背に勇を負う
*
さて、混乱している魔女の心の叫びなど
需要はないかと思われるが
話としては重要な部分も、まま含まれる。
魔女の心情を表すなら
『ステータス
見るも地獄、知るも地獄
知らぬが仏に なりたいな』
(意訳:なかったことにしてください)
だ。
しばしお付き合い願いたい。
魔女はアルファイの後ろ姿を見たまま
フリーズしたが
脳内は超高速回転で、現状把握している。
「(バグだ。ステータスが
魔法使いすぎてバグったんだ。
ジャミジャミじゃんって
ステータスもジャミジャミするかもだし
文字化けとか起こすかもしれないし
きっとそうだ。
だって・・・
嘘だ。ー あれが??
うっっそ〜ぉ!!!
あ、アルファイさんが
主人公その2ぃ〜?!
え、だって
名前の順番違うって、
そんなバグ ある?!
アムランって名前なの?
え?ってか
普通、私がキャラ作ったら
わかるもんじゃないの?・・・
あんだけ一緒にいたのに
これっぽっちも気付かなかった。
痩せすぎて骨格しかイケメン具合が
わからなかった。
そう、それはまるで捨てられて
痩せ細った汚い猫をお風呂入れて
綺麗にした後、ご飯あげてたら
油田王の宮殿にいるレベルの
ふわっさーとした毛の猫になる
そんなミラクルみたいな。
あれ、ラース思い出しちゃった。
・・・でも待てよ。
アルファイさんて人相悪いし
顔が髪に隠れててよく見えないし
目の色だって・・・)」
振り返るアルファイの顔半分に
「(青い、紫の ー)」
光が差す。
「?どうした」
アルファイの隠れた顔が
指先で避けられた。
「!!!(ドンピシャです)」
魔女の張り付けた笑顔が震えた。
「(ちょっと待って、待とうか。
目の色なんて、ね。
ファンタジーにありがちの色だよ。
シャルなんて赤い目だもんね。
この世界でもありよりのあり。
主人公その2だって、ええ
私が作ったんだけど、えっと
え、ちょ ちょ ちょ ちょ
こ・れ・が???
な・ん・で????
キャラメイクで髪の色は
青と銀の混ぜたような色にしたし
(今は真っ白。一晩で真っ白になったとか。)
骨格はまぁ、イケメンだ。
(手足長いな・・・)
背は高いし。
(キャラメイク時の
推定身長182センチの体重65キロ)
死にそうだったときは
体重は50もなかったんじゃないか?
肉付きも戻って健康そうには見える。
回復茶がちゃんと効いたんだ。
よかった。
腕ないだけだ。
違う、そうじゃない。
え、だってアルファイさんて
預言者じゃん。
マングースだったっけ。
(秘術師な)
なんでも良いけど
性格が あれじゃない?
言いたくないけど、アレだよね
私のこと、大っっっっっっ嫌いな人が
勇者?!それっていいの?
ん?ー 待てよ。
あ、間違ってないか。
私、嫌われてる魔女だった。
ディオがイレギュラーなだけで
元々魔女と勇者は敵対関係だった。
ならそれはまぁいい、良くない!
良くはない、だって私
勇者に殺されるんですけど!
すでに二人勇者だって言うのが
私の近くにいるのにまた増えた!
あの二人なら
ひょっとしたら
殺さないでいてくれるかもだけど
アルファイさんは絶対!
地の果てまで追いかけてくるタイプだ。
間違いない、絶対殺しにくる。
私のこと大嫌いだし
一切の融通利かない感じがまた・・・
誰だよ、選んだやつ。)」
お前だあああっっ!
って、魔女、やってたよ。
魔女がまばたきしてないことに
気づいてない。
アルファイ目線だと完全にフリーズ状態だ。
「(変なものでも食ったんじゃないか?)」
だが律儀にもアルファイは待つ。
「(でもアルファイさんて
ゾイさんと話してる時は
普通だったな。
ディオのおじいちゃんと
唐揚げと卵焼きをトレードしてたし
ギーズルさんにワイン注いでたし
シャルにおにぎりあげて
お礼にプリンもらってたし
ラースとなんてイチャイチャしてた。
さりげなくラースのお腹を
撫でてたのも見てたぞ、私は。
なんって羨ましいんだ!
私なんてまだお腹撫でてないのに。
はっっ!
私だけか。
私にだけ性格悪かったんだ。
ちきしょー!
