はちのに 全能
ゼンノーさんは、あれからゼンチさんの後を継いで、神能探偵事務所の所長となった。今となってはゼンノーさんとサトリさん、それと時々コトが手伝いに行っている位で、なかなか依頼が受けられなくて大変らしいけど、その割に僕のカフェによく遊びに……もとい、売り上げに貢献してくれている。
……昔の僕だったらここで大声を上げていたかもしれないが、僕も一国一城の主となって少しは落ち着きを手に入れた。と思う。
しかし、目の前でコーラを注文してきた子が、新しい『全知』。なんとなくゼンノーさんの方を見る。『全知』を名乗る少女を前に、ゼンノーさんは変わりないように見える。でも、実はそう見せるのがうまい人だから油断ならない。一応お水を出しておこう。
「それで、用事っていうのはなんだ?」
「そうデスね。様子を見に来た、というのが事実デす。」
『全知』の言葉に、ゼンノーさんは眉一つ動かさない。
「本当は、知枝ちゃんのことを伝えに来たんだろう?」
『全知』は驚いたように目を見開くが、やがてゆっくりと首を振った。
「Year, but……アナタ達は、もう知ってマすから。」
ゼンノーさんは手を動かしたと思ったら中空で止め、カウンターの方にむき直して、肘を置いて頭を抱えるようにうつむいた。
用意が出来たのでコーラを出すと、感謝を告げられてストローを口にくわえた。
「あ、そうだ。遅れマしたが、私はオl――ャです。」
「え、お、はい?」
発音がよすぎて聞き取れなかった。オリなんとかさんは、ちょっと考えて最高のアイデアを思いついたらしい。なんかそんな感じの顔だ。
「私はオムニと呼ぶといいデス。活動名が必要デスから。」
オムニ。オムニバスとかのオムニかな?まああだ名で呼ぶのは割と慣れてる。
「それじゃあオムニさん。具体的に何をするんですか?」
「何……うムム。」
あ、これノープランの反応だ。よく知ってる。やがてオムニさんはポンと手を打った。
「そうデス!私は他の神能に会いニ来まシた。」
なるほど。まあ確かにここなら大体の神能持ちには会える。タマとイナバさんくらいかな。会えないのは。イナバさんの方は呼べば来るかもだけど。
「それじゃあ、とりあえずはゼンノーさんですね。」
「ん?ああ。聞きたいことがあるならなんでも答えるが。」
ゼンノーさんはどうもまだ本調子じゃないようだ。……うん、やっぱりココアを出してあげよう。と思ったら注文が入った。奢られるのを嫌ったのかもしれない。
オムニさんの方はなんとなく不満げな顔。
「ナンダか避けラれてる気がしマす。」
ゼンノーさんはココアが出来上がるのを待って、それを一口飲んでから口を開いた。
「……お前のせいじゃないよ。ただ、なんというか。……本当に死んじまったんだなって……。知枝ちゃん。」
それでゼンノーさんは黙ってしまった。オムニさんもオロオロしちゃってるし。僕としてもなんといえばいいか分からない。
ここに『全知』がいるということは、ゼンチさんはもう先代になってしまったということ。もちろん、ポッテさんの話を疑っていたわけではないだろうけど、目の前にその証拠があるのとでは実感が違ったということだろう。
気まずい沈黙が流れていると、ぽんとポッテさんが水を出した。
「申し訳ありません。お水を忘れておりました。まさかお客様とは思いもよらず。」
「アー、ありがと、ござます。あ、ソーだ。ポッテも『全能』デスよね?」」
「ええまあ。私のは人より与えられた単なるまがい物ですが。」
オムニさんは凄いやらかした感じの顔をした。なんというか、ゼンチさんとは違うタイプで分かりやすいな。そんな様子のオムニさんを見て、ポッテさんはまたため息をついた。
「あまりお気になさらず。我々は、望む限り自らの力で立ち直れます。ですよね、得能様。」
「……ああ。おかげで自分が淡泊な人間に思える。」
自嘲気味に笑うゼンノーさん。なんというか、そんな風に考えていたんだ。オムニさんは意を決したように質問し始めた。
「あの、『全知』と一緒に行動するのは、どーいう気持ちデシた?」
ゼンノーさんは、なんとなく困った様子を見せる。
「うーん。知枝ちゃんとはその前から知り合ってたからな。あまり期待してる答えにはならないと思うが。」
「ソレでも!私ニも、仲間が必要デスから。」
オムニさんのどこか必死な様子に、ゼンノーさんは優しく微笑んだ。
「いいよ。それじゃあ、結論から言うとだな。楽しかった。だな。」
「楽しかった?」
「ああ。好きな人と一緒に行動するのは楽しいもんだろ?」
ゼンノーさんは言った後にココアを勢いよく飲んだ。
「ソの話、もっと聞けマスか?」
目をキラキラさせて聞くオムニさんに、「長い話になるぞ」とゼンノーさんが語り始めた。
ゼンノーさんからも、もっと早くこういう話を聞けばよかったなと、ちょっと思った。




