Wellcome to walker world〜1〜
プロローグ
技術は発展し、人々は、思い思いの暮らしをしている。だが、それは表向きの話。本当の世界は、荒廃し、何もない。だから人々はwalker worldを作った。闇を抜け出し、辛い現実から目を背けようとしてきたのだ。だが、その選択が今。本当の世界を揺るがすことになるなど誰1人として。いや、ただ1人を除いて、知ることはなかった。
霧の匂いで目が覚めた。
暗い空の下、巨大な門が立っている。
錆びたチェーンには黒い文字で──
“Walkerworld”と刻まれていた。
ありえない状況なのに、世界は妙に静かで、風の音だけが耳に触れた。どこからか聞こえる謎の機械音がさらに不気味さを増させ、冷たい風が頬を撫でる。霧がゆらりと漂うのがわかる。ほんの数メートル先すら霞んで見えない。
「……ここ、どこだ?」
別に、ここに来たいと望んで来たわけではない。自分の部屋でゲームをし、こんなスリルのある世界に行きたい。そうつぶやいたらこの世界に飛ばされた。
とはいえ、現実世界に飽きた自分にとっては悪くないと思った。自分はゲーム『この崩壊した世界に再び光を』ではそこそこのプレイヤーだ。こんな世界は大好きだ。
しかし、このままではまずい。今は夜。いや、辺りが暗いだけで、夜かどうかもわからない。この世界はなんなのか。どうすれば戻れるのか。何もかもわからないまま少なくとも30分はすぎた。どうしたものかと首を捻ると目の前に、ドローンと思われるものが現れた。見たこともない形をしているそのドローンは自分の前を浮遊しながら、こちらを見ていた。
「おい!これなんだよ!?なんかやばいやつか?」
敵か、と身構えたが、どうやら攻撃する意思はないらしい。安堵のため息をつくと突然、ドローンが早口で何かを捲し立てた。
「喋った!?」
驚きのあまり尻餅をついてしまった。ただ、音が掠れて、何と言っているのか、見当もつかない。ただ、ウェルカムだけは理解できた。それ以外は微塵もわからない。
「英語?何て言ってるんだ?」
そう言うと、稔は目の前の門に目をやった。相変わらず、開きそうにない。
「鍵らしきものが必要なんじゃないか?」
その時、足元に、一冊の本が落ちていることに気がついた。埃が被った、古い本だ。
「なんの本だ?」
ページをめくると、なにやら鍵らしきものが挟まっていた。
「あ、あった。」
素っ頓狂な声が出た。構わず錆びた鍵をチェーンにかけて、ぐるりと回す。しかし、何も起こらない。ドローンは黙ってこちらを見つめる。辺りが沈黙に包まれ、自分の心臓の鼓動だけが聞こえる。
「なんか、足んない?」
辺りを見回すが、それらしきアイテムは見当たらない。本来こういうとき、鍵になるのはキャラだ。大抵近くのキャラが持っていることが多い。ただ、それはゲームの話。だが、ものは試しだ。
「失礼!」
ドローンの背後に回り、素早く捕まえる。また謎の電子音が聞こえた。爆発でもするのかと思ったが、そんなことはなく、さっきのものと似た形の鍵が見つかった。
「手荒な真似して、すまんかったな。」
ドローンに軽く謝ってからまたチェーンに刺す。そして回す。途端、門が鈍い音を立てて開いていく。どうやら開いたようだ。
「おお!空いた!」
開いた門を潜った。世界が変わったような空気になった。そしてドローンがこう言った。
「Welcome to Walkerworld」
「現実では誰からも相手にされなかったんだ。この世界では必ず輝いて...いてっ!」
足元の小石に躓いてしまった。なんてことだ。
「ちくしょーー!!俺の物語の最初がこんなだなんて!!」
足元を確認して、今度こそと、俺は歩き出した。
その時、わずかにドローンの目が青く光ったのを、俺は見えないふりをした。
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コツコツと、足音を立てながら闇の中を歩いていく。左右に目を走らせると、スポットライトが自分を照らしていた。自分が歩いたところで、それに合わせるようにライトがつく。後ろを振り返れば無数のライトが、誰もいない闇を照らす。
相変わらず霧の立ち込めたこの世界が不気味でたまらない。どこまで歩けばいいのか、全くわからないが、それはそれで面白い。中学生では陸上部。体力には自信があった。
そんなことを考えながら歩いていくと、なにやら乗り物があった。空高くどこまでも続くようだ。
「乗ってみるか。」
きっとこれに乗って最初のステージに行くのだろう。と、気がつくと、後ろにはさっき鍵を奪ったドローンがいた。
「おい。どうした?鍵はもらったからお前には用はな...」
なんとも愛くるしい目でこちらを見ているではないか。
さっきまではただのロボットだと思っていたが、今はとても可愛く見える。
