召喚の儀
*
「行くぞ」
ディオとシャルラッハロートは走り出した。
蜘蛛の糸に足を囚われることなく
順調に進む。
ゾイの風魔法のおかげもあってか
次々切られ、伸びてくる蜘蛛の糸を
風で巻き上げては天井へ貼り付けていた。
ギーズルも魔法で二人の援護をしている。
ギーズルの魔法はどちらかと言えば守る、より
蜘蛛の糸を”切り”に行ってるように見える。
シャルラッハロートは大男にも関わらず
そのスピードはディオを凌ぐ。
「(はやっ!負けてらんないな!)」
剣を抜いたディオは手首を返し
逆手に持ち直す。
シャルラッハロートは
大剣を肩に乗せたまま走る。
ディオは初めての
心地良い緊張感に口元をゆるませた。
「(ヤッベ、楽しいっ)」
目標の蜘蛛は部屋の奥深くだ。
空気の動かない部屋に、風が起こった。
「気付いたぞ」
「ああ」
暗闇に浮かんだ赤い目をギョロっと
あちこちに動かし体を起こす。
『水晶が割れるまでは時間稼ぎです。
ディオが蜘蛛の後ろへ回って
シャルは蜘蛛の相手してください。
蜘蛛のモーションは大きく分けると6つです。
まず、蜘蛛は長い足で左右に交互
”払い退け”をしてきます。』
蜘蛛の前足が払い退けをしてきた。
「(パターン“A” (魔女作)だ)」
ジャンプでこれを避ける。
「なあっ!シャルラッハロート!
パターン“C” ってなんだった?」
ディオは縄跳びでも飛ぶように
蜘蛛の足を避けシャルラッハロートに
声をかけた。パターンいくつまであるの。
「知らん」
『払い退けをした後は
”押し潰し”てくるので〜』
蜘蛛は両足を大きく上げ
ギシャァァァッッンッ!!
足を大きく震わせ、金切り音を立てた。
剛毛然り、震えが止まらない。
蜘蛛は全身で威嚇しているようだ。
赤い目が黒くなった。
二人を目押し潰さんと更に足を振り上げ
一気に振り落とす。
っっガゴォーーっっ
振り下ろされた蜘蛛の片足を
シャルラッハロートは片手で受け止めた。
あれ、シャルラッハロート、君すごいけど
地面に足、ちょっとめり込んでない?
「今だ、行け」
平気な顔して言うから、かっこいい。
「!っー」
ディオは頷いて、走り出す。
魔女のプチ備忘録。
『 押し潰しは防御し続けると
スタミナ切れを起こすので
ローリング回避してください』
だがシャルラッハロートにスタミナ切れという
概念はない。地面の方が堪え性がない。
元聖獣の騎士風勇者やぞ。
魔女と違って、肩書きの高名さだけが増えてく。
蜘蛛の足の方がプルプル震え出す。
シャルラッハロートは蜘蛛の足を
ポイっと横に押しのけた。
蜘蛛は苛立ったのか、足を上下に
バタバタしはじめた。駄々っ子みたいにね。
しかし、そんな蜘蛛の地団駄すら
シャルラッハロートは冷静に避ける。
「(避けるだけなら簡単な話だ)」
パターンじゃない、勘だけで避ける男は
ディオの動きを見ながら
蜘蛛の意識がディオに向かないよう
うまく避けていた。
ディオは蜘蛛の後ろへ近付いていた。
「(あれだっ!!)」
黒紫に光る大きな水晶を見つけた。
逆手に持った剣を振りかざし
ディオは真っ直ぐ水晶に振り下ろした。
キィイイイイイイーーーーンン
「いっ」
耳をつんざくような高音を発して
水晶は黒紫の光を放ちながら砕け散った。
「(やった!)」
振り返るとー
蜘蛛のケツがあった。
なんか毛がすごいしグロいし、デカかった。
「(戻るか。)」
シャルラッハロートが相手をしてくれてるから
だいぶこちらは余裕がある。
蜘蛛の背後にいるって
実は一番安全なんじゃないかと
ディオは思った。
「(でも蜘蛛のケツ見続けるのはキツイ)」
剣を持ち直し、まずは
蜘蛛のケツをスパンキング。
*
ギシャアアアアッッッ!!
(超意訳:いやんっ痛っっ!!
痛えっっつうの!
誰よ、ケツ叩いたの!!
キーーーッッッ!!)
蜘蛛、お怒りのご様子。
『水晶が割れたら、攻撃パターンが
変化するよ。
炎か毒の玉を放射状に
連射してくるからー』
シャルラッハロートは相変わらず避けてはいたが
蜘蛛の変な鳴き声の後
攻撃の仕方が変わったことに気付く。
「シャルラッハロート!!
