勇者という者
*
嘘だ。
俺は知っていたんだ。
魔女がここへ来るのは。
隣村へ報せをだなんて
王城へだなんて
真っ赤な嘘だ。
勇者に選ばれることは、祝福だ。
偽りを吹き込まれた祈りに
悪意にまみれた思惑に
傀儡たる使命を果たす
俺は世界を救う勇者になった。
厄災の魔女の首を落とせ
皮膚を裂き
肢体を切り刻め
灰となるまで燃やし尽くせ
”魔女”との戦いに敗れたあの日
『陰った罪の先に 落ちた希望は』
”魔女”は俺の目が閉じるそのとき
『まだ何も、失ってさえいないもの。』
歪められたときを 超えてくる。
『勇む者、お前の心を まことの想いをー
奴等がいたずらに弄んだ時間を取り戻してやろう。
死して蘇り、真実の願いを全うするがいい。
そして ー
その日が来たらば
重力に逆らって ここまで来るがいい』
俺は知ってる。
今度は間違えない。
勇者に選ばれることは、祝福じゃない。
呪いだ。
へへ、ー あのさ。
俺に、記憶があるって話
魔女にしたら、びっくりするかな。
*
「(連れてくって、遊びじゃねえんだわ。)」
こっちにも作戦ってものがある。
魔女は勇者その1につかまれた手を
そーっと、それでいてさりげなく解き
次は掴まれないように
ジリジリと後退りしながら聞く。
当然、勇者その1の顔は見ない。
ニヤけてしまいそうだからだ。
「な、名前はなんて言うの?」
「わのなめえは”ディオ”っていうです。
剣技がわやじょんずになりてず、好きだ食べ物はー
(名前はディオ!よろしくな!
剣とかかっこいいから使いこなしたいね。
好きな食べ物はねー)」
ハキハキ話してるけど
相変わらず訛っているので
魔女はラースに翻訳しようと
ゴォグルルゥゥ〜〜〜〜!!!!
「(お前も腹ペコさんか・・・)」
勇者その1の名前がディオだと言う。
魔女は肩掛けかばんから銀紙に包まれたおにぎりを取り出し
手渡しながら聞いた。
「(なんとか諦めてくれないかな・・・。
色々不都合なんだけど・・・)」
魔女はそんなことを思いながらも
水筒のお茶までディオに手渡していた。
本当は嬉しいのかもしれない。
「あ、まんずめやぐだじゃ。
(ありがとうごぜーます)」
「連れてくって、あの・・・えっと
敵とか出てくるし、戦うんだよ? 」
「はい! 」
「敵って強いっていうか
結構しんどいよ? 」
「俺、我慢は得意です!」
「が、我慢だけじゃなんとも」
「やる気もあります!!!」
「えぇっと〜・・・」
ラースと魔女は顔を見合わせる。
「面接してるのか?」
「だって連れてけって言うから」
ラースが耳打ちしてきた。
「素性が怪しい上に、足手まといだ。
第一、魔女についてきて何をすると言うのだ」
「(確かに・・・)でも、ディオは勇者だよ?」
「は?! 勇者?? こいつが!?」
ラースが思わず声を大にして言った。
魔女は一瞬、ギョッとした。
「(やばい、ディオが勇者だってこと
私しか知らない情報だった!)」
するとディオが返事をした。
「はいっっ!!今は農民ですけど!
魔女さまの勇者になります!!!」
「え」
今度こそ、ラースと魔女は顔を見合わせた。
「魔女の勇者?? そんなもの聞いたことないぞ」
ディオはポカン、とラースを見てから
空気清浄機のような爽やかな空気をまとって笑顔で言った。
「なしてネズミば しゃべってんだべ?
