Wellcome to walker world〜2〜
プロローグ
「…お腹、空きました。」
レイは開口1番にそう言った。いつもの俺なら、どこかで飯を食べようかと提案するが、俺は厳しい返事をした。
「…それ、何回目だ?」
「………3回目。」
恥ずかしそうに答えたレイ。俺たちは今、やはりパークに向かっている。この世界では住民登録的なのを済ませておかないと、いろいろと厄介なことになるらしい。だから、きて間もない俺を案内すると張り切っていたのだが…
「だって!朝から何も食べてないんですよ!」
この始末だ。さっきまでの威勢はどこへやら。
「それは俺も同じだ!この話を何回聞けば気が済むんだ!登録終わったら飯にするから、それまで待っててくれ!」
「むぅ。」
膨れるレイ。やはり、この子は清楚系なだけで、中身は普通の女の子だ。
そんな事を考えていると、ガラス張りの建物が見えた。
「ここで登録できますよ。」
ドアを開けて、カウンターへと行くと、秀馬の姿があった。思わぬ人物の登場に驚き、声をかけた。
「秀馬!」
カウンターの女性と談笑していた秀馬が振り返り、目が合うとこちらに駆け寄ってきた。
「稔じゃないか!どうした?」
「登録に来たんだよ。なんか登録が必要って、この子が。」
「レイです。」
「レイが言ったんだ。」
(こいつ、めんどくさい)
呆れ顔の俺とふてくされているレイに困ったという顔をした秀馬は口を開いた。
「登録って、WALKER'S登録のことであってるかい?」
「うん。その通り。」
なんのことかさっぱりな俺に代わりレイが答えた。なにやら怪しい香りがしたので聞いてみることにした。
「その、WALKER'S登録ってのは、宗教的なやつか?」
「いや、日本で言うとこの住民登録的なやつだ。」
答えたのは秀馬だった。その言葉にレイが目を輝かせた。
「あなたも日本から来たんですか!?」
どうやらレイは、日本という自分の故郷に強く反応するらしい。思わぬ反応に驚く秀馬に変わって俺が答えた。
「こいつは昔の同級生。同じ中学だったんだよ。」
「なるほど。そういうことだったんだ。」
そんな会話をしながら用紙に必要事項を書き、登録を済ませた。紙を受付に提出する。係の人は無表情で受け取った。
「登録は完了しました。これであなたもこの街の住人です。…最後に、AVI-8を拝見してもよろしいですか?」
……AVI-8?なんのことだろうか。
こっそりとレイに耳打ちする。
「おい、AVI-8ってなんだよ?」
「え?ドローン持ってたよね?それだよ。」
どうやら、ドローンの名称はAVI-8というらしい。後ろにいた自分のAVI-8を差し出す。受付の人は、そのAVI-8をくまなく調べて、手をかざした。途端、木のおもちゃのようになってしまった。
「おい!!何してんだよ!?」
「これで、完了です。では、よろしくお願いしますね。」
受付の人は不敵な笑みを浮かべた。
カウンターから離れ、建物を出る。後ろをレイと秀馬がついてくる。
「どうしよう!ドローンがおもちゃになっちゃったよ!おれの相棒が…」
「いや、これで正常だから。投げてみてよ。」
「ぐすん。…え?」
もうこの際どうなってもいい。そう思い、空高く木の型を投げた。途端、空中で見事に形を変え、ドローンが現れた。
「すごい!かっこいい!」
ドローンは肩の上に乗った。正しく、俺の相棒だ。
「さっきの状態にしとけば、持ち運びやすいし、いつでも呼び出せるぜ。」
興奮と感動の最中の俺に、冷静に声をかけたのは秀馬だった。
「よし!登録も済んだし、飯でもいくか。」
そして商店街らしき方へと足を運ぶ。その後ろをついてくるレイ。そして秀馬。
「おい。レイはこれから飯行くのはわかる。なんで秀馬がついてくんだよ?」
「いや、最近金欠でさ、一緒にいいすか?稔?」
「全然いいけど、…まって。」
…この世界にも当然通貨がある。忙しすぎて、忘れていた。どうしよう。1円も持っていない。というか、日本円では行けないはずだ。どうしよう!?