ラースの言った通りだ。そういえば
私の話しかけには一切無視してたな。
手伝いはしてくれた。約束だから。
梅干しのおにぎり食べた後
すんごい睨まれた。
殺されると思った。でもさ〜
梅干しのおにぎり美味しくない?
疲れに効くのに。
やっぱりそうか〜。
私だけ、嫌われてるなあ〜!
わかってるけど、嫌われてるわ〜。
ラースいないと辛いわ〜。
どうするの、これから。
だって、アルファイさん
勇者?多分勇者、なんだけど
まだバグってる可能性は否定できない。
私が指名したからって勇者になれるわけない。
ディオの時はすぐにわかったもん。
アルファイさんの場合は私が酔っ払ってたし
けど、何で勇者だって気付かなかったんだろ。
気付いても良さげなんだけど。
なんか違和感みたいなのがあったかな。
・・・ひょっとして
“金のナナカマド”が関係してる?
“生まれ直し”したから
ステータスの振り直しが起きて
勇者に生まれ変わったとか?
え〜?わかんないなぁ。
けど素性には
『勇者(呪いアリ)』ってあった。
初期状態で呪われてる勇者なんかいるの?
いるか、ここに。いるな。
ん〜わかんない。
呪いが解けないのって
私が嫌われているから?
ないか〜。ないな〜。
どうしようもないな〜。
わかったところで
困ったな〜。仕方ないか〜。)」
魔女はようやくまばたきした。
ここに来て
アルファイが主人公その2であり
勇者であることを知った魔女は
転生前のゲーム知識は
イベント進行に関して
なんの役にも立たなくなっていること、
さらに言えば
自分に対し、嫌悪感丸出しの男と協力しながら
解呪していかねばならないことに
「(仲良くなれる見込みがない。)」
軽く絶望している。
そして
「(バグでありますように!
バグってことにしてください!
文字化けでも許す!!)」
一向に変化のないステータスに、祈っていた。
「さっきから黙りこくってなんだ
気味が悪い」
アルファイが話しかけてきた。
「ーっ、あ、えと、ー」
魔女はアルファイが
“お前、マジで勇者だぜ”と告げるか悩んだ。
「(もうすでにやっちまった感があるのに?)」
それは初対面の人に向かって
勇者はオメーだ、と指差すことだ。
ほっぺたに人差し指、食い込ませるだなんて
もってのほかだ。・・・
やっちまったな。
「(もう少し様子見よう。・・・
バグっててくれ、ステータス表示よ)」
だが、魔女に疑問が浮かぶ。
「(今、春なのに。
勇者って秋に来るんじゃなかったの?
どゆこと?エレーミナルスの時
女神ディアナさんを呼んだから?
・・・ありうる。
に、しても・・・。
ステータス表示はずっと“勇者”ってなってる。
何回見てもそこはもう変わらないんだな。
わかった、もう、認める。
これはバグじゃない。
文字化けもなし。じゃあ
今すでに勇者てことはどうしたもんか。
王城内の攻略対策が変わってくる。
ここに、勇者がいる ー。)」
受け入れがたい現実を受け入れたら
魔女はもう、悩まない。
そう、バグってんのはオメーだ、魔女。
魔女は王城の全体図を立ったまま
もう一度見直す。
「(彼が勇者なら
しなきゃいけないことはー。)」
顔を上げた。
「アルファイさん。
ちょっと作戦に変更ありです。」
「変更?」
正面に立ったアルファイを見上げれば
目の色も、美形で端正な顔立ちも
憂いを帯びた視線も
全部、ー
「(こりゃ間違いねえ)」
渾身の思いで作り上げた勇者だ。
実は一番悩んで
一番、作り込みしたキャラだ。
勇者なのに長い髪なのは
別ゲームの
“人造人間ぽい闇堕ちした元英雄”を
ええ感じでパクったものだった。
「(そういえば、ああ、そうだった。
あのゲームじゃ闇堕ち具合が悲しくて
キャラ作成する時に、このゲームでは
勇者にしてあげようとしたんだっけ)」
魔女は腰に両手を当て、言った。
「装備を整えに行きましょう!」
*
「(アルファイさんは今、“核”がない。
こうなったら“核”を返すタイミングが
大事になるってことだ。
なら、魔法装備一式は
着けたところで意味ない。
・・・アルファイさんは
“呪術” を使えるってラースが言ってた。
てことは、ゲームの中の素性では
“暗殺者” か “放浪旅人”あたりの
派生と思っていい。
技量は軽装属性技量勇者を考えるなら
選択の余地あり。
「幸運」の“運” が6か〜。
「信仰」9・・・。
信仰15以上で組立てれば
騎士とも差別化できる。
けど騎士と違って体力が少ない。
・・・そう、普通の騎士なら。
この王城には三種類の騎士がいる。
赤騎士、青騎士、黒騎士・・・けど
実はもう一種類、特別な騎士団がいる。
その騎士装備なら