(ネズミってしゃべるんだ〜、すげ〜)」
「なんだと?! 私は魔女の使い魔だ!! 」
「めったらめんこいな〜。
あ゛〜、茶ぁん゛め゛な〜ぁ
(ネズミかわいいな〜、茶もうめー)」
おにぎり食べて、お茶飲んだ。
「いがったね(良かったね)。」
魔女は水筒を受け取りながら
ディオを見る。
「(・・・イケメンは何してもイケメン。
とは言ってもなあ〜・・・
ディオは初期装備すら身に付けてない。
なんとも頼りない。
けどディオは剣技のことを
上手になりたいとか言ってたな。)」
何気なく、魔女はディオから受け取った水筒のお茶を飲んだ。
「まずっ!にがっお茶ぬるっっ!!」
あのケトル野朗、回復茶だけじゃなく
普通のお茶ですらまともに淹れられないらしい。
その時だった。
「?!っ魔女!!お前っ!!!」
ラースの驚く声に
「魔女さま!!!たんげ光ってるっっ!!」
ディオが興奮して立ち上がっていた。
「は?!」
魔女、光ってるってよ。
*
「(わかったことがある。
接吻は、接吻じゃなくてもイケる。
つまりこれは、回し飲みの効果だと
思われ ー)」
だが、この効果の持続時間は3分なのか
ネズミですら3分行けたんだから
人間でイケメンで勇者だから
もう1時間ぐらい持続しちゃうんじゃないのか
とか
間接接吻って実際どうなの?ってところは
正直わからん。
しかし、魔女はそそくさと肩掛けかばんを開ける。
「(魔法使えるなら今だっ!!
急げ!!3分だと思って行動しなきゃ!)」
肩掛けカバンから大学ノートを取り出し
勇者その1(ディオ)のページを開く。
「(鉛筆で書き込んでおいてよかった。
基本情報だ。)」
ざっと見てー
ディオ(素性:農民:初期ステータス)Lv:6
「技量」15 (持って生まれた才能みたいなもの)
「持久力」12(スタミナとか頑丈さ、素早さ)
「生命力」9(攻撃として与えるダメージ)
「幸運」10(アイテム発見確率、呪いへの耐性、運の良さ)
「信仰」8(信仰度が高いほど、技量補正が強くなる)
「筋力」11(マッスル)
「精神力」8(メンタルの豆腐度←高いほど鋼のメンタル、勇気)
「愛」11(ラブ、慈愛の程度、信頼)
魔女は軽く悩む。
「じょ、ー魔女!」
「は、はいぃ!」
ラースの声が耳元で響いた。
コソコソと続けた。
「どうするつもりだ」
「何を」
「彼だ、勇者を名乗るあのー、」
「あ、ディオね。
えーだって、連れてけって言うしさあ
30キロ先の村行って帰ってこれるぐらい
スタミナあるし、足速いって言うし
牛の世話とか上手なんだって」
「牛の世話?・・・
戦闘にはなんの役にも立たないだろう。
そもそも最強のあなたに必要ない。私がいる。」
おー、おネズミさま、すんごい自信。
おネズミさまが牛の世話しちゃう?
苛立つようなラースに応えた。
「ラースがすごいのは事実だけどさぁ。
わからないよ?
ディオ、鍛えれば
すっごい強くなるかもしれな、い、し。」
言いながら、ひらめく。ピコーン。
「そうだよ!ーうん、鍛えればいいんだよ!
行きながら、鍛えればいいんだ!!」
「それはかなり無理があるのでは」
「っふ。ラース君。問題は
誰と一緒に行くか、だよ。
最強の魔女と、最強の相棒ラースがついてくんだよ?
