309話 現場現物現実
現場に行くと、自分の設計して物が、どの辺りを作りにくそうにされているか良く分かって、反省していました。
工場の内階段を降りて、1階に降りてきた。
蚊帳? ではないな。
天井から大きな布を床まで吊り下げている。
「ああ。あれは、寒さ避けと言うか、暖気囲いです」
なるほど、まだ稼働していない場所が多いから、空間を仕切って寒さを凌いでいるのか。囲いの中には魔導ボイラーで暖房がされている。
囲いの外は、一抱えもあるほどの布袋が、たくさん置いてある。加工前後のアーキの葉か。
「この辺りに設備を置こうと理事長とも話していますが、どうでしょう?」
床材は、1辺30セルメトばかりの石材が敷き詰められている。
「じゃあ、ちょっと」
何度も足で、床を蹴りつける。
魔導感知で反応をみると、川が近い割に地盤は良いらしい。
「ふむ。締まっていて、良いかと思います」
魔導匠が、制約がなく良いとおっしゃっていたが、同意見だ。結構な設備が置けるだろうし、配置も自由だな。
「じゃあ、手作業ではあるが、今の現場も視てもらいます」
中に入ると、若干暖かい。
おっ。女性がいっぱい居た。20数人というところか。中には男性も居るが、概ね30歳代以降の女性が多いな。皆厚着だ。
オォォォ……なんだか知らないが、響めきが起こった。
作業の手を止めている。僕を指している人が何人も居るんだけど。
んん。どう収拾するか。挨拶した方がいいかな。
「こんにちは。皆さん、お仕事、お疲れさまです」
「「「「「ワァアア、キャァアアアア!!!!」」」」」
いや、キャーってどういうこと? ちょっとした騒ぎになっている。
「レオンさんじゃないか」
「ナラム君」
やや離れた所に、なつかしい顔が居た。夏以来だ。結構肌寒いのにえらく薄着だな。
「違うよ。みんな、この人は、男の人! レオンさんだよ」
「みんな、聞いてくれ。こちらは事業団の代表、トードウ商会のレオンさんだ」
「レオンです。よろしく」
ようやく歓声が止んだ。ああ、女性の誰かに間違われたらしい。
すると、7、8人のクラン員が寄ってきた
「なんだそうだったか。そうだったか」
「いやぁ、それでも……」
何のことだ?
「ナラム坊が言っていたのは、本当だったんだ」
「本当に、男だかぁ」
「うむ。すごい男前だなあ」
「いやあ、女物を着たら、お嬢にならないか?」
「それは、それでいいな」
「ウチに、10歳の娘が居るが、もらってくれないか?」
いや10歳は、勘弁してほしい。
「へぇぇぇえ」
よくわからないけれど、歓迎されているらしい。
「さあ、さ。みなさん。王都では茶葉を待っていますよ」
「そうだったわぁ」
散っていった。
あれだけの人数で囲まれると、圧倒されるね。
「じゃあ、仮の工程を説明しましょう。まずは選別です」
木の平台の上に、葉を広げている。それを目視で虫食いや傷があるものを選り分けている。あっちは、弾いた葉か。
「選り分けた葉を、ここで洗います」
ふた抱えもあるでかい樽に水を張り、そこへ葉を入れてこれまたデカい櫂でかき混ぜている。やっているのは、ナラム君だ。
「かき混ぜるのは、力がいるだろう?」
「いやあ、なんてことはないですよ」
そうかなあ。寒いのにも拘わらず、上半身はシャツだけになって、肩やら背中やらから湯気が上がっている。
「がんばって」
「うん。レオンさんも」
「じゃあ、次は」
網を張った四角い箱で葉を乾かし、そのあと手で揉みつつ、何段も積み重なった蒸し器で蒸し、一部は炭火で焙煎を掛けていた。
その後、裏にある魔導蒸気ボイラー小屋などを見せてもらった。
†
「では。設備ができたときに、また来ます」
「そうですか。じゃあ、これを持っていってください」
「これは?」
結構重い。
「干しアーキです」
「ありがとうございます」
ちゃんと笑えていただろうか。
工場を後にしてガライザーの町中に入る。そして町を通り抜けて、ガライザー遊園へ向かう。
日が暮れかかった時間帯だ、街道の両側に木立が迫ってくると、急に暗くなってきた。行き交う馬車もほぼ絶えた。
おっと、靴の紐を締め直す。
すると、にわかに後から足音が響き、けたたましく抜き去って僕を囲んだ。
「トードウ商会のレオンだな」
