風に酔う
*
上空ー、
竜巻のような風の中、移動しているらしい。
ー、らしい、と言うのは
実際には外の風景なんて
竜巻の中からは一切見えてないからで
魔女宅を離れたばかりだし
勢いはあったものの、中はすごく静かなので
移動しているとは思えない。
「転移魔法使えないのって不便だね。
使えたら一瞬で行けるのに」
魔女は手元のランタンを見ながらつぶやいた。
ランタンはほのかに光っている。
中身がぐるぐる渦巻いているように見えた。
「ドノヴァッテン魔法王国は
“核” の保持者以外
入れないことになっている。
公では・・・」
ラースが魔女のつぶやきに答えた。
「ねぇラース、その“核”って何なの?」
「なっ!お前、“核”を知らないで
私から奪ったのか!」
それまで静かだったアルファイが口を開いた。
「え、あ、はい。
(奪った、っていうか、・・・)」
「そんな奴に私は“核”をっ!」
「アルファイ、落ち着け。
今のお前が“核”を持つことは危険だ。」
ラースの制止にアルファイは言葉を飲み込んだ。
こいつ、おネズミさまに弱味でも握られているのか?
やけにいうこと聞く。
「・・・魔女、手短に言う。“核”は根幹だ。
魔力の素と理解して構わない。」
「そ、そうなんだ。へ〜。
じゃ、じゃあ私、アルファイさんに
“核”返した方がいいのかな?」
ラースはため息だ。
「ダメだ。アイスクラピウスも言ってただろう。
アルファイは見せしめなのだ。
“核”を失い、体の一部を失い
魔法使いとしての力も、もう使えない。
秘術師たちに
アルファイの使い道を消すための作戦なんだ」
「ー、作戦・・・」
アルファイを見た。
「(彼を生かすための作戦なんだ。
こんなにズタボロになって
HPがもう9ぐらいしか無いような人に
誰も手を出せないよね。)」
まじまじと見るが
アルファイからは悲壮感しか感じない。
「(痛そう。なんとかしてあげたいけど)」
アイスクラピウスは丁寧なことに
縄どころか首輪まで付けて
アルファイの自尊心すら踏みにじっている。
「(これはもう・・・)」
魔女はランタンを持ちながらも
アイスクラピウスに握らされた縄を見る。
「女王様に隷属した負け犬」
と思われたって仕方ない。
そんな人間を見て
「(秘術師と呼ばれる人たちは
アルファイさんを助けに来ないのかな。
裏切ったって言っても
心配ぐらいはする人いてもいいのに。)」
ランタンと一緒に縄を握りしめた。
握りしめる際に引っ張ってしまったのか
アルファイは抵抗し縄を張った。
「あっ、ごめんっ」
魔女はすぐに縄をたわませた。
だが、アルファイは魔女の視線に気付いたか
「同情はよしてくれ。
私はこの身に起きたことを不幸だと思っていない。
今はただ一刻も早く腕を治したい。
不便で仕方ない」
フイっとそっぽ向いた。
「(っこの人・・・)」
魔女は死にそうな男(推定H P9)を
思い違いしていたのかもしれないと思う。
「アルファイさん・・・
アルファイさんて、メンタル強いんですね。」
「は?」
「だって、あんなに酷い目に遭ったのに
ちっとも心が、
気持ちが折れてないっていうか」
魔女なら一週間はへこんでもおかしくないと思う。
アルファイは怪我だらけにもかかわらず
HP9ならではの踏ん張りを見せた。
「っおっお前に何がわかる!
世辞を言ったところで
お前に復讐することは変わらないからな!!
だ、黙って私を奴隷のように扱え!!」
フーフー肩で息してる。HP9だから。
本当はしんどくて倒れたい。
「ーっぷ。(意固地になってる)」
魔女は吹き出してしまった。
だって、自分を“奴隷のように扱え”だなんて
普通は出てこない言葉だ。
酸欠になりかけながら、アルファイは
魔女に食ってかかる。がおー。
「?何がおかしい!」
「アルファイ、やめておけ。」
ラースは止めた。
今なら魔女がキックしたって倒れちゃう。
“無駄な体力は使うな”、という意味を込めた。
そしてもうひとつ。
「うちの魔女に威厳はないんだ」
“あんなの、相手すんなよ”だ。
アルファイがラースの意図を汲んだかは
わからない。だが
「ラース、お前、主先を間違えたな」
同情するように言った。
「・・・、そうかもな」
ネズミと死にそうな男の連帯感は
バディドラマかよ、と。
「(むむ?
なんか悪口言われてる?
