ニューヨーク地下鉄8番出口ダンジョン(後編)
今まで済まなかった、エスティア
鑑賞用BGM(マイナス4階):https://www.youtube.com/watch?v=7DYdBrajTQQ
鑑賞用BGM(マイナス√256階):https://www.youtube.com/watch?v=oLsURX_Xhwc&list=PLptvYyWJVBjvySBNd8Cr-xPC0zQD31g8b
鑑賞用BGM (トランク・ビル):https://www.youtube.com/watch?v=ol2bezKfSe4&list=PLptvYyWJVBjvySBNd8Cr-xPC0zQD31g8b&index=37
~ニューヨーク地下鉄8番出口ダンジョン~
~マイナス4階~
『虫!多すぎるだろ!!』
『もう一生分は見たぞ!!』
『来世は昆虫博士になれるな!!』
エスティアは足を止めて背後を振り返り、二本の指へ光を集中させる。
『《ライトニング・エクスプロージョン》!!』
彼女が手を振り抜くと同時に、人面蛾の群れに向かって光の粒子がばら撒かれ、一斉に爆発した。
『おい!アホ学者!』
『なんで光学迷彩が通用せんのや!!』
『そんなの私が知りたいぞ!』
『大方熱感知で獲物を追っているんだろう!!』
『何せここは薄暗いからな!!』
『そ、想定が足らんかった……!!』
そして突然、アナウンスが響き始める。
《これから通路の清掃を行います》
《残っているお客様は直ぐにご退去を》
「つっ、次は何ぃ!?」
「わ、わかりません……!」
『──!!』
クエイドはアサルトライフルに武器を切り替えながら、パーティーの先頭へと一気に駆け抜けた。
彼は、天井と壁から出て来た射撃装置を次々と破壊して行く。
『清掃ってそういう意味かいな!!』
『あとサンキュークエイド!!』
『──ケンザキ!』
『2時の方向だ!!』
レイカは刀を返して銃弾を弾き、そのまま射撃装置を細切れにする。
「メイアルーアジコンパッソ(半月コンパス蹴り)!!」
ミレイアも銃撃を躱しながら、銃塔をへし折った。
「葵!!」
「次に結界張れそうな所!見えるか!?」
「だっ、ダメ!!」
「このフロアには【気】の流れが無い!!」
「(それに澱みが酷すぎる……!)」
「ほな、次に行くしかないって事か!?」
『皆!!あのエレベーターまで走るんや!!』
『殿はワイとクエイドがやる!!』
葵とエスティアはエレベーターに駆け込み、続いてミレイアと高っちゃんが滑り込んで来る。
そしてレイカが飛び込み、クエイドが牽制射撃をしながらエレベーター内へ後退して来た。
『ボタンを押すんや!!』
『何処でもええ!!』
『バカな事を言うな!!ヤケド女!!』
『確かにムチャクチャな記号の羅列だが、必ず法則性はあるハズだ!!』
『解読させろ!!』
『んな時間ないわ!アレ見ぃ!』
『このままじゃ、全員ムカデに喰われて仲良く異世界転生や!』
レイカが指差す先には、人面ムカデの大群が迫りつつあった。
薬莢がエレベーターの床に次々と散って行く。
『ふぁっ!?!』
『……えぇい!!もうどうなっても知らないからな!!』
エスティアは乱雑にエレベーターのボタンを押しまくった。
エレベーターのドアが閉まり、動き出す。
「た、助かった……!」
「レ、レイカさん……!」
「だ、ダンジョンってこんなのばかりなんですか……!?」
レイカは刀を仕舞い、タバコに火を点ける。
「いや……」
「難易度に比べて殺意が高杉晋作や」
「虫の大群なんて、装備次第では即死やろ」
「確かに……」
「しかも奴等【血魂】を落とさんかった」
「まさか……!」
エレベーターが振動し、アナウンスが始まる。
《ニューヨーク地下鉄8番出口ダンジョン》
《マイナス√256階へ到着しました》
『ま、マイナス√256!?』
『もうどうやって戻ったらええか分からへん(諦め)』
扉が開く。
眩しい光がレイカ達の網膜を混乱させた。
『『『──!?』』』
ミレイアは目を開けたが、飛び込んで来た光景に驚いて声が出なくなる。
「花畑……!?」
クエイドの手から銃がずり落ち、音を立てて転がった。
『アンナ……』
『そこに居るんだな!?アンナ!!』
彼は何かに取り憑かれた様に歩き出し、花畑に向かって手を伸ばして行く。
『どっ、どうしたんや!?』
『クエイド!何処へ行くんだ!』
『花畑の向こうからアンナが呼んでいる……!!』
『今度こそは死なせない……!!』
『死なせてなるものか!!』
『だ……誰も呼んでおらんがな……』
『たっ、高っちゃん!ミレイア!』
高っちゃんとミレイアはクエイドの手足を掴んで、引き留めようとする。
『離せ!!』
『俺は約束した!アンナを両親の下へ連れ帰ると……!!』
『幻覚や!花畑以外は全てお前の幻覚や!!』
金髪の女性が微笑み掛け、そして花畑の奥へと霞む様に消えて行く。
『待て!俺は……俺は……!!』
クエイドは全身から力が抜けたように崩れ落ちて行く。
高っちゃんは紫色の花を千切って食べてみた。
「……レイやん!」
「これ、幻覚作用がある!!」
「!」
「何で食べて平気なの!?」
高っちゃんはモストマスキュラーのポーズで答えた。
葵も同じポーズで返答した。
グッドコミュニケーション!
