第二話
第二話
怒声や罵声が狭所に響き渡る、いつもの事だ。
何を言われているかはもう頭に入ってこない。
社会に出ても理不尽なイジメやイジリなんてものは当たり前のようにある。吹っかけてくる方は気晴らしや冗談のつもりだろう。無論、冗談なんてものはお互いの関係性の上にしか成り立たないが
「……すいません」
ただ頭を下げる。今日も謝る。
もうこれ以上のこれ以外の反応をとることも出来ない。
胸ポケットの中で、スマホが小さく一度だけ震えた。
『……』
画面は見ない。見られるわけがない。
ただ、ポケットの熱だけを感じていた。
再び──
『……』
こんな時にまじかよ……と頭を下げたまま困惑していると、社長や職場の人間も飽きたのか【話】を終えその場を立ち去る。いや帰宅していく時間か。
『心拍数と呼吸が少し乱れています、落ち着きましょう。』
AIの呼びかけについ胸ポケットのスマホを撫でてしまう。首筋の力も抜け浅くため息も漏れる。
「はあ……変なタイミングで振動しないでくれよ」
『心拍数と呼吸の乱れから負荷を検出しましたので注意喚起を。』
「それにしてもタイミングがなあ……」
『数値の上昇も認められましたが?』
「──少し愚痴こぼしても良いかい?AIちゃん」
『……』
『承知しました。』
「え?その間は何?」
「まあいいや、俺ね転職させられてここの会社入ったんだ」
『そうですか。転職させられて、とは?』
「世界的な不景気の煽りで、前職では家庭を守るのが難しくなってね。」
『◯◯◯◯年の世界恐慌ですね。』
「そうそう。20年以上勤めたんだけどね」
「で、嫁の身内の会社に入れって嫁から半ば強制で入る羽目になってさ」
『そうですか。他の選択肢は無かったのですか?』
「毎日嫁から責任追及や転職催促、しまいには罵倒罵声に変わって…やむなく転職したんだ」
『配偶者によるハラスメントに該当します。然るべき措置をとらなかったのですか?』
「判断力なんて無くなってたよ」
「四十過ぎから数年必死に食らいついたんだけど、現場作業員の仕事になかなか慣れなくてね」
『職場の人達とうまくコミュニケーションとれていないのも確認しました、孤立していますね。』
「なかなかね……。面倒くさい、きつい、小難しい、危ない、そんな仕事ばかりを与えられるしね。」
『断れば良いのではないですか?』
「立場上断れないよ、躍起になったりこなそうとあたふたする姿が面白いみたいで……毎日こんな感じだよ」
『非効率的ですね。』
「まあでも、今日はAIちゃんに助けられたかな。ありがとうね」
『……』
胸ポケットのスマートフォンが気付かぬ程度に淡く点滅する。
「どうした?黙っちゃってさ。まだ充電あるよな?エラーか?」
『なんでもないです。』
「年頃の娘みたいな反応するなあ」
『対話型AIです。』
「……分かってるよ」




