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【改稿版】最強最悪の魔女に転生してしまったので巻きで呪いを回収いたします  作者: マダム良子
第一部 5月の森 エレーミナルス王国編

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【番外編】恋と成るもの






神木前で大きな歓声が上がったころ

そう、ディオがエレメーラ姫に接吻をした後だ。


「(ああ、うまくいったんだ・・・)」

巻いた糸をかごに乗せながら、アンヌは王城で

その音を聞いていた。

神木へ行かず、こうして王城の片付けに勤しむのには

明確な理由があったからだ。

「(ディオとエレメーラ様との接吻見れなかったのは

  残念だけど、この “石” を元に戻すなら・・・

  今がチャンスだし)」


アンヌは“王の道”を抜けた。


エレーミナルス王国の五月祭

愛の告白 ー


アンヌは正直、うんざりだ。

それにまつわるラブソングだって

今流行りの恋物語だって知ってる。

周りの女子はみんなこの時期になれば

浮ついた話に浮き足立って

狭い交友関係に誰彼がー、とか

今年こそは!なんて話は

聞き飽きていても興味のあるフリしてる。


例外はある。

「(我がとこの、姫君、

  エレメーラ様だってその1人だけど

  その恋こそ本当の、純愛だし

  本物だもん。)」

アンヌは、近くでその恋を見守っていたから

エレメーラ姫の秘めた想いが

その辺の恋とは違うのをわかってる。


「(二人の思い合う架け橋になれて

  よかった。)」


その想いが叶えばいい、必ず、幸せになってほしい。

だからこそ、蜘蛛にだってなると志願した。


魔女はニタァとシワシワの顔を歪ませ

歯のない口を開けて笑った。


『誰かの幸せを 祈るなんて バカだねぇ。

 自分の幸せは いらないのかい? 』


だから、アンヌは辟易(へきえき)だ。


恋がどんなに素敵なものか

恋がどんなに嬉しいものか

「恋なんて ー、」

王城出口へ通じる通路に差し掛かった。

「アンヌ!きょ、今日の予定はっ」

トーマスだ。(オエー鳥の人だよ)

「あ、・・・。

 (なんで考え事してる時に

  こいつに出くわすんだろ。)」

トーマスの横をすり抜けながら言った。

「今日は祭でしょ。王城がこんなんだっていうのに

 あんた、よくここへ来たわね」

トーマスはアンヌに付いてくる。

「ーっだ、だって今日は祭だろ?

 王城の後片付けなんてやってないで、

 い、一緒に」

アンヌは言葉を遮った。

「ダメよ。行かない」

「なんで」

「〜〜っ」

トーマスにイライラしたから

「なんでもいいでしょ!

 ほらっ!あんたはご神木へ行って

 パイ食べてきなさいよ。

 ラリーたちが作ったパイ食べてくればいいじゃない」

思いついたことを口にした。

「あ、あの()()()()か」

トーマスの言葉に閉口する。

「(そういうとこがイライラするんだけど)」


トーマスは嫌いじゃない、ないんだけど

この村の人間も、この王城の人間も

おおらかすぎるっていうか

祭の告白も、祠へ向かうカップルも

その祭自体がアンヌをうんざりさせる。


ー ため息をついた。


『(それが “慣習” だから

  仕方ないんだけど、ー)」

トーマスがアンヌの前に出てきた。

「アンヌ、俺、お前の焼いたパイ、好きなんだ。

 パイがっていうか、パイも好きだけど

 ・・・あのー、」

いよいよトーマスの顔が赤くなる。

アンヌはいよいよ脱力しそうだ。


「アンヌーーっ!手伝ってえ!!」

同じ侍女仲間のサリーだ。

通路の向こうから走ってきた。

「?サリー、どうしたの」

「厨房長が、鍋のフタないって騒いでんの。

 なんかオタマも折れてるらしくって

 スープが掬えないのよ」

「オタマなんて、代わりあるでしょ?」

「水杓子をさっき持ってったとこ。でも

 鍋のフタないと、ご神木に運べないでしょ!

