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(4)素朴

 横倒しになった木の板の上に綿毛の雪が一粒落ちて、数秒後には黒い染みを残して消えた。マルクの手の甲にも雪は降り積もり、水滴とも言えないぐらいに小さな水の塊になって、同じように粒は儚く消えていく。


「降ってきたな」


 馬の鼻先を撫でながらジョンスが空を見上げ、マルクも馬車に寄りかかったまま頷いた。服の袖から入り込んでくる冷気も心なしか増した気がする。音もなく降り続ける細雪に音を吸われて、アシル村はますます廃墟じみた雰囲気を醸し出していた。


 白霧の森の中で数えていた日数が間違っていなければ、マルクたちがカエヌディを経ってから四十五日が経過した。大寒の月はとうに終わり、もう二週間もすれば雪はみぞれに、そして雨となって暖かな季節が近づいてくるだろう。この時期であれば遠出していた冬鳥や冬草を主食にした動物たちがヴィルニア大陸に帰ってくるので、ドレイクの教えの通りなら、狩りの獲物には困らないはずである。だが如何せん、マルクはカエヌディでしか暮らしたことがないため、この辺りの動物の生態やら狩の方法やらはさっぱりだ。知識として動物がいると分かっていても、今のアシル村の人々全員を養えるほどの成果を上げられるかどうかは、また別問題であったのだ。


 なぜディマオンが村人を連れて、マルクやジョンスを連れて行かなかったのかなんとなくわかってきた。ここで暮らし、長く狩りの伝統を受け継いできた村人のほうがはるかに有用性があろうというものだ。そうと分かっていても、マルクはマフラーにうずめた顔をしかめるのをやめられなかった。握りしめた剣から手を放すことが出来ないので、ますます眉間に皺が寄る。


「……あの」


 ふと、下の方向から舌っ足らずの声が聞こえた。はっと皺を広げてそちらを見れば、胸元で両手を握りしめたボロボロの子供がいた。


「どうしたんだ?」


 何とか険のない声が出てきてマルクはほっとした。子供もマルクの様子に緊張をほぐして、今度は恥ずかしそうに顔をうつむけた。


「あの……クジマ、たすけてくれてありがと。ごはんもくれて、ありがとう」


 マルクはまたぞろ顔をしかめそうになったので、どうにか引きつった笑顔を張り付けて少しだけ身をかがめた。


「いいんだ。みんなで食べれたか?」

「うん。でもおかあさん、すこししかたべなかった」


 大きく肩を落とした子供は、よく見ればミレイユと同い年ぐらいの男の子らしかった。ちらりと少年から少し離れた掘っ立て小屋のほうに視線をやると、彼よりもさらに幼い子供たちが柱に隠れながら様子をうかがっていた。彼らの姿とやせ細ったミレイユ、果ては子供の頃飢えに苦しんだ自分たちの姿が重なって、マルクは喉の奥が歪につぶれた気がした。


「……大丈夫だよ。夜になったら、きっとクジマたちがいっぱい食べ物持ってくるからな」

「ほんとう?」

「ああ。だから今は遊ぶことだけ考えればいいんだ。何も心配しなくていい」


 どの口が言うのだろう。自己嫌悪で冷や汗塗れだったが、目の前の少年はそれで納得したらしく、控えめに笑いながら両手を背中の後ろに回した。


「そっか、ねぇ、うしろのこ、あそびにさそっていい?」


 マルクの後ろには人見知りを発揮してずっと隠れているミレイユがいる。そういえばディマオンにはミレイユと一緒に子供たちと遊んで来いと言われたのだった。村人に食料を渡した後だったから、すっかり忘れてしまっていた。