パターンEの、あー、
・・・なんかだっっ!」
ディオ、それじゃ伝わらないぞ!
パターンいくつあるんだよ。
パターンEからさらに分岐してないか?
パターンEの何?お前も覚えてないじゃん。
蜘蛛の口が縦に開き、
炎の塊がぐるぐると回転し出す。
ディオは壁際に移動し
「(よしっ毒袋は萎んでない!)
パターンEのファイヤーだ!!」
蜘蛛の動きを見て叫んだ。
ファイヤーって安直すぎ。
『タイミングよくローリング!!
ジグザグに避けてーーっ!!』
蜘蛛の口から炎玉がまさしく出る瞬間に
シャルラッハロートは
「(ジグザグってなんだ・・・
避ければいいんだろ)」
勢いをつけてローリングして斜め方向に飛び出す。
蜘蛛の炎玉は床や天井を焦がした。
『魔蜘蛛は敵が近づくと
横一線の炎を吐きます。ブオーッて。
当たったらやけどどころじゃなくて
爆発するので、絶対避けてください。
蜘蛛が横を向いたら後ろへ回避か
余裕があれば、蜘蛛の横へ移動して
モーション中に攻撃をするのも可。
これもパターン分けしますね〜。』
という、魔女の長ったらしい
蜘蛛攻略解説はディオや
もちろんシャルラッハロートには
もはや関係なく、パターンだって
どこまで分岐するか分かったもんじゃない。
覚える気すらないだろう。
二人は避けながら
蜘蛛に攻撃を仕掛けるタイミングを見ていた。
がー
「なんかおかしくない?」
ギーズルが気付く。
「ええ、水晶は割ったはずなのに
蜘蛛の足元にはまだ魔法陣がある。
あれって魔力供給ですよね。」
やばい蜘蛛。
「っチ、預言者の野郎、狡い真似しやがって」
ギーズルは舌打ちした。
「魔女、出番だ」
「はぁ〜ぁ〜い」
振り返らないギーズルに向け
魔女はなんとも間の抜けた返事だ。
*
それは蜘蛛の部屋に入ってすぐ起きた。
「この辺はまだ、蜘蛛の糸、ないね」
魔女は小さな声で、誰にともでなく問いかけた。
「あぁ、でも気をつけろよ、その辺に」
ギーズルが注意を促そうとしたところ
「っきゃっ」
小さな叫び声がした。
自分で散々、ベドベドーだの
ぬっちょりだの言ってたくせに
魔女、最速で蜘蛛の糸に片足を取られる。
「あ」
しかも罠にハマって
足首に巻き付いた糸は天井へ引っ張り上げられる。
「っ魔女さま!!」
「ちょっと何やってんのよ!」
「(やっぱり)」
魔女の逆さ吊り。
だが、誰も助けない。
むしろ水晶割れるまでそのままでいろ、とでも
言わんがごとく放置されていた。
吊るされた魔女のローブがめくれ上がって
「誰も見ないで!!絶対見ないでーっ!
見たらパンチするから!!!」
という、魔女の脅迫めいた懇願に
みな従った、というのもある。
うそ、ほんとは見た。すんげえ見た。
『魔女ってノーパンなの・・・? 』
という共通認識をもって
この蜘蛛の水晶割り作戦は開始した。
ゾイの風魔法で蜘蛛の糸を切ってもらい
またしても落下した魔女はローブを直しつつ
「頭がクラクラするよ〜。」
「水晶は割れたが、まだ魔力の供給が
行われているみたいだ」
ラースは一切、ノーパンに触れない。
魔女は立ち上がり
ギーズルに向かって言った。
「ギーズルさん。
祭祀の準備はいいですか? 」
「ああ、・・・本当にやるのか?
ここで? 」
「はいっ!預言者を引きずり出すには
これが一番ですからね。
ラース、じゃああとはよろしく」
「・・・」
返事は声にならなかった。
ラースがこの作戦を提案したとはいえ
なんともやるせない気持ちになっていた。
ギーズルが叫んだ。
「シャルラッハロート!!
