チェス盤フロントライン(後編)
アーデルハイド様が好きで好きで……
戦争が楽しくて楽しくて……
そしたら……こんな所まで来てしまっていたのですよ。
フフッ……
鑑賞用BGM(奪われた豪邸から):https://www.youtube.com/watch?v=5NQPPkvaJSY&t=633s
鑑賞用BGM(神居古潭近くの森から):https://www.youtube.com/watch?v=NwTPqfqGrvQ
鑑賞用BGM(お好み焼き屋SHEMHAZAから):https://www.youtube.com/watch?v=0QVOc1aagSE
~日高町~
~奪われた豪邸~
レナは右端のポーン(h2)を前に進める。
ヴェルチカは即座に中央(d7)のポーンを動かした。
【キエフに行った事はありますか?】
『……何度か』
【良い街ですよね】
【私が行った時はロシア兵だらけでしたが】
『……その時のNATOの司令官って……』
レナは右寄り(f3)のポーンを前に進めた。
【私じゃありませんが、実質私です】
【NATOの司令官に依頼され、私が奪還作戦を立てました】
【戦略的にも戦術的にも完璧に勝っていました】
『けど……撤退せざるを得なかった』
【急遽戦線に戻って来たヤストレブによって、機甲旅団と歩兵2個連隊が蒸発してしまった】
【そして【魔女】がオデッサとドニプロから大部隊を移動させてると聞き、撤退の決断を下しました】
【あの時程、悔し思いをした事は無い……】
ヴェルチカは左端(b7)の駒を前に進める。
レナは鼻先を掻いて言う。
『……実は期待してました』
『故郷を全て失う、最悪の未来から逃れられるんだと』
【しかし……結果は何も得る事が無く、損害を出しての撤退です】
【もし作戦が成功していれば、ここで貴女とチェスをしては居なかったでしょう】
【運命とは……実に数奇です】
『……単刀直入に聞きます』
『アナタ方は悪党ですか?』
『世間でウワサされている程には、【降下機甲猟兵大隊】は悪党に見えないので……』
ヴェルチカはレナの問いに、左端のナイト(b8)を動かして答える。
【立場や価値観によって、人間は善人も悪人にも視える】
【私はそう思って居ますよ】
【別に私自身は悪党と呼ばれても構いませんがね……】
『……どの道勝った者が、果実を総取りするからですか?』
『善悪なんて屁でも無い、と?』
【ええ。その通りです】
【ビジネスやスポーツでは許されて……戦争や闘争では許されない、なんてのは欺瞞です】
【命まで奪い取るから悪党……なんてのは、思い上がった自称文明人の戯れ言でしかない】
レナは左端のポーン(a2)を進める。
『……その理屈じゃマルファやヤストレブも悪党じゃない、って話になりますけど……』
【主導的・先導的な役割を果たしているだけで、基本的には国の命令で動いていると理解していますよ(最近は怪しいですが)】
【単純に、彼等の利害が我々の利害とは両立しないだけです】
【そして……誰かの命令で動いているのは軍人だけではない】
ヴェルチカは灰色の瞳で、赤い携帯ゲーム機でゲームを遊んでいるクリチカを、数秒間だけ眺める。
クリチカは彼女の目線に気付いたが、再びゲームに熱中し始めた。
~22手目~
結論から言うと、レナは不利な状況に陥っていた。
機動力の高いナイトが1つ奪われ、ポーンの一部前衛が刈り取られ、クイーンへの道が出来ていた。
【左がガラ空きです】
ヴェルチカのルークが、レナのルークを跳ね飛ばした。
【この命知らずなルーク相手に、守りへ入ってはいけません】
【突破力と機動力がある相手に、隙を見せてはならない……】
レナはポーンを動かしてナイトへ向かわせる。
しかし、横合いから黒いナイトがポーンを狩った。
【ナイトは……常に日の当たる場所に出ているワケではありません】
【闇に紛れ、気付かれずに敵の背後へと回るナイトも居ます】
『うっ……!』