『クエイド』
『……』
エスティアは彼の頬を思い切り引っ叩いた。
『こんな時に、昔の女に想いを馳せるとは良い度胸じゃないか?えぇ?』
『このエスティア・ゴールドバーグ様を差し置いて、な!!』
『エ、エスティア……』
彼女は彼の両頬を掴む。
『お前の女は私だ!!』
『私だけを見ていろ!!最高のスナイパー!!』
『私の心を射抜いた事、忘れるんじゃないぞ!!』
『──』
『ダンジョンから生還したら、たっぷり相手して貰うからな!!』
『覚悟しておけ!!』
レイやんはタバコを花畑に投げ捨てる。
『そこのピカピカ学者の言う通りやで、クエイド』
『この世は夢や。だがな……』
『夢の中にも優先順位はあるやろ?』
『優先順位……』
エスティアはチラチラとクエイドを見ている!
どうやらキスを期待しているようだ!
レイカと葵は頬を膨らませて、笑いを我慢している!
『今まで済まなかった、エスティア』
クエイドはその無骨な手でエスティアの身体を抱き締めた。
彼女の脳内をβエンドルフィンが駆け巡り、頭上に光のハートマークが浮き上がった。
『ふ、ふ、ふ……!』
『ふふふふ……!』
彼女の身体は歓喜の絶頂で打ち震えていた。プルプルと。
「ミレイア」
「いい歳こいて交際経験が無いアラサーは、いざ男に振り向かれるとああなるんや」
「勉強になったか?」
「な、なるほど……!!」
『貴様等、何を喋っているか分かってるからな』
レイやんにもいい歳こいて交際経験は無い。
葵は紙垂棒を取り出し、花畑へ足を踏み入れる。
「【陰陽遊戯】第二段階起動」
「《五行安静領域》」
彼女を中心として花の色が紫色から桃色へと変わって行く。
「な、何が起こってるんヤー!?」
「浄化して無毒化してるんだよ、この花達を」
「折角だから、ここで少しお茶にしようか」
「いいムードだし、ね?」
「了解!パワー!」
高っちゃんは花畑に飛び込み、白い歯を魅せてスクワットし始めた。
~ニューヨーク市内~
~トランク・ビル~
『ふんふん……』
『で?』
『あのマヌケのケツを拭けってかい?』
『……アンタの頼みじゃなきゃ、一笑に付していた所さ』
ブランド物に身を固めた筋肉質な大女が、頬に付いた血を拭いながら微笑む。
《マルタレータ》
《一部始終は恐らくラロシェルも視ている筈》
《もしディルレヴァンガー達が殲滅されるか、早期攻略を達成されれば……》
『それはそれは笑えない事態になるねえ~』
『分かった。直ぐ行くよ!』
彼女は不法侵入者の首を片手で捻り、投げ捨てる。
『ヴェルチカ』
『ラロシェルのガキはこのNYに居るよ、間違いないね』
《……それは何時もの直感ですか?》
『さぁねぇ』
『ただ、これからのNYは荒れに荒れる』
『そんな予感だけはひしひしと感じるのさ』
『試合前の、トラッシュトークショーみたいにねえ』
《……》
マルタレータは血塗れのまま堂々とエレベーターに乗り、降りて行く。
『兵隊はどの位貸してくれるんだい?』
《今NYで動かせるのは500程です》
『なら100で良いよ』