「一緒にくるか?」
こちらの言葉を理解したのか、電子音を発し、俺の周りをくるりと回る。喜んでると思うことにした。
「よし!一緒に行くか!」
ドローンを抱き上げ、椅子に座り、安全バーのようなものをつける。せっかくだ。こいつにこの世界を案内して貰えばいい。
その時、またまたどこからか、電子音が聞こえてきた。このドローンではないらしい。ここまでくると、もはや安心感すら感じる声だ。
「Are you ready?」
一瞬戸惑った。初めて来た世界でいきなり天に召されるかもしれないのだ。怖いわけがない。でもきっと、いいことが待ってるはず。そこに一縷の望みをかけて、返事を返した。
「イエス!」
するととてつもない重力を感じ、一気に上へと上がっていく。下をみると、先まであった石像が小さく見える。高いところは苦手なのでなるべく下を見ないようにする。目を瞑り、気がつけば雲の上にいた。辺りはオレンジ色の空に包まれており、美しい。
「綺麗な景色だな。」
キューとドローンが鳴いた。もう家族のようなやつだ。浮島が見えてきた。大きなAとWが合わさった形のあのマークがデカデカと見える。辺りは明るいはずなのに、ライトアップされている。
「なんだ!?あれは!?島!?ってか、浮いてる!?」
乗り物が向きを変え、島の方へと進んでいく。まさか、あの島に行くことができるのか!と思うと胸が熱くなる。
島の降り場についた。辺りを見回すと、椰子の木と思われる木が植えてあった。何本も、左右対称に植えられている。ハワイでもイメージしたのだろうか。また、通りの入り口にはもう見飽きてきたドローンが2つ飾られていた。そして、目の前に、白い門があるのに気がついた。鍵かかっているわけでもなく、チェーンがあるわけでもない。門というより、ゲートという感じだ。ゲートを潜ると街のような景色が広がっていた。近未来的な街、いや、街というよりも、テーマパークに近い。みな、黒いフード付きのパーカーを着ている。情報量が多すぎる。だが、胸の高まりを抑えることができない。
もしかしたら、この世界は異世界なのかもしれない。
「いやっっっったーーーー!!!」
その声に驚いたのか、ドローンがちょっと距離をとった。
「ごめんて。大声出して。」
なんとかドローンを落ち着かせ、改めて辺りを見回す。
現実に飽き飽きしていた自分には夢のようだ。浮ついた心をなんとか落ち着かせ、少し歩いてみることにした。
少し進むとジェットコースターらしきものがあった。
「本当に異世界か?ここ?」
自分の想像していた、血肉を争い、モンスターが出てくるような世界とはまるで違う。
その横にはAとWのマークのついた建物が見えた。もしかしたら、ここがギルドとなる場所かもしれない。そう思い、その建物に足を向けた。ドアが開くと、やはりカウンターがあった。
「ビンゴ!」
カウンターに向かうと、受付の人と思われる女性が現れた。目が合うと、いきなり早口で何かを捲し立てた。
「Welcome to Walkerworld.
Are you a Walker, or would you like to sign up?」
一言も理解できずに困惑していると、後ろから1人、歩いてくる人がいた。もしかしたら、日本語がわかるかもしれない。
「......稔?」
「......は?」
顔を見合わせて、しばらく沈黙が続いた。稔は生唾を飲み込んだ。初対面のはずなのに、どこか懐かしいような、新鮮なような。懸命に過去の記憶を探るが、どうにも思い出せない。だが、相手はこっちの気も知らずに興奮した様子で話しかけてくる。
「やっぱり!!稔だよな!!まさかこんなところで再会するとはな!」
「......なぜ俺の名前を知っている?」
「俺だよ!秀馬だよ!秀馬!中学の頃クラス一緒だっただろ?」
「...え?えええええええ?!?!?」
驚きのあまりとんでもない声が出てしまった。
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「...ほんとに秀馬?」
「俺以外ありえねぇだろ!久しぶりだな!中学以来か。」
秀馬は昔と変わらない無垢な笑顔を見せた。でもそれも一瞬だった。
「っと、感動の再会をしてる場合じゃなかった。」
秀馬が突然真剣な顔つきになったものだから、思わず聞いてしまった。
「なにがあったんだ?」
秀馬は顔を下げて、こちらを見ようとしない。まるで何かを隠しているようだ。
「すまん。稔。流石に稔でも来たばっかりだし、言えないさ。」
「なんでだよ!?俺ら友達だろ!?」
「開口一番忘れてた癖に。」
軽く睨むような顔でこちらを眺める秀馬。どうしても事情が気になって、過去の恥を話し合いに持ち出した。
「いいのか?お前が小学の時に言ってた"あれ"ばらしてもいいのか?」
「稔!」
突然大声を出すので驚いた。凄い剣幕でこちらをみる。
