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(3)雪の先

 意外と早くできたので、今回だけ早めに投稿します。

(*´∀`*)

「………よっし、これでくっついたぞ!」


 横倒しにした馬車の新しいブレーキを取り付け、元の位置に戻し終わったディマオンが終わりを告げた。完成した馬車を見たマルクとジョンスは拍手をして、遅れて、意味がよくわかっていなそうな顔でミレイユもにぎやかしとばかりに手を叩いた。

 魔物の骨をブレーキ代わりに加工するのには骨が折れたが、あれだけ硬ければもう壊れる心配もないだろう。あとはしっかり機能するかどうかだけである。


「早速動かしてみて」

「はい!」


 ヨランダに急かされて、マルクは手早く馬と御者席を紐で繋いで、軽く鞭を振るった。

 約一日ぶりの仕事に馬たちは面倒くさげにしながらも、しっぽを千切れんばかりに振り回しながら深い雪の中を一歩一歩進み始めた。それから止まるように指示を出しながらブレーキを踏んでみると、少しクセはあったものの、しっかりと馬車は止まることができた。マルクは思わず御者席から身を乗り出してディマオンを振り返った。


「完璧ですよ、ディマオンさん!」

「はっはっは! 当然だろう。さ、出発の準備だ!」

「やったー! これで寒い外とおさらばっす!」

「先に仕事しなさい」


 真っ先に馬車に乗ろうとしたジョンスが即座にヨランダに引き摺り下ろされ、ものの見事に顔面から雪に沈んだ。ぼすっと大きく響き渡った間抜けな音で一瞬静まり返った後、ミレイユがこらえきれないとばかりに笑い出し、つられてマルクも声を上げてしまった。


「あははは! ジョンス今のはださいぞ!」

「笑うなっすぅ!」

「あははー! 雪でもこもこー!」

「オレはもこもこじゃないっすから!」


 相変わらず変な覚え方をされているジョンスがまた面白くて、マルクは声も上げられないぐらいにツボにはまってしまった。よく見れば、ディマオンとヨランダまで声を殺して笑っていた。


「わ、笑わないで欲しいっすううううう!」


 ジョンスの迫真の叫びは虚しくもミレイユの笑い声にかき消されていった。思えば、こんなに緊張感もなく笑っている人の顔を見るのは久しぶりかもしれない。ずっと変わらない景色を見て表情を変えることなく、いつ襲ってくるかもしれぬ魔物におびえる毎日だった。

 マルクは遥か南の、雪のない大地を想像して笑みをかみしめた。


 …


 ……


 ………


 身支度を整えるまで約五分。マルクの真後ろの馬車に四人分の重さを乗せて、馬車はガラゴロと進んでいた。


 相変わらず剥き出しの御者席は寒かった。だが、背後の小窓から漏れ聞こえる仲間たちの会話は温かく、マルクも時々会話に混ざって体が熱くなるほど笑う事もあった。ミレイユがカエヌディからここまで来る間のマルクたちの旅を聞きたがったので、半日以上はずっとその話題であった。それぐらい長い旅だったと言うのもあるが、ディマオンが面白おかしく脚色して語るものだから、全員が笑い転げて一向に話が進まなかったのも長引いた原因である。

 マルクが夢にまでみた冒険も、実際は辛いことばかりで、時には辞めてしまいたいとさえ思ったことがあったのに、こうしてミレイユに語られる物語は、幼い頃に聞いた冒険譚と遜色がないようだ。それが誇らしくて、マルクはこっそり笑い泣きをした。


 故郷のことを、置いていった両親のことを思わない日はない。門番仲間の顔もまだ思い出せるし、まだ記憶にあるうちに会いたいとも思う。だが今ならば、もっとたくさんの思い出を持って故郷へ帰りたいものだとも考えられるようになった。

 極寒のヴィルニア大陸を抜けた先には豊かな国々が広がっているという。そこへ到着した暁には、これまでの冒険を書き記した日記でも作ってみよう。それを家族に見せる時が、今からでも胸が飛び跳ねそうなほどに楽しみだった。