ゲーム後半戦まで使える。
軽くて、魔法防御力が高くて
物理防御もある・・・それは
翔煙隊装備。 )」
大まかな素性と
ステータスさえわかっていれば
あとは(ゲームで)先人たちが
試行錯誤して合う武器、防具たちを
攻略サイトに残してくれていた情報を組み立てる。
「(サンキュー、偉人たちよ)」
魔女の考える
今のアルファイの能力に合った
装備は決まった。
「アルファイさん、
この扉の先に出た回廊の裏の
騎士団詰め所へ行きます。」
「?なぜ」
「そこにある装備、もらいましょう。」
魔女はニヤッと笑った。
「もらう?」
アルファイこと、勇者(逆指名)は
魔女の不敵な笑いをより、訝しんだ。
「(やっぱり変なもの食ったに違いない)」
*
「魔女、
お前、そのローブは
体に合ってないのではないか?」
さっきから三歩ほど歩くたびに
つまずく魔女に
アルファイはイライラしている。
なんでかって、つまずくと
自分に当たるからだ。超迷惑。
「す、すみませっ」
言った側から
つまずいてコケそうになる。
今度は避けた。
「いてっっ」
魔女はコケた。
でもアルファイは手を貸さない。
ムカつくから。
魔女はモタモタし
ローブを少しだけ持ち上げて
アルファイの早歩きに精一杯付いていく。
“歩く”ではなく“小走り”だ。
小書庫から出れば
そこは円形の緩やかな回廊だ。
回廊を、今歩いている。
「詰め所には流石に生身の人間がいる。」
早歩きのアルファイは早口で言った。
「え、えぇ。そうです、ねっ」
小走りの魔女は少々息を上げつつ答える。
詰め所まであと少しのところで
アルファイは振り返る。
魔女は足元しか見てないので
思わずアルファイにぶつかった。
「っっぶっ!」
回復魔法を受けたアルファイはもう
ひょろひょろではない。
ガリガリでもない。
そこそこの肉体を持つ、男だ。
魔女ごときがぶつかってきたぐらいでは
びくともしない。
「どうするつもりだ。
私は今魔法が使えないんだぞ。
使えたとて騎士団は魔法を跳ね返す。」
魔女はぶつかった鼻先を押さえつつ
アルファイを見上げた。
「ふふ、ー 作戦があるんです。
大丈夫です。堂々と装備は貰えます」
「は?ー どうやって?」
魔女はポケットから紋章を出す。
「紋章です」
「?」
「はい。まぁ、見ててください」
魔女は転生前、ゲームの中で
この騎士団とも当然戦った。
“翔煙隊” という。
騎士団というには特殊だ。
五人しかいない騎士団だが
個人単体でも中ボスレベルの戦闘力がある。
それが五人揃うとゴレンジャーみたいに
結束して厄介になる。
彼らは総じて攻撃力、耐久力ともにかなり高く
魔女は彼らを“ニンジャー(忍者)”と呼んだ。
消えたりいきなり出てきたりする。
そのたびに攻撃を受ける。
「(できれば戦闘は避けたい)」
特大剣と逆手持ちの短刀を組み合わせ
手裏剣のようなナイフを投げてくる。
「(一人だったら戦えるけど
五人集まったらもうくっちゃくちゃよ。)」
ニンジャーはHPが減ると
一度だけ全員が回復薬を飲んでHPを全回復する。
「(っていう嫌なヤロー達なんだ
あいつらニンジャーは。
結束力が半端ないから
五人集まると連携プレーがややこしい。)
魔女は苦々しい転生前の記憶を辿る。
「と、紋章は使うけど
今はしまっておきまーす)」
紋章をポケットにしまい、両手を広げた。
「ーっな?ー 」
魔女がみるみるうちに、
聖魔法騎士へと変化した。
違う、ー その姿は。
『英雄騎士 オーゲル
騎士オーゲルは、聖魔法騎士の頂点に君臨する。
その強さは王国を超え、世界に轟いた。
かつてその強さが勇者として望まれたとして。
だが、オーゲルは望まない。
口に出す必要などない。
力を行使するだけでいい。 』
(公式原作 原文まま)
無口な男、だったようである。
説明文が短過ぎて、人柄はよくわからない。
だが、ー
「やった〜、うまくいった〜。」
相当名のある英雄の騎士になった魔女が
小さくジャンプしている。
キモい。
だが本物のオーゲルは
騎士の頂点にいるような男だ。
でかくてごつい。
シャルラッハロートよりは小さいが
筋肉もディオより大きく
大岩をくり抜いて彫刻されたような男だ。
美男子の部類ではない。
逞しさは群を抜いている。
オーゲルの姿をした魔女は
その変化の成功に
両手を胸の前で小さく叩いて喜んでいた。
「・・・っ」
その名を持つ男を知る
アルファイはドン引きだ。
知っていたどころの話ではない。
オーゲルこそ
ドノヴァッテン魔法王国の
輝かしい一面とその秘匿を表し
さらにその強さは
魔法王国の盾となり
要となっていたー はずである。
キャッキャしてんのはだ〜れだ?