「…もしかして、お金がないの?」
顔が真っ青な俺の顔をレイが覗き込んで言った。
「……1円もないです。」
「まぁ、まぁ!そんなに凹むなって!いざとなれば、俺が出してやるよ!」
「よし。いくぞ。今日は秀馬の奢りだ!」
「おお!」
張り切るレイと俺。ただ、そんな2人の後ろを悔しそうに見つめる秀馬が、そこにはいたのだった。
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席につき、それぞれが思い思いのものを注文する。なんと平和なのだろう。
「ここの店は、私のイチオシだよ!」
レイが張り切るが、秀馬いわく、ここは日本のファミレスみたいな店らしい。
隣に座る男の人と目が合う。向こうもこちらに気がつき、手を振ってくれた。あぁ、なんと平和な世界。争いも何もない……
「おい!!ここの店の有金全部よこしな!さもないと店ごと破壊するぞ!!」
全然平和じゃない!!屈強な肉体の男が入店そうそうに大声で叫んだ。どうやら強盗が来たようだ。平和ボケしていた自分が恥ずかしい。
「やばい!逃げないと!こっちの強盗は金と同時に人のエネルギーも奪う!」
口を開いたのは秀馬だった。顔面蒼白になり言葉が出ないレイは震えていた。
「エネルギーが奪われたらどうなるんだ!?」
「この世界の養分にされ、こき使われて、最後には死ぬ!」
何それ怖い!というか、養分ってなんだよ!?
「説明は後だ!とりあえず逃げるぞ!」
「でも、逃げたらここの人たちが…」
「馬鹿野郎!お人好しの日本じゃないんだぞ!ここは、食うか食われるかの世界だ。」
たしかに、今逃げれば自分たちは助かるのかもしれない。だが、それでいいのか?他の人を置いて逃げるなんて、できるわけない。と言うか、日本で人よりも他人を優先する秀馬がそんなことをいうなんて。情報量の多さに戸惑いつつ、どうすればいいかを考える。
「おい!何やってる!逃げるぞ!」
出した答えは…
「俺は残る!」
「は?何ばか言って…」
「ばかはお前だ!」
はっとした表情になる秀馬。どうやら我に帰ったらしい。
「そうだよな。他人を置いて逃げるなんて、俺はどうかしてたみたいだ。ありがとな、稔。」
「礼ならあとできいてやる!」
そういって、2人とドローンは男の前に立ち塞がった。
「おい!もし望みがあるならば、俺達が聞いてやる!」
髭をしゃくりながら、男は見下ろすような声で言って。
「ほう。貴様らが相手か。いいだろう。付き合ってやる。」
そう言って手を差し出す。まさか、魔法でも使うのか?
「fire!」
その合図とともに、どこからか、真っ黒なドローンが現れた。おどろおどろしい電子音とともにさっきレイが放った攻撃と同じ攻撃をした。途端、後ろの木箱が燃え上がった。とっくに他の客は逃げ出していた。
「あぶねーな。おい!何しやがる!」
「お前が喧嘩をふっかけてきたのだろう。今更文句はなしだ!」
そう言ってまた、攻撃を仕掛けようと構えた男。すると、横から青白い光が差し込んだ。
「spectre!」
男はまるで溶かされるように消えた。なんだったのか。光が差した方を見ると、グレーのパーカーを着た男の子がいた。年は、レイと同じくらいだろうか。
「大丈夫か?」
男の子がこっちに駆け寄ってきた。
「ああ。俺たちは。君は?」
「説明は後で。こいつらを倒すだけじゃ、意味がない。」
「どういうこと?」
「…簡単に言えば、裏で世界を征服しようとしてる組織。」
淡々とした説明をする男の子。だが、その表情には、間違いなく、焦りの感情も見えた。そういえば、偽のレイも、この世界は崩壊の一途を辿っているって。
「もしかして、世界崩壊のことか?」
一瞬、男の子の手が止まる。
「なら、話は早いな。それを裏で操るのが、こいつらさ。」
全てが繋がった。だが、何か引っ掛かる。
「でも、そんなデカいやつらが、こんな街に白昼堂々やってくるか?」
「あいつらは、こういう駆け出しが多い街を狙い、確実に潰していく。そういう奴らなんだよ。」
悲しそうな表情のレイがそう行った。そして、秀馬が消えていた。
「秀馬は?」
「あの連れの人ですか?いつの間にかいないね。」
まぁ、いい。秀馬は後から探せばいい。それにしても。
「店はいいのか。だいぶ壊れたみたいだけど。」
「大丈夫。ちょっと離れてて。」