 魔物の襲撃もなく和やかな雰囲気のまま、滑らかな大地にまっすぐと轍を刻んでいると、急に地平線の向こうが晴れて山が見えた。ドレイクに教えられた通りであれば、そろそろ()()()()()が見えてくるはずなのだが……。


「ん、あれは……!」


 かなり雪に埋もれていたが、黒茶色の曲がりくねった物体が見えてきた。通り過ぎざまにじっと目を凝らしてみれば、それは確かに低木であった。


「皆さん! 白霧の森を完全に越えたみたいです!」


 風にかき消されぬよう大声で伝えると、真っ先に窓から顔を出したのはジョンスであった。


「本当っすか! もう魔物はいないっすか!?」

「魔物は知らないけど、ほら!」


 マルクは次々に雪の中から姿を現し始めた低木を指差して、ふとその近くに白く震える小さなものを見つけた。細長い二つの耳に一瞬キュールラビットを想像してゾッとしたが、なんてことはない、その子は普通の白兎だった。兎は雪煙を上げながら近づいてくる馬車にぶるぶると震えたかと思うと、ぴょん、とマルクの顔の高さまで飛び上がってすさまじい勢いで逃げ出した。淡く浮かび上がった雪煙は柔らかく地面に落ちていき、小さな兎の足跡をほんの少しだけ覆い隠した。


「ジョンス! 見たか!?」

「見た! 魔物じゃない普通の動物!」

「もうアシル村までもう少しじゃないですか!? ねぇ! ヨランダさん!」


 兎一匹見かけただけでテンションが最高潮に達した二人に混じって、窓の間からミレイユがひょこっと顔を出した。


「村? 村があるの!?」

「ミレイユ。立ってると危ないわ」


 すかさずヨランダに座らされたミレイユはぶすくれたが、ディマオンの発言でさらに頬を膨らませることになった。


「白霧の森を抜けてから最初の村まではまだ三日かかるぞ。森が見えて来なけりゃ話になんねぇぞ」

「「「えぇー」」」


 三人でがっくりと肩を落とすと、ディマオンは小窓の奥で髭に覆われた口をひん曲げた。


「文句言ったって仕方ねぇぞ。むしろここからが本番……うぉ!」


 突然二台目の馬車からゴトン! と大きな音がして全員がその場で飛び跳ねた。すっかり油断していた、とマルクは自分の間抜けさに歯噛みしながら腰から直剣を引き抜き、すぐに御者席の横から顔を出して後ろを確認する。気づかないうちに白霧の森の魔物を連れてきてしまったのだろうか。いや、ヨランダが感知魔法を使っていたのだから、その可能性は低いはず。であれば、先程の物音はなんなのか。


 得体の知れなさに冷や汗をかくマルクの視界の端で、ディマオンが器用に馬車の縁を蹴って大剣から金属音を響かせながら二台目の方へ飛んでいくのが見えた。そして、


「な、誰だお前!?」

「何があったんですか!」

「先に馬車を止めろ! くそ、この野郎!」


 なにやらただならぬ雰囲気の後方の気配に急かされて、マルクはすぐさま手綱を引いてブレーキも踏んだ。急に制動をかけられた馬は悲鳴を上げながらぐっと地面に足を突き立て、不自然に車輪の回転を止められた馬車はぐらぐらとおぼつかなく揺れて止まった。マルクは手綱を御者席に固定してから飛び降りると、雪に足を取られながら二台目の馬車へ向かった。


「大丈夫ですか! って、え……」


 二台目の馬車のすぐ下の地面で、ディマオンに縄でぐるぐる巻きにされた男が転がっていた。その男の口には干し肉が咥えられており、後ろに縛られた手にも干した果物が握られている。どれもこれも、食料を管理しているマルクには見覚えがあるものばかりだ。


「泥棒ですか」

「ああ。現行犯だ」

「ま、まっへほひいへふ! ははひいももへははひはへ……」

「何言ってるかわかんないんだけど!」


 マルクは嫌悪感丸出しで文句を言いながらそいつに近づき、口にくわえられた肉を奪い取った。口から唾液が糸を引いて肉に引っ付いていたので、マルクは思わずそれを雪へ投げ捨ててしまった。それをみたそいつはああっ!と悲壮感溢れる情けない声を上げた。