「ミレイユ」

「やっ」

「いやいや、誘ってくれるって」

「いやっ」


 頑なに首を振るミレイユに困っていると、静観していたジョンスがにやにやしながらこちらに近づいてきた。


「なんすかミレイユちゃん、恥ずかしいの? かわいいところあるっすねぇ」

「もふもふうるさい」

「えーそんなこと言っちゃう?」


 なんだろう、果てしなくジョンスの口調が怪しいおっさんのそれに酷似しすぎていて、マルクは思わずミレイユをかばいながら後ずさった。


「ちょちょ、なんで逃げるんすか!」

「犯罪臭がするんだよ」

「ひどいっす! せっかく助け舟を出してやろうと思ったのに!」

「やり方ってもんがあるだろ!」

「じゃあそのやり方っての見せて欲しいっす!」


 子供たちそっちのけで馬鹿丸出しの口論が始まってすぐ、後ろと前からけらけらと高い笑い声がした。


「あはは! もふもふ変態さんみたいなこと言ってる!」

「へんなおとなー!」


 こんなくだらないことで笑われてしまっては、大人の体裁を取り繕う事でさえばかばかしくなってくる。マルクとジョンスは顔を見合わせた後、極悪人のような顔になって子供たちを振り返った。


「大人を馬鹿にするやつはぁ……」

「魔物に食べられちまうっすよ! がおー!」

「「きゃー!」」


 嬉しそうにはしゃぎながら逃げ出す子供たちを大人二人で追い掛け回す。途中、羨ましそうに陰から見つめてくる子供まで巻き込んで、マルクたちは名前のない追いかけっこを始めた。



……


 ………


「ねぇねぇ、どこから来たの!?」

「馬車の中なに入ってるの!?」

「こんどはむこうであそぼうよ!」

「……ちょっと、休ませて」

「すわってんならやすんでるでしょー!」


 細雪が本格的に大粒になってきたころ、マルクとジョンスは体力が尽きて馬車の横に座り込んでいた。魔物と相対するときと、子供と遊ぶときの体力は全くの別物らしい。中腰で走り続けたり、子供を背負ったまま全力疾走したり、四つん這いで馬の真似をしたりなどと、普段しない動きばかりで足腰がバキバキである。おかげで、止まらない子供たちの要求や質問にマルクは苦笑いしか返せず、ジョンスは引きつった顔で適当に相槌を打つしかできなかった。最初こそ律儀に子供たちの声に答えていたのだが、相手をすればするほど子供たちはこちらに食いついてきて全く終わりが見えないのだ。

 愛想笑いで上げっぱなしの頬が限界を迎えたころ、横にいたジョンスがぼそりとこちらに耳打ちしてきた。


「なぁおい、こいつらどっかに連れてってくれよ」

「おまえが行けって言い出しっぺ」

「やだっすよオレ子供嫌いだし、あとディマオンさんに馬番頼まれてるし」

「ならここで遊んでやればいいだろ」

「いやいやいやいや」


肩をどつき合いながらお互いにばちばちとにらみ合っていると、遠くからばたばたとミレイユが走ってくるのが見えた。


「マルク! ヨランダが呼んでるよ!」

「うん、今行く」


 マルクは笑顔で子供たちをかき分けてミレイユへ歩み寄る。それを見た子供たちは不満そうな声を上げた。


「えー、いっちゃうのー?」

「ごめんな。あとはそっちのお兄ちゃんが遊んでくれるってよ」


 言いながら、くるりとジョンスのほうを振り返った。


「じゃあな、がんばれよジョンス!」

「オマエマジで、帰ったら覚えてろぉ!」


 ジョンスの負け惜しみを背中に受けながら、マルクはミレイユとともに村の奥へと歩き出そうとした。だが、その途中でぐん、とミレイユが不自然に動きを止めたので、マルクは驚いてそちらの方向を凝視した。


 そこに居たのは、ミレイユの細い腕を強く握りしめた老婆だった。


「あの、おばあさん? おれたち今急いでるんですけど」


 白くなるほど握りしめられたミレイユの腕があまりにも痛そうで、マルクは思わず刺々しい口調で文句をいいつつ、老婆の手を振りほどいた。見た目以上に力が強かったが、老婆はマルクの姿を見るなりすぐに手を放して、ずりずりと曲がった足で後ろに下がった。