もはや圧倒的じゃん。」
おネズミさま、まんざらでもなさげ。
魔女は、森の中から木の棒を持ってきた。
その棒をディオに向け、にっこり笑った。
「連れてきます」
ディオの体に、光が降った。
*
「えーっと、いいですかぁ?」
「はい!」
ディオに急遽こしらえたその辺の木の棒を
(魔女がステータスを確認後)
筋力と技量に見合った剣に変化させていた。
ブロードソードだ。
ブロードソードは幅広の剣だ。
これなら、大体の敵に対応できるだろう。
形状はサーベルに似ている。
「(重さは大体1.5キロ。
振り回すには若干重め、かな。)」
魔女は3分の魔法を使役する際
実は気付いてたことがあった。
魔女の家を具現化したときの多くは
“見たことある”ものや
”イメージできる”ものだった。
ほとんど、その通りに具現化できた。
ただし、アイテムの薬草や素材などは作れなかった。
だからこそ、魔女はディオを連れて行くことにした。
「(ディオ連れてけば呪いも早く解けるかも・・・)」
そして、抜け目なく思った。
「直接接吻は無理だが
間接接吻でいけるなら
ほぼ勝ち(は)確(実)だな」
魔女の作戦に変更はない、それどころか
自分を倒すはずの勇者が味方(未定)になった。
「(ディオの真意がわかんないな〜。
魔女の勇者ってなんだろ・・・。
でもまぁ、友好的だし
とりあえず一緒に行動してみよう)」
そんな思惑もある。
*
「ディオ。今から祠に向かうんだけど
そこへ行くまでにあなたにはレベルを上げてもらう。」
「レベル? 」
「そう、あなたを連れて行くためには
あなた自身も強くなってもらわないと困る。だから
今から実戦を踏んで、経験を上げるの。」
「じ、実戦て」
「適度に不死人出すから、戦って!
ゾンビじゃないよ? 不死人だよ!!」
「え」
魔女は不死人を出現させた。
一体だけ。
そして、当然
「脇をしめてぇ!!ちっがぁぁぁう!
足が止まってる、回り込みながら背中を狙うの!
隙ができるから、背中を刺して!
踏み込みがあまあああっっい!!」
個別指導だって、やってあげるのだ。
「っはっ、はっはっっ」
ディオは息を上げつつも
不死人の周りを回りながら、
隙である背中を狙ってる。
「(息が上がってるなぁ。
まだ、スタミナ不足か)」
しかし
「うぉああああっっっ!!!」
不死人の胸を剣が突き抜けた。
「!」
「やった」
不死人の背中を貫いた剣を
ディオは引き抜きながら蹴り倒した。
「(これですよ、これ。
これが見たかったんです、私)」
魔女、感動して泣きそう。
「ー、まだだ、ディオ!ー」
ラースが叫ぶ。
先輩風吹かして、おネズミさまも指導中。
ディオの真後ろには
先ほど倒れたはずの不死人が起き上がった。
「っ!」
「あぶなー」
ディオは素早くしゃがみ半回転しつつ
不死人の足目掛けて剣を振り抜いた。
どしゃっ。
不死人はその場に倒れ込み、動かなくなった。
「っっ!すっ、すごい、ーディオ、すごいよ?!」
勇者としての素質がありすぎた。
「(反射神経が神懸かってる。
やはり勇者だなぁ〜)」
魔女は自分の作成したキャラが
目の前で動いていることに感動していた。
ディオは両膝に手をつき
地面に向かって息を切らせている。
剣を持った状態で額の汗を拭い、顔を上げた。
疲れてるはずなのに 笑顔。
こっちまで(心が)笑顔ダダ漏れ。
苦しそうな顔してるのがなんか
悪いことしてるみたいでドキドキしちゃう。
ラースは魔女の肩で、言った。
「魔女、彼には素質がある。」
「うん」
「だが、我々には時間がない」
「わかってる。」
だからね。
「っっっっわぁぁぁぁぁ〜〜〜ぁぁ!!」
「ホラァ〜!一発で仕留めないと、かじられちゃうよ〜ぉ!」
ディオだけ道脇の森の中を疾走中。
魔女とラースは一本道を堂々歩行中。
森の中にだけ、不死人を出現させている。
もちろんレベル上げのためだ。
ゲームの中では主人公が強くなると
雑魚敵であっても同様に強くなる。
雑魚敵に”スタブ(突き刺し)”の一撃を負わせないと
戦いは終わらない。
背中からスタブを取ることをバックスタブという。
不死人一体あたり、倒した後、得られる経験値は17。
簡単に言えば
100体倒せば1700の経験値がディオには入る。
各ステータスのひとつを上げるためには経験値が20必要だから ー。
85もステ振りに充てられるのだ!