「貴重な肉が……」

「貴重って分かってんなら、なんでこんなことした。自分が何したのか分かってんだろうな」


 ぎろり、と魔物よりも恐ろしい形相でディマオンが詰め寄ると、男は肩をすぼめて萎縮し、すりすりと寒そうに自分の太もも同士をこすった。


「え、ええとその、あの、俺の村、魔物につぶされちゃって、食べ物がなくて……獲物探してたら、いい匂いがしたからつい」

「村が、潰されただぁ?」


 男の衝撃的な発言にマルクはふと嫌な予感がして、男にひざまずいて怒鳴った。


「村! 村の名前は!」

「え、なんでそんなこと」

「いいから答えるんだ!」

「ひぃ! えと、えっとぉ、アシル村です!」


 アシル村。


 白霧の森を抜けたら最初に訪れるはずの村の名前だ。カエヌディに最も近い村であり、それ以外の村はアシル村からさらに五日歩いた先にあるという。食料も残りが心もとないというのに、この男は村が魔物に襲撃されて、食べ物がないとなれば、残り五日間の旅も一気に危険なものになる。


「ディマオンさん……」


 マルクがしょんぼりと、口を堅く引き結んだ顔のままディマオンを見上げると、彼はしばし考えた後に深くため息をついた。


「そこの、捨てた肉をこいつにくれてやれ。いいかお前、その手に持っている食料だけだ。それ以上を望んだら魔物寄せの血樽になってもらうぞ!」

「ひぇえ、すんませんすんません!」

「よし、逃げようとしたらただじゃ済まねぇ。きっちり、俺らに話を聞かせろよ。アシル村のことをな」


 ディマオンはゆっくりと男の縄を解くと、男は探るように雪の上を這いまわってから、勢いよく手に握りしめたままの食べ物を口に詰め込んだ。


 …


 ……


 ………


「前触れはあったんだ。村とは少し離れたとこに住んでるヴァシリーってやつが、急に村の中に魔物を連れてきて、村長の娘を攫って行っちまったんだ。お陰で村ん中は壊滅して、怪我人ばっかりで満足に狩りもできねぇ。しまいには食べるものまで無くなっちまって、動けるやつでどうにかしようってなったんだ。いや、本当に、旦那たちがいてくれて助かった!」


 男の話の真偽はともかく、どうやらアシル村は危機に瀕している状態らしい。アシル村からマルクたちの馬車にたどり着いたこの男は、長いこと雪の中を走っていたせいかひどい凍傷を負っていた。手足の指ももう少し雪にさらされていれば切り落とす羽目になっていたかもしれない、とヨランダは言っていた。捕まえたときは怒りと困惑に駆られてそれどころではなかったが、冷静になった後に改めて男の姿を見ると、ミレイユほどではないがかなり痩せている様子だった。


 ひとまず、現場に行かなければこれ以上は話にならないということで、マルクたちは再び馬車を走らせてアシル村へ向かっていた。


 村の男は名をクジマといった。ひとまずの食べ物と暖かな寝床を与えられて、クジマはひとしきり語り終えた後に、気絶するように眠ってしまった。


 クジマの語ったアシル村の状況は、かなり信憑性が高かった。男一人で狩に出かけるという話はいくらカエヌディでも聞いたことがないし、クジマの傷の状態を見れば異常な事態であることは明白だ。もしかしたら、アシル村で食料を分けてもらうどころか、逆にこちらから食料を分けることになるかもしれない。そうなったら、しばらく足止めを食らってしまうだろう。

 幸いディマオンとヨランダはミスリル級なので、拠点さえあればすぐにでも魔物を見つけて食料を確保できるだろう。マルクもそれなりにドレイクから狩の方法を教わっているから問題はないが、あまり、滞在が長引かなければいいとも思う。


 クジマを拾ってから三日後、マルクはようやく、御者席から森らしき緑色のこんもりした景色を見つけた。


「森が見えてきました!」

「よし、あと五時間ぐらいで着くだろう。なんとか食料は持ったな」

「ですね……」


 正直、現在までに残った食料はここにいる六人が一週間満足に食べられるかどうかというぐらいの量だ。アシル村にもし食料が全くなければ、これだけの分もあっという間になくなってしまうだろう。マルクは最悪、全員が飢え死にする未来を想像してしまい、御者席の上でぎゅっと両目をつむることしかできなかった。