「おお、おお、すまんの、あまりにもきれいな子じゃったからの」


 シミと皺だらけの顔は平たく、切り株のようであった。そして怪しげににっかりと笑う口の中から黄色くぼろぼろになった歯が見える。至近距離からそれを見てしまったミレイユは明らかにおびえていて、マルクはすぐに彼女を自分の背に庇った。


「おお怖いの。怖がらせたの。すまんかった。なアお嬢さん、きれいなお嫁さんに興味はないかえ?」

「……急いでるんで」


 マルクはミレイユを抱っこして、会釈もそこそこに走り出した。


 老婆が見えなくなるまで移動してからマルクはミレイユを下ろし、さっきまで握りしめられていた細い腕の様子を見た。


「大丈夫かい」

「痛かった……」


 ミレイユは顔をしかめながら赤くなってしまった腕をさすり、眼の縁にうっすらと涙を溜めた。その姿を見て我慢が出来なくなり、戻って一つ文句でも行ってやろうかとマルクは踵を返しかけた。だが、それをミレイユの小さな手が止めた。


「いこ! ヨランダはこっち!」

「……うん」


 気丈にふるまおうとするミレイユの小さな背中を見下ろしていると、頭にまで上がっていた熱が急激に冷めて、代わりに乾ききった虚しさがこみ上げてきた。ミレイユにかけてあげられる優しい言葉もろくに浮かばず、文句を言ってやれない自分が情けなかった。こういう時にディマオンならどうするだろうと考えてみたが、浮かぶものはどれも自分にできるものじゃなく、余計に虚しさを積み重ねただけだった。


 ヨランダがいるという掘っ立て小屋は、村の中でもまるで外から隠れるように木が密集した場所に建てられていた。規模は大きくないものの、五人ぐらいの大人が並んで眠れるぐらいの大きさだ。入口には扉の代わりに破れた垂れ幕が下げられており、村にあった建物よりは頑丈そうな作りであった。


「なんか、変だな……」

「なにが?」


身体を傾けるようにしてミレイユがこちらの顔を見上げてきて、マルクはどう答えたものかと、曲げた人差し指を額へ押し当てた。


「うーん、うまく言葉にできないが、どこかが不自然じゃないかと思って」

「そう?」


 ミレイユは目を大きく開けてきょろきょろと見回したが、小さくすぼめた口は不満げなまま変わることはなかった。


「わかんない」

「ああ、おれもよく分からない。それで、ヨランダはここでいいのかい?」

「うん! こっち!」


 入り口をくぐって中に入ると、薬草のつんとした香りと、長く体を洗っていない人間独特の饐えた匂いがした。思わず鼻を覆いたくなるのをこらえながら奥へ一歩踏み込んでみると、まったく灯りのない部屋の中で淡く魔力を光らせるヨランダの姿があった。手足を包帯でぐるぐる巻きにされた大人たちの狭い枕もとで、ヨランダは魔法陣が書かれた絵巻を部屋の隅まで届くように広げた状態でずっと目をつぶっていた。


話しかけるのも憚られるほどの神聖な光景に思わず息を呑むと、ヨランダの手元の魔法陣がより一層眩く輝きだした。泥で汚れた壁の隅々までが薄黄緑に照らされて、怪我人の傷口からも光の粒が溢れ出した。


「すごい……」


 思わず言葉を漏らすミレイユにマルクも無言でうなずいた。怪我人の傷口は包帯の上からでもわかるほどみるみる修復され、布を汚していた血液まで光に分解され、空中へ魔素に紛れて霧散していく。


 やがて魔力がすべて散って部屋が真っ暗になったころ、ほっと奥のほうでヨランダが息をつく気配がした。


「ヨランダさん」


 声を掛けると、闇の中で布擦れの音が大きく響いた。しばらくすると女性の生白い手と、ろうそくのような小さな光が浮かび上がり、再び部屋の中の輪郭をうっすらと浮かび上がらせた。