『ただ、元特殊部隊出身者、出来ればデルタの市街地戦経験者を混ぜておいておくれ』
『残った仕事を片付けておくから、トランクのジジイに宜しくな』
エレベーターの扉が開く。
アイテムで武装した暴徒達の前に、燃える様な橙色の長髪を上下させながら、ブランド物で身を固めた暴力専門の悪魔が現れる。
巨体で身体はプラモデルのようにバキバキだったが、顔は女神の様にお美しかった。
『私は忙しいんだ』
『そこをどいてくれるかい?』
マルタレータは首を回し、音を鳴らす。
同時にビル入口のシャッターが降りて行く。
『ど、どくのはお前だ!!』
『この殺し屋め!!』
『こんな美女を捕まえて殺し屋なんて……』
『ヒドいねぇ~』
『わ、我々の仲間を殺しただろ!』
『大統領私有地への不法侵入は死罪』
『知らなかったかい?』
マルタレータは暴徒達に一歩づつ近寄って行く。
暴徒達も一歩ずつ後ずさりして行く。
『今、お前達は檻の中に投げ込まれた生肉さ』
『アイテムで武装していたって、使い手が案山子じゃあねぇ』
ジリ。
『──おや』
『来ないのかい?』
ジリジリッ。
『なら、こっちから行くさぁねぇ』
『【サイバネ・ウェヌス】起動』
巨体が素早い肉食動物の様に躍動し、暴徒の持っていた銃は腕ごと引きちぎられた。
彼女に向けて銃弾が放たれたが、驚異的な反射神経で全ての弾が躱される。
『ほらほら!!』
拳が頭蓋を潰し、蹴りが胴体を裂き、肉ごと内臓が引きちぎられる。
虐殺は数分間続き、押しかけて来た暴徒達は全て肉塊と成り果てた。
『全く……これから更に死体臭い場所へ行かなきゃならないってんだから……』
『ラロシェルのガキに復讐する為とは言え、面倒な連中と契約しちまったもんだよ』
彼女は血塗れのストールを投げ捨て、僅かに笑みを浮かべた。
意外とこのパーティー、バランス良いなと思い始めて来た……
盾が高っちゃん、近接はレイカとミレイア、遠距離がクエイド、特殊攻撃や偵察がエスティア、フィールドでのサポートや回復が葵って感じで。
対人でも対モンスターでも強いけど、サバイバル能力が今までのパーティーで一番高いと思う。
しかし、元デルタのクエイドが頼りになり過ぎる。
サンキュークエイド。
うんうん、こういうので良いんだよこういうので。
こういうのが描きたかった。
途中からまた暴の人出ちゃったけど。
で、浄化とかサラッと葵は言ってますが、かなりとんでもないレアスキルです。
現在確認されている中では【聖少女ユクセル】と、ラインバウト卿の【ローランの聖凱】・【至聖剣デュランダル】しかこの能力は持っていません。
しかも後者が単体対象なのに対して、葵のは全体対象です。
条件はユクセルに比べて厳しくなるんだけども、特定の条件下では最強のヒーラーかもしれない。
何より悪意のある呪いとか怨念とか、そういったモノを祓えるのが大きい。
恐らく、アーデルハイドの洗脳や、ラロシェルのマリオネットも解除出来る。
無論四十万の天敵でもある。
祓われたら目がキラキラすると思う。綺麗なジャイアンか??
