叙任
*
「 お〜ぉい!! 」
ディオの声だ。
ラースはディオの声がする方を見て、応えた。
「下だっっ!!穴の中にいる!
もし来るつもりなら、ー」
“気を付けろ”、と言うつもりだった。
ヒュ〜ーーっっドォーーン!!
大きな風があたり一帯に降りてきて、穴底に着地した。
「!」
「わっっ!!」
巻き起こった風にあおられて、砂埃が立つ。
目を細めないとその中心が見えない。
皆が砂埃の向こう側を見張った。
「ーっ」
大きな影に魔女は目を凝らした。
「ディ、(? ディオの後ろに誰かいるの?)」
呼びかけようとした。
「ンモォォ〜〜ッ」
「・・・う、うし?」
魔女はつぶやく。
「・・・牛だな・・・」
ラースも無意識につぶやいた。
祠の穴底、砂煙にむせぶ中、響いたのは牛の鳴き声。
「(牛??なぜ?!なんで?)」
ラースは魔女の肩で事態を回収中。
「魔女さまっっ!!無事でしたか!!
ラースさんもいますね!」
牛もいるよ!
ディオはものすごい笑顔でこちらに向かってきた。
ー の、後ろを
牛を背負った人がいる。
なんていうんだろう、こう、がっしり背負う、的な。
あまりにも現実離れした状況に
さすがの魔女もおネズミさまに確認だ。
「ラース・・・牛って背負えるもんなの?」
「“ネズミ”には物理的に無理だ。」
「“人”も無理だよ・・・」
じゃあ、あれは 何だ。
「あ〜、よかった!
待っててくださったんですね、魔女さま!」
ディオはキラキラの額の汗を拭った。
「(いや、待って、はいないけど)
ディ、ディオも無事でよかったよ!」
とりあえずディオの後ろがものすごく気にはなるけど
特に牛とか、牛背負ってる人とか
ものすごく気になってるけど
魔女は、とりあえずディオに無事を喜んだ。
ディオの後ろで息を切らさず、汗もかかず
牛をゆっくり地面に下ろした男は
魔女をじっと見ているようだ。
「(だ、誰?またぁ??知らないよ?
こんなでっかい人、知らないんですけど!!)」
威圧感がここにいる中では圧倒的だ。
緋色のマントのフードを目深にかぶったままだ。
ラースは魔女の肩から飛び降りた。
「貴殿、名乗ってもらいたい」
魔女の一歩前に出ていた。
「俺は、」
言いかけると、
「あ、こいつ、えっと
シャルラッハロートって言うんです、
森の沼地で会ったんですけど。」
ディオが、他己紹介した。
ちょっとバツの悪そうな顔をしていた。
「シャルラッハロート・・・? 」
ラースは小さく自分の口の中だけでその名を言った。
魔女は男の声に、聞き覚えのあるような
そんな感覚に陥ったが
「?(・・・こんな人に会ったことないんだけどな。
NPCにも当然いない人だし。
気のせいかな。)」
思い違いかもしれないとやり過ごす。
いきなりディオは魔女に頭を下げた。
「すみません!魔女さまっっ!!俺っ
咎の雄牛を倒そうと思って沼地に行ったんですけど
俺、倒せなかったんです。」
魔女は慌ててディオに言った。
「いっいいよいいよ!頭下げなくていいよ!
怪我してないよね?
無理させちゃったもんね、ごめんね!
顔あげて!!もういいからっ」
ディオは頭を上げると、頭をかいた。
「ほんと、すみません。俺、カッコつけたくせに
持ってこれなくて。
あ、でも魔女さまに言われたとおり、沼地に
5月の薔薇の花冠はちゃんと捧げました!
それとは関係ないかもしれないけどっ
これ!!スージーって言うんですけど!!
俺んちの牛なんですよ!!
