だけなんでそんな無敵なんだよ」
『ー?祝福を賜ったのさ。
人徳だ。』
おいおい、それじゃまるで
英雄に人徳ないみたいじゃ〜ん。
あれ、ひょっとして英雄、人徳ない?
二人は溶朽の毒蛇の毒を避けながら
その動きを見つつ、ちょこちょこと攻撃を仕掛けている。
その攻撃の合間には、アルファイも含まれているが
アルファイにはしゃべる余裕なんてない。
いつだって、死にそう。
「(二人にまるで体力がついていけない)」
溶朽の毒蛇は
アルファイを尻尾で横一線に遠退けるが
その身をひるがえし毒蛇の皮膚を切り裂いた。
「(かすった程度かっ!)」
手応えのなさに見れば
毒蛇の裂かれた皮膚は
すぐさま再生していた。
「お〜、勇者身軽だな〜。」
『勇者だ、天賦の才がある。』
「へっ、の、割にゃ死にそうな面しやがってっとぉっっ」
オーゲルはどこか嬉しそうな顔をして
瓦礫を蹴り上げ、毒蛇の頭を狙う。
アルファイは助けられる。
オーゲルが瓦礫を蹴らなければ
毒がアルファイをとらえただろう。
「俺ぁ、知らなかったぜ。
蛇なんか東塔で飼ってたのか。」
オーゲルは毒を避けたが、マントには少々かかったようだ。
マントは防水だが、防毒ではなかった。
ちょっと溶けた。
それを横目にヘムズワスは、剣に魔法属性をまとわせ
毒蛇に振り抜いた。
『(ふむ、・・・効かないか)
飼ってた、というよりは
実験で使っていたのだろう。
あいつのやりそうなことだ。』
オーゲルの反応は見なくてもわかった。
「チッ・・・
てことは、魔女のジョセフィーヌもか?」
瓦礫を蠢くジョセフィーヌをちら、とみた。
『いや、あれは違う』
確信はなかったが、答えた。
次は剣に炎をまとわせ、斬りかかる。
アルファイはまたしても助けられた。
毒蛇は攻撃をかけてくる三名のうち
一番弱そうなアルファイに的を絞ったらしい。
アルファイは攻めあぐねている。
「ふ〜ん・・・さて、勇者が息切れし始めたぞ。
あいつ毒蛇に狙い撃ちされてんじゃねえか。
どうすっかな〜・・・」
アルファイが肩で息をし始めていることに
『まだ鍛え足りないようだな。』
ヘムズワスは冷静に見ている。
ついでに瓦礫に蠢くジョセフィーヌにまたがる魔女を見た。
『(・・・?何してる・・・)』
何してるかわからんのが、魔女。
ヘムズワスは魔女の動向を気にしながらも
オーゲルに言った。
『毒蛇を一気に叩く。
奴の動きを一旦封じる。お前は毒蛇の首を落とせ。』
ヘムズワスは持つ刀身に指3本を添えた。
『(同じ火属性でもー)』
毒蛇の真上に魔法陣が空に展開をはじめた。
赤い光が回転しながら広がった。
赤い光の中から、煮え立つ音が聞こえたかと思うと
『大火球はどうかな ー、』
一斉に火の玉が毒蛇目掛けて落ちていく。
「(おー、やったな。
相変わらずやることエグいんだよな、あいつ)」
次々に火の玉は毒蛇に命中し、その皮膚を叩き潰していく。
その風景を見ながら、オーゲルはそれでも笑顔になる。
「(・・・悪く思うなよ)」
高周波のように切り裂く声が毒蛇から出ると同時に
オーゲルは剣を構え、目を閉じた。
「(ー、打て・・・心を 打て)」
瞬間、オーゲルの瞳が開かれた。
次々落ちる火の玉の中に
強く激しい力が縦に切り裂く。
音がかき消され
瓦礫の塊が落ちた、
と思ったのはアルファイだった。
それほどの重さの、毒蛇の頭が落ちた。
「(!!っ毒蛇の首がっ?!)」
落ちたと思った毒蛇首は剣に突き刺さる。
「!」
アルファイには、見えなかった。
『勇者アムラン、祓え』
ヘムズワスだった。
後ろに立っていたヘムズワスにだって気付かなかった。
背筋に走る鋭い気配が
自分に剣を突きつけられているようで
アルファイは振り向けない。
毒蛇の眉間に刺さる
オーゲルの剣を見たままだった。
ところが
「あった〜ぁっ!!!