「マルク。ごめんなさいね、急に呼び出してしまって」

「いえ……それより、治療のほうはどうですか」

「うまくいったわ。ここが最後のグループよ。あとは安静にして、熱が引くのを待つだけだわ」

「そうですか。流石ですね、一気に五人の治療ができるだなんて」

「……ええ、そうね」


 さしものヨランダも、連続での治癒魔法の行使には疲れたようで、光に浮かび上がる彼女の目元が少しだけ窪んで見えた。

 冒険者の常識についてマルクはあまり詳しくないが、治癒魔法は通常の魔法よりもかなりの魔力と気力を使うのだそうだ。少なくともここにいる五人の傷を完璧に治した彼女は尋常ではない力を持っていることは確かだ。


「早く馬車で休んだほうがいいですよ」

「そうさせてもらうわ。でもその前に、ちょっと外に出て頂戴」

「あ、はい」


 マルクは一足先に外に出て、ヨランダの足元を照らすように出入り口のぼろ布を持ち上げた。その下をくぐってミレイユとヨランダが出てきて、ようやく建物内の異臭が鼻から離れていった。


「はぁ……やっぱり外が一番だわ」


 ヨランダはぐっと腕を伸ばしたり肩を回したりして身体をほぐすと、マルクとミレイユに手招きをしながら掘っ立て小屋のない開けた方向へと歩き始めた。村から離れたら魔物に襲われるのでは、と心配もしたが、ヨランダもそんなことは分かっているだろうし、彼女がいれば大抵の危険は何とかなるだろう。マルクはちらりと村のほうをうかがった後、小走りでヨランダの後ろを追いかけた。


 白霧の森とは違って、ここの森は緑色の葉が茂って幹が黒い。そのくせ背が高いので、上を見上げると空に吸い込まれそうで、壁に当たりそうな不可思議な雰囲気があった。かと言って正面を見ていようものなら、白い地面に浮かぶ縦じまの木々の群れの錯覚で、ずっと奥まで足が引っ張られていくような気がして落ち着かなかった。


「マルクにとっては初めてよね。色のある自然を見るのは」


 唐突に話しかけてきたヨランダの声は冴え冴えとしていて、マルクは思わず腹の上で腕を組んだ。


「え、ええ。写真とか、絵でこういう景色は見た事ありますけど、実物は……」

「そう。私も始めて外に出たときは驚いたわ。木だけじゃない、地面も、動物にも、まるで人間のように色がある。常識はずれで落ち着かないけど、目が離せないでしょう」

「はい……」


 木々の隙間を縫って唸る風が走り寄ってきた。それはマルクたちの服を少し掠めただけで、延々と続く木々の縦じま模様の向こうめがけて、何度も何度も走ってきては去っていく。その間、マルクと一緒についてきたミレイユは心細そうにこちらの服の裾をつかんで、転ばぬようにずっと足元を見つめていた。


「そろそろいいかしらね」


 ヨランダは足を止め、手ごろな場所にあった木の幹へ背中から寄りかかった。その拍子に髪の隙間から見えたヨランダの眼光はなぜか鋭さがこもっており、マルクは睨まれているような心地でおずおずと同じように木に寄りかかった。


「貴方には、この村の風習を話しておかないとね」

「村の風習、ですか」

「ええ。ここの村人はカエヌディと同じく、狩りをして生活してるわ。今よりもう少し温かくなれば、木の実を拾って食べることもあるの。でも、貴方も分かっている通り、この辺りはあまり食べるものがないでしょう。カエヌディのように農耕ができる環境もないから、なおのことね」

「彼らの生活と、風習に何の関係が?」

「大いに関係があるわ」


 ざくり、とヨランダは雪につま先を立てて、少し身をかがめるようにしてマルクのほうを見つめてきた。ヨランダから魔物を前にしたときのような異質な真剣さを感じ取って、マルクの喉から不器用な笛が鳴った。