「あのな、今はお前のくだらない冗談に付き合っている暇はない。すまん。」
そういうと、黒いパーカーの人達の中に消えていった。
「んだよ。」
どうしても気になったので、ついて行ってみることにした。ドローンも待て待てとついてくる。
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しばらく走っていくと、ゲートがあった。水色の幕がついており、皆そこに飛び込んでいく。ほんの少しの後ろめたさと恐怖感を抱えながらも、秀馬にバカにされた悔しさを胸に、思い切って飛び込んだ。
「えいやっと!」
ゲートに入ると、視界が真っ白になった。だんだんと、意識が遠のいていく。
気がつけば、平原のような場所にでた。うっすらと雲がかかっており、空気も澄んでいる。さっきまでのテーマパークのような雰囲気とはまるで違う。これこそ、俺の知っている異世界だ。
「こっちの方が好きだな。」
ポツリと呟くと、少し離れた所で誰かが倒れているのがわかった。
「誰だ?」
周りには襲われた形跡は残ってない。だが、最悪の事態が頭をよぎる。とにかく、今はあの子を助けないと。その子の方に向かっていくと、そこには自分の2つか3つ下と思われる女の子が倒れていた。草むらに突っ伏しており、全く動かない。
「あ、あのー?大丈夫か?」
恐る恐る尋ねると、その子の周りをドローンが飛び回っているのに気がついた。まるでその子を心配するように。
ほんの出来心でドローンを捕まえてみた。
必死に腕の中から出ようとするドローン。助けを呼ぶ声に反応したのか、女の子が起き上がって 眠そうに目を擦った。
「ん?誰ですか?」
ドローンと女の子の目が合う。側から見れば、俺がドローンを誘拐してるようにしか見えない。それを一瞬で理解したのか、凄い顔で怒りをあらわにし、こちらを指さしてきた。
「おい!私の相棒のスカイに何をしようと!?もしそれがイタズラなら、すぐに離してもらおうじゃないか!」
スカイというのは彼女のドローンの名前だろうか。
「ごめん!危ないかなって。」
「スカイが?そんなわけないじゃないですか。全く。」
呆れたような顔をしながらこちらを軽く睨んだ。
「ごめん。てか、君はなんでこんなところで倒れてたの?」
「それは...寝てました。」
テヘっという顔をする女の子。だめだ。この子清楚系な見た目に反してダメなタイプかもしれない。…ん?
俺のドローンが過剰に反応した。まるで威嚇するようだ。まぁ、初対面だから興奮してるだけだろう。
「この世界の人?」
「いえ。私は別の世界から来ちゃったんです。元の世界でいろいろあって...えっと、知らないかもしれないんですけど。」
一呼吸置いてから聞き慣れた地名が出てきた。
「日本ってとこです。」
驚きのあまり声も出ない。聞こえるのは遥か彼方でなく烏の鳴き声だけだ。
「......?どうかしました?」
我に帰ると、女の子がこちらの顔を覗き込んでいた。
「ごめん。いや、実は、俺も日本から来たんだ。」
その瞬間、彼女の表情がぱぁっと明るくなった。
「本当ですか!?えっと、日本のどの辺ですか?」
「埼玉。」
「あぁ。なんだ。田舎でしたか。ちなみに私は、天下の東京です。」
「おい。埼玉について文句があるなら聞いてやる。」
俺の冷静な返しに、困惑した表情になった。とりあえず、話が通じるやつでよかった。
「あ、そうだ。名前を聞いてなかった。俺は稔。お前は?」
「私はレイって言います!」
「そっか。よろしくな!レイ!」
そういえば、こっちに来て長い人ならば、この世界のことを知っているかもしれない。
「この世界について、なにか分かることってあるか?」
するとレイははっとした顔になる。
「...WALKER WORLDは...」
「...ん?どした?」
「この世界は、崩壊の一途を辿っています。」
後ろで戯れ合うドローン2台の動きが止まり、こちらをみたようだ。
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2人で歩みをそろえて、何もない平原を歩いていく。レイが「パーク」という場所に行きたいというので、向かっている。話を聞けばそこは、最初についたあのテーマパークのような場所のことだった。そんな2人の前をドローンが先導する。任せてくれと言わんばかりに楽しそうに浮遊する。
「ところで、なんでこっちの世界に来たの?」
下を向くレイ。なにか隠していることでもあるのだろうか。
「それは...」
レイが何かを言いかけたところで、スカイが過剰に反応した。まるでレイが来た理由を教えるのを嫌がるようだ。それに気がついたレイが俯いた。
「...?どうした?」
「それは言えません。」
隠しごとだらけじゃないか。と心の中でそうつっこんだ。やはりこの世界...
