ななのに 理由
イナバさんの持つ『予知』の能力は、イナバさんの見たイメージが実現化するというものだそうだ。ただ、そのイメージ中に時間を表すものがないならいつそれが起きるかも分からないし、たいていは一秒未満の短いものだとか。その上見れるイメージは選べないとか。制限が多い。
あと、理屈は説明して貰ったけどよく分からなかった。なんでも無限に広がっていく可能性の中に特異点を作り出すとかなんとか。まあ理屈はなんでもいいだろう。
ゼンチさんのジョーク(僕はジョークだったと信じてる)がだだ滑りして、なんとも言えない間ができた。ゼンチさんはこほん、と一つ咳をうった。
「つまり、あえて言うなら私的には別に許してもいいってこと。」
「いや、そうはならんやろ。今の話からは。」
サトリさん、ナイス突っ込み。なんとなく緩んだ空気がまた締まる。ゼンチさんはコーヒーを飲んでごまかしてるけど、サトリさんがゼンチさんに近づきながら言葉を続ける。
「ほんで、許してもええっちゅう理由は?」
「あえて言うなら、私の記憶が理由。誘拐される記憶には事欠かなかったから。」
ゼンチさんの言葉にゼンノーさんがむっとした。それでまたゼンチさんがため息をついた。
「私じゃない私の記憶。『全知』はそれだけで狙われる理由になるから。八上にしてもそうだったけど。」
「私はもうしないから。」
首をぶんぶん振るイナバ。その様子をじっと見て、また舌打ちをするサトリさん。
「そんで、もうせんのやったらそれでええっちゅうわけか。」
「そうよ。」
迷いも見せずにそう答えるゼンチさんに、サトリさんはため息をついて、ゼンチさんの肩に手を置く。
「あんな。ウチも別に長く警察におったわけやないけど、それでももうせんと心から言っとった奴でも、また戻ってくるっちゅうのを見るんは少なくなかった。」
「そんなことは言われなくても知ってる。」
「それでも、許すっちゅうんか。あのうさんくささの塊みたいな奴を。」
「そうよ。私はその言葉と心を信じる。」
しばらく見つめ合っていたゼンチさんとサトリさん。やがてサトリさんの方が根負けしたようで、ソファーに戻っていった。
「私、そんなにうさんくさい?」
サトリさんに尋ねるイナバ。この人、なんというか凄いな。サトリさんは睨みだけ返し、それで「おおこわ」とか言ってる。ほんと凄いな。
「ともあれ、これで私は許されたってことでいいのかしら。」
ゼンチさんは、しかしイナバに対して首を振った。
「言った通り、私は慣れてるしそれに心を信じる。でも、それは私の論理。」
そして僕の方を見る。
「普賢くんは違う。普賢くんはレイスさんがいなければ死んでいた。八上が直接手を掛けたわけではないけど、恨んでもおかしい話ではないでしょう。」
そして、全員が僕の方を見る。なんだろう、なんだか攻められてる気になってくる。それに、とゼンチさんが言葉を続ける。
「八上はあなたが撃たれる瞬間を予知してる。」
イナバはここで初めて顔を歪めた。
「でもそれは。」
「それはコントロール出来ることじゃない。でも、誰の未来を予知するかは決められる。あなたは普賢くんの未来を予知しようとして、それで撃たれることを確定させた。」
イナバの能力が僕を殺しかけたと、ゼンチさんはそう言いたいのかもしれない。あるいはそうとも考えられると。
「だから、普賢くんには八上を恨む理由がある。」
その上で、僕がどうするのか。イナバを許さずにここから追い出すか。それとも許すのか。
「……あの、今決めないといけないですか。正直、よく分からなくて。」
イナバのことを快く思わないのは確かだ。でも、なんというかもやもやする。
想像してたけどサトリさんは不満げだ。ただ、案外ゼンチさんは許してくれた。
「ま、そんなもんよね。」
「ちょっと待って。それじゃ、私はどうすればいい?帰った方がいい?」
そうか、確かにイナバの扱いに関しては先送り出来ないな。うーん。というか僕が決めるのか?あ、皆また僕を見てる。僕が決めるのか。
「それじゃあ、えーっと。いいんじゃないですかね。今日のところは。あの、ほら、人柄を見て決めるというか。」
「なるほど。まあ、そういう考え方もあるわね。良かったわね、八上。」
「ええ、ありがとう、普賢さん。仲良くしましょうね。」
仲良く……といわれるとそれもちょっと違う気もする。
「あ、というか三人はそれでいいですか?」
ちゃんと確認してなかったので尋ねると、レイスさんはゆっくり頷いた。
「まあ、俺としてはさっき言ったように三人がいいなら構わない。」
「……ま、ウチだけ反対してもかっこつかんしな。」
そういう感じで、イナバはひとまず今日のところは受け入れられた。
でも、いったい今度は何をするつもりなんだろうか。