そう言って、俺とレイを店から離して、男の子は自分のドローンの力で残った店の跡を消した。
「おい!何して…」
無言でドローンを操る男の子。そして、静かにドローンが青い閃光を放つ。まるでバーチャルのようだ。そうして、完璧な店の形が出てきた。
「force」
そう言って激しい音と光とともに、店が完璧に修復された。
「すっげー!」
「ふ。まぁね。このドローンは攻撃、そして再生の力を待っている。だから、あいつらみたいな奴らは、攻撃だけを使うんだ。」
「なるほど。」
彼に感心しながら、礼を伝えねばと思い、こう聞いた。
「君、名前は?」
沈みかけた西日に照らされ、彼は振り返った。
「僕はアランさ。」
彼の声が静かなこの世界の全てを物語っているようだった。
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ベッドの上に横たわり、ガラス張りの天井を見る。壁も、家の作りも、なんとなく想像していた近未来の世界だ。やはりここは異世界、というよりも未来の世界なのではないか。薄々そう思う。
「お、起きたのか。」
ドアを開け、あくびをかみ殺しながらアランが部屋に入ってきた。なぜか大きいサイズのグレーのパーカーを着ており、萌え袖。首輪をつけており、その理由は教えてくれなかった。
「おはよ、アラン。今日は何するんだ?」
「別に。仕事してくるだけ。」
「…?お前、未成年だろ?働けないんじゃ…」
「は?何そのよくわからないルール。誰に聞いたんだよ。」
やはり、日本とは何もかも違う。
ドアの前でポカンとした表情のアランを退け、ドアを開ける。階段を降りると、先に席に着いて朝ごはんを食べていたレイが眠そうにしていた。
「ん?あぁ、稔ですか。おはようございます。」
「おはよ。てか、お前、朝からよく食うな。」
レイの前の皿には、シリアルと思われる食べ物が器いっぱいに盛られていた。強盗のせいで食べられなかったからと言って、昨日の夜も散々食べていたというのに。お陰で、潤っていた懐に乾燥の季節が来てしまった。
「これくらい普通ですが?」
「普通じゃないんだよ。」
それでも眠そうに目を擦るレイに呆れつつ、やはりお金を稼ぐために自分も仕事をせねばと思い、アランに訪ねた。
「ところで、仕事って、何すんの?」
「ドローンに、再生の能力があることは、前に話しただろ?」
細長いバー状のチョコレートを食べながらアランの話を聞き、それに頷く。
「それで、依頼主の依頼した建物の再建築とか。その建築代で稼いでる。高級な建物になればなるほど、報酬も弾むってわけ。」
「なるほどねぇ。」
「ただ、そういう物件は高レベルの人がほとんどだから、僕みたいなのは小さいのでチビチビってなる。」
この世界は、高レベル=高収入になるわけだ。となれば、まずはレベル上げが必要だ。
「なぁアラン。どうすればレベルを上げられるんだ?」
一呼吸おいてから、彼の話し出しを待った。
「それは分からないんだ。気づいたら上がってる。だから、意図的にあげるのは厳しいと思うよ。」
「…そう…」
「ごちそうさまでした!」
完全に空気を読めないレイがそう言葉を放った。
「そうだ!私、今日は行きたいところがあるんでした。
ちょっと、付き合ってくれませんか?」
なんでこいつはそんなのんきなんだろうか。でも、レベルの件もレイに聞けばいいかと思い、快諾することにした。
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機嫌良さそうに鼻歌を歌うレイ。足取りの軽さが妙に腹立つ。
「……重いんですけど?」
「だって、きてくれるって自分で張り切ってたのは稔ですよ?」
何も言い返せない。もしかしたらとレベルのことを聞けるかもと期待していた自分がバカだった。
今レイと俺は、街の商店街にいる。片っ端から店を梯子するレイ。どこの店でもすこし値切ってみせた。
そして、俺がこの世界にきて最初についた、あの白い門。広場らしきところの真ん中には噴水もあった。
「綺麗ですよね?はじめて見た時から、お気に入りなんです!」
「確かに綺麗だな。」
レイは噴水を見つめたまま、しばらく何も言わなかった。いつもなら軽口の一つでも叩くのに、それがない。
「……これは、平和の象徴だから。」
