はちのさん 読心
サトリさんは、変わらず探偵事務所で働いている。まあ上が変わったところで下が動揺しない、というのが良い組織なのかもしれない。そうは言ってもサトリさんも前より忙しくなったようで、仕事帰りにウチでいっぱい引っかけて変えることも少なくない。
……身内以外からもちゃんと常連獲得しないといけないな。
オムニさんが変なことを聞いてしまったといった顔をしたところで、ちょうどまた来客を知らせるドアベルが鳴った。サトリさんだ。
「よーっす。ボス、何若い子困らせとるんや。」
「ああ、覚か。いや、こっちが聞いてきただけで――。」
それでようやくオムニさんのことを察したらしい。
「あー、なんというか。すまん。」
「アー、私が聞いたことデスから。」
何歳かは知らないけど、たぶん年下に気を遣われるゼンノーさん……。は置いておいて、サトリさんはオムニさんの隣に座った。
「ほんで、あんたが新しい『全知』か。ウチのことはサトリさんと呼んでくれや。」
流石にサトリさんは話が早い。ポッテさんの入れた水を飲んでいるサトリさんを見ながら、オムニさんは不思議そうにしていたがやがて指を鳴らした。
「Oh,『読心』デスね?」
「な……そうや。」
なんでかこっちを睨んでくるサトリさん。考えない考えない。
と思ってたら不思議そうにオムニさんもこっちを見てきた。説明しろと?
「あー、つまり同音異義語でして。」
「?あ!アー、」
「謝らんでええ。余計に来る。」
一瞬で不機嫌になるサトリさん。なんだかこのネタも久しぶりだ。
「ネタ言うなや!幸せもんが。こっちはこれでも切実なんや。ほんで、そっちはなんの用や?」
「そうデシた。私は皆サンから話を聞きに来まシた。」
「ほんで惚気話か。……まあソレはええ。何からそんな話になったんや。」
ついでにコーヒーを頼んでくれた。ささっとサイフォンをセットしにいこう。
ひとまずの話の流れを聞いたサトリさんは、案外興味を示さなかった。
「ほんで、次はウチの番?」
「ハイ。あ、嫌デスか?」
「別に嫌やないが。」
サトリさんは何を聞かれるかもう分かってるんだろうな。ただ、肩で促す。それに乗ってオムニさんも口を開いた。
「力のこと、どうやって克服シマした?ツまり、人と違うとゆーことを。」
サトリさんは口を曲げて考えてから、口を開いた。
「誰かと同じ人なんかおらんっちゅうにはまあ強すぎる力よな。でも克服したっちゅうわけやないやろ。そういうところに気付いて傷つくことやってないとは言えんし。」
サイフォンがコポコポと鳴り始める。サトリさんはその音を聞いて、少し笑った。
「まあ、たちの悪い体質と同じやな。気に入らんでも付き合っていくしかない。克服するんやなくて、諦めとるだけや。」
「デもソレだと、辛くないデスか?」
訊ねるオムニさんに、サトリさんは優しく微笑んだ。
「辛かった時もある。でも、今は分かり合える人がおるからな。そういうもんや。」
ちょうどコーヒーをカップに移したので、サトリさんに出すと「ありがとう」とすぐに一口飲んだ。
「まあ、そういう意味では特別なもんではないんやろな。ウチはそう思う。思えるようになった。」
なんだか優しいお姉さんみたいだ。
「余計なことを考えるんやない。で、こんなもんでええか?」
「ハイ。あ、モ一つ。『全知』と一緒にいて、ドー思ってマシたか?」
サトリさんはなんだか苦虫をかみつぶしたような顔をした。が、慌てて首を振った。
「いやいや。嫌やった訳やない。いや楽しかったよ?ただ、入るとき色々あったん思い出して。」
そういえばなんかあったな。脅したりとか。喚いたりとか。
「余計なことまで思いださんでええ。それに、一応言っとくと別に脅さんくてもゼンちゃんはウチを拾う気やったんやで。」
「まあ、知枝ちゃんはなんだかんだ優しいからな。」
「でも、それじゃあなんでわざわざ脅したりなんか。」
訊ねると、サトリさんはあーとかうーとか言いながら顔を隠すようにコーヒーを飲み出した。
「……やって、なんか癪やったというか。どうせやったらウチの力で手に入れたかったっちゅうか。」
「だからってあんな――oops.」
「え、なんですか?」
「私も、乙女の秘密は守りマす。」
言って、オムニさんは黙り込んでしまった。サトリさんもぷいと顔を背けてしまった。
サトリさん、あの時本当に何を言ったんだろう。




