ななのよん 尋問
ゼンチさん……というか、『全知』に言わせると『予知』は神能ではないらしい。『予知』は他の神能と違い、死んだときに次の『予知』が出るまでに数十年は掛かるという違いもある。だけどそれ以上に「神は予知をしない」ということが、『全知』にそう言わせる理由らしい。確かに万物に効く『言霊』の力があるなら、予知するまでもなく未来を決められそうな。
逆に言うと、『予知』とは本当はそういう、未来を決定する能力なのかもしれない。
そろそろ日も傾き始めているが、イナバは一向に帰る様子を見せない。それどころか、レイスさん相手に今度はタロットカードなんかを持ち出している。興味津々に見えるところを見ると、サトリさんも女の子なんだなと。
「なんや、ウチが女の子女の子しとったら悪いんか。」
「いや別に悪くないですけど。さっきまでの剣呑とした雰囲気はどうしたのかなーと。」
痛いところを突かれたと思ったのか、サトリさんは顔を歪ませた。
「あ、いや。ほら、別にサトリさんが怒ってなくても嫌に思う人はいないと思いますし。」
ゼンノーさんなんかもうゲーム始めちゃってるし。でもサトリさんは鼻をふんと鳴らしてそっぽを向いた。
「ウチが嫌なんや。なんちゅうか、一貫性がない感じがするし。」
「複雑なお年頃なのねぇ。」
イナバに言われて睨みをきかせるサトリさん。「おおこわ」ってもう煽ってるとしか。
サトリさんはため息をついて、ひとまず睨むのはやめた。代わりに僕を押し詰めてソファーに座り、テーブルに両肘をついてあごを乗せる。
「ウチが気になっとるんは犯行の動機や。そらまあゼンちゃんの能力は便利やから欲しいっちゅうんは分からんでもないが、あんたやって便利な能力持っとるんやろ。」
少し尋問口調になってきたサトリさんに対して、あまり変わらない様子のイナバ。
「そうねぇ。なんというか、『予知』をより望み通りのものにするため、かな。」
いまいち伝わってこないけど、複雑な話なんだろう。イナバはコーヒーで口を湿らせた。
「『予知』は見る相手は選べるけど、どんな予知が出るかは分からない。でも、今の状況からあり得ない方向には行かない。だから、単に予知するよりも自分にとってより望ましい未来を持ってきてくれそうな人を探して予知した方が便利になるっていうわけ。」
分かりづらい話だ。
「例えば、今私が覚さんに死んで欲しいと思ったとする。」
「物騒な話やな。」
「たとえ話。そこで単に覚さんの未来を見ても、死ぬ瞬間が思い浮かぶことはまずあり得ない。でも実は覚さんを狙ってるスナイパーがいるとして、その人の未来を見たら?運がよければ覚さんが撃たれる瞬間を見れる。そうでなくても、例えば撃った後に逃げているシーンが見られれば、その過程に覚さんが死んでいてもそんなに不思議じゃない。でしょう?」
「その、誰の未来を見るかを決めるんに『全知』が欲しかったと。」
「言っておくけど、死んでもそんなことの手伝いはしないわよ。」
「どうでしょうね。」
笑うイナバを見て顔をしかめるサトリさん。イナバはどうも悪いことを考えていそうだ。
「まあ、ともあれそれは過去の話。今はもう諦めてるから。」
「まあええ。『全知』が欲しかった理由は分かった。その後はどうするつもりやったんや。」
サトリさんとしてはこっちが本題だろう。いわゆる情状酌量の余地があるかどうか、といったところか。
一方のイナバは笑みを崩さない。
「あなただって自分の能力が制御出来るならその方がいいと思うでしょう?」
「……それだけなんか。」
「もちろん、その後は人生を謳歌するつもりだった。今よりもっと楽にね。」
サトリさんがじっとイナバのことを見るが、それでも態度を変えないイナバにやがて根負けしたように両手を上げた。
「ウチ的には真っ黒やけど、まあ訴える人がおらんのやったらなんもできんわな。」
「まるで警察みたい。」
クスリと笑いながら言うイナバ。この人、分かってて言ってるんだろうか。
ふと気付けば、いつからかゼンチさんがこちらに来ていた。
「そんなつまらない理由で、アレの口車に乗ったって訳。」
イナバはまたちょっと困ったような顔になった。ゼンチさんがアレという人と言えば。
「……そう。ヤマガミだったかしら。その人の話に乗ったのはそれが理由。ま、裏切られたと知った上に失敗して、そんな気も起きなくなったけど。」
「お父様が……ですか。」
「でもそんなそぶり少しも。」
「あなたの能力は心得のある人にとっては回避するのは難しくない。あまり過信しないことね。」
アレも伊達に何千年も生きてるわけじゃないから。そうゼンチさんは付け加える。
「でもなんでヤマガミさんがそんなことを。」
「それは私も知りたいんだけど。」
ゼンチさんに視線を向けられたイナバはゆっくりと首を振った。
「私の知ってることはあなたも知っている。でしょう?」
「……そういうこと。だから、まあいいかってなったの。」
ため息交じりにそう言うゼンチさん。うーん、話がどんどん複雑になっていく。