【夕食が出来上がるまで、まだ時間はたっぷりあります】
【もっとゆっくりと考えても良いですよ】
ヴェルチカは手の甲に顎を乗せ、妖しく微笑んだ。
~34手目~
レナは追い詰められつつあった。
ヴェルチカは奪い取ったルークを指で回し、見せびらかしつつ言う。
【クイーンを守る為に、アナタのコマは次々と犠牲になっている……】
【あなたの女王は……それ程までにか弱い存在なのですか?】
『……っ!』
彼女は黒いビショップを動かし、レナのビショップを取る。
【そしてこの黒いビショップの姉妹……】
【彼女達の射程に、貴女の女王が収ってしまいました】
【さあ……どうします?】
レナはチェス盤に手を伸ばそうとしたが、硬直してしまった。
『(ビショップを動かせば取れるけど……)』
『(私は迷わない……!)』
彼女はクイーンでビショップの姉を取った。
【──!】
『クイーンのお姉ちゃんはね……』
『誰よりも強くてしぶとくて、大胆なのよ』
『臆病だったり繊細に見えるのは……それが本当の姿だから』
『だけど、誰よりも勇敢なのも私達のクイーンなの』
【……少々貴女を侮っていました】
【ですが……そろそろ仕上げと行きましょうか】
ヴェルチカ顔から微笑が無くなり、冷徹な作戦参謀の表情へと変わっていく。
『(……!)』
レナは、ヴェルチカの気迫を一身に受ける。
ヴェルチカはレナのビショップを、妹のビショップで跳ねる。
【レナ・椎原・ミーシチェンコ……】
【私は最初からこの深みに居たワケではありません】
『……!』
【アーデルハイド様が好きで好きで……】
【戦争が楽しくて楽しくて……】
【そしたら……こんな所まで来てしまっていたのですよ】
【フフッ……】
彼女はそれまでに取った駒を、チェス盤の横に並べていく。
【【降下機甲猟兵大隊】の敵達はますます強大になり、賢くなって行きます】
【ですが……私はその度に軍略と策略を研ぎ澄まし……磨き上げ……】
【アーデルハイド様に極上の勝利を献上する】
【例え相手が神でも……勝利を主君にもたらすのが、参謀の仕事です】
ヴェルチカは自分のクイーンを摘まんで口づけをし、チェス盤に置いた。
【チェックメイトです】
【もう貴女の女王は逃れられない】
『……!!』
レナはあらゆる手を考えたが、既に打つ手は無かった。
彼女は悔しそうに拳を握り締め、膝に置いて項垂れた。
『……私の負けです』
『投了します』
【無駄な抵抗をせずに、犠牲を押し止めましたね】
【そこは評価に値します】
【損切り……実はこれこそが一番難しい】
『……ありがとうございました』
『まだまだ私は至らない所が多い、そう痛感させられました……』
【ふふっ……ラロシェルは私の敵です】
【貴女も狙っているのでしょうが、そう簡単には渡せませんよ】
【しかし貴女には素質がある……場数を踏み、研鑽し、鍛え上げれば光る】
【この私が保証します】
ヴェルチカは用が済んだ駒とチェス盤を片付けて行く。
そして車椅子を車輪を素早く回し、クリチカの前まであっという間にやって来た。
『……何か用ですか?』
ヴェルチカは赤いゲーム機をいきなり掴み、万力の様に握り潰して行く。
プラスチックと基盤、そして液晶の破片が混ざり合い、粉になって地面に落ちる。
『なっ……!?』
『何をす……!!』
【私が貴女程度の行為に気付いていないとでも……?】
【相手は選んだ方が良い】
レナは唖然として、クリチカの方へ振り返って言う。
『何を……してたの……!?』
『クリチカ……!』
『い、言えない……!』
ヴェルチカは焦るクリチカを鼻で笑い、車椅子を走らせてテーブルへ戻って行く。
【続きは夕食の後でどうぞ】
【マズくなってしまいますから】
『──続かせねーですよ』
クリチカは背後から首を抱えられ、ナイフを突きつけられる。
『良い度胸じゃねーですか、バイクおっぱい』
『二階で寝たフリしていて正解ですよ』
『まっ、待って!』
レナはアイカへ駆け寄ろうとする。