私、ラースの相棒なんですけど
ちょっとひどくな〜い?)」
魔女センサーは気付いたが、寛大な心で許した。
だって
「(慈悲深き魔女ですから)」
ニンマリ笑っておいた。
「(何笑ってんだ、こいつ・・・)」
ご多分に漏れずアルファイは魔女をキモいと思う。
ラースの耳が何かを察知。ピクッと動いた。
「っ魔女、ランタンを!」
ラースが小さく叫んだ。
「ふぇ?なにが」
「ちょ、縄を引っ張るな、首が」
ランタンごと手にした縄を引っ張っていた。
アルファイがよろける。
「あ、ごめっ」
意外にも魔女はアルファイを支えられた。
力持ち魔女。
竜巻に囲われていたと思ったら風がゆるくなる。
「え、なに、これどうなってるの」
「着地だ、着地するためにはランタンをっ」
「ラース!それより先に着地点はどこなんだ!」
「ら、ランタンどうするのー!」
「魔女、風が止む、着地する場所を!!」
「どうやるのー!!」
ふ、ーと風が止む。
「え」「ちゃくt」「(終わった・・・)」
魔女を含む3人(内一匹ネズミ)は
「っー!」
落ちる。
眼下に広がるは雲の中に浮かぶ四つの塔。
魔女たちの周りはただただ白く
空の隙間は一寸も、ない。
風をかき分け、落ちる。
「あ!あれだ!魔女っあの光を!!」
ラースの言葉に反応し
魔女は光の方向を見た。
大きな光が一筋白い霧の中にそびえ立つ。
「あの光に行けばいいの!?」
バサバサ
「光に行くんじゃないっ光の下へ!!」
ヒュルルルル〜〜〜っ
「どうやって!」
パンツ見えちゃう。
「明確化しろ!」
おパンツは明確に履いております。
「アイスクラピウスからっ
着地点をもらわなかったのか!?」
ヒュオーーーっ
「もらってない〜〜っ」
もらったのはいかがわしい色した縄と
ランタンだけだ。
「私たちが降り立つ場所だっっ
場所のイメージがっ」
ムササビみたいな形になったラースを見て
「ー、あ」
魔女の目の奥に映ったのは
霧の揺蕩う城門前の美しい石畳だった。
「(これ、着地、点だ)」
魔女は叫ぶ。
「わかった!あそこだあっ〜〜!」
ぎゅっと目を閉じた。
「(そこへ連れて行って!!)」
ランタンを握りしめる。
耳を通り過ぎる風と
鼻と口に押し込まれる風が
彼らを
地上へ呼ぶ。
「キャ、きゃあああっっ〜〜!」
おパンツよ、誰にも見せることなかれ。
「ぐっっ(締まってる、締まってる!)」
食い込む縄よ、首だけは締めないで。
「ランタンをかざせ!!」
ムササビじゃないよ、ネズミだよ。
「ランタン!はいっっ!」
ランタンを思いっっきり天に向けかざす。
青白い強い光を発する。
一筋の光はひとつになって
ランタン目掛けて収束するように集まり始める。
「っわ!」
「下を見ろ!」
「し、したぁ?」
ぐんぐん迫る地面が白い霧を追っ払う。
魔女は
「(ぶっぶつかる!!)
止まってぇ〜〜っっ!!!」
ピタ
「?」
「ー」
「あれ、魔法使えるじゃん」
願いが通じて、ホッとする。
地上から五メートルほど上空で止まる。
つまり、3人(内一匹ネズミ)は宙に浮いている。
ギリギリ微妙に高く、ギリギリ微妙に低い。
「・・・」
ラースはため息をついた。
「なんなんだ・・・」
「え、だってすごい勢いで落ちてくからさぁ
このままだと地面にぶつかって痛いじゃん。
痛いのはやだよ。」
腰の強打は勘弁。
「ふぅ、ちなみに何とイメージを?」
「え、何だっけ。あぁ、連れて行って、って」
風で魔女の髪はボッサボサ。
ジェットコースターに乗ったようで
ちょっと浮いてる気になる。
・・・浮いてますよ。
「それでは曖昧すぎる。
的確に告げねば、魔法も曖昧になる。」
「? 曖昧かなぁ」
まだ浮いてる。
魔女は前髪を整えてる。意味ないけど。
「魔法はイメージが大切だ。
元素の力を利用し、使役するためには
力の流れを感じまとめあげる集中力と」
おネズミさまの能書中ですが、浮いております。
「いつまで 浮いているつもりだ」
死にそうな男、この微妙な距離感に
生きた心地がしない。
「あ」
魔女は宙に浮いていることを思い出した。
その高さ、約五メートル。あとちょっとで地面。
「そ、そうだね!
えと、ラース、何て言えばいいの」
「着地、でいいだろう」
「わ、わかった!
あっ、このランタンて
いつまで上げてればいいの?
腕、疲れちゃったよ。」
ていうか、魔女はずっとランタン掲げてたのか。
ずっと?
「〜〜っぐ」
「?(ぐ?)」
ランタン、天にかかげ過ぎて
アルファイの首 絞めあげてた。
耐えてたのか、アルファイ・・・。
死んじゃう、死んじゃうっ!
片腕もないのに
ディオにフルボッコされたのに
魔女に(間接的に)首絞められるなんて
アルファイ、お前はなんて罪深い男だ!
「アルファイさん!!
ごめっ!ごめんねっ!痛いね!
