ななのさん 占い
イナバさんは『予知』になる前から占い師だったらしい。週刊誌の占い記事を書く程度には有名で、そこそこに儲けていたらしい。
ただ、『予知』を絡めてからのイナバさんはそれまでが嘘のように評判を上げていったとか。まあ言ったことが本当になって、その上でその後どうすればいいかみたいな話をするんだから、一度経験すればつい頼りにしちゃうよね。
ひとまずイナバがここに居座ることになって、今日は臨時休業ということになった。たぶん、今日は人が来ないだろうという判断もあるのだろう。
改めて落ち着いてイナバを見る。……なんだろう、方向性としては、隣にいるレイスさんにも似ているんだけど、イナバはどうもうさんくささが先に立つ。どちらも黒を基調にしているんだけど、レイスさんは白髪のおかげか厳粛な感じがするけど、イナバは紫のラインのせいか、なんというか、ただれた――。
「なにか?」
「え?いや、あの。結局何しに来たのかなと。」
イナバはくすりと笑った。
「だから、仲直り……じゃなかった。皆さんと仲良くなろうと。」
「仲ようなるって、何するんや。今日はゲームする気分やないんやけど。」
肘掛けに座ったサトリさんが僕のお茶を飲む。言ってくれたら注ぐから勝手に飲まないで。
ともあれイナバの方はノープランだったようで、あごに手を当てて考え事を始めた。やがてぽんと手を打った。
「そうだ、占ってあげる。しかも、ただで。」
「占い……興味ないな。」
まあゼンノーさんは占いに心を動かされるタイプではなさそうだよね。代わりに反応をしたのはレイスさん。
「占いとは、どのようなものなのでしょうか。」
「え、占いしたことないの?女の子なのに?」
レイスさんはこくこく頷いてるけど、その偏見はそれはそれでどうなんだろう。
イナバはチラリとゼンチさんの方を見る。ゼンチさんが首を振ったのを見てため息をついた。
「じゃあ一番簡単な手相占いを。手、見せて?」
「はい。」
イナバはどこからともなくメガネを取り出して掛け、レイスさんの両手から手袋を取った。
「手相占いっていうのは、こうやって手の形や模様を見て、その特徴からその人の過去や性格、未来の状況を調べる。」
「まあ、特定グループの共通点を見出してまとめたのが手相だから、ちゃんとすれば大ハズレにはならないかもね。」
皮肉じみた話し方のゼンチさんになんとなく感心しているレイスさんは、なぞられてるのがくすぐったいのか時々ぴくぴく動いている。
「きれいな肌。ちょっと嫉妬しちゃう。」
「そう、でしょうか。」
レイスさんの声が少し沈んだのを敏感に察したのか、イナバは手に集中し直した様子。
「……変わった手相。健康面ではちょっと苦労があったみたいだけど、これまではあまり気にしてなかった?」
「そうですね。そう言えると思います。」
「それで、あまり迷わないタイプ。我が強くて我が道を行くタイプ。
「そうですか?」
「まあ、レーちゃんは割とマイペースなところはあるよな。」
「今後は……うーん、あまりお金儲けとかを率先してしない方がよさそうな気がする。それよりは信頼出来る人の下で能力を発揮する方が成功できるんじゃない?」
それでお終い、という感じでイナバはレイスさんに手袋を返した。レイスさんは満足そうに手袋を付け直した。
「それで、どうだった?」
「はい。八上様とはそれほど親しくもしていないのに、私のことをよくご存じなんですね。」
「よかった。外国人の手相はあまり見ないから本当は自信がなかったんだけど。」
なんか微妙にズレてる気もするけど、ともあれ手を取り合って微笑んでいる二人。サトリさんがちょっとそわそわしているのを見ると、どうもサトリさんも見て貰いたいのかな。
「頼めばいいんじゃないですか?」
「い、いやウチは別に……。それに今のやって全部が全部手相から見たわけやないし。」
サトリさんが言った後にしまったという顔になった。まあ、占いなんてそんなものだろうなとは思うけど一応聞いてみよう。
「その心は?」
「あー、つまりやな。」
一応イナバの様子を伺うサトリさん。マジックのタネを他人が明かすのはマナー違反ということかな。それを見てイナバの方が答えた。
「確かに、レイスさんの性格は私を許す時の発言を大いに参考にしてるし、健康面でハンデを抱えてるのは見れば分かる。肌を褒めたときの反応も一つのヒント。『癒し』のことは私も知っていたしね。でも、手相っていうのはそういう個人の事情を加味して見ないと吉兆か凶兆かを判断なんてできないものだから、普通は誰でもやってることなの。」
それらと手相を組み合わせてアドバイスをするのが腕の見せ所だと、イナバは笑った。