声が、ほんの少しだけ掠れていた。なにか気の利いた言葉を探したが、言葉は喉で止まった。そんな中、風の音すらしなかった。噴水の音だけがやけに大きく聞こえる。
「あ、ここにいたんだ。」
2人の沈黙を打ち破ったのは、アランだった。声がした方を見ると、手を振りながらこちらに近づいてくるアランがいた。
「あ……」
噴水の前までアランが来ると、彼も同じように止まってしまった。噴水の上にある小さな鳩の石像をみて、そこから視線を離そうとしない。何かに引っ張られるように。
「やっぱり、忘れられないんだ。」
「はい…」
また、噴水の音だけが聞こえる。遠くで誰かのAVI-8が発した電子音が聞こえてきた。
今の2人の言葉を聞き、どうしても気になった。このまま黙っている方が、よほど怖い気がして。
「あの、忘れられないって、何かあったの?」
「それはね……」
アランが何か言いかけたとき、3人の前に大きな風が吹いた。思わず身構え、何かあった時のために備えた。それでも、何かが襲ってくるような気配もなかった。風は止んだ。何もなかった。そう思ったときに、警報音が鳴り響いた。
「警告。警告。NULL'Sによる攻撃を感知。
繰り返す。NULL'Sによる攻撃を感知。
WALKERSの皆さんは、ただちに戦闘に備えてください。」
街中の人達が走り出す。さっきまでは静かだった。だが、今は違う。何が起きているか。どうなってしまうのか。そんな恐怖と不安が、俺を襲った。
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人混みの中をレイ、アランと離れないようにしながら掻き分けていく。流れる川のように全ての人が同じ方向に走っていく。
「おい!どういうことだ!?NULL'Sってなんだよ!?」
「説明はあとでするから!今は着いてきて!」
アランに諭され、とりあえず着いていく。一体全体、何が起こっているのだろう?
「着いた!」
声を上げたのはレイだった。みれば、あの時の水色のゲート。偽物のレイと本物のレイが戦ったあの場所に繋がるゲートだ。周りの黒いパーカーの男たちは、次々に飛び込んでいく。
「稔!行きましょう!」
「やだよ。」
「「は?」」
レイとアランが同時に声を発した。驚きのあまり声も出ない様子で、2人で顔を見合わせる。
「…稔、AVI-8は持ってるんですよね?」
「ああ。もちろん。」
ポケットの中に入れてあるAVI-8に指先が触れる。微量の電力を感じた。
「なら!手伝ってくださいよ!」
「なんで来たばっかりでこんなことに巻き込まれなきゃなんないんだよ!?」
「それは……。でもでも!一応WALKERSWORLDの一員なんですから…」
「まだ二日ちょいで住人呼ばわりされても困る。」
「うぅ。」
なぜかアランはいなくなっていた。足音もしなかった。先にゲートに飛び込んだんだろう。
辺りはすっかり静かになった。誰もいない。遠くの噴水の水飛沫の音も聞こえない。2人の間の静寂。小鳥の声すらしない。そんななか、吹っ切れたと言わんばかりのレイが大声を出した。
「臆病者は引っ込んで入ればいいです!」
そう言って1人でゲートに飛び込んだ。周りには誰もいなく、自分1人になった。どうすればよいのだろう。助けに行くべきか?でも、あそこまで行っておいて今更行くのは気が引ける。大体、教室の女子に声をかけることすらできない自分に、そんな度胸はない。よし。今回はレイとアランに任せて、自分は2人の無事を祈ろう。
そして俺は、ゲートに背を向けて歩き出そうとした。
だがその時、ポケットが光っているのに気がついた。手を入れてみるとAVI-8が反応していた。青白く光っている。もしかして、ドローンの姿になりたがっているのか?試しに投げてみると、空中で見事にドローンと化した。そしてそのままゲートにまっすぐ飛んでいった。
「んな!?」
エピローグ
どうしよう。本当にどうしよう。相棒もいない。レイもアランもいない。あいつらはそこまでして、自分たちの故郷を守ろうとしている。それなのに自分ときたら。
…………。
「……しょうがねぇなぁ!!」
自暴自棄になり、自分もゲートに飛び込んだ。どうなってもいい。ここまできたら、もう自分にできることをしよう。やるしかない。それが、俺だ。
意識が遠のいていく。そして目が覚め、そこで俺が目にしたのは______。