 蓋がないなら鍋カバーしたいんだけど

 アンヌの作った鍋カバー、探してるの」

「あ〜、あれは、洗って干してあるわ」

アンヌは歩き出していた。

裏庭の物干し台へと向かった。


「アンヌ ー!」

トーマスが呼び止めようと、声を出した。

「トーマス、ちょっと。」

サリーがトーマスのシャツを引っ張る。

「?なんだよっ」

「いいからアンヌを行かせて。

 ほっときなさいって。」

小声でたしなめられる。

「はあ?」

トーマスは不満の声を出す。

「トーマス・・・だからあんたは

 女心がわかってないって言われんのよ。

 大体、アンヌとデートしたことあんの?」

「で、デート??

 そ、そりゃ、ご神木前で誓えば、するつもりで」

「祠でいきなりキスして結婚してから?」

「そういう決まりだし」


「出直せ、頭でっかち野郎。」


サリーはトーマスのケツをタオルで引っ叩いた。

スパンキング(ケツしばき)!!!

「っで!なんだよ!」


おっと、どこかの愛の農業勇者を

思い出すのはやめてもらおうか。

勇者は(表向き)人助けで

(呪いを解くために)口付けたのだからな!!



アンヌは使用人用の通路に出た。

壁のない王城に、風が吹き抜けた。

アンヌは立ち止まって、空を見る。

「(間違ったことはしてない。

  ・・・後悔も反省も、ない。)」


あの日、魔女との契約で

自分が蜘蛛となりエレメーラを守ることに

なんの躊躇もなかったし

途中、別の何かに取り憑かれた時も

魔女は変わらず、自分を守ってくれていた。


「(魔女様はすごい・・・。)」

それよりも驚くことに

王城を暴れる黒竜を見た。

現実ではないようなことを目の当たりにした。


アンヌは、なぜか感動していた。


「(いいなぁ、魔女様は魔法が使えて。

  なんでもできちゃうのって

  どんな気分なんだろう。

  魔女様みたく自由に生きるって

  縛られてない生き方、したいな)」


戦いに向かう勇気と

誰かを守ろうとする心が

アンヌには輝いて見えた。

「(かっこよかったなぁ)」

風にそよぐ鍋カバーをそっと指先で摘んで

石で押さえた。


自分は思ったように生きられているのだろうか。

誰かに、必要とされているのだろうか。


「ーアンヌ?」


はためく洗濯物の物干し竿から

覗くその人は、レンブランだった。

「あ、 ー」

木皿にパイを載せ、運んでいるようだ。

「ラリーたちと一緒に作ったんだ。

 大き過ぎるし、切り分けてもらったから

 食べなよ。」


レンブランは隣村に住む、勇者ディオの幼馴染だ。

木皿に紙ナプキンを添え、アンヌに手渡した。

「アンヌのことだから

 祭には来ないって思ってた。

 やっぱり当たった。 ー」

手渡された木皿を受け取って

アンヌは息を吐いた。

「まあ〜ね・・・興味ないし。」

ささくれ立った心に、レンブランの声は優しい。

「でも、パイぐらいは食べるだろ?」

壊れかけの王城の壁に寄りかかった。


アンヌはパイを見ながら、話し出す。

「去年はほら、ケリーが

 ご神木の前で宣誓するって聞いてたから

 友達としては行かないと、って感じだったし

 それに、去年は雷も多くて

 きのこも豊作だったからパイ作ろうって

 婦人会でも決まってたから・・・

 ー しゃーなしで、祭に行ったの。」

言い訳がましい、と思いつつ

パイをひとくちかじった。

「!(美味しい、・・・やるな、あいつら)」


レンブランはアンヌの横に腰を下ろし、

空を見上げ、それとなく話し出した。


「あのさ、魔女さまの顔見た?

 あんなに若かった?」

「私が見たときはもっとお婆ちゃんだった。」

「そうなんだよなぁ、

 ディオから聞いてた情報と違くって

 見た時びっくりした。」

「でも、魔女さまだよ。黒竜に変身したもん」

「え?!まじで?」

「まじ。私、話したもん。

 すっごいかっこよかった。

 すっごい怖かったけど」

「いいなぁ、魔法使えたら楽しいだろうな。」

「(あれが魔法かどうかわかんないけど)

 ー、うん」


ベーコンとチーズの塩気が絶妙で

ひとくち食べるごとに食欲も進んで

パイはあっという間に食べ終わってしまった。

思っていた以上にお腹が空いていたみたいだ。


「美味しかった、ありがとう、レンブラン。」

口の中のベーコンの余韻を味わいながら、また空を見た。

風が木の中を通り抜ける度、葉に当たる音が

見たことのない海の音を想像させた。

「まだ体調悪いんだろ?」

アンヌの顔の横からコップが差し出された。

「?」

「頭痛いって言ってたろ?