蜘蛛の動きを止めてくれ!!」
シャルラッハロートは大剣を抜き
瞬間、蜘蛛の頭に乗って突き刺した。
「止まったぞ!!!」
蜘蛛は麻痺したように動かなくなったが
完全に動きを止めたわけじゃないようだ。
「(魔女さまの出番か)」
ディオは目に入った汗がしみて
魔女を完全に見ることはできなかったが
魔女の声が聞こえたように感じた。
『お姫さまの 呪いを解けるのは 君だよ』
「え」
魔女はディオを見て微笑んだ。
自分の胸に祭祀の剣を突き立てながら。
「ーえ 魔女さ、」
血飛沫が上がる。
魔女は胸に剣を突き立てたまま前に倒れ込む。
「は」
悪い冗談だと思った。
さっきまで和気あいあいとして
クッキーを分け合ったり
ふざけてたのに
「(その剣は俺が持ってきた、のに)」
魔女を刺すためじゃない。
「(どうして)」
一緒に戦おうと言ったのに
「(なんで)」
“あなたを信じてここまできたのに”
「魔女さまぁぁぁっっ!!!!」
怒りだ、怒りの声が上がる。
ディオは体中で叫んだ。
魔女の元に駆けつけ手を出そうとするが
「やめろ!触るなっ」
ギーズルに止められる。
「何でだ!ギーズルっ!離せ!!」
ギーズルはディオを背中から抱え込むように抑えた。
「(このっ馬鹿力!)」
ふりほどこうとするディオを押さえつけるのは無理だった。
だから、ギーズルは大きな声を出す。
「聞け!!ディオっ勇者ディオ!!!!」
「!っなんで」
ディオは少しだけ力をゆるめた。
ギーズルは普段こんなに声出さないから
かすれたし、咳も出た。
「けほっ!聞けって!!
魔女が、ごほっ
魔女がお前に作戦の内容を言わなかったのは
お前がこの話を聞いたら
止めるとわかってたからだ。
お前も知ってるだろ?
磨羯の弓を取り出すためには
精霊アンデリダが必要だし
冬至まで待たなきゃいけない。
だが、預言者のせいで
蜘蛛すら倒せないんだ。
だから、魔女は魔法じゃなくて
“血”を祭祀に捧げたんだ。」
「だからってこんなっ!魔女さまがっ」
辺り一面に魔女の血が広がっていく。
血に染まる魔女はうつ伏せで動かないが
広がる血は次第に
意志を持ったように魔法陣を描き始めた。
「な何が起きてるんだ ー」
「ー オラクルだ・・・
魔女だけが持つ、特別な”力" ー
魔女が最強な理由を知っているか?」
「ー、」
「魔女が詠唱しないのは
知っているだろうが、その理由は
なぜだかわかるか?
・・・この世に存在する魔法はすべて
魔女が創り、一番最初に唱えたからだそうだ。
・・・それでもこれからやろうとするのは
簡単なことじゃない。だから
魔女の”血”で、自らの魔力を
解放する必要があるんだよ。」
ディオはそんなこと、どうでもよかった。
魔女をすぐにでも助けたいのに
そこへ行ってはいけないような雰囲気で
ただ茫然と倒れて動かない魔女を見てる。
「おい、ーあ、あれはなんだ...」
地面に描かれた魔法陣は
部屋を覆い尽くし、蠢いている。
稲妻を巻き起こし始めた。
魔法陣の呪文字が回りだした。
空間に亀裂が入って
白い光の柱が魔女の真上に降る。
光を吸収し、魔女の指先がピクッと動く。
「?」
ディオはギーズルの手を離れ
魔女に近づく。
「ま、魔女さま・・・?」
ゆっくりと立ち上がった魔女は
勢い良く自分の胸の剣を抜いた。
抜かれた剣にまとわり付く血が
ディオの胸当てに飛んだ。
その見事な剣さばきに、ディオは目を疑った。
信じていないわけじゃない、
だが、
「(この人は、魔女さまじゃ、ない)」
ローブの裾を乱暴に切り落とした。
傷だらけの膝小僧が見えた。
『ふふっ、久しぶりにこっちにきたら
結構楽しいことになってんじゃ〜ん?』
そしてノリが軽い。
「あなたはー?」
ディオが口を開いた。
肩にかかる髪を後ろへ送り
ディオを見た。
「?!(え、魔女さまの顔じゃない、誰だ)」
『あら、このアンデリダの森にいて
私をご存知じゃないのかしら。
失礼しちゃう。』
何が起きているかわからないディオの横で
ギーズルは胸に手を当て、片膝をついた。
「聖なる木立の女神ディアナ様
ー お待ちしておりました』
うやうやしく頭を下げた。
「?!(めっ女神ディアナ!?)」
もう、ディオの情緒は乱高下。
*
ラース情報:魔女の下着について
あれこれ言う気はない。
それどころじゃねえ。
シャルラッハロート情報:魔女は死なない。
ギーズル情報:ディオの馬鹿力のせいで
柔肌に擦り傷できたわ。
おい、ケツ出せ。キックだ。
ゾイ情報:魔女さまってノーパンなんですって。
なんででしょうね。
ディオ情報:俺のケツは俺のもんだ。




