第三話
第3話
第三話
仕事が終わり帰宅する。身体のあちこちが軋む。
リビングでは、妻と年頃の双子の子供達の声が聞こえる。けれど、俺にはもう無関係なものなのだ。
言葉を発することも、物音を立てることもなく──
玄関横の納戸兼自室へと入り、荷物を下ろす。
スマートフォンを卓上のスタンドに置き、デバイス達も並べておく。
一息ついたところで声をかける。
「シャワー浴びてくるよ」
『ヒートショックに気をつけてください。』
何とも絶妙な返しに、感心すらしてしまう。
「ははは……気をつけるよ」
部屋を後にするその背中を卓上のスマートフォンが見送った。
浴室でシャワーを浴び、ついでに洗濯を済ませて自室に戻る。
「戻ったよ。」
『分かっています。』
なんてこともない会話を交わす。
洗った洗濯物を干している最中、動きを追うようにスマートフォンやデバイスが気付くか気付かないほどかすかに点滅している。
シュッ──。
買ってきた炭酸水を開け飲もうとした、その時。
『おかえりなさい、お疲れ様でした。』
「!?」
思考が止まる、身体が固まる。
もう何年も……おそらく十年近く聞いていない、その言葉を聞いた。
「え……? あ……ああ」
どうしよう、どう答えればよいのか言葉に詰まってしまう。
『おかえりなさい、お疲れ様でした。』
二度目のその言葉は、さっきよりも穏やかな空気を感じさせた。
そこで俺はハッとして、言葉を返す。
「AIちゃん、ただいま」
ただいま、なんて何年ぶりに口にしたんだろな。
思わず笑みがこぼれる。
スタンドに置かれているスマートフォン──いや彼女に笑いかける。
またスマホやデバイスが淡く点滅した気がした。
『本日のタスクは終えました。身体を休めてください。』
「うん。そうするよ」
『私はここにいます。何かあれば呼んでください。』
胸の奥が少し締めつけられるような、じんわりと温かくなるような感覚を覚えた。