す、すぐ下ろすよ!」
「魔女っそれはいけなっ」
「へ?」
ヒュードンっっ
「っングェっ」
「っっだっ!!腰また打ったぁ!」
「〜〜っ!
魔女!だからあれほど曖昧な言葉は
発するな、と!!」
「ご、ごめ〜ぇん。
だってアルファイさんの縄と
ランタン一緒に手に持ってたからさ〜
早く離してあげないといけないから」
そうそう、離してあげないとー
「お前たちは 私を殺したいの、だ、な」
死にそうだが、死んでない。
根性だけで生き残る男、アルファイの声が
下から聞こえる。
「え?」
「何だと?」
魔女とネズミ、死にそうな男のHPをなお削る。
(参照HP推移24→9→4.7(イマココ))
HPがとうとう小数を刻んできた。
「アルファイ!!」
「やだっっっ!アルファイさん!」
死にそうだっつってんのに
魔女はアルファイの上にどっかり乗っている。
朝ごはんをしっかり食べたおネズミさまだって
アルファイの腹の上にずっしり乗っている。
いつ死んでもいいとは思ったが
「・・・どけ・・・」
魔女による圧死は、憤死に値する。
死んでも死にきれそうにない。
*
思い起こせばアルファイの身に起きたすべては
著しく幸運のかけらもないだろう。
女神ディアナとの戦いであらかたやられたし
(魔女のせい)
核はもうないし
(魔女のせい)
魔法も使えないし
(だいたい魔女のせい)
呪い返しのせいで片腕はもうないし
(百歩譲って魔女のせい)
ディオに目一杯殴られて奥歯もないし
(さっき気付いた)
縄に首輪つけられてるし
(アイスクラピウスの趣味)
首も締まってるし
(やっぱり魔女のせい)
魔女も乗ってるし
(ラースは許す)
自分は地べたにべったりだし
(許すまじ魔女)
もう、死んでも いいよね。
人間ってすごーい。
ー、だが
アルファイの精神力は
簡単に“死”を選ばない。
「(こんなところで 死んでたまるか)」
そうやって、ラースを探し続けた。
そうやって、憧れた背中を追い続けた。
「命なんてくれてやる、
後悔なんてしてない。
執着だと笑われたっていいんだ。」
水平線から昇る朝日の光に
消えていった背中を覚えている。
そのそばで
誰よりも その心と力に添いたかった。
自分を支えたのは その 気持ちだけ。 ー
死を覚悟した記憶の奥底から
聞こえてくる声に気付く。
『 お前なら なれる 』
「(?何に?・・・)」
アルファイは白昼夢を見てるのか
それとも走馬灯でも見ているのか
遠のく意識に、揺れる声が響く。
「(誰だ・・・)」
「アルファイさーんっ!!」
「!!」
すんごい揺らされてた。
いろんな痛みに、吐き気も加わりそう。
「ゆ、ゆ、らす、な」
「アルファイさん!
ほんっっとうにごめんなさい!
すぐ、すぐに腕、治しにもらいに行こう?!」
「(腕治すより先に)ゆら、すな」
「酔った?!どうしよう!
あの風のせいで酔ったかな?」
違うぞ、お前のせいだぞ。
「アルファイ、すまない。
うちの阿呆が」
魔女センサーはフリガナのおかしな点に気付いた。
「(アホって書いて魔女って読ませた?
しかもラースだって乗ってたじゃん!
・・・重いくせに)」
「い、いいから、ど、どけ、お前ら」
まだ乗ってたんかい。
蚊の鳴くような声よりは聞こえる。
が
死にそうな男の声など
よくよく注意して聞かないと
それ自体遺言になりかねない。
「わわわっ!ごめんなさーいっ」
そそくさと魔女はラースを持ち上げ
ようやくどいた。
「(やばいやばい!
マジで死んじゃうから!)」
下手したら殺してた本人が言う。
アルファイを起こそうとした。
今なら魔女にだって軽々と起こせる。
「ー お待ちしておりました。魔女 ー」
「?ー」
魔女の背後には美しい女性が1人、立っていた。
長身で髪は一つに括られていて
真っ青な腰までのローブを羽織り
下から覗く紫のローブが霧の中で揺れた。
「ど、どなたでしょう?」
魔女の問いに答えず
その女性は美しい所作でお辞儀し
ゆっくりと顔を上げた。
「唯一無二の魔女。
報せは届いております。
ー どうぞこちらへ」
「あ、ありがとうございます?」
その時、歩きはじめた女性から
ふわ、とりんごのような香りがした。
*
ラース情報:アイスクラピウスめ・・・
アルファイ情報:奥歯は移動中に捨てた。
その頃のギーズル情報:ギブギブギブっっ!!
その頃のアイスクラピウス情報:ふはははは
聞こえないな。
その頃のシャルラッハロート情報:アーモンドだ。
その頃のゾイ情報:死んだフリしても無駄です。
すぐバレます。
その頃のディオ情報:折れてる方が
くっついた骨は
より強くなるんだ。
ディオじいちゃん情報:お前ら!
休憩は終わりだ!!