———何かある。
所々に生い茂っている木々が風に揺られ、霧が立ち込めている。
また、しばらく歩いてくると、ゲートがあった。こっちにくる時に潜った、あの青いゲートだ。なぜか2人の間になんとも言えない沈黙が続いた。どちらか先に行くか、目だけで譲り合いをする。なぜ俺たち日本人は、どうも譲ってしまうのだろう。気まずい沈黙に耐えられなくなったのか、レイが口を開いた。
「...あの、先に行きますか?」
ぎこちない笑みでそう言うレイ。この気まずさの中で言葉を放ったレイの勇気を無駄にしたいわけではないので、
「じゃあ、お先に。」
「あぁ!待ってください!」
そう言ってレイはゲートに手をかざした。途端にゲートは水色から、闇を纏った黒色に変わった。
「これでオッケーです!」
「本当に?」
「もちろん!」
レイは相変わらず笑っていた。でもその笑みは人間らしくなく、どことなく不気味さを感じる笑みだった。ただ、そんなこと気にしている暇もないので、一歩、踏み出し、ゲートに足をかけた。すると、ゲートから電流が流れ、体が痺れた。どういうことだ?来る時はこんな風にはならなかったはずなのに。
「...は?」
レイなら分かるかもしれない。そう思い、後ろを振り返る。だが、レイはなぜか恐ろしい笑みを浮かべていた。まるで悪魔のようだ。
「レイ!?どうした!?」
「やはり人間は愚かな生き物だ。こんな生き物だから、世界が壊れていくのだ…。」
嘘だろ!?こいつ、人間じゃない。なら、こいつは何者なんだ?
「Fire!」
どこからか、レイと同じ声が聞こえてきた。振り返れば、さっきまで見ていたレイがいた。
「レイが2人!?」
「それは、私じゃありません!詳しいことは後で話しますから、今はそいつから離れてください!」
目の前で何が起きているか理解できなかった。どうすることもできずに、ただその場に立ち尽くすことしかできなかった。そんな俺に、本物のスカイと思われるドローンが、俺を2人から離れるように促した。おかげで、偽物の攻撃を受けずに済んだ。
「ありがとう!」
それに答えるように途切れ途切れの電子音を発したスカイ。感情があるとは思えないが、褒められて満更でもない様子だ。そしてそのままレイのところへと飛んでいった。
「Force!」
その合図とともに、スカイが光線を放った。その瞬間、金属が軋むような音を立て、偽物は崩れ落ちた。ホッと安堵の息を吐く本物のレイ。たまらず、さっきのロボットについて聞いてみた。
「あれって…」
「あれは人に擬態して人間の力を吸い取り、エネルギーにするロボットです。全く。このロボット被害も、今月で5回目。まさか私にもくるとは。」
ぶつぶつと独り言を言うレイ。さっきまでとは真逆の真面目ちゃんかもしれない。ただ、あのロボット。何かおかしかった。エネルギーを吸い取るだけなら、あんな回りくどいことしなくてもいいような気もするが、
「大丈夫ですか?怪我とか...」
「いや、大丈夫だ。ありがとう。レイで、あってる、よな?本物?」
「安心してください。私は本物の人間ですよ。」
そう言って、可愛らしい笑みを浮かべるレイ。どうやら、ロボットが完璧にレイに擬態化してたらしい。
「ゲートが開かないの?」
「あぁ。パスワードが必要だと。」
レイがすっとぼけた顔をした。
「そんなわけないと思います。あっちとこっちでくるのに、パスなんていりませんよ。ほら。」
そういってゲートを潜るレイ。慌てて追いかける。
「待って!」
ゲートを潜る。また、白い世界。意識が遠のく。
気がつけば、最初のテーマパークのような世界に戻っていた。
エピローグ
「ふう。これでよし!」
そう言って、辺りを見回すレイ。どうやら、戻ってこれたみたいだ。自分も習って辺りを見回す。やはり、危ない世界よりも、こっちの方が好きだ。
「改めて、レイです!」
「俺は稔だ。よろしくな!」
そういって握手を交わす。さぁっと吹いてくる風が、俺たちを歓迎しているように感じられた。