余裕でステータスが上げられる。
(100体倒せたら、な)
そんなわけでー、
魔女の地獄のレベ上げ特訓、兼、移動中でございま〜す。
予定では1時間で大体20体は倒せるはずだ。
祠まではこのペースで歩いて4時間弱。
あとはどこまで倒せるか、だ。
多ければ多いほどいい。
(本当にブラックな特訓になってしまった...ごめん、ディオ)
それなのに、ディオは音を上げるどころか
不死人に慣れてきたのか
持ち前の素早さと素質で
スタブを一発で仕留められるようになっていた。
「魔女、我々は歩く必要はないのでは?」
ラースは焦っているみたいだ。
「ん〜?祠には何もないからいいよ。精霊はいるだろうけど。
ー ラースが心配してるのは”弓”でしょ?」
「ー、」
ラースが黙った。
「”弓”は“金枝”がないとダメなのは知ってるでしょう?
あれはね、もうひとつ秘密があるんだよ。」
「?」
「だから大丈夫。
預言者は多分、私が行くまで何もできないはずだよ」
魔女は含み笑いを浮かべつつ
ディオを見た。
顎から滴り落ちる汗を腕で拭う姿も、いい。
けどー
肩掛けカバンの中から、タオルを手渡した。
ついでに水筒も手渡す。
「ディオ、
短時間でこれだけ強くなれると思ってなかった。
けど、まだ足りない。
あと、装備がね〜・・・
でも」
ディオは汗を拭いて、水筒に口を付け
魔女に微笑んだ。
「お茶、ありがとうございます」
水筒を返されて、魔女は思う。
「(頑張ってる人を
応援しても いいよね。・・・
これは人助け。
これは人助け。
よこしまな思いはない。
これは人助けなのだ。)」
言い聞かせて、ディオに背を向け
ぐいっっと水筒飲んだ。
「(これは事故。事故接吻だからっ!!)」
魔女、またも光る。
ディオはそんな魔女を見て
照れたように笑っていた。
*
魔女は知っている。
ディオには大好きな人がいる。
エレーミナルス」王国のお姫さまだ。
「(彼が付いて来る理由はー
助けたいのは、お姫さまだよね)」
思いながら
ゲーム内での装備をイメージしてた。
「(軽くて物理防御力もそこそこある装備がいい。
持久力低くても、丈夫で回避性能も高めにして
精神攻撃耐性もそこそこあって・・・)」
ー あなたの望みが ー
お姫さまを救えますように。
ディオの髪の色は濃い栗色。
瞳の色は青目、筋の通った鼻に
引き締まった口元だ。
それに合うような色をチョイスした。
いぶし銀の鉄の肩と揃いの胸当て。
装飾の浮き彫りや革ベルトの金具。
マントはアンデリダの森を抜ける風
森の勇者をあらわす 濃緑の光 ー
魔女の魔法で
牛の世話が得意な農民ディオは
今、(見た目だけは)完璧な勇者になった。
「装備の重量は慣れるまで重いかもしれないけど
森を抜けるまでにレベルを上げれば気にならなくなるから
頑張って。」
微笑んだ。
ディオは握り拳を作って、微笑み返した。
「はい!魔女さまの勇者として
がんばります!」
訛りも魔法で標準語装備しといた。
「さっき剣渡すとき、訛り直しといたから」
魔女が笑う。
ラースもこれには、にっこりだろう。
*
我は群衆の静かなる願いのまなざしの中を
沈黙し 歩く者
我は幾千の死の上に立ち
ときの太鼓が鳴り響く中を 祈る者
その道を
茨と小石が 行き交う
我は突き進む
神に我名を呼ばれぬとも
我は歩き続ける
そこに我の求むる場所などなかったとしても
導く言葉など ありはしない
残していく言葉など 砂の上に書いたも同じ
我 口をつぐむ真実に
目を開き 我 立ちぬ
海を割り 空を裂く
その真実が 邪悪な風に吹き荒れようとも
我は 勇む者なり
その真実に 目を開き
今 ここに立ちぬ