ジョセフィーヌ、グッジョ〜〜ブ!」
魔女の声に
アルファイは急に緊張が解けたように感じた。
『魔女っ!何をするつもりだっ』
今まで冷静だったヘムズワスが
苛立ちの声を上げた。
だがお構いなしの魔女は
「いっくよぉ〜〜〜ぉぉっっ!!!!」
ジョセフィーヌの上に立ち上がり
両腕を振りかぶった。
顔は毒蛇に向いている。
ぐい〜〜んっっ!!
魔女の背中が見えるほどに捻られ
『(なんだ!?何か投げようとしてるのか!?)』
目を凝らす。
「ーーーっっふんんっっ!!!」
投げる。
「(何を投げた!?)」
投げたものを目が追う。
腕から解き放たれたもの、それは
“ゲラルドの短剣”
アイテム:ゲラルドの短剣
その短剣は死を与える。
ゲラルドは短剣を打つために
古い時代からこの国に伝わる
火の少女の力が残る鉄を求めた。
投げられた“ゲラルドの短剣”は、
噴射したジョセフィーヌの粘液に乗り
より速度を増して ー
切り落とされた胴体目掛けて 一直線に突き刺さる。
突き刺された箇所が真っ赤に燃え上がり始めた。
首の無い胴体はなおもその場でバタバタと激しく波打ち
再生をしようとしていた。
「アルファイさんっっっ!!今です!!」
アルファイの体はすでに動いていた。
魔女の声が届く。
「いくぞ 鎌ってちゃん」
ゲラルドの短剣が赤く燃え上がるのと
アルファイの鎌が白く光りが
激しい閃光を放ち、ぶつかって溶けるように弾けた。
アルファイは渾身の力を込め
鎌を横に振り抜く。
「ぉおおりゃあぁあぁっーーーっっ!!!!」
振り抜かれた鎌のその跡を追うように
金色の光の粒が降り注ぐ。
毒蛇は跡形無く 消えていた。
あたりはすでに暗く、なっていた。
**
霧が深くなっただけの暗闇を
影絵のように駆け抜ける人が
一人、また一人増え、
ひとつの集団になる頃には ー
風はいよいよ激しくなり始めた。
塔の間を吹き抜ける風が
低い唸り声をあげているようで
やがて混じる雨に霧が濡れ
その集団は眼前に立ちすくんだ。
瓦礫の山に落ちる雨粒は闇に解ける。
『塔が破壊されたのになぜ、誰も気付かない』
『溶朽の毒蛇は消されたのか』
『魔女だ、ネズミと男を連れていた』
『ー?男なんていたか?』
『“核”がなかった。』
『溶朽の毒蛇の呪いも祓われている。』
『ローリ様。いかがしましょう』
『・・・“影の混沌”に向かえ』
おぼろげに灯った塔の灯りが明滅していた。
**
「はあっはぁっっーっはあっ」
「がんばれ〜ぇ」
「だっだからっ!はあっなぜ、
それをっふぅっ!連れて行かねばっ
ならぬのかっはあっはあっ」
「えーだって、かわいそうじゃないですか〜。
溶朽の毒蛇との戦いで、立役者ですよ〜」
「そーだぞ〜、お前、喋ってる余裕ねえぞ〜
腕を振れ、腕を。あ、振るのはある方でいいからな。」
何してんの?って?
現在、東の塔(ほぼ全壊)を離れ
アルファイの体力増強特訓をしながらの
西の星見塔へ移動中。
(ヘムズワスとニアヴ女王とは
東の塔でお別れしたよ、バイバーイ。
またね〜っつって。)
走るジョセフィーヌの背に乗るは、
魔女、そしてオーゲル。
並走するは勇者アムラン。
訂正、ややジョセフィーヌから遅れを取ったか。
だって、ジョセフィーヌ速いもんね。
でも結構、手を抜いて走ってあげている(らしい)。
(ジョセフィーヌは足多いし、
アルファイ、片腕ないからハンデ。)
それでも、やっぱり遅れを取る。
お〜、勇者よ、がんばれ。
そりゃ普通の人なら無理だけど
勇者ですから、彼。
勇者、色々 補強中。
快適なジョセフィーヌの背の上で、
オーゲルと魔女は話をしている。
魔女は肩掛けかばんをゴソゴソ。
オーゲルに封を手渡した。
「これー、うちに届いたんです。
王さまからの手紙で
刻印がしてあるから、って。
私かケトルさんしか開けられないって。
あ、ケトルさんがこれ開けてくれたんですけど。」
「ふ〜ん」
興味なさそ〜。
手紙を読みながら、オーゲルは頷いていた。
「それで?アイスクラピウスは
お前んちで何してんの?」
「それが〜、
みんなを鍛えたいから〜
後から行くって。
だからまだ私の家にいると思います。」
手紙を裏返し、また戻す。
一通り、目を通したらしい。
「ー、そうか、わかった。」
手紙を折りたたみ直し、魔女を見た。
オーゲルは静かに口を開いた。
「手紙の意味、わからん」
「!やっぱり!!!