その男がキモい小躍りしてる・・・。
本人じゃないけど
本人の化けの皮を被った
にっくき魔女だからかもしれない。
なんかすんげえむかつく。
オーゲルはそんなことしねえし。
「魔女、お前それで何する気だ」
振り返る魔女、今はオーゲルは微笑んだ。
「っ!ほっ微笑むな!
英雄の威厳とその名に泥を塗る気か!」
「え?違いますよ〜。
でも、へへ、似てるでしょ〜?」
アルファイは本当に複雑だ。
「(クネクネするな、頼む。
中身が魔女だと分かってはいるが
それはひどい、愚弄している。)」
「んじゃ、行きますか〜。
あ、今だけジャミジャミ解除しとこ。」
「ジャミジャミ?」
「あ、こっちの話です〜」
オーゲル(魔女)は腕を振って詰め所へ向かった。
「(ー、歩き方も、あぁ、ひどい)」
そりゃ中身、女子ですから。
内股ですよね。
コンコンっガチャ
返事は待たないスタイル。
オーゲルだから。
「誰だ!」
詰め所には騎士たちがいた。
騎士たちは現れた雲の上の存在、
いや、神に近しい男に気付き
一斉に立ち上がり
胸に手を当て、騎士の礼をした。
「魔法王国の剣であり盾の使い手に
ご挨拶を申し上げます!!!」
誰も、口を開かない。
当然だ。
騎士は皆、目線をやや上にあげたまま
オーゲルの言葉を待つ。
中身、魔女だよ。
オーゲル(魔女)は表情を固くしたまま
口を開いた。
「(英雄だからね、威厳、威厳)
装備一式をこの者に与えてくれ」
一人が前に進み出、声を張り上げた。
「っはっっ! オーゲル様!
しかしながら翔煙隊装備は
王国所轄における、魔法規約条項10箇条うち
3条条文にて
北塔エフェラル様の押印無き騎士に
賃借または譲渡は禁止されております!!」
「え、そうなの?」
オーゲルは鎧をゴソゴソし始める。
「(そんな時のための〜っと)
あれ、どこやったっけ。」
“寡黙” な英雄騎士オーゲル、
鎧をあっちこっち探り始める。
若干、動きが女っぽい。キモい。
騎士たちは身じろぎせず
オーゲルの動向を肌で感じていた。
「(お、オーゲル様って
あんなんだったっけ)」
見ないふりをしていたアルファイは
オーゲル(魔女)の腰袋に手を突っ込んだ。
「ひゃんっっ」
女子のような声に一同
「!!!!
(なっ!なんっってことを!!
オーゲル様はソッチの嗜好か?)」
違うよ、(中身は)魔女だよ。
アルファイは小声でオーゲルの耳元で囁きながら
オーゲルの腰をツンツンした。
「これだ」
オーゲル(魔女)は腰あたりを見て
「あ、ありがと〜!」
と、まぁなんとも間の抜けた声を出した。
「(やっぱりソッチの人じゃないか)」
騎士たちは確信する。
「(女日照りが長いからって
女みたいな男で手を打ったのか)」
本人の尊厳のために言うけど
違うよ?
確かにアルファイは美形だけど
多分アルファイはすんごく嫌だと思う。
オーゲル(魔女)は咳払いをひとつ。
紋章を手にした。
「これを
(ええい!控えおろう!