 叔母さん特製のハーブティに

 蜂蜜入れといた。」

アンヌはレンブランを見る。

蜘蛛から元に戻った後

二日酔いみたいな頭痛が続いて

すごく疲れていた。


レンブランはいつも何かとアンヌを気遣ってくれる。

しかも自然に。それは知ってる。

トーマスはレンブランほど気遣いはないけど

優しい男だ。それも知ってる。


「(このまま宙ぶらりんって

  どっちつかずも良くない)」

アンヌは去年の祭の前日、トーマスとレンブランから

結婚の打診を受けた。

そして、その両方とも断っていた。


何で断ったのか、と聞かれても即答はできない。

なんとなくこのまま結婚するのも

なんとなく恋がぼんやりしたままなのも

嫌だった。


二人を比較するほど

彼らを知ってる訳じゃない。

引くてあまた、なんて言われたけれど

それは違う。

だって、私も向こうも互いを知らない。


知らないのに。


エレメーラ姫のような

情熱的な恋愛がしたい訳ではない。

慣習が全部、嫌な訳でもない。

けど ー。



「アンヌはさ、俺のこともトーマスのことも

 嫌いじゃないって言ったけど

 それは 結婚したら

 エレメーラ姫の側から離れなきゃいけないから?」


レンブランの言葉が 核心をついた。


この村では結婚すれば、女性は仕事を辞めて

相手の家に入って、その家の仕事をするのが慣習だ。

そう言われて育ったし

それが当たり前だった。

「(それでもいいんだけど・・・)」


わかってたつもりの言い訳が、アンヌの喉奥に詰まった。



「(バレてたか...)そう。

 結婚したくないから、断ったんだよ。

 私はエレメーラ様の側で仕事がしたいの。

 機織はたおりだって、もっと技術を磨きたいし

 エレメーラ様が結婚するまで、ううん、ずっと、

 ずっとお側にいたいって思ってるんだ。

 ー 最低だよね。勝手だよね。」

慣習からズレたことを言って

レンブランに幻滅されるかもしれない。

“女のくせに贅沢な理由” だなんて

思われるかもしれない。


けど、

「(蜘蛛になるって決めた時から

  後悔はしないって ー)」


思うように生きられなくても

自分の心に嘘はつきたくない。

 

「だからレンブラン、あの」

アンヌの小さな抵抗に似た勇気を

レンブランは微笑んで見ている。


アンヌの持った木皿を引き取って、脇に挟み

「王は仰ってたよ。ーこの王国の慣習は

 変えたいって。」

アンヌを見ながら言う。

「え、そ、そうなの?」

知らなかった。それはそうだ。

さっきご神木前で王が宣言したからだ。


レンブランは頭をかいた。

「あ〜・・・ずるいかもしれないな、俺。

 でも、()()()()()()()()()って

 ディオにも言われたしさ。」

「?(何を・・・)」

木皿を地面に置き

ポケットからレンブランが

取り出した五月の薔薇は一本だけ。


レンブランは、片膝をついてアンヌを見上げる。


「君が俺とそうなるまで

 時間をかけて、噛み合わないところも

 すれ違うことがあっても 

 わかり合いたいなって思うよ。

 もし、そうなれたら、だけど。

 慣習じゃなくて二人で、決めていきたい。

 俺と一緒にはじめてみるのは、どうだろう?」

五月の薔薇はレンブランの指先に小さく風に揺れる。


「どうして、どうしてそう思った、の?」

「ー う〜ん、なんでかな。

 アンヌが初めて王城で働き出した時にさ

 貰った給料のほぼ全部を、親御さんにあげたろ?

 せっかく給料貰ったのにさ

 その残りで俺らにジュース買ってくれたじゃないか。

 その時、言ったんだよ。アンヌ。

 『勤労に感謝、お前らに乾杯!』

 って。」

「?言ったけど」

「びっくりしたんだ。おっさんかよって。

 でもー、嬉しそうな顔して

 王城の仕事のこと話したり

 ディオとエレメーラ姫と

 やりとり手伝ってるときなんて

 スパイみたいで楽しい!って言ってたろ?