わからないですよね!?
普通、どういう意味なのか
よくわかんないですよね!!」
魔女、謎の共感。
よかった、バカは一人じゃなかった。
魔女はなんだか急に嬉しくなった。
あの手紙を読んで
意味がわからなかった人がここにいたと思うと
同志を得たようだ。
「お、おう・・・」
「で、ですよね〜?!!
私も意味わからなくって!もう、何書いてあるのか
全っ然わかんないんです。
あ、でも最初のー、」
言いながら、魔女は手紙を取り出した。
「ほら、ほらこれ、
ラースのいる場所、なんですけどー」
指を指した。
“ 星見塔横研究棟、
地下坑道東南東、血脈零番 第弐列 ”
「これってー、地下なんですよね?」
「あぁ、だがここは ー」
「?」
「魔女、そこへ行く前に聞きたいことがある」
「はい、なんですか?」
「俺との約束を覚えているか?」
「?(約束ー?あの魔女何か約束したの??)」
ヘラっと笑う魔女は
あからさまに“知りませ〜ん”顔だ。
「ー、魔女、」
ジョセフィーヌが緊急停止した。
足腰の強いオーゲルはその場に留まったが
魔女はジョセフィーヌの前に
飛び出しそうになる。
腕を伸ばし、引き戻したのはオーゲルで、その反動は
魔女をオーゲルの腕の中に勢いよく叩きつけた。
「っっぶふっぅ!」
急停止したジョセフィーヌの触覚が機敏に動き始めた。
「いたたっ、オーゲルさんごめんなさ」
顔を上げると
「!!!アムランっっっ!!」
魔女もその声に後ろを振り返る。
すでにアルファイの姿はなかった。
「連れて行かれたか!!」
「アルファイさん?!なんでっ!」
「っっクソが!秘術師だ。
奴らめ、おかしな術を使いやがって ー」
はた、と魔女はオーゲルを見上げて、言った。
「大丈夫です、私、
アルファイさんの“核”
どこにいるかわかります!!
だから、すぐに助けに行けます!!」
ヘムズワスは教えてくれた。
『 “核”は、実体を呼ぶ力を持っているんだ。
そして、“核”は他者の存在を知る信号だ。』
「それはいいが、これはどうするつもりだ」
魔女は触覚を振るジョセフィーヌの前を見た。
見れば、ジョセフィーヌの前には
黒い闇の中から
ワラワラと溢れるように出てくるスケルトンゾンビ。
「(やっぱり出てきたか〜)」
ここは東の塔から西の塔へ向かうための
通路。ー 両脇を高い石壁で囲まれている。
逃げ場はない。
後ろも前にも、黒い闇から現れたスケルトンゾンビが
骨と装備のぶつかる音を鳴らしながら向かってきていた。
エレーミナルス王国で出てきたスケルトンゾンビとは違う。
似ているが、こちらは防具を付けている。
倒しても放置すると復活するところが同じだ。
魔女はゲームでもう、知っている。
「任せてください。」
高笑いしたくなった。
ここで出現するスケルトンゾンビはプレイヤー時には
場所こそ違えど、ドノヴァッテン魔法王国で最初に戦った敵だ。
魔女は完全攻略している。
「(思えばゲームでは
あそこに大量発生するスケルトンゾンビ。
今回はいなかったけど
いつかいつかと思ってたら
ここってわけね。ーふ〜ん。)」
手こずって逃げたり、隠れてた思い出。
隠れた先の後ろにもいたりして、それでも逃げて
追いかけられて、時々剣で斬りかかられて
避けたはずの場所で囲まれて
フルボッコされたのも 今となっては良い・・・
とでも言うと思ったか。
「にっくきあの野郎どもめ!!!」
ちゃんと口に出していた。
オーゲルはポカ~ンと見ている。
「(やり返してやるときが きた。
次は逃げも隠れもしない。
スケルトンマスターと呼んでほしい。
そんな称号ないけどさ〜
今だから言えるけど
あいつらのせいで、
ひとつ7000円するコントローラー
買い直したんだから。)」
口では“あれ、コントローラの接触が悪いなぁ”
と言い訳しつつも
本当は、違った。
フルボッコされた悔しさのあまり
コントローラのボタン押し込みすぎて
落ちへこんだままのボタンは
二度と戻ってくることはなかった。
ゲーム内で しゃがんだままの主人公その2を思い出す。
押し込んだボタンの動作は“しゃがむ”だ。
しゃがみ歩きはできた。だが立つことはないまま
スケルトンゾンビに囲まれ、ー ゲームオーバーである。
(結果買い直してリロードするも
ほぼ初期位置からスタート)
ゲーム画面内のカメラワークの悪さに
文句を垂れる輩が一定数いるが
魔女だって御多分に洩れず
ギャーギャー喚いていたタチだ。
コントローラをぶん投げないだけマシだ。
「自分のムーブが悪いわけじゃないぜ。
ありゃ完璧なムーブだぜ。
敵のロックオンが勝手に外れんの ずりーだけ。
あ、アプデ入った?」
都合の悪いことは全部、(ゲームの)アップデートのせい。
アプデとは:ゲームのシステムを最新の状態に更新する作業
だからってさ
力いっぱい、ボタン押し込み過ぎなんじゃね?
