はちのいち 再会
前回からのあらすじ
『創造』を止める。ゼンチさんの言葉に集まった事務所メンバーにコト、タマ、それにイナバ。対するは密かにヤマガミによって集められた神能の力を一つにまとめ上げられた、ヤマガミ曰く擬神。全ての神能を巧みに組み合わせて襲い来る擬神に、『創造』と『癒し』の欠けた僕たちは分断を余儀なくされる。
そして一人ヤマガミの元にたどり着いたゼンチさんから、連絡が入る。
「なんとかできそう。だから、安心して。」
その言葉を最期に、ゼンチさんは帰ってこなかった。
ゼンチさんがいなくなって数日後、ポッテさんが事務所を訪れその最期を教えてくれた。
ゼンチさんはあらかじめ自分が死ぬことが分かっていたかのように、準備をしていたようだ。ゼンチさんの遺言書が弁護士にすでに渡されていたのだった。
その遺言に従い、ゼンノーさんが事務所の所長になり、僕は事務所の下の階を譲り受けてカフェを営むことになった。
それから三年の時間が過ぎた。
*****
はっきり言って、僕のカフェはあまり儲かっていない。ゼンチさんから譲り受けた資金は、初期投資と税金でほとんどなくなった。無駄がないというかなんというか、まあゼンチさんらしい。
ポッテさんとレーちゃんに給料を渡して、手元に残るのは自分が暮らしてちょっと貯金できるくらい。十分とも言えるけど、せっかくなんだからもうちょっと繁盛させたいという気持ちもある。
「ま、なるようにしかならんじゃね?」
カウンターに座ったゼンノーさんが、ココアを飲みながら言う。昼下がりでお客はゼンノーさんの他にはパソコンを広げた人と何か書いてる人しかいない。あの人達も前に注文してからずいぶん経った。まあ混んでるわけじゃないから別にいいけど。
「それは、そうですけど。そうだ。何かアドバイスしてくださいよ。ゼンノーさんならなにかいい手思いつくんじゃないですか?」
冗談半分で訊ねると、ゼンノーさんはぽりぽりと頭を掻いた。
「今はそっちも仕事だからなぁ。まあ友達価格でやってやってもいいが。」
そういえばゼンノーさんは今はコンサルみたいなこともしてるんだっけか。まあそれはちょっと大げさかな。
ゼンノーさんがぐいっとココアを飲み干し、指で引っかけて揺らす。
「そうだ、ポッテだって『全能』なんだから、ポッテに聞けばいいんじゃね?」
どこからともなくウェイトレス姿のポッテさんがやってきて、空になったカップとソーサーを回収した。
「申し訳ありませんが、主に捨てられたこの身がお役に立てそうなことと言えば、この通り給仕やお掃除程度のものです。経営に口を挟むなど、とてもとても。」
ポッテさんはため息をつきながらカップを回す。残った中身がこぼれないのは流石だ。
ポッテさんは例の事件の頃にヤマガミに捨てられたらしい。その後、色々あってウチで働くようになったのだ。
「……それ、いつまで言ってんの。」
「おや、得能様には分かりませんか。これでも私、創造主に捨てられていたく傷ついたものです。これでアレの面倒を見ることもないと考えるとせいせいしたものです。」
「いや、それ傷ついた人のセリフじゃないですよね。」
本心はどうあれ、ポッテさんは割と生き生きしているので、まあよかったなとは思う。
からんころん。数十分ぶりに店のドアが開いた。
「いらっしゃいま、せ。」
入ってきたのは、赤毛のあからさまに外国人、といった感じの女の子だった。どうしよう、やっぱり、英語だよね。
「ぜ、ゼンノーさん。外国の方です。どうしましょう。」
「どうしようって、客に頼るなよ。そもそもお前英語出来てたじゃん。」
「あの薬の効果なら大昔に切れてますよ!ポッテさん。」
「私、英語はあまり得意ではないんですよね。」
頬に手を当てながらもポッテさんが接客に向かってくれた。よく考えたらそもそもその辺はポッテさんの仕事だった。
ポッテさんがしばらくお客様と話し、やがてこちらに案内してきた。
「マスターに御用だそうです。」
「普賢さんデスねー。そレにそちらは得能さん。」
変わったアクセントながら日本語が通じるようだ。というか、なんで僕らの名前を。
ゼンノーさんの方を見たら、ぎょっとするような顔をしていた。やがてわなわなと口を開く。
「……お前、『全知』か。」
そのお客様はニッと笑ってウィンクをして、こちらにグーサインを見せた。




