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制御技術者転生 モデルベース開発が魔術革命をもたらす WEB版【書籍発売中】  作者: 新田 勇弥
8章 青年期 青雲編I

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309話 現場現物現実

現場に行くと、自分の設計して物が、どの辺りを作りにくそうにされているか良く分かって、反省していました。

 工場の内階段を降りて、1階に降りてきた。

 蚊帳? ではないな。

 天井から大きな布を床まで吊り下げている。

「ああ。あれは、寒さ避けと言うか、暖気囲いです」

 なるほど、まだ稼働していない場所が多いから、空間を仕切って寒さを凌いでいるのか。囲いの中には魔導ボイラーで暖房がされている。

 囲いの外は、一抱えもあるほどの布袋が、たくさん置いてある。加工前後のアーキの葉か。


「この辺りに設備を置こうと理事長とも話していますが、どうでしょう?」

 床材は、1辺30セルメトばかりの石材が敷き詰められている。

「じゃあ、ちょっと」

 何度も足で、床を蹴りつける。

 魔導感知で反応をみると、川が近い割に地盤は良いらしい。

「ふむ。締まっていて、良いかと思います」

 魔導匠が、制約がなく良いとおっしゃっていたが、同意見だ。結構な設備が置けるだろうし、配置も自由だな。

「じゃあ、手作業ではあるが、今の現場も視てもらいます」

 中に入ると、若干暖かい。


 おっ。女性がいっぱい居た。20数人というところか。中には男性も居るが、概ね30歳代以降の女性が多いな。皆厚着だ。

 オォォォ……なんだか知らないが、響めきが起こった。

 作業の手を止めている。僕を指している人が何人も居るんだけど。


 んん。どう収拾するか。挨拶した方がいいかな。

「こんにちは。皆さん、お仕事、お疲れさまです」

「「「「「ワァアア、キャァアアアア!!!!」」」」」


 いや、キャーってどういうこと? ちょっとした騒ぎになっている。

「レオンさんじゃないか」

「ナラム君」

 やや離れた所に、なつかしい顔が居た。夏以来だ。結構肌寒いのにえらく薄着だな。


「違うよ。みんな、この人は、男の人! レオンさんだよ」

「みんな、聞いてくれ。こちらは事業団の代表、トードウ商会のレオンさんだ」

「レオンです。よろしく」

 ようやく歓声が止んだ。ああ、女性の誰かに間違われたらしい。

 すると、7、8人のクラン員が寄ってきた


「なんだそうだったか。そうだったか」

「いやぁ、それでも……」

 何のことだ?