そういう、恨みに近いストレス、
精神的苦痛とか 募り切ったイライラを
現在ここで昇華する舞台は整ったことに不敵に笑ったのだ。
だが
何体いるのかこの暗がりじゃ、わからない。
けれどそれだって、好都合。
見えてないなら、気持ち悪さなんて気にならない。
「(ジョセフフィーヌ、君のことじゃないよ。
ジョセフィーヌは可愛いよ!)」
終わったら、なでなでしておこう。
触覚にリボンする?
「ジョセフィーヌ、壁を伝って
あっち側にジャンプして、ぐるーって回れる?」
大変雑な聞き方にも関わらず、
ジョセフィーヌは触覚を大きく振った。
「何するつもりだ」
「オーゲルさんは〜、私が両手使っちゃうので
私を支える係です。」
「支える?」
「私の腰ら辺を持って、あ、ジョセフィーヌの触覚持って大丈夫です。
横に移動するんで。」
言いながら、魔女は肩掛けかばんをゴソゴソしだした。
「ま、魔女、お前、ー 」
「あった、よし ー、」
魔女はゲンコツ2個の袋を片手に
ジョセフィーヌを撫で上げながら立ち上がる。
雨風は段々強くなってきたが、魔女は気にもせずに
立ったままその袋の口を広げ、もう片方に押し込んで入れていた。
それを見てオーゲルは腰から腰袋のついた腰紐を取って
ジョセフィーヌの触覚に巻きつけ、その先を自分の拳に巻いた。
片腕はすでに魔女の下半身を支えるように持ち
ほぼ肩に魔女を乗せているようだ。
ひとつにまとめた袋を魔女はおもむろに上下左右に振り始めた。
小声で何か言っている。
「シェイクっ!シェイク!!!」
ガッツリ振っている。
部族の変な踊りに見える。
ひょっとして変なお祈りもしてる?
何をしているのかオーゲルは聞きもしないが
視線はすでに前方のスケルトンゾンビを捉えている。
後ろからも徐々にスケルトンゾンビはこちらに寄ってきている。
「っ!いい感じ!!」
気付いてないけど、魔女、オーゲルに乗ってるよ?。
いいのか、喪女。ー そこはいいのか?気にしなくて。
破れて、るよ。ボロ切れの布・・・。
前かけエプロンだけが前だけ隠してる。
「っしゃあ!、いつでも来いっ」
オーゲルはなんだか楽しそうな顔をして言った。
この男は、これから始まる何かを楽しんでいるようだ。
「ーっジョセフィーヌ!!」
ジョセフィーヌは、足を高速連動させ
目の前のスケルトンゾンビの足元目掛け粘液を噴射した。
噴射しながら横の壁に伝い登り、そのまま壁を走り出す。
「ぅおっ!?」
声を出したのはオーゲルだ。
魔女は微動だにしない。
足はジョセフィーヌの背にまるでピッタリくっついているみたいだ。
オーゲルは魔女の両足のつま先が
踏ん張るように力が入り込むのを感じた。
「(こいつ、体幹が出来上がってんな)」
左手に握りしめられた袋に右手を突っ込みながら
「ーっっっ飛べっ!!!」
魔女の腹から出た声は石壁の中を震わした。
「っ!?!」
横伝いから石壁を離れ、ジョセフィーヌは空高く
海老反りしながら暗闇に孤を描きながら飛んだ。
その状況、ジェットコースターで言えば
ちょうど頭逆さまである。
反重力をお楽しみください。
「酔うっ〜〜っっっ!」
言いながら、
スケルトンゾンビに向けて粉を 撒く。
撒かれた粉は、雨粒に混じることなく
美しい放射線を描きながら
スケルトンゾンビの頭上へ降り注ぐ。
撒かれた粉は薄い靄を作った。
ジョセフィーヌは反対側の石壁に足をつけ
高速連動しつつ後ろへ向かいまた、ー 飛んだ。