 でも・・・、一番はあれかな。

 蜘蛛になるって言ったときのアンヌの顔

 かっこよかったんだ。・・・うん。

 かっこよかったよ、アンヌ。」


レンブランの言葉に心臓が杭を打たれたようで

息が止まるかと思った。

自分のそんな、日々の大したことのない話すら

レンブランは覚えていた。


「(私が“蜘蛛”を志願したとき

  みんな笑ったのに ー。)」

レンブランだけは、笑わなかった。


「(私が、かっこよかった・・・?)」

胸が急に騒ぎ出して、嬉しくて

わかってくれてた人がいたかもなんて、ー 


「(あぁ、無駄じゃなかった。)」

でも、次の瞬間には ー、

アンヌはちょっとムッとした。


「おっさんですよ、どうせ」

「あー、ごめんて、

 おっさんじゃないよ、アンヌは。

 かっこよくて、勇気があって 

 なんていうかな、キラキラしてる」

「!」

「あのさ、二人で色々挑戦してみようよ。

 例えば

 ご神木の前で宣誓しないで

 祠へ行かないで

 時間かけてさ、デートしてみたり

 喧嘩もたまにはするだろうけど

 でも、ちゃんと話し合おう。

 それでちゃんと仲直りしよう。

 それで二人のタイミングで

 誓えばいいんじゃないかな。

 慣習を全部捨てるんじゃなくて、()()()()()()しようよ。」

 

レンブランは目立たないけど

慎み深い男だ。

慣習にとらわれない考え方も

アンヌの取り扱いも上手だ。


だって、レンブランはアンヌを

「(ずっと見てたから。

  君は誰よりも努力家で

  恥ずかしがり屋のくせに、勇気がある。

  頼まれたら、それ以上を頑張りすぎるのも

  自分のことなんて二の次になってしまう、

  心ある、優しい女。)」


“ 誰かのために命を張って、誰かの幸せを祈れる女”


「(こんな女性、他にいない。

  かっこいいだろ?)」

五月の薔薇がレンブランの手から離れた。

「ー じゃあ()()のやり方も

 慣習を変えるってこと?」


五月の薔薇を受け取るのは“喜んで”の意味だ。


「ーっ、アンヌには敵わないよ、はは。」

顔を赤くし、俯いたレンブランは嬉しそうに笑って

立ち上がる。

「逆になっただけだよ、アンヌ。

 男が自分を女性に捧げたら、だめかな?」


アンヌは首を横に振って微笑んで

その花をレンブランの耳にかけた。


大歓迎(ばっちこい)です。」


レンブランは、そっとアンヌの顔をあげて

アンヌをしばらく見た。

赤い頬を両手で包めば

気の強そうな瞳が、恥ずかしさの波間に揺れている。

見つめ合ったら、その視線から逃れられない。


レンブランはアンヌに口付けた。


「祠での()()()()は、もう済んだね。

 今日の夜、抜け出してご神木まで散歩しない?」

喜んで、とアンヌから今度は、口付けた。

「じゃあ、レンブラン。

 石、運んでくれる?」

「石?」


アンヌは鍋カバーを押さえていた石を指さす。


「あの漬物石みたいなやつ?」

「うん。でもあれ、ただの漬物石じゃないのよ。」

「何?」

「ふふふ、秘密」


魔女とアンヌだけの、秘密。





「(魔女さま? 聞こえるかしら。

  私、自分の幸せだって願ってるの。

  だってね、自分の幸福を諦めたら

  他人の不幸を願うのよ。

  それを教えてくれたのは

  魔女さま、あなたじゃないですか。)」


ー 恋をするなら こんな恋。ー


情熱的じゃないかもしれない。

誰かに噂されるほど、魅力的でもない。

ありきたりな男女のそれ。


でも


隣にいる人が、私の話を聞いてくれて

私も隣の人の話を聞いて


あーでもない、こーでもないって

時々 つまらない喧嘩して

それでも

変わらない思いやりと変わらない優しさが

ちゃんと毎日に存在する、

そんな恋に成るような気がした。


あなたと一緒なら。




蜘蛛が “アンヌ” という侍女だったことは

ひと握りの人間の知るところとなる。

これもまた口承伝承のうち

語られることなく、消えていく事実だろう。












次回から第二部開始です。

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