モンスター避けに関しては曖昧になってしまいましたが、ある程度の効果があるとは思っています。
ただ、穢れが薄い存在には効かない感じ。
葵がレイやんの元へ駆けこんで来たのは、ある種運命かもしれない。
動機は最低だけど。
逆に、ヤストレブや高っちゃんのような、物理でガンガン来る連中は葵の天敵です。
アイカや上杉ちゃんみたいに、暗殺も厭わない相手だとこれまた厳しい。
本当の意味で探索の専門家ですね。この手の人は初めてかもしれない。
探索専門な人の方が少ないと思う。葵とて、本業は陰陽師なので。
彼女は探索だけで月10億円相当は稼げる逸材です。
彼女が居るだけで生存率が桁違いなので、普通に国家レベルの人材かと。
日本の探索者業界はなにやってたの、って言われるレベル。
そこら辺ガバガバなのは日本だからなァ……って感じでもある。
エリちはピカピカ女神の言う通り、マジで良い買い物をした。
寧ろこんな金の卵をあっさり他人に譲る、レイやんの感覚が凄い。
しかも後の面倒まで看てくれる、ってほぼ聖女やで。
そらエリちも彼女面しますわ。
閑話休題。
ディルレヴァンガーは、トーデスの存在をヴェルチカには隠しています。
けど流石に誤魔化しきれなくなって来たので、実は困っていた。
もしバレたら隊内での信用は失墜してしまうし、ヴェルミーナに所業がバレた時の余波が予測出来ない。
ただ、ヴェルチカはもう半ば気付いていると思う。
だから早く帰って来て大人しくしてろ、と助け舟を出したワケですが……
レイやん達といざこざを起こしたお陰で、直ぐに帰れなくなってしまった。
ただ、ヴェルチカはそういった事態も予測し、救援部隊を送っています。
彼女にとって、有色人種やユダヤ人が主導するグループに負ける事など許されないからです。
だからかなりヤバくて強力なのが来る予定です。
このヤバくて強力なの、完全に暴力専門の殺し屋です。
単純な戦闘力で言えば、フェルゼンお嬢様以上かもしれない。
ただ、その暴力性が余りにも原始的で、美しいお顔とブランド物とは不釣り合いすぎて……
最高だな。こういうギャップが人格に歪みを感じて好きだ。
彼女が現れ、シャッターが閉まった時の暴徒達の絶望感は凄かったと思う。
彼女の言葉通り、檻に投げ入れられた生肉状態だった。
この言葉は通じるけど、意思疎通が成立しない感が最高だ。
そりゃエサと会話する肉食獣なんて居ないから、当たり前なんだけども。
ヴェルチカは葵とは正反対の人材を投入して来ました。
エリちとは探索のスタンスも真逆ですなぁ。
てか、ヴェルチカ経由の人材ってヤバいのばかりだ。
しかし、ここまでしないといけないぐらいに状況は悪化しているという……
アメリカはダンジョン関連でも超先進国ですが、同時にヤバい犯罪者達の巣窟にもなっています。
今、彼等彼女達の目は日本というフロンティアに向いています。
アイテムを持った猟奇犯罪者もおり、従来の司法機関では対処出来ないレベルにまで来ている。
因みに、マルタレータは地方判事を大金で買収し、自分に対する起訴を取り下げさせています。
もしレイやん達が早期攻略、もしくはディルレヴァンガー達の殲滅に成功した場合、ラロシェルはこれをリベラル派、もしくテクノリバタリアンへの良い宣伝材料として使う。
逆の場合はヴェルチカが政治的な宣伝として、余す所なく利用する。
この二人は既に頭の中で戦ってますなぁ。
今回の探索は思った以上の余波を引き起こす、それだけは確実なんだ。
もしレイやんが両方に成功した場合、ラロシェルからの評価が天元突破します。
嬉しくねぇ!
そして、クエイドは元同僚達と戦う羽目になるかもしれません。
運命は徹底的にこの男を虐め抜く積りだ。
でもね……屈強で有能な男(+イケメン&男前)が苦しんでるの見るの、少し好きなんですよ(ボソッ)
ああ……今のは冗談です。忘れて下さい。
ここまで読んでくれて感謝します!
「面白かった」「次回も楽しみにしている」「メンタルヘルス的には最悪のダンジョン」
「そ、想定が足らんかった……!!」「サンキュークエイド」
「マイナス√256階ってどうなってんだよ、これ……」「クエイド……」
「エスティアが良い女すぎる」「やっぱ葵すげぇ」
「まーたデカ女か」「美女……?」「美女だろ!」「生肉は草」
「戦闘力クソヤバそう」「ラロシェルマジで一体何をしたんだよ、お前……」
「こんなヤツがフリーでうろつくのは怖すぎるから、契約で縛るのは正解」「冗談……?」
と、どれか1つでも思って頂けたら、ブクマ・評価・感想頂けると励みになります。




