第6話 浮気男VS日向
あれからホームルームが終わるまでの間に、適当に屋上で時間を潰した僕たちは終業のチャイムを聞いて屋上を後にする。
お互いに教室に荷物を置いてきていることもあって、一度それぞれの教室の戻り荷物を取ってから集合になった。
「湊! 大丈夫か?」
「隆介。どうしたんだよいきなり」
「それはこっちのセリフだ。夏休みに入ってすぐにお前が浮気してるって噂が流れるし、連絡しても繋がらないしで。凄く心配したんだからな!」
「悪い。いろいろあってスマホの電源落としてたんだ」
「いや、別に怒ってるわけじゃないんだ。ひとまず無事でよかった」
教室に戻ると隆介が心配そうにこっちに駆け寄ってきてくれる。
学校の人たちは僕のほうじゃなくて、優秀で才色兼備なほのかのことを信用しているのに、隆介は僕の事を信用してくれている。
「ありがとう」
「いいって。俺たち親友だろ」
「だね」
ニカッと笑いかけてくる隆介の顔を見ていると、今日一日で荒んだ僕の心が少しづつ回復しているような気がしてくる。
本当に隆介には昔から助けられてばっかりだ。
「まあ、今日はゆっくりしろよな。学校のほうで何かあったらちゃんと伝えるからさ」
「ありがとう。本当に助かる」
「良いってことよ。これじゃあな」
隆介は手をヒラヒラと振って部活に向かった。
始業式の日にも部活があるなんて大変だな。
っと、これ以上長い時間教室にいると視線が痛いし早く荷物もって日向のところに行かないと。
「おお~お前は浮気野郎じゃねぇか。どの面下げて学校来てんだ? 案外メンタル強いんだな」
僕に声をかけてきた人物は、終業式の日にほのかとキスをしていた男だ。
どうして、こんな風に僕に声をかけることができるのか。
その思考が僕には理解できなかった。
いや、理解できない方がいいのかもしれない。
「……」
「無視かよ。つまんねェ奴だな。そんなんだから彼女に暴力でも振るうのかね」
短い金髪の髪をかき上げながら、僕の事を見下してくる。
僕の事を心底下に見ているみたいで、正直気分が悪かった。
「どの口が……」
咄嗟に反論をしようとしたけど、どうせこの場で僕が何かを言い返しても意味がない。
このクラスの人間にとって僕は、彼女に暴力をふるうクズでそれ以上でも以下でもない。どれだけこいつに反論をしたところで、それはすべて戯言で。
言い返せば言い返すほど、僕の立場が悪くなることは目に見えていた。
「湊くん? 遅いから来てみたんだけど、何かあったの?」
「日向……」
僕が間男に絡まれてると、後ろから日向の声が聞こえた。
心配そうな声色で僕に声をかけてくる日向は、現状を理解した瞬間に眉間にしわを寄せる。
「あなたは誰ですか? 用がないのなら湊くんを開放してもらってもいいですか?」
「誰だオメェ。一年か。なかなか美人じゃねぇか。なんでこんなクズと一緒に居るんだ?」
「こんなクズ? 誰のことを言っているのかわかりませんが。