「ナラム坊が言っていたのは、本当だったんだ」

「本当に、男だかぁ」

「うむ。すごい男前だなあ」

「いやあ、女物を着たら、お嬢にならないか?」

「それは、それでいいな」

「ウチに、10歳の娘が居るが、もらってくれないか?」

 いや10歳は、勘弁してほしい。

「へぇぇぇえ」

 よくわからないけれど、歓迎されているらしい。

「さあ、さ。みなさん。王都では茶葉を待っていますよ」

「そうだったわぁ」

 散っていった。

 あれだけの人数で囲まれると、圧倒されるね。


「じゃあ、仮の工程を説明しましょう。まずは選別です」

 木の平台の上に、葉を広げている。それを目視で虫食いや傷があるものを選り分けている。あっちは、弾いた葉か。

「選り分けた葉を、ここで洗います」

 ふた抱えもあるでかい樽に水を張り、そこへ葉を入れてこれまたデカい櫂でかき混ぜている。やっているのは、ナラム君だ。


「かき混ぜるのは、力がいるだろう?」

「いやあ、なんてことはないですよ」

 そうかなあ。寒いのにも拘わらず、上半身はシャツだけになって、肩やら背中やらから湯気が上がっている。

「がんばって」

「うん。レオンさんも」


「じゃあ、次は」

 網を張った四角い箱で葉を乾かし、そのあと手で揉みつつ、何段も積み重なった蒸し器で蒸し、一部は炭火で焙煎を掛けていた。

 その後、裏にある魔導蒸気ボイラー小屋などを見せてもらった。


     †


「では。設備ができたときに、また来ます」

「そうですか。じゃあ、これを持っていってください」

「これは?」

 結構重い。

「干しアーキです」

「ありがとうございます」

 ちゃんと笑えていただろうか。


 工場を後にしてガライザーの町中に入る。そして町を通り抜けて、ガライザー遊園へ向かう。

 日が暮れかかった時間帯だ、街道の両側に木立が迫ってくると、急に暗くなってきた。行き交う馬車もほぼ絶えた。

 おっと、靴の紐を締め直す。

 すると、にわかに後から足音が響き、けたたましく抜き去って僕を囲んだ。


「トードウ商会のレオンだな」

 顔を布で隠し、手を剣の柄に掛けている。

 5人か。

「そうだが。おまえたちは?」

「油断したな。こんなとこまで来やがって。止まれ」

 無視して、囲みをすりぬけようとすると。


「止まれと言っているだろう」

 鞘走りの音とともに、白刃が閃いた。

 大袈裟に上体を反らして避けると、全員が剣を抜いた。

 よしよし。

「動くな!」

 見ているな───


紫電(タレス) v2.5 ×5≫

 賊達の膝のまわりに、鈍い発動紋が浮かんだ刹那、青白い閃光が走った。

「ムァ!」

「ウグァァァア」

 情けないおめきを上げると、3人はすっ転び、2人は跪いた。


「おのれぇ!」

 ほぉ。上半身だけで斬り掛かろうとしている。

黒洞々(シュエラー) v3.2 ×10≫

「グァ」

 ガシャガシャと鈍い音がして、次々と得物を取り落としていた。剣が突然10倍の重さになれば持ってなど居られない。

 その時、町の方から駆ける音が近付いて来た。多少重力を緩めてやる


「おぉい!」

「レオン殿。無事か?」

 冒険者だ。僕を陰ながら警護してくれるように、商工会を出たあとに依頼してあったのだ。

 ようやく駆け付けてきた。

 3人。

 襲いかかるまでは、尾行してくるであろう賊に気取られぬようにと依頼してあって、彼らはそれを忠実に遵守してくれたというわけだ。


「ええ。もちろん」

「これは?」

 賊達は全員、地面へ情けなく寝そべって、呻き声を上げている。

「魔術で押さえ付けています。ご覧の通り、賊は剣を出して襲ってきました。僕は魔術士なので、正当防衛の要件を満たしていることを、後程証言を願います」


「俺達に目撃者になれということだったのか。スペリオール(上級者)が、わざわざ警護をしてくれというのは変だと思ったんだ」

「まあ。そういうことです。これで縛り上げてください」

 荒縄を出庫して3人に渡した。


     †


 街道巡察使の詰所に連行していった。

「つまり。あなたは、あの5人が襲ってくると予測して、わざと人気のないところまでおびき出した。そして、予測どおり襲われたと」

「はい」

 商工会を出た段階で、尾行がついた。工場を出たときに、それが5人に増えたからな。

 そのあと冒険者ギルド前を通ったが、中に入らなかったことが合図で、警護が始まった。


「そういうことは、やめてもらいたいですな。いくらあなたが、上級の冒険者だとしても」

「確かに」

「失礼します」

「おう。何か出たか?」

「やつらの根城にしていた貸別荘から、これが」

 ジャケットか。


「この刺繍を見て下さい」

 入ってきた捜査官が、前袷をめくって裏地を見せる。

「なんだ、この意匠は」

「これが5着ありました」

 風を可視化したような飾り刺繍だ。

「サロメアの颶風……」


「なんだって。サロメアの颶風だと! それは確かか? レオンさん」

「ええ、サロメア大学で5月に起こった事件のあと、サロメア新報で同じ紋章を見ました。調べてもらえばわかるかと」

「不敬罪未遂で、全国手配になっているやつらの残党ということか?」

「それは、あなた方がお調べになることでは?」

「むぅ。その通りだ。おぉい、王都へ早馬を出せ!」


     †


 翌日の昼過ぎ。王都外区の館へ帰ってきた。

 玄関ではなく、二階のバルコニーに降り立ち、そのまま中に入った。

 エストに渡した盾を光らせて、彼女を呼び付ける。


「お帰りなさいませ」

「ただいま。悪いね、昨夜のうちに帰ってくるつもりだったんだけど」

「いえ。お知らせいただきましたので」

 昨夜帰られなくなった段階で、ファクシミリ魔術を送って知らせておいた。

「あのう。代表が応接室でお待ちですが」

「うわぁ」

 もちろん、代表にもざっと何が起こったかを、連絡しておいたのだが。


 エストがテキパキと着替えを出してくれた。

「ご昼食は?」

「食べていない」

「では、さっそく用意をさせます。あのう」

「ん?」


「お食事しながらお話しした方が、すこしは勢いが緩むかと」

「おう、良い考えだ。じゃあ、代表にもお昼を出してくれる?」

「承りました」

 エストが珍しくほほえんだ。


お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


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訂正履歴

2026/04/21 誤字訂正 (n28lxa8さん 布団圧縮袋さん ありがとうございます) 

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表紙絵
― 新着の感想 ―
アデルさん……そこまでいかなくても歌劇団の人に間違えられたのかな?これでアデル達が興行先で受ける歓声と熱力(圧力?)を体験出来ましたね。
感想一覧
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