が、アイカの殺気の籠った本気の眼光で制止された。
『誰に情報を送ってたんですか?』
『正直に言わないと、お前の首を掻っ切りますよ』
ヴェルチカはアイカの登場にも驚かず、片眼鏡の位置を直し、彼女へ言う。
【恐らく……ラロシェルかその部下でしょうね】
【デジタルとアナログ、情報収集は両面で行うのが基本です】
【首輪を着けるのも、ですが】
『……』
レナは瞳孔と唇を震わせながら言う。
『どうして……クリチカ……』
『私達【家族】でしょ……!?』
『互いに隠し事はナシだって……!』
『【家族】同士だって言えない事はあるのよ……!』
『私には金が必要だったの……!』
『お金なら……指揮官が十分なくらい……』
『レナ……アンタ……』
『このまま一生を誰かの兵隊で終わる気……!?』
『えっ──』
レナは伸ばしかけた手を止める。
クリチカは部屋の全員を見渡しながら、吐き捨てる様に言う。
『……私は見返したいのよ……!』
『私達ウクライナ人に負債を押し付けた、その連中全てに……!』
『ラロシェルだって例外じゃないわ!!金の為に利用しているだけよ!!』
アイカはナイフの切っ先を、クリチカの首へ軽く押し付ける。
『事情は分かったです』
『なら送った情報が問題ですよ』
『もしイチカさんの情報なら、この場で即殺しますから』
『……送っていないわ』
『その情報がラロシェルにとって、価値があると思わなかったから……』
『──命拾いしましたね』
アイカはナイフをクリチカの首筋から離し、彼女を解放する。
そしてナイフを回転させながら、レナの前に立った。
『じゃあ残るはお前だけですよ、レナ』
『脳みそかアイテムに何か仕込まれてる可能性がありますよ』
『え……』
ヴェルチカは、フェルゼンから出されたロールキャベツを頬張る。
【ムグムグ……】
【仕掛けられているとしたら、バックドアですね】
【どんなアイテムか分かりませんが、電子系のアイテムなら可能性は高そうです】
【ラロシェルの技術力なら可能かと】
『握力片眼鏡……もし仕掛けられているとして……』
『バックドアを解除出来る方法はありますか?』
【……同じくらいの技術を持つ人間ならば可能です】
【そんな人間は1人しか思い浮かびませんが】
【正直、隔離した方が早いとは思いますけどね】
『誰ですか?それは』
【アリアナ・ミューゼ】
【《Dona》の名で知られている、世界的アーティストです】
【しかし……彼女のバックが厄介に過ぎる】
ヴェルチカはフォークで、部下が持って来たパック米を頬張った。
【彼女は【コンキスタ・カルテル】の幹部でもあります】
【そして……ラロシェルとはかつて同棲していた、とまでは調べが付いています】
『『『!!?』』』
フェルゼンお嬢様が目を輝かし、ヴェルチカへ迫る。
『もっと詳しくお聞かせ下さいまし……!!』
【……かつてミューゼはブラックハッカーとして名を馳せていました】
【しかし、ラロシェルがホワイトハッカーとして幾度となく立ち塞がり、それが契機となったと】
【ホワイトとブラックが逆だと思うのですが、残念ながらこれは本人がインタビューで答えた事実です】
『仕事中の恋……超ロマンチックですわ~~!!』
【(仕事中、というのは良い言葉選びですね……使える)】
何にだ。
アイカはソファーに座り、足先でクリチカを小突きながら言う。
『……で、どうしますか?このすぱいぱいは』
『もう私の中では追放一択なんですが』
『あら……アイカさん……』
『別に情報が筒抜けになった程度で、私達がどうにかなるとでも??』
『ならねーですね』
『まぁ……イチカさんの情報は流出してないみたいですし、不問にしても良いとは思ってますよ』
『全裸王子とブラコン公爵は常日頃、全世界に恥をまき散らしているようなもんです。』
『なんで今更ですね』
『逆に利用しましょう❤️』
『ね❤️ヴェルチカさん❤️』
ヴェルチカは水が喉に入り、少し咳き込んだ。
【……やはり貴女には敵わない】