まるでジョセフィーヌは投げ出されたナメクジのようだ。
優雅である。
飛びながらジョセフィーヌは
スケルトンゾンビの足目掛けて粘液を噴射した。
振り撒かれた粉は、暗くなったあたりを照らす光となって
スケルトンゾンビに降りかかる。
ジョセフィーヌが着地する頃には
粉はスケルトンゾンビに憎悪の叫びを上げさせるわけでもなく
ふわふわと光の靄に溶かした。
消えていくとき彼らの形は
花びらになって ひらひらと 舞った。
花びらが落ち雨粒と一緒に石畳に跳ね返り
光の飛沫を一面にあげて消えた。
あっという間だった。
その情景を、オーゲルは美しい、と思った。
この魔女の一言さえなけりゃ・・・・
「この辺にしておいてやろう、さらばだっっ!!」
魔女はその光の花びらに向かって
警察署長直々に教えてもらった敬礼をした。
敬礼のやり方を教えてくれた警察署長は
ずっと曲がったネクタイのまま言ってた。
『相手側から手のひらが見えないように
敬礼の手の角度は左下方向に向けるんだよ。
そうそう、ー!?
君、生命線長いなあ!』
そのあと、長々と手相について
講釈垂れたが、わかったことは
『君、結婚は無理だね。
(結婚線が)ないもんな〜。』
魔女にとっては事実であると同時に
ムカついたから
ネクタイ曲がってるのも言わないでおいた。
*
「な、何の魔法、ちが、ひ秘術か? ー」
オーゲルにしては珍しく呆けていた。
魔女はジョセフィーヌを撫でくり回していた。
触覚に頬擦りまでしていた。
さすがにそれはちょっと引く。
「ジョセフィーヌ!めっちゃグッジョブ!!
いい子〜ぉっ
もう!!かわいい!
粘液いっぱい出してくれてありがとう!」
“粘液いっぱい出してくれてありがとう”は
色々連想される、パワーワード。
婦女子のみんなっ!
軽々しく言ったらダメだぞ!
魔女は撫で回したジョセフィーヌを見た後
あたりを見回した。
すでに、スケルトンゾンビの集団はいなかった。
「な、なあ魔女、こ、これ何だったんだ」
「へ?
あぁ、これですか?
これ、ミックスです!」
魔女が袋の中を広げて見せた。
何の変哲もない、暗い中で見たからかもしれないが
黒い粉に見えた。
「?ー この粉はなんだ」
「えっと〜、エレーミナルス王国で拾った“王の道”の
煤と〜、
東の塔で拾った“煤の魅惑粉”です。」
「は?
“王の道”の煤?」
「はい、ディオに集めてきてもらったんです。
何かに使えるかもって思って。
で、混ぜてみました〜ぁ。」
ヘラっと笑う魔女には勝算があったのだ。
「(知ってたもんね〜。)」
オーゲルは不思議だった。
「(この魔女、魔法を使わずに、
倒した、だと ー?
なんだ?、
違和感か?
あの魔女なら魔法で消し去るはずだ。
光?
聖魔法にもあるがそんな方法はない
あの魔女今まで
そんなことしてこなかっただろう)」
オーゲルはアホ面の魔女を見ながら、口を開いた。
「魔女 ー、頼みがある」
「?へ、あ、そういえば
さっき約束がどうって」
「あぁ、それはまた後だ。
魔女、火鑽女のところへ行ってくれ」
「へ?火鑽ー、め?」
魔女はその言葉を聞いて思い出す。 ー
「あーっっっっ!
忘れてたぁ!!
お姫さまじゃんっっ!!」
なんかタスクが増えていく気がする。
タスク整理
一、ラースの救出
二、ニアヴの旦那救出
三、勇者アルファイの腕治療
四、勇者アルファイの救出
五、火鑽女(New !!)
予感のタスク
(英雄との約束)
魔女、大丈夫?