行方不明だったスージーいたんですよ!!」
ようやく牛の出どころがわかった。
スージーだってさ。雄だよ。
「あ、そうなの?スージーっていうんだっ
スージー見つかってよかったねえ!」
魔女とディオだけ、大盛り上がり。
スージーはなんか反芻してる。
牛は胃袋が四つあるからね。消化中。
「魔女」
シャルラッハロートが魔女を見下ろす。
「(で、でかっ。)は、はいっ!」
見下ろされた魔女は反射的に返事した。
ラースはすでに魔女の肩に登っていたが
それでも見下ろされている。
が、ラースは問う。
「シャルラッハロート、目的は?」
シャルラッハロートはラースを一瞥しただけで
魔女を見て、応えた。
「俺は“勇者”になった」(迫真の真顔)
「は?」
前の魔女の仕業に違いねえ!
「え?」
同時多発勇者で考察捗りネズミ?
「お〜ぉ」
ゾイ、感心するとこちゃうで。
「ぷっ」
出戻り祭祀王、笑うな。
「ンモォォ〜〜」
ん〜、スージーぃ!!
自分と同じ反応をする魔女とラースを見て
ディオは満足だ。
「(わかるよ、俺も同じ気持ちだったよ)」
いきなり新たな勇者があらわれて
魔女はラースと顔を見合わせた。
「(こ、こんなでかい人が、勇者?
いや、デカさで勇者は決まらないけど
これはまたディオと正反対の勇者っていうか。
え、前の魔女、またなんかやった?)」
魔女は心当たりのなさに、冷や汗。
今の自分は無実なのに、前任者がやらかしてるから
相対的に自分のせいにされる理不尽。
ラースはすでに自称勇者を見定め中。
「(こいつが勇者?預言者が選んだにしては
勇者というより、このいでたちは
・・・騎士の類いじゃないのか?)」
とりあえず、だ。
なんかわからんけど、勇者だという男に
愛想笑いしつつも、とりあえず魔女はディオに聞いた。
「ゆ、勇者が二人になったの?す、すごいね」
他人事のふりだ。
「ー そうらしいですよ。俺も勇者ですけど!
しかも、こいつ、咎の雄牛の角も持ってます。」
若干の先輩風を吹かすディオだって
勇者の仮免だが、大事なことを言った。
「?ー、ディオ、雄牛の角を取られたのか?」
ラースに睨まれたディオは、頭をかいて笑った。
「へへ、先に取られちゃいました。すみません。」
素直に謝った。
「(結局ここまでシャルラッハロートと
話しながら来ちゃったもんな〜・・・)」
牛の話をディオが一方的にした。
聞かされる方も聞かされる方だ。
そう、聞かされてた男、シャルラッハロートは
「ー 、魔女に会いに来た」
フードに隠れて表情が見えないが
魔女に会うために、牛背負って来た。
じゃんけんは負けたんだな。
「?!わ、私ですかっ?」
魔女は壁みたいにでかい男の威圧感で
その場から動けなかった。
ラースはディオの肩に飛び乗り
ささやきネズミだ。
「魔女に危害を加えるかもしれない。
すぐに剣を抜く準備をしておけ。
あいつは、“騎士”だ。しかも普通の騎士ではない。」
「(了解です)」
ディオは小さくうなずいて、剣の柄に手を伸ばした。
「(そんなに悪いやつじゃないと思うけど
念の為、だな)」
じゃんけんに勝ったからじゃない。
ディオの勘がそう言っていた。
ラースはちら、とギーズルらを見た。
ギーズルとゾイはスージーを撫でてた。
スージーは反芻してた。
「(・・・あいつらはアテにならん。
牛と戯れてるだけか。いい気なもんだ)」
ギーズルはさっきと打って変わって
何事もなかったようにスージーを撫でてる。
「(さすが祭祀王。・・・ポーカーフェイスが
お得意なようだ。)」
だが、ラースはこの場で
誰よりも何よりも警戒していたといえる。
「(あの男は、“騎士”だ。
しかも、男が身につけてる紋章はこの世界の
どこの国にも属さない特別なものだ・・・。
そんな“騎士”が勇者だと?