顔を布で隠し、手を剣の柄に掛けている。
5人か。
「そうだが。おまえたちは?」
「油断したな。こんなとこまで来やがって。止まれ」
無視して、囲みをすりぬけようとすると。
「止まれと言っているだろう」
鞘走りの音とともに、白刃が閃いた。
大袈裟に上体を反らして避けると、全員が剣を抜いた。
よしよし。
「動くな!」
見ているな───
≪紫電 v2.5 ×5≫
賊達の膝のまわりに、鈍い発動紋が浮かんだ刹那、青白い閃光が走った。
「ムァ!」
「ウグァァァア」
情けないおめきを上げると、3人はすっ転び、2人は跪いた。
「おのれぇ!」
ほぉ。上半身だけで斬り掛かろうとしている。
≪黒洞々 v3.2 ×10≫
「グァ」
ガシャガシャと鈍い音がして、次々と得物を取り落としていた。剣が突然10倍の重さになれば持ってなど居られない。
その時、町の方から駆ける音が近付いて来た。多少重力を緩めてやる
「おぉい!」
「レオン殿。無事か?」
冒険者だ。僕を陰ながら警護してくれるように、商工会を出たあとに依頼してあったのだ。
ようやく駆け付けてきた。
3人。
襲いかかるまでは、尾行してくるであろう賊に気取られぬようにと依頼してあって、彼らはそれを忠実に遵守してくれたというわけだ。
「ええ。もちろん」
「これは?」
賊達は全員、地面へ情けなく寝そべって、呻き声を上げている。
「魔術で押さえ付けています。ご覧の通り、賊は剣を出して襲ってきました。僕は魔術士なので、正当防衛の要件を満たしていることを、後程証言を願います」
「俺達に目撃者になれということだったのか。スペリオールが、わざわざ警護をしてくれというのは変だと思ったんだ」
「まあ。そういうことです。これで縛り上げてください」
荒縄を出庫して3人に渡した。
†
街道巡察使の詰所に連行していった。
「つまり。あなたは、あの5人が襲ってくると予測して、わざと人気のないところまでおびき出した。そして、予測どおり襲われたと」
「はい」
商工会を出た段階で、尾行がついた。工場を出たときに、それが5人に増えたからな。
そのあと冒険者ギルド前を通ったが、中に入らなかったことが合図で、警護が始まった。
「そういうことは、やめてもらいたいですな。いくらあなたが、上級の冒険者だとしても」
「確かに」
「失礼します」
「おう。何か出たか?」
「やつらの根城にしていた貸別荘から、これが」
ジャケットか。
「この刺繍を見て下さい」
入ってきた捜査官が、前袷をめくって裏地を見せる。
「なんだ、この意匠は」
「これが5着ありました」
風を可視化したような飾り刺繍だ。
「サロメアの颶風……」
「なんだって。サロメアの颶風だと! それは確かか? レオンさん」
「ええ、サロメア大学で5月に起こった事件のあと、サロメア新報で同じ紋章を見ました。調べてもらえばわかるかと」
「不敬罪未遂で、全国手配になっているやつらの残党ということか?」
「それは、あなた方がお調べになることでは?」
「むぅ。その通りだ。おぉい、王都へ早馬を出せ!」
†
翌日の昼過ぎ。王都外区の館へ帰ってきた。
玄関ではなく、二階のバルコニーに降り立ち、そのまま中に入った。
エストに渡した盾を光らせて、彼女を呼び付ける。
「お帰りなさいませ」
「ただいま。悪いね、昨夜のうちに帰ってくるつもりだったんだけど」
「いえ。お知らせいただきましたので」
昨夜帰られなくなった段階で、ファクシミリ魔術を送って知らせておいた。
「あのう。代表が応接室でお待ちですが」
「うわぁ」
もちろん、代表にもざっと何が起こったかを、連絡しておいたのだが。
エストがテキパキと着替えを出してくれた。
「ご昼食は?」
「食べていない」
「では、さっそく用意をさせます。あのう」
「ん?」
「お食事しながらお話しした方が、すこしは勢いが緩むかと」
「おう、良い考えだ。じゃあ、代表にもお昼を出してくれる?」
「承りました」
エストが珍しくほほえんだ。
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訂正履歴
2026/04/21 誤字訂正 (n28lxa8さん 布団圧縮袋さん ありがとうございます)