 もし、ディマオンがいても狩りが上手くいかなかったら、食料が手に入らなかったら、少ない食料を奪い合う事態にでもなったら。


 まだマルクが幼い頃、カエヌディは一年中続く猛吹雪のせいで食糧難に陥ったことがある。洞窟の転送装置が動かず、海外から輸入もできず、魔石で栽培していた作物でも国民全員の飢えを満たせない、酷い日常があった。あの日々で豹変し暴力に走った人間を、マルクは散々見てきて、今でも思い出すだけで鳥肌が立つ。それと同じ状況がアシル村で起こったなら、たとえミスリル級の冒険者がいても無事でいられるか分からなかった。


 やがて馬車は森の奥深くへ入り込み、木の根っこによってでこぼこになった悪路を淡々と進んでいく。村に近づいていけば行くほど口数は少なくなり、ある程度舗装された道を見つけた時には、誰もしゃべらなくなっていた。


 数時間後、マルクはクジマに声を掛けられてようやく村を見つけた。


「その大きな杉の木を越えた辺りだ!」


 立ちはだかるようにそそり立っていた巨木は、マルクが見た事がないほど巨大で、そして針のように細長い葉が緑色に染まっていた。森の中で散々見た色付きの木々の中でも、これだけは特別、存在感があった。


 そしてその後ろに隠れるように、倒壊した建物の破片が散乱するアシル村があった。


「ひどいな、これは……」


 村は、何もかもがなぎ倒されてしまっていた。高くとんがった屋根が丸ごと地面に落ちていたり、それを支えるはずだった柱が半ばから真っ二つにへし折れていたり、壁や窓、家具などの破片はまだ満足にかたずけられていなかったりしていた。最低限、雪風を凌げる掘っ立て小屋が村の中心にいくつか立てられているだけで、復興作業は微塵も行われていないらしかった。


「想像以上だ……。マルク、馬車を止めてくれ」


 ディマオンに声を掛けられ、放心状態だったマルクはようやく気を取り直すと、そっと手綱を引いた。ぶるっと鼻を鳴らした馬たちも村の惨状に落ち着きがなくなっている。まだ魔物の残り香があるのかもしれない。


 クジマは弾かれたように馬車から出ると、掘っ立て小屋のほうへと手を振りながら大声を上げた。


「おーい、みんなー!」


 ただ仲間の無事を確認するために呼びかけたのだろうが、マルクにはクジマの声が不吉なものに思えてならなかった。明らかに食料がなさそうな村の惨状で、高価な魔石と食料を乗せた馬車を見た村人はどう思うだろうか。

 馬の傍によってそっと腰の剣に触れるマルクの肩を、とん、とヨランダが押さえ込んだ。


「あまり警戒しないで。向こうも触発されるかもしれないから」

「……はい」


 数秒後、掘っ立て小屋から年老いた女性が顔を半分出してこちらをうかがってきた。馬車とマルクたちの姿を見たその老女は細い眼をかっと見開くと、枯れた声で叫び出した。


「おお、おお、クジマが助けを呼んできてくれたぞぉ!」


 知らせが村中に響き渡った瞬間、掘っ立て小屋からぞろぞろと子供が走り出してきて、奥のほうからも大人たちが近づいてきた。


「馬車だー!」

「ごはん! おなかすいた!」


 騒ぎながら出てきた子供は全部で八人ぐらい、老人は四人、成人は九人であった。いくら小さな村だとは言え、かなり人数が少ない。だがこちらからすれば多勢に無勢に違いない。