これが目に入らぬか!)」
手の中にすっぽりおさまった紋章を
見せびらかした。
「それは ー!!」
騎士らは片膝をついて次には頭を垂れた。
「装備をー、
(はよ出さんかい)」
オーゲル(魔女)の声に反応し
その中の騎士たちは皆、
鎧を脱ぎ出し、前に並べ始めた。
全員、である。
鎧を脱いだ騎士たちは軽装になった。
他の装備も次々に鍵のかけられた箱から取り出し始めた。
「ー?(紋章効き目あるな...)」
オーゲル(魔女)は紋章をまじまじと見た。
「以上であります!!」
代表と思われる騎士が言った。
「ー ご苦労。」
オーゲル(魔女)は装備を見渡した。
「(う〜ん
総重量は重くても15前後が好ましい...。
重すぎると回避上手くできなくて
ドッスンになっちゃう。
ステータス初期状態だったし
スタミナの消費を抑えて
回避もできなきゃ意味がない。
兜はー、パス。なくてもいい、今は。
胴部分は必須。マントは外しておこう。
手甲はー、これ。
足かぁ、うーん、いるんだよなぁ〜
若干重くなるけどまぁ、勇者なら)」
選びつつ、アルファイをちら、と見た。
アルファイは何も言わず、並べられた装備を見ていた。
「(ーこんなもん、かな)」
必要最低限、選んだが
今のアルファイにはこれが一番の装備だ。
「(問題は、武器)」
武器は一長一短なので
魔女は迷っていた。
「(現状のステータスからして
大盾は無理だなぁ。
使い勝手いいんだけど。
片腕ないし武器しか選べないっていう。
武器はここでは一旦保留かな)」
オーゲル(魔女)が顔を上げると
騎士たちは目を輝かせていた。
「?」
「オーゲル様!
我ら、ドノヴァッテン聖魔法騎士団 翔煙隊
これら装備をオーゲル様に
ご献上差し上げる栄誉を賜りー!」
「あ、ああ、うん、ありがと〜。
めっちゃ助かる。」
軽口オーゲル。
多分本物は絶対に言わない。
だが騎士たちの胸は震えた。
「〜〜っ!お、オーゲル様!!
エンチャント用の触媒はこちらです!」
感激した騎士たちはワラワラと
次から次へとオーゲル(魔女)に
回復薬やら触媒やら魔法壺を持ってきた。
「も、もういいよ、
君たちが使う分なくなっちゃうよ」
オーゲル(魔女)は眉を下げて
申し訳なさそうに言う。
「何を仰いますか!
オーゲル様に使われてこそ
このすべては本望というもの!
この栄誉を我らにお与えください!」
涙目で騎士たちが言うものだから
ついオーゲル(魔女)も涙目になってしまった。
「ーっ、あ、ありがとう。
大事に、ー、超大事に使う、ね」
アルファイだけは、虚無顔だ。
手甲を手に取り
オーゲル(魔女)はアルファイに向けた。
「装備、しないの?」
「・・・」
アルファイはその装備をじっと見ていたが
手に取らない。
騎士の一人がアルファイに声をかける。
「君、ー。
我らの装備では不満か」
「っ違う。」
「ではなぜオーゲル様から受け取らない」
「私には、過ぎたるものだ。」
騎士が歩み出た。
「何を言う。
君はここに立っているではないか。
見たところ腕がないようだが
オーゲル様に連れられてここまで来たのなら
すでにその証があるということだ。
使ってくれ。
これら装備は、この王国の誇りだ。」
アルファイはその騎士を見た。
シャツから覗く腕と首元には
魔法によるケロイド状の傷痕と
剣による剣傷が見えた。
王国内の騎士団は皆、実戦形式の演習を行う。
死と隣り合わせの練習で、言葉通り死ぬ者もいる。
だが、彼らの死生観に哀愁はない。
なぜなら、騎士オーゲルには
自分の剣に刻んだ言葉がある。
『立て 心を 打て
死して 心を残し、続け』
アルファイは騎士に憧れた経験から
それらを知っていた。
いよいよ、自分がその装備を身につけられない。
「(自分にそんな大層な想いのこもったものを
着けるほど)」
騎士がアルファイのローブを捲り上げ
強引に脱がせた。
「!なっ!?」
「はははっ!お前
腕が無い割に良い体してるじゃないか!」
「おぉ、お前、魔法使いなのか?!
魔法も良いが騎士もいいぞ!