違う、目的は“魔女”だ。ー)」
ひげの先まで神経を張っている。
シャルラッハロートは魔女の前に 立った。
圧がすごい。
「ー 魔女、」
ジリ、と魔女に寄る。
「(ちかい!近い、怖い、でかい!)
は、はいっ!なんでしょーっか!」
首が直角に後ろに倒れそうなぐらい見上げてる。
ディオの手はすでに剣の柄を握っている。
ラースは成り行きをうかがっている。
「ー 咎の雄牛の角が、欲しいか」
「え?!(な、何?!)」
「雄牛の角が、欲しいかと聞いた」
「っーっはっ、はい!!欲しいですっっ!!」
魔女は冷や汗をかきつつも、圧迫面接には負けない精神で
腹の底から声を出した。
笑顔はないー、完全にひきつってる。
「ー、そうか。では、」
シャルラッハロートは目深に被ったフードを背に流し
顔を見せた。
魔女は、その顔を見た。
「(目が紅い人、いるんだ・・・)」
「これはやる。」
「!」
魔女の手に、雄牛の角が載せられた。
ずっしり重くて、ほんのりあたたかい。
「だが ー」
シャルラッハロートの言葉に
ラースもディオも、警戒を高めた。
「(くるか?!)」
シャルラッハロートは 魔女に片足、跪く。
*
「(ビクゥっ)!!」
シャルラッハロートの所作に驚きすぎて
背筋がつるかと思った。ほんとはちょっとつった。
雄牛の角、握る手の汗、ヌッルヌル。
背にある大剣を抜き、
片膝を付いたシャルラッハロートは
魔女に頭を垂れ、大剣を自分の前に置いた。
「我が名は
“シャルラッハロート・レックス・アルダナド”
唯一無二の魔女、我が名にかけて誓う
我は 勇む者なり
真実を抱く誓いの主よ
目を開き 命が燃えるかぎり
海を割り 空を裂く
今此れより 進まんとす」
そう言って、シャルラッハロートは
頭を下げたままじっとしている。
「ーっ」
圧倒されて、魔女は何が起きてるのか
微塵もわからない。
てか、何言ってんの?と思った。
だから、ラースは急いで魔女の肩に乗る。
ここでも、ささやきネズミ。
「魔女っ、魔女、聞こえるか」
「ら、ラース、ど、なっ
え、と何が、えっと」
(意訳:助けて、おネズミさま!)
「わかった、わかったから落ち着け。
深呼吸しろ。今すぐだ。」
魔女は言われるがまま、深呼吸した。
ラースは続けた。
「信じがたいことだが、いいか?
よく聞くんだ。
シャルラッハロートは、騎士の誓いを
勇者でやってる。」
「騎士の誓い?」
「それを今、説明してる時間はない。
魔女、お前がすべきは ー」
魔女は頭に微振動が起きてるかと思うほど頷く。
「す、するべきは?!」
ゴクリ。・・・何すんのさ。
「ー 叙任を。」
「へ?ーアコ?」
シャルラッハロートは地面に置いた剣を
そのまま両手で持ち上げゆっくりと
魔女に差し出した。
「?(え?大剣くれんの?)」
多分違うよね。
ラースは言った、
「剣を持ち、
シャルラッハロートの肩を軽く叩け。」
「大剣を?」
無理じゃね?
剣身だけで魔女の身長ぐらいありそうなんだけど。
「無理っ無理無理無理っ!
私、結構力持ちだけどこれは無理っ」
「断るにしても剣を持ち首を斬るのが
この誓いの意味だ。」
おいおい、物騒な二択だな。
「!?( くっ首ぃ?
いらないよ! もらっても困るよ!
ギーズルさんの時といい、なんでみんな
首とかで解決しようとすんの!?
なんで、平和的解決をしようと思わないのかな!
選択権が無さすぎる!!叙任ってどういう意味?
