はちのなな 癒し
あれから、色々あってレーちゃん――レイスさんと結婚した。「色々」の中にある紆余曲折はここで語るには長すぎるので割愛させてもらう。とにかく、そんなわけで今は僕と一緒に暮らしてカフェを切り盛りしている。
ただ、体質のこともあって昔ほど外には出なくなっていた。それでも、特に困ってなさそうに、楽しくしているのが、小さなことだけど僕にとっても嬉しかった。
「あら、今日はちゃんといらしたようですね。」
ポッテさんがそっと入り口の方に向かってドアを開く。
からんころん。ドアの向こうから小さな女の子が入ってきて、ポッテさんの足に引っ付いた。ちょっと遅れて、日傘をたたみながらレーちゃんが入ってきた。
「どうも皆さんこんにちは。あら、そちらの方は初めてのお客様ですね。」
「レーちゃん。早かったね。実明もいい子にしてた?」
我が愛娘の実明はポッテさんの足に引っ付いたまま右手を挙げて、
「う!」
ちょっと口をとがらせて可愛い奴め。後ろからレーちゃんがそっと実明を抱き上げた。
「この子がぐずっちゃって。」
「ぐずってなーいー。」
「はーいそうですねー。実明は強い子ですねー。」
実明は抱っこされながらも初めて見た顔に興味津々のようだ。
「実明、この子は人はオムニさん。」
「オムニデす。よろシくね!」
オムニさんは自分の方に伸びていた手を握った。そういう手じゃなかったと思うけど。まあいいか。
「それで、レーちゃん。この人は『全知』で。」
「まあ、ずいぶんと大きくなりましたね。」
「あの、レイスさん?」
「ふふ、冗談です。」
ちょっと流石に悪い冗談だ。ともあれレーちゃんもオムニさんに興味を持ったみたいで、さっと下から上まで見やった。
「お隣、よろしいですか?」
「え?ああ、うん。どうぞ。」
オムニさんの隣に座っていたタマが動いて、レーちゃんと実明の席を空ける。座った上で、レーちゃんはオムニさんの方にむき直す。ちなみに実明はタマが構ってくれてる。こっちにはオレンジジュースくらい出してあげよう。
「オムニ様でしたね。」
「ハイ。あの、日本語ウマいデスね。」
オムニさんが言うのも変な話だ。考えてみるとレーちゃんの方も『創造』の翻訳の効果は切れてるはずだから、本当に凄いと思う。けどレーちゃんはなんとも読みづらい笑みを浮かべている。
「ありがとうございます。それで、こちらにはどういったご用件で?」
「あの、皆サンにお話を聞きたいんデす。もちろん、アナタにも。」
レーちゃんは少し目を見開いて、驚いた様子。なんの用だと思ってたんだろう。というか、ちょっと嬉しそう。
「私、楽しいお話が出来るか分かりませんけど。」
「アー、どうデしょう。……あの、草全サンのこと、どう思っていマシたか?」
「ゼンちゃんさんですか?」
レーちゃんは口元に指を当てる。実明が髪を引っ張ろうとするのをポッテさんが優しく止めていた。
「そうですね。私にとっては……キューピットですかね。」
危うく拭いてたグラスを落としそうになる。レーちゃんの方を見るとクスクス笑っている。まったく人が悪い。
「今のは半分冗談です。もう半分は、そうですね。もう一人のお母様かもしれません。」
「母親、デスか。」
ポッテさんもちょびっと反応した。レーちゃんはまた嬉しそうに笑った。
「あ、でもこちらは本当です。でも、そうですね。育ての親はお母様ですから……。」
「生みの親とはいかないよ。」
先に釘を刺しておく。でもそうだな。レーちゃんとゼンチさんが並んでるところ考えるとアレだけど、母親というのはちょっと分かるかもしれない。
レイスさんはまた微笑みをたたえながら、ゆっくりと口を開いた。
「私はお家の世話もしていただきましたけど、それだけでなく皆さんのことを優しく見守っていて、素敵な方でしたよね。」
「そう?そんな口ぶりじゃなかったと思ったけど。」
「知枝ちゃんは口と心が分かれてるタイプだからな。」
どんなタイプだ。でもまあ言いたいことは分かる。オムニさんの方を見ると、なんだかちょっと赤くなっていた。
「イエ、私のことジャないの分かってるんデスけど、ちょっと照れマスね。」
「ふふ、得能様が深く想うのも当然ですよね。」
「おい……あー、いやまあ。シン!」
いや僕に振らないでくださいよ。最近レーちゃんはどうも人をからかうのが好きすぎる。




