【番外編】遺風に寄る
諸君、物語に寄り道は付きものだ。
寄り道でしか得られない発見もあったりする。
そうだ、ちょっと魔女ん家寄ってかな〜い?
茶でもしばくべ、そうするべ。
お〜い、魔女〜、あ、そういえば
魔女たちってどこ行った?
家に戻ってきたの?
エレーミナルス王国から転移したじゃん。
ほら、あのおネズミさまの転移魔法で ー
転移魔法の良いところは
術師の力量次第でどこでもドアだ。
術師がおネズミさまだったら ー
「!」「うぶっ」「おわっ」「っでっ!」「いだっっ」
シャルラッハロートを最下順に、
ディオ、ギーズル、ゾイ、魔女が団子で到着。
落とされはしないものの
過積載で重量順に着地。さすがおネズミさま。
魔女宅、玄関前。
「えっここ、なんだ、ここは」
茅葺き屋根に
石造りでできた壁。
屋根の真ん中は小さな小窓があった。
家のまわりにはたくさんの花々が植えてあり
言われなければ、魔女の家とは思えなかった。
「ん゛ーーっ!!」
鼻血を出した魔女は
鼻を押さえドアを勢いよく開けて入って行った。
鈴が乱暴な音を立てた。
「え、ここ、魔女の家、?」
シャルラッハロートは何も言わず
入っていく。え、入っちゃうんだ。
他の皆も、なんとなくその後をついて行った。
部屋へ入って見渡せば
玄関を入ってすぐ台所があって
部屋の真ん中を陣取るように
大きな丸いテーブル。
花瓶の花が揺れて、訪問を歓迎しているようだ。
「(花なんか飾るタイプなんだ・・・。)」
天井からぶら下がった多角形のランプを中心に
小さな同形のランプが長さ違いにぶら下がって
星のように見えた。
オープンスペースの広い間取り。
天井が高い。
壁だけが石で出来ていて、床はオーク材だ。
突き出た梁にぶら下がる薬草は
所狭しと並んでいて、その種類の多さは
多分、魔女にもわかってない。
あたたかな朝の日差しが
部屋全体を包むように柔らかな風を運び
少しだけ開けられた窓から
カーテンを揺らした。
「本当に魔女の家なの?」
ギーズルは部屋を見回している。
ゾイは出窓の方へ行って景色を眺めた。
目線の先には、緑豊かなハーブが所狭しと茂りながら
苔むした白い石でできたスロープのその先を隠した。
「(何があるんだろな。)」
興味津々。
部屋の中でも目立ったのは
やや影を覆った天井まで続く本棚。
「(本読むタイプじゃねえだろ・・・)」
ギーズルは気まぐれに一冊本を取り出す。
「(・・・致死魔術?、“毒” 編・・・
さらっとえぐいの置いてるね)」
そっとしまう。
本は綺麗に並べられていて
壁際に梯子が備え付けられている。
床の端や戸棚の隅には
使いかけの蝋燭が皿の上に乗せられていた。
本棚を背にしたソファに
シャルラッハロートが腰掛けた。
「む」
甘い香りに鼻が向く。
台所に置かれたままのカゴの山に目線が行った。
「(あれはチョコチップクッキー。)」
視線はロックオン、胃袋はいつでもウェルカム。
ディオは、女子(※魔女)の部屋自体入るのは
初めてでどうすればいいのか分からず
玄関で立ちっぱなしだ。
「(キョロキョロするのも
なんとなく失礼だと聞くし
うちの家と違ってなんか。
ー なんだろ、人ん家って
じょ、女子の部屋って・・・)」
初接吻した若者(勇者)は悶々とする。
奥の部屋からバタバタと
こちらへ向かってくる音に皆、注目した。
「すっすみませ〜ん!