 勝てるだろうか。自分の力で、ミレイユを守り切れるだろうか。


 またぞろ腰の剣に手が伸びそうになるのをマルクが必死にこらえていると、一番年老いた男とディマオンが示し合わせたように前に進み出てきた。


「久しぶりだな。村長」


村の惨状を労るような声音でディマオンが挨拶すると、理性的な返答があった。


「何年振りかの、ディマオン。しばらく旅には出ないんじゃなかったかの?」

「野暮用があってなぁ」


 二人は軽く会話を交わしたのち、親し気に肩を抱き合ってみせた。それだけでマルクの緊張はすっとほどけて、村の人間から感じた言いようのない圧迫感もなくなった。食料を奪うために村人が野盗になるかもしれない、と勝手におびえていた自分が恥ずかしくなってくる。


「随分少ないな。他の奴らは?」

「奥のベッドで休んでおる。まぁ、ベッドといえるほど豪華なものでもないがの」

「ヨランダ。怪我人を見てやれ」

「ええ」


 ヨランダはすぐに近くの村人に声を掛け、森に近い掘立て小屋の方へと急ぎ足で向かっていった。サクサクと雪を砕く音が遠ざかったのち、静まり返った空気に包まれた。


 ディマオンは鼻から長く荒い息を吐くと、改めてアシル村を見渡した。


「食料は?」

「もうほとんど残っておらん。地下の貯蓄も尽きて、誰も何も食べずに一日が過ぎた」

「動ける奴は」

「そこに居る大人だけじゃ。子供はまだ狩りの方法すら分からん」

「なら、何人か引っ張ってくがいいか?」

「もちろん」


 とんとん拍子に進んでいく二人の会話にマルクがついていけずにいると、村人の中でも特に屈強な若者が、肩で風を切るように二人に近づいた。


「村長。なんたってよそ者に全部任せてんだよ! 俺達だけで十分狩はできる! そいつらにはさっさと別の村にでも行ってもらったらどうだ!?」

「何を言うソーゾン。お前もこの者たちがどこから来たのか分かっているだろう。あの白霧の森を抜けた勇敢なるものは、ここアシル村の人間が労い、新たな門出へ送り出す。そういう伝統であろうが」

「伝統なんか守ってる場合じゃねぇだろ! 自分たちの分まで満足に食べれないってのに!」


 梢の雪が落ちるほどの大喝だった。少し離れた場所にいるマルクでさえ、つま先がビリビリと震えてくる。驚いた子供が泣き出し始めたが、男の怒気は収まらず顔も真っ赤なままだった。

 だが真正面から怒鳴られたにも関わらず、村長は凪いだままであった。


「まぁまぁ、いっぺん、騙されたと思って従ってみなさい。儂が知る中で一番のツワモノじゃよ、ディマオンは」


 若者の言葉に気分を害した風でもなく、むしろ楽しんでさえいる村長の態度に流石の若者のあきれた様子で、しぶしぶ怒気をひっこめた。


「分かった。けど使えないと思ったら誰が何と言おうとすぐに追い出すからな」

「おうおう、その意気じゃ」


 村長は改めてディマオンに向き直ると、すでに曲がっている腰をさらにまげて、申し訳なさそうに言った。


「すまんのぉ、せっかく旅を再開したばかりだというのに」

「いいってことよ。んじゃ早速行こう。そいつと、顔に傷があるお前と、桑持ってるやつ、あとは、威勢のいいお前だな」


 ざっくりと人員を指名し終えたディマオンは、不意にくるりとマルクのほうを振り返ってにっかり笑った。


「マルク。お前はミレイユと一緒に子供たちの相手をしとけ。ジョンスはまぁ、馬番だな」

「えぇー! そりゃないっす! オレも狩りに行きたいんすけど!」

「また今度だ」

「いっつもそれっす!」


 ぶーぶー言っているジョンスをディマオンは適当にあしらいながら、マルクの肩を強めに叩きつつ、腰の剣に視線を落とした。


「子供たちと、仲良くしてやれよ」

「……はい」


 すっと肩に乗せられた逞しい腕が離れ、すぐさま声を張って若者を招集した。若者たちはディマオンの話を二、三聞いただけで緊張をほぐし、笑顔まで見せている。ついにはソーゾンという青年とディマオンが肩を組んで、全員で息の合った掛け声を上げて見せた。その声には全く悪意がない。

 ゾロゾロと武器を持って村から出ていく集団を遠目から眺めつつ、マルクは腰の剣を強く握りしめた。

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