【出来れば、敵には回したくないものです】
『何の事か分かりませんわ~~!(きゃっきゃっ)』
かわいい。
レナはクリチカの前に来て声を掛ける。
『どうして……指揮官に相談しなかったの……?』
『きっと指揮官ならたすけ──』
『……し、指揮官にはこれ以上迷惑がかけられない』
『そ、そう思ったから……』
『それでアイデアを投資家達に見せたりして、資金を調達しようとしたんだけど……』
『……相手にされなかった……んだね、クリチカ』
『でも……目をつけて来たのが居た』
『……それがラロシェルよ』
『最初……途轍もなく葛藤した。誰にも内心が打ち明けられなかった……』
『私はアイツに魂を売ったのよ。大金を得る代わりに……』
アイカは冷しゃぶサラダの肉を摘み、ごまだれを掛けながら言う。
『大人をナメすぎましたね、すぱいぱい』
『ただ、らろしぇるってヤツが私の敵だと決まったワケじゃないですけどね』
『寧ろレイやんやたぬきの方が、よほど身近な脅威です』
『この業界の大人ってヤツは、お前の想像の100億倍はイカレた連中ですよ』
『……アンタは違うの?』
『自分で言うのもなんですが……』
『なんだかやっと普通に生きる事が出来始めた……そんな気がするです』
『そして、それは間違い無くイチカさんのお陰だと思うですよ』
アイカはサラダと肉を一緒に頬張り、微笑みながら言う。
『だから……』
『何時かお前も普通に生きられると良いですね』
クリチカの黄緑色の瞳から涙が溢れ始めた。
~同時刻~
~旭川市・神居古潭近くの森~
『……傷が深い……!』
『ハァ……!ハァ……!』
『流石に参ったぜ、レティツィア……!』
『やってくれたな……ロシア人共……!』
『とんでもないバケモノを喚びやがって……!ダハハハッ……!』
『……医者に連れて行く』
『移動手段を調達して来るから待ってて』
マルティーニは血塗れの手で、イチカの手首を掴んで囁く。
『病院の医者はダメだ……!』
『行くなら闇医者だ……!』
『……芦別町に闇医者が居る』
『そこで私も治療を受けたから』
『……思い出すなァ……』
『マフィアの連中に脇腹を撃たれて、フィレンツェの路上で空を見ていた時の事を……』
『……(何処まで本当の事を言っているんだろう……)』
イチカは服を千切って彼の脇腹に巻き、移動手段を探しに森から出ようとする。
『ありがとな……レティツィア……』
『スラム育ちの俺をここまで気に掛けてくれるのは、お前だけだ……』
『……!』
彼女は言葉を振り切る様にして走り出した。
そして数人のロシア兵とバイクを見つける。
『──!!』
『見つけたぞ!!捕まえろ!!』
『──ごめんなさい』
イチカは素早くロシア兵の背後に回り込むと、一瞬で絞め落とした。
彼女は軽いフックをロシア兵達の顎に入れ、次々に意識を飛ばして行く。
『……後で償うから』
彼女はバイクにキーを差し込んでエンジンを掛ける。
そしてハンドルを回して、一気にペダルを踏み込んだ。
バイクの音が、瀕死のマルティーニの意識を繋いだ。
『(もう時間が無い……!!)』
イチカは彼を背負い、バイクに乗る。
そしてウィリーする程にペダルを踏み込み、走らせる。
『ダハハハッ……!情けねェ……!』
『俺は結局レティツィアに頼りっ放しだ……!』
『喋らないで……!』
『喋ったらその分寿命が縮む……!』
バイクが芦別市の方面に差し掛かった、その時だった。
突如、イチカ達の上に大きな影が落ち、轟音が響く。
《【見つけたぞ!!手間取らせやがって!!】》
《【マルファのヤツ、随分と厄介なアマに惚れ込んだもんだ!!】》
『──!!(見つかった!!)』
イチカは全力でペダルを踏む。
だが、空に響く轟音は離れない。
《【ハァ~~ァ!!死に掛けてるな!イタリア男!!】》
《【【ネクスト・ペルーン】二段階起動!!】》
《【《雷帝の怒り》!!】》
イチカは上空の方を振り向く。
そこには、白い巨大戦闘ロボットがレーザーライフルを構えていた。
銃口に光と電流が収束していく。
『レティツィア……俺が足止めする』
『ヴェネツィアでまた会おうか』
『良い夢……見れたぜ』
マルティーニは自分から飛び降りようとする。
しかし、イチカは彼の黒いコートを掴んで引き留めた。
【──必ず突破口はある】
【どんな状況でも、どんな相手でも】
『……!』
《【お?やる気だな!!】》
《【てっきり逃げるばかりだと思っていたぞ!!ビビリ女!】》
イチカは指を噛み、血を垂らす。
【私はもう逃げない】
【逃げている様に見えるのなら、それはアナタがバカなだけ……!】
《【吠えるなよ!いじめられっ子!!】》
《【お前は誰かに飼われている方が幸せなタイプの人間なんだよ!!】》
《【さぁ、とっとと捕まってくれや!!俺は帰って娘に会いてぇんだ!!】》
彼女の脳裏に今まで屈辱的だった場面が連続で浮かび、反芻する。
瞳が真紅に染まり、白目が黒く染まっていく。
【──その言葉、後悔させてやる!!】
【【防衛魔人の遺伝子】三段階起動!!】
【《ブラッド・プール》!!】
バイクの周りに大量の血が噴き出して輪になり、宙に広がって行った。
~アメリカ・NY~
~ブルックリン通り・お好み焼き屋SHEMHAZA~
『なぁ……ラロシェル……』
【何でしょう、ケンザキ氏】
酒に酔ったレイカは艶めかしく唇を動かす。
『好きになった人って、何時でも逢えるように手元に置いておきたいやん?』
【……】
『逃げないように首輪付けておきたいやん?』
【……】
レイカはリボンを解き、毛先をクルクルと回し始める。
尋常で無い色気が広がる髪と酒気と共に、止め処なく広がって行く。
【好きになった女、手元に置いて飼うコツ……】
【教えたろか?】
【──是非】
【刻むんや】
【相手のココロに罪悪感をな……】
【こう……グィッっと……】
【もう少し具体的にお願いします。ケンザキ氏】
レイカはカラカラと笑う。
【ああ、すまん……【弱味】を見せるんや】
【いざという時に特定の部分で弱さを印象付ける】
【兄ちゃんには一番難しい事かもしれへんな】
【……確かにそれは私にとっては難しい】
【しかし、ケンザキ氏の仰る事は心理学的に考えても正しいと思います】
【(……ミューゼ……)】
【一番コレが上手なんはアーデルハイドや】
【正直、人間の領域超えとるわ】
【マジモンの悪魔かもな、アイツ!】
【……次に上手なのは?】
【私】
【……冗談でしょうか?】
レイカはケタケタ笑いながら、ラロシェルに向き直って言う。
【それは……これから分かるで仮面の兄ちゃん】
【いっちゃんと私はリードと首輪で繋がっとる……】
【どんなに離れて居てもな……】
【あの闇オバハンや妖怪ポリ公、バカ王子、少年兵のガキに取られて堪るかいな】
【……無論、私にもですか】
【なんや、欲しい理由があるんかいな】
【せやけど絶対に譲らんで】
【いっちゃんは私が見つけた、最高の投資先や】
【いっちゃんの毛一本、小指の爪に至るまで私のモンやで】
【──】
無論、レイやんのモノでもない。
彼女は日本酒を徳利に注ぐ。
そして、一気に日本酒を呷って言う。
【いっちゃんの《何か》が欲しければ……】
【私を通せ、つー事や】
【そして、お前は手数料とショバ代を払い続ける……】
【私が作ったプラットフォームにな】
ラロシェルは彼女に向けて拍手を送る。
【素晴らしい……】
【貴女は私が欲しいモノを完璧に理解している……恐ろしい程に……】
【商才、という意味では私を超えています】
【しかし、それでこそ組むメリットがある】
酔い潰れかけていたエリシェバはハッとして、立ち上がろうとする。
【大丈夫や、エリち】
【今主導権を握っとるのは私や】
彼女は膝を付き、乱れた髪の隙間から物憂げな瞳を覗かせる。
『ケンザキ……もう私は……お前が心配なんだ』
『それだけなんだ……』
【平気や、平気】
【これくらいの事なら日常茶飯事やがな】
『ケンザキ……』
ラロシェルは微笑を浮かべ、電子契約書の原本を宙に投影させる。
【それでは互いの取り分を決めましょう、ケンザキ氏】
【ダンジョン経済は私と貴女で二分される】
【そして……その後に本当の闘いが始まる】
レイカは空白の契約書へ指を翳し、文章を書き始める。
【お前はドラクエの竜王かいな】
【でもええわ。私は勇者やない……】
【魔王レーカや】
彼女は文章を書き終え、署名欄に英語で自分の名前をサインした。
【次はオマエや仮面の兄ちゃん】
ラロシェルが電子契約書の投影映像に触れると、文字と数字が契約書へ一気に記入されて行く。
【(コイツだけ数世紀は先を行っとる……)】
【(だからこそ、リスクを冒してでも一時的に組むメリットがある)】
【(この仮面のテクノロジーは、マジで人類の歴史を変えるかもしれへんしな……)】
【(まさか先見性で私を凌ぐ人間が現れるとは……)】
【(人間の可能性は無限大ですね。実に美しい才能の輝きです)】
二人は互いの契約内容を再度確認し、握手してしまった。
【これから貴女がどの様な作品を創り上げるのか……】
【とても楽しみになって来ました】
【宇宙都市が出来たら、一度招待してくれや】
【私をアッと言わせる様な未来を見せてくれる事、期待しとるで】
ラロシェルはレイカの言葉に、爽やかな微笑を浮かべた。
はい。
ヴェルチカ先生の個人講義終了です。
先生が一番楽しそうだったな……
レナとのチェスで手加減しながら、クリチカの様子も探りつつ、その裏に居るラロシェルに対しても策を仕掛けていました。
そしてフェルゼンの料理ペースや、アイカの動き、隊員達の腹具合まで把握していた。
当然、平取町の戦況も把握しています。
ラロシェルと殺し合いするのなら、これが最低ラインです。
普通の人間には無理や。
レナは割と出来そうな気がして来たけども。
アーデルハイドは最高の軍師を得たな、という感じがする。
何より主君との相性が良いから、ヴェルチカの献策がバンバン通る。
バンバン通った策がこれまた綺麗に決まり、更に組織が強大化して行く。
結構人材に恵まれてるんだよなぁ、アーデルハイド……
で、はい。
クリチカはラロシェルのスパイでした。
正確には二重スパイとして利用されているんだけども。
二重スパイの末路は不幸な事が多いですが、彼女はその結末を覆せるのか。
『指揮官には迷惑がかけられない』からって、ラロシェルの出資提案を受けるのは、正直彼女の判断力へ疑問が残る。
ティーン故に人生経験が不足している、という感じもしますが。
寧ろ、これは彼女の弱さへ巧みに付け込んだ、ラロシェルが上手過ぎるとも言える。
そもそも【アリサ】とレナにバックドア作ってるから、最初から彼女達はラロシェルの支配下だ。
つまりはアナログ的な手段も用意しておきたかっただけですね、あのイケメン仮面。
海千山千の大富豪にして人類最高レベルの科学者に、優秀なだけのティーンの少女が抗せるワケが無いんだけども。
一番の解決策はミューゼさんに会って、バックドアの除去とセキュリティシステムを作って貰う事です。
ただ、あの人は結構難しい所がある。
芸術家気質を極めたような人なので、相当気に入られないと幾ら金を積んでもやってはくれない。
ガチガチの技術者・兵士思考なレナとは全く合わない気がするんだよな……
普段のレナのノリで行くと、速攻で拒否られると思う。
ミューゼさんが自分からプロデュースをイチカに申し出た、というのは完全な奇跡だ。
それだけ素材が良かったんだろうけど、四十万に対する評価と真逆なのが面白い。
彼女は技術は凄かったんだけども、明らかにポップスをナメ切っていたので『お遊戯』は妥当な評価と言える。
ミューゼさんに気に入られたリンちゃんはお歌の才能があります。
リンちゃんは何気に才能の塊な気がする。
ラロシェルは声も顔も良いし、演奏技術も完璧だけどミューゼさんが一番ヒネるタイプだと思う。
ヤツとは過去の絡みもあって、非常にめんどくせぇ~~!
マジでめんどくさいんだよ、この人……作中トップクラスにめんどくさいんだ。
女友達とか、男友達とか、そんな事はあり得ねぇのは分かるんだけどさ……
数年経っても、まだヒネてんだよ。う~ん筋金入りですわ。
かんわきゅうだい。
クリチカをラロシェルの、しかも二重スパイだと見抜いたのは頭がキレ過ぎるぞヴェルチカ……
しかもその状況を逆に利用して、ラロシェルを騙しに掛かっている。
マジでこの人が大隊の頭脳だと思う。
けど、頭が余りにもキレ過ぎる人は既存の大組織にはそこまで馴染まないだろうな、とも思う。
アーデルハイドに付いてくのは、彼女なりの処世術や戦略でもある。
というか、例えラロシェルでも彼女は使いこなせない。
上司がアーデルハイドだけだから、彼女の稀代の才能が活きている。
入ったその日に、他の社員や同期と摩擦が起きるタイプだ。
イチカとはかなりと相性が良いかもしれない。
株式会社現代プレッパーズ……なんだか筆が乗って来た。
筆頭大株主兼オーナー……フリスちゃん様
この時点でクソブラックの匂いしかしない。
次回の後書きはこれで遊ぶか。
マルファお姉さんを呼び捨てにするこの人物、またアレなのが出てきましたね。
粗暴かつ粗雑ではありますが、人の本質を見抜く目がありそうで油断は出来ない。
しかもトップクラスの戦闘力を持つマルティーニに、深手を負わせて尚余裕がある。
お姉さんが不在でも、ロシア人達の戦力は依然として強大です。
そしてマルティーニがジワジワとイチカの心を掴みつつある。
奇しくもレイやんが言った方式で。
レイやんは彼の事を知ってはいますが、イチカと一緒に居る事もまでは分かって無い。
イチカは不器用な人の良さがあるので、マルティーニの面倒を看てしまった。
レイやんが彼の居場所を知った時が恐ろしい。
今のラスボスレースはヤストレブ、ナスターシャ、クレイエル、ラロシェル、レイやん、ベルナルド、ヘイリー、アーデルハイド、ジュビアさん、レナの順です。
正直、誰が味方で誰が敵になるか、曖昧な状態なのが3章の終わり辺りまでは続くかも。
ラスボスについて、善属性か、悪属性か、中立属性か、秩序属性、混沌属性か……それは関係ありません。
実はヘイリーの方がアーデルハイドよりラスボス度は高い。
一人の女を護ると覚悟を決めたこの人は、全てを敵に回す覚悟もある。
レナは本人の意思に関わらず、そうなってしまう可能性がある。
プレッパーズ世界に取って一番恐ろしいシナリオは、ジュビアさんがラスボスになる事だ。
四十万?イチカがライバルになった場合の主人公兼ヒロインやぞ。
ヴェルチカは結構核心に近い所から、全体を正確に俯瞰している。
彼女の言動には注意しておいて損はありません。
レイやんは彼女が欲しいと思っていそうですが、ヴェルチカの方は彼女をかなり警戒しています。
レイやんは悪い人だけど、カッコ良すぎるなー……
何だかんだ言って、イチカをヤバい連中から陰で護ってる。
けど危ない橋を渡りすぎだし、メチャ情緒不安定だ。
イチカから離れすぎているので、禁断症状が起きてる。
そろそろイチカニウム成分を補給しに来るかもです。
基本依存症なんだろうな、この人……酒やタバコに対する依存も凄い。
そういう意味では、ベルトランに依存しているジュビアさんも大差ないな……
レナには滅茶苦茶大人げない対応しそうで、心の中のラロシェルが笑ってしまう。
レイやんの中では、彼女もヤバい連中の一人なのかもしれない。
多分レイやんの脳内では、レナはもつガキと同じ存在なんだろう。
イチカへ甘えに甘えて、腰がヘコり出すまであと少しって感じでしたからね。
多分そこまで間違ってない。
次回、平取町の決着が付きます。
この決着が思わぬ波をもたらしますが、それはまた。
個人的にはアイカが急激に成長して来ていて、嬉しくなった。
というか、彼女の持つ本来の良さが引き出されて来た気がする。
今回はアイカにしか出来ない呼吸を披露してくれた、そう思ってる。
「面白かった」「次も期待している」「アーデルハイドが絡まないと理知的だな……」「災害みたいだな!戦友!」
「この片眼鏡、無茶苦茶現実的な人だった」「チェス強すぎ」「レナの成長が見える」「色々と見透しすぎててスゲェ」
「何やってんだ!お前!」「さすアイ」
「全ての基準がイチカで良かったな」「馴染みすぎだろこの片眼鏡」「嘘だろお前ら同棲してたのかよ」
「フェルゼンお嬢様には敵わねぇな……」
「アイカが優しくなりすぎてて涙出そう」
「いきなりピンチでビビる」「的確にイチカの弱い所突いて来やがるな、この敵……」「娘誰だよ」
「いや、普通は付ける気しないかな……」「完全に魔王と堕天使の会話で草」「すげぇ……自分の所有物みたいに語るじゃん」「ケンザキ……」「世界経済を分割支配しようとしてやがるコイツら」
と、どれか1つでも思って頂けたら、ブクマ・評価・感想頂けると励みになります。
宜しくお願い致します。