「ねぇマルク。食べ物がないとき、貴方は真っ先にどうするの?」

「それは……外に、狩に出て行くしかないでしょう」

「それでも足りなかったら?」


 マルクは口を開きかけて、すぐに歯を食いしばった。

 アシル村にたどり着く前に、自分は散々残りの食料のことを考えていた。旅の初めはまだよかった。必要最低限の人員だったから。だがその後にミレイユが増え、クジマを拾って、今まで以上に目減りするようになった食料を見て、思うまいと心を律しても、思ってしまった事があった。

そして、いま求められている答えもまた、思ってはいけないことであるのだ。


 もし、食べ物がなくなったら。


「……誰か一人、口減らしをするしか、ない」

「その通りよ」


 正しい答えを聞けたからかヨランダから発される剣呑さが引いた。しかしマルクは息苦しいままで、変に息を吸い込んだせいで肺が凍ってしまったんじゃないかと、半ば真面目に考えてしまうぐらいだった。


 極寒の地域に住む人々にとっては珍しい話ではない。子供や老人を意図的に森に放置したり、魔物がいる場所へ送ったり、様々な手段で無駄を捨てて、食い扶持をなんとか繋いできた。カエヌディの歴史にもそうした非人道的な手段を取った記録は残されているのだから、アシル村でもそれが行われていても不思議じゃない。

 そう言い聞かせても、マルクは瞬きするたびに浮かぶアシル村の子供たちの笑顔に苦しめられた。一見平和そうに見える村の裏事情なんて、できれば知らないままでいたかったのが本音だ。それでも、ヨランダがこうも険しい顔をして人目を忍んでまで語るぐらいなのだから、よく考えなくてはならない。


深く、凍らないようにゆっくりと肺を膨らませて冷静になった後、マルクは視界の斜め上にヨランダを入れながら小さく問うた。


「ヨランダさんは、近いうちにアシル村から口減らしが出ると言いたいんですか」

「ええ。もしかしたらもうやっているかもしれないけれど。この村の口減らしの方法は、少し特殊だから」

「……どうしてそんな話をおれに」

「村のことには、あまり口出しをしてほしくないから。土着の風習や歴史に私たち冒険者は口出しをしてはいけないのよ」

 

 ヨランダは身体を起こすと、マルクの傍へ歩み寄って真っすぐとこちらを見上げてきた。


「マルク。村人が村人へ、何か悪いことをしようとしていても、見て見ぬふりをするのよ。どんなに残酷なことでも」

「そんな」

「嫌でも納得して、約束するの。ここでは私たちの常識は通じないのよ」


 彼女は正論を言っている。以前はともかく今の時代のカエヌディでは、口減らしで誰が消えたという話は全く聞いていないし、行う理由もないぐらい国は豊かになった。対してアシル村は決して豊かではない。むしろ今は追い詰められて、食うに困るほどである。常識が違うのは当たり前だと、頭では分かっているが……。


どうしても頷けないマルクの様子に、ヨランダは口角を下げてきゅっと眉をひそめた。


「もう一つ付け加えておくわね。もし私たちの誰かが村人になにかされそうになったら、躊躇いなく抵抗していいわ。抵抗の度合いは貴方に任せるけれど、その先のことも、しっかり考えて行動して」


 それからマルクの傍にいるミレイユに目線を合わせて、比較的穏やかな口調でこう言い聞かせた。


「ミレイユ。絶対に一人にならないで。必ず私たちの誰かと一緒にいてね」


 ミレイユは顔をうつむけながらマルクの服の裾をぐいぐいと引っ張った後、半分顔を布で隠すようにして首を傾げた。


「……みんなと遊んじゃダメ?」

「それぐらいならいいけれど、絶対に目が届く場所にいてね」


 まるで、口減らし以外にももっと良くないことが起きるような言い草だ。

 マルクはそのことについて問おうとしたが、ヨランダの愁いを帯びた横顔を見て諦めた。聞いたところでまた彼女を困らせるだけだろうし、必要ないから、自分に話そうとしないのだ。彼女の選択はきっと間違っていない。だってヨランダはミスリル級だから。


 そう自分に言い聞かせてはみたものの、マルクはしばらく村の方向へ足を向けようとは思えなかった。

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