バタバタしちゃって。」
急いで来ました感を誤魔化そうと
魔女は前髪をそそっと直した。
でも、違う。
違うんだよ、魔女。
直すべきは、気にするべきはそこじゃない。
ギーズルが吹き出した。
「ぶはっっ!おまっひっ
ひっ、ひ〜ぃっひっひっひっ」
魔女を指差しつつ、腹を抱えて笑った。
「?え、なんか変ですか〜?」
魔女、前髪をまたいじる。
そこじゃない。
ついには短くなった裾を伸ばす。
いや、もう切れてるから伸ばしても意味ないよ。
魔女の姿は ー
白蛇ドンちゃんのゲロが残るローブは
(女神ディアナのやんちゃで)
膝まで破れかぶれ。
膝小僧は(ぶつけたり転んだりで)
擦り傷で血がでてるし
ハーフブーツの紐は
(コケたはずみでちぎれて)
片足丸ごと、くるぶしまでブーツの皮がへたれてる。
自己破損系の主に地面に対する物損事故だ。
「(特に戦ったわけじゃないのに
1人だけ大惨事ってどういうこと)」
極め付けはー
両鼻に詰め込まれた鼻血止めの綿。ー
広がった両鼻に少し滲んだ血に
後悔はない。
「(これ、わざとやってんのか?)」
みな、心で思った。
多分、シャルラッハロート以外。
ディオに至っては
何だか痛ましくなっちゃって
「魔女さまっ!俺っ
祭でもらってきた食べ物あるんでっ
食いましょう!!元気出るから!!」
「あ、うん」
テーブルに近寄って
腰袋から次々と食べ物を出しはじめる始末。
「魔女さま、あの〜、
鼻(の穴すごく広がってるけど)は
(女子として)大丈夫ですか?」
ゾイなんて、切実な顔してる。
「?な、なんかおかしいとこ、ありますか?」
魔女は自分の姿を
下を中心にキョロキョロ見回る。
下じゃねえんだわ、見るのは。
誰も言えるはずがない。
だってどこから突っ込めばいいかわからない。
全部だよ。
ギーズルだけが“悲劇の喜劇”を楽しんでいた。
「魔女さま、僕らに構わずに
お召し物をお着替えになられたら
いかがでしょう?」
さすが高貴なるお方の従者、ゾイ。
やんわりだが遠回しに、
“オメー、自分の姿見てこいって”
とお伝え申し上げた。
「え?わ、悪いよ、お客さま来てるのに
おもてなししないとっ!」
おもてがなければ、うらもない。
今の魔女だ。
ひとしきり笑ったギーズルが
「いや、着替えた方がいいわ、アンタ。
それはひどいって」
咳払いして魔女から視線を外す。
「(これ以上見たら笑い死ぬ。)」
「?」
ゾイは
「僕ら、待ってますから
何ならお風呂とか入って
スッキリしてきてください。」
これまた
“オメー、下着だって付けてねえべ”を
それとなく言った。
ところが
魔女センサーは
このゾイの言葉の真意に気付く。
「(お風呂って・・・そんな
時間かかるし・・・着替えも・・・
そうだっパンツ!
パンツ履いておこう!)
じゃ、じゃぁ!
すぐ着替えてくるので!
ちょっと、ちょっとだけ
お待ちくださ〜ぁい!」
あ、パンツ持ってるんだね。よかった。
言いながら魔女は踵を返し、立ち去った。
皆なぜかホッとした。
*
「っははっ」
ディオは部屋に入って初めて言葉を発した。
「どうした、ディオ。」
「え、あー、あの。なんか
魔女さまってやっぱりすごいっていうか
抜けてるっていうか」
「不思議な方ですよね」
ゾイは部屋を見回す。
「ポンコツよ。
見ててこっちがヒヤヒヤするわ。」
ギーズルはテーブルの椅子に腰掛けて
足を組み、ディオにイタズラな視線を向けー
「そういえばディオ。
エレメーラ姫の呪い、解いたんでしょ?」
ニヨニヨしながら言った。
「!!」
「お、いいですね〜」
ゾイもニヨニヨ。
ディオは耳まで真っ赤にした。
思い出したくないが、鮮明に思い出せる。
だって
「聞いたわよ、愛の農業勇者。
あんた、神木マルムの前で
エレメーラ姫のこと、“いっしょぅ」
「わーーっわーーっっ!!」
ディオがいきなり大きな声を出す。
さて、諸君。
思い出してほしい。
エレーミナルス王国では
”愛の告白祭”に神木マルムの前で
愛を誓うのだ。
ギャラリーはまだいる。
酒を飲みまくって
ご飯食べまくった人たちだ。
ディオは思い出す。
「(ま、まさか村の人らが
みんな隠れて見てたなんて・・・!)」
顔からファイヤー出したい。
「(しっしかも、王も王妃も
そこにいたなんてっ!!)」
緊急事態に五月祭どころじゃないと思いきや
村人は皆、神木マルム前に大集結。
『いんや〜ぁ、長生きはするもんだべな』
とか言われるし
『ちゅーしたっ!ちゅーしたあっっ』
とか騒ぎ立てる子供らに煽られるし
『死ねっ・・・死ねっ・・・』
とか呪詛みたいな声を聞いた。
勇者ディオの黒歴史、公開処刑により完成。
その後から王はディオに
当たりが強かった。
「ディオ・・・、お主、度胸あるよな。
勇者だもんな。うん・・・じゃあ
“磨羯の弓”、シーガピオン海王国に
持っていけ。一年以内に。
魔女殿に盗まれたことにしてやるから、ーな?」
圧がすごかった。
だから、ディオに拒否権なんてなかった。
『ーっぷ』
部屋の中から、ここにはいない誰かの声がした。
「あれ?」
「?・・・誰だ」
辺りを見回すが人影はない。
『しまった
もう少しお前たちの会話を
聞いていたかったのだが。』
「?」
ディオだけは
「(話の話題が変わってよかった・・・。)」
心の底から思った。
*
シャルラッハロートは
台所のチョコチップクッキーのカゴを手に
ソファに戻って行った。
「魔女の家にいるやつなんて、
普通の人間じゃないでしょ」
「何でしょうか・・・幽霊?」
ー 何かは答えた。
『幽霊ではないし
お前たちと同じはずだ。ー?
お〜、これは素晴らしい客人だ。
祭祀王を連れてくるとはー。』
ギーズルは声の出どころを探している。
「(怪しさ満点なんだけど。)」
『ふむ、従者。お前は祭祀王に選ばれたのだな』
「はい?」
ゾイはシャルラッハロートからちゃっかり
チョコチップクッキーをもらって
早速食べていた。
『ほう、勇者もお出ましか。
初接吻、おめでとう。
さすが勇む者だな。ー、ほぉ・・・
お前は、オクサスの民ではないか。
出来過ぎじゃないかな?ふふ。』
ディオは目を丸くした。
大した衝撃にはもう動じないと思ったが
一向にわからぬ声の主に
自分の初接吻やらどうやら言われて
大いに動じた。それに
「(オクサス?何だそれ?)」
ディオにはまったく覚えのない国名だ。
『そして、
これが最大の謎だなぁ〜
なぜ、“聖獣バロン”まで
連れ歩くことになったのか。』
シャルラッハロートは気にせず
チョコチップクッキーを食べていた。
「(そうなんだよなぁ
謎すぎるだろ。
だってこれ、聖獣だろ?
勇者って言ってるけど・・・)」
シャルラッハロートは
チョコチップクッキーをじっと見ては
一口で食べる。
「(チョコチップクッキー、好き過ぎだろ)」
パタパタと、駆けてくる音がした。
「お、お待たせしましたぁっ〜!」
こざっぱりとした。
手も石鹸で殺菌消毒したし、ついでに顔も洗った。
汚れた体も簡単だけどお湯で絞ったタオルで拭いた。
タオルがめちゃくちゃ汚くなって
ちょっと引いた。
ローブも新しいのを着た。
全然変わってないけど清潔なローブだし
くるぶしまであるし
ハーフブーツはちぎれた紐以外は無事だったし
何よりご本人はー。
「(パンツ履いてるだけで
この安心感。)」
と、ご満足。
「何かありました?」
魔女はその場の不思議な空気感に気付いた。
声が聞こえる。
『未婚の女性が四人も男性を家に招くなんて
これは一体どういうことかな。』
「あ、ケトルさ〜ぁん、
遅くなりましたけど、”ただいま”で〜す」
『じゃなくてだな。』
魔女はスタスタと部屋を横切り、台所へ来た。
「お湯沸かしま〜す。」
『ちょ、ちょっと待て』
「え?魔女、それ」
ギーズルが席を立つ。
「?あ、あぁ!これ、ケトルさんです!」
魔女は嬉しそうにケトルを持ち上げた。
ー え? ー
それ普通のケトルだよね。
魔女の持ち上げたケトルを見上げた。
『ブフッ!魔女、その辺にしておけ』
ケトルは笑い出した。
皆、普通のケトルに目が釘付けだ。
シャルラッハロート以外。
ケトルは魔女の手に持ち掲げられたまま
モクモクと煙を吐き出し始める。
「ん?け、ケトルさん?!
け、煙が!どうしよう!」
みるみるうちに煙はケトルを包み込み
さらには魔女の手すら、包んだ。
「え、え、」
慌てる魔女に
「やぁ、魔女。おかえり」
魔女の手に掲げられていたはずのケトルは
薄い青紫のアメジストの瞳を持つ
銀髪の男に変わり
魔女の手を持ち、甲に軽く口付けられた。
男の身なりは白い詰襟の長いコート。
腰のベルトは黒い皮で剣を携えていた。
ー え、ケトルってこれ?
魔女、口あんぐり。
鼻は綿で塞がってるから
息がしやすくて良さそうだ。
どこかで口をあける利点も述べておかねば
そのうち口呼吸してるアホ魔女だと思われかねない。
だが、知っておいてほしい。
鼻呼吸の方が、色々いいと言っておく。
皆、一斉に席を立った。
シャルラッハロートだけは目線だけを魔女に向けた。
「た、ただいま?ケトルさんですよ、ね?」
「あぁ、いかにも。」
「ケトルさんて、鏡ですよね?」
「いつしかそう呼ばれるようになったな」
「え?人なんですか?」
「君は私をケトルにしたけどな」
「そ、それは!すみませんでした」
「え?待て、鏡ってなんだ、魔女」
ギーズルが大股で2人に寄ってきた。
魔女の手は
ケトルに握られたままだ。
「あ、あのー、ケトルさんて
“真実の鏡”らしいんですよ」
「彼があ、あの“真実の鏡”、だと?」
「ギーズルさん、知ってるんですか?!」
答えがギーズルの口から出る前に
「ー 知らいでか」
ケトルの手をシャルラッハロートが叩いた。
「っ!叩くな。馬鹿力。」
「お前は触るな。」
「ほおー、そうきたか。
誰のおかげで
人になれたと思ってるんだ、聖獣」
「ー」
シャルラッハロートは黙った。
だが、これに
「?!え?ー せ、聖獣って何?
?え ま、まさかですけど
しゃ、シャルって、
シャルって聖獣バロンなの?!!!」
みんな 知ってた。
知らぬは魔女、1人なり。
魔女、自分家なのに、逃げたい気分。
「ど、どうして ー」
「あー、コイツはね・・・
ごめんよ、これは言えないんだ。」
「言えない?ー 」
「俺はコイツとそういう契約をしたのさ。」
「え」
シャルラッハロートは黙って、魔女を見ている。
魔女はシャルラッハロートを見た。
少し、視線はずらされて
シャルラッハロートはまたチョコチップクッキーを食べ始めた。
天敵 聖獣 バロン。
勇者になるとか言って、叙任までして
天敵のくせについてきた。
「(ーでもなぁ)」
魔女は聖獣バロンを嫌いだとは思ってない。
なんだかんだあったが
敵対するわけでもなく
よく意味がわかんないけど、ついてきた。
ー、昔から動物には懐かれていた。
ついてくんなよ!と思いつつも
ついてきたら、もう追い払えない自分を知っていた。
「(だって、かわいそうじゃん)」
見ながら、魔女は戸棚にしまってある
別のケトルを取り出した。
そのケトルこそ、普通の白いケトルで
魔女は水を注ぎながら元ケトルに声をかけた。
「ケトルさん!
このケトルって、人じゃないですよね?!」
「ーじゃないことを祈るよ。」
「!ちょ、まずいんですよ!
私、今魔法使えないんですから!!」
「私を含め、ここにいる男のうち四名と
接吻すれば使えるさ。そのうち一名は
本日めでたく想い人と初接吻を果たした。」
「!!!!(やめてくれ!)」
「(・・・一人は童貞じゃないわけだな・・・)」
「(誰だ・・・)」
「もうっ!」
ガチャン、と打ち消すみたいに
魔女は白いケトルをガスレンジに置いた。
「私が紅茶を淹れてもいいぞ。」
「いっいやっ!あの
私がやります!!」
魔女、全力で拒否。
「そっそうよ!魔女が淹れなさい!」
回復茶の不味さの根源を知ったギーズルも
これまた加勢。
「そうかい?
ではお言葉に甘えようか。」
アイスクラピウスはテーブル席に着いた。
「おや・・・使い魔が客人を連れてきたぞ」
カーテンが風に揺れた。
番外編は全部で4編の予定です。
第二部に関しての投稿のお知らせは
活動報告にて行います。
★これを機に ブックマークのご登録を頂けますと幸いです。
やる気でます。よろしくお願いします。★