今からでも騎士になれ!」
「翔煙隊に来るか?」
「やっ、ちがっ」
アルファイは囲まれた。
アルファイにオーゲル(魔女)が選んだ装備を
身につけさせ始めた。
オーゲル(魔女)は半裸のアルファイにドギマギしつつ
囲まれたアルファイを心配した。
「(だ、大丈夫かな?)」
けど、チラチラ見ちゃう。
だが、魔女は
アルファイが 勇者である証を
目の当たりにする。
「っあ」
もみくちゃになりながら
オーゲル(魔女)に背を向けたアルファイの
その背には ー。
主人公その2の
渾身のキャラメイクで
入れた刺青があった。
普通の刺青ではなかった。
なぜなら
魔女が入れたその刺青は
フリーペイントで手作成し保存した
” 俺 勇 者 ”
と、癖のある文字があったから
で、ある。
魔女は愕然とし、絶望する。
「(まごうことなき私の字。
生で見せつけられると
字の汚さとデカさに胸がえぐられる。
これ作った時は装備つけたまんまだし
背中も見えないし
いいやって思ってた・・・
は、恥ずかしい、てか、
ごめん。ごめんなさい。)」
“キングダム〜真実の愛物語〜”のゲームでは
キャラ作成の中で
自分の手作り刺青(刀傷や紋様など)を
データでアップロードし
キャラに入れることができたので
物心と勢いで作ったものだった。
今は激しく後悔している。
恥ずかしいのはアルファイの方だ。
かわいそうに。
オーゲル(魔女)は顔を真っ赤にしつつ
アルファイに心から謝っていた。
「(ほんっっっと〜ぉおぉ〜に
申し訳ございません、勇者です。
あなたは勇者です・・・。)」
そんな中から聞こえてきたのは
「お、お前、刺青なんか入れてんのか!」
「かっこいいな?!
どこの国の文字だ?記号か??
なんて書いてあるんだ?!」
「ーし、知らない!
う、生まれた時からあるんだ」
「え!まじか〜。すげ〜な。お前。」
「星見の塔へ行って見てもらえ!
きっと良いお告げだろう」
違うよ?
魔女の手書き文字だよ?
自己主張、激しめだよ?
身なりを整えられたアルファイは
騎士たちに背を押されて立つ。
「オーゲル様!身支度が整いました!!」
オーゲル(魔女)は顔をあげ、その姿を見た。
長い髪は麻ひもで結われ
顔の周りにいくばくかだけの髪が落ち
顔全体は今、光の下にさらけ出されている。
落ち窪んだ目はもうない。
あるのは、強い意志の瞳。
青と黒の緻密な鎧を身にまとい
手甲には、黒水晶が光る。
無駄な肉はなく、身軽そうな引き締まった体。
つまり、主人公その2で イケメン。
しかも死にそうじゃない。
「!」
バッチリ、アルファイと目が合った。
「な、なんだ、どうせ似合わないんだろう!」
「ち違うよ!似合ってる!
に、似合ってるよ!!」
騎士たちも応戦した。
「そうだぞ!
オーゲル様になんてことを言うんだ!
似合ってるぞ!
まるで元から騎士のようじゃないか!!」
「そうだ!もっと自信を持て!似合ってるぞ」
「お前、俺のレギンス短いのか?!
くるぶし出てるぞ?
足長いな、嫌味か!!」
「顔ちっちゃいな、お前!モテるだろう!」
「騎士になればもっとモテるぞ!!」
途中から関係ないのも混ざったが
アルファイは黙って聞き
少しだけ、その口元は笑った。
すぐにその口元は元に戻り ー
彼らの言葉に、アルファイは 俯いた。
「(そうだ。
彼は 勇者なんだ)」
無意識のままに
魔女は言っていた。
「ー 勇者、アムラン」
その場が静かになった。
アルファイは魔女の声に凍りついた。
「お、オーゲル様!そ、それは本当に」
「彼は、“勇者”です」
魔女はアルファイを見つめた。
迷いはない。
閉じた扉が開かれたその思いは
紛れもなく認めたのだ。
アルファイを取り巻いていた騎士たちは
静かにアルファイの前に跪いた。
鼻をすする音が騎士たちの中から聞こえた ー。
「勇者よ、今こそ
英雄オーゲル様のお導きあらんことを ー」
アルファイの唇が
魔女を見る目が、
震えた。
「・・・うそだ・・・」
そのとき、アルファイの脳裏には
予言で使った札の絵柄と意味がよぎった。
“名無しのアルカナ”
『根本的な変容・革命・切断・神の不在』
鎌を持つ骸骨が描かれた絵札だった。
*