それやったらなんか変わるの!?え〜?
わからんっどうしよう!!やっていいの?
どうする??分岐する??でももう
ゲーム関係なくなってる気もするけど
どうしようっえっとーえっと、
迷ったらするしかない、けど・・・!)」
ひらめき魔女は肩掛けかばんをゴソゴソ。
そして ー。
差し出された大剣の上に、そっと置いた。
「えと〜ぉ
よくわかんなかったんですけどぉ
え?、ラース、何?・・・あ、うん」
肩に乗せたささやきネズミに指示され魔女。
たどたどしくも応えはじめた。
「その高潔なる、えっとなに?
勇む心を?
確かに受け取ります?え?
あ、受け取りました〜ぁ。・・・ぅん、
名前?え、なんだっけ。シャララッハ?
ごめん、聞こえない。もう少し大きい声で言って。」
「シャルラッハロートだ!!」
「あ、シャルラッハロートさんね。
名前長くない?え、ここはそれでいいの?
えっと、魔女の名において、え?
私、魔女だよ?あ、あ〜、そうなの?
私の名誉と誇りにかけて
あなたを受け入れよう・・・ふふっ
え、なんかちょっと恥ずかしくない?
え?それ、やるの〜?やだ〜。恥ずかし〜ぃ」
魔女は頬を赤くしつつも
シャルラッハロートの両肩を交互に手で触れた後
大剣の上に載せたものを手に取った。
そして、シャルラッハロートの頭にそっと載せる。
それは失敗作の5月の薔薇で編んだ花輪の王冠。
「へ、へへ。ー 剣、重くて持てないから、
ご、ごめんね。」
そう言って、魔女は恥ずかしそうに笑った。
「あ、あとこれ、食べてね。」
シャルラッハロートが顔をあげれば
大剣に乗っていたのは
チョコチップクッキー。
当の本人のシャルラッハロートは
まんざらでもないようだ。
「ーこれは?」
「チョコチップクッキーだよ。美味しいよ?」
大剣をゆっくり下ろし
片手でチョコチップクッキーをひとつ摘んだ。
「!!」
初めて食べたチョコチップクッキーは 甘かった。
ラースはため息こそ出なかったものの
全身の毛が抜け落ちるかと思った。
「(宣誓の口上の応え方を知らないのは
まぁ魔女だし、仕方がないが
どこの世界に、叙任で
チョコチップクッキーを出す者がいる。
その失敗作の5月の薔薇の花冠は
いつの間に隠し持っていたんだ。)」
ラースには言いたいことがある。
ー それはもう数え切れないぐらい。だが
けどラースもまんざらじゃないらしい。
「(5月の薔薇の花冠は“祝福”を意味する。
叙任で5月の薔薇の花冠を
剣の代わりに置くとは、この魔女も
なかなか面白いことをする。
・・・魔女の祝福か・・・)」
色々魔女がもたついたからイラッとしたが
とりあえずの形にはなった。
形だけであれ、叙任は叙任だ。
どっと疲れた。
ふと、ラースは視線を感じた。
キラキラしたお目々で、ディオがラースを見てた。
一応、聞いてみた。
「・・・お前も、(叙任)やりたいのか?・・・」
「はいっっっ!!!」
ラースから、すんごいため息が出た。
スージーは今も反芻してた。
*
叙任情報:全員やった。
ディオ(魔女の勇者だから)
ギーズル(チョコチップクッキー食べたい)
ゾイ(ギーズル様がやるなら!!)
ギーズル情報:勇者二人ってどういうこと?
そんなことってある?もぐもぐ。
うまっ。何、このクッキー。
ゾイ情報:チョコチップクッキー食べたいからって
ギーズルさま、叙任されましたけど
祭祀王ですけどそこんとこはいいのかな。
ま、いっか〜。
ディオ情報:やったー!魔女さまの勇者だ〜!!
ラース情報:叙任式、途中から疲れてグッダグダ。
惰性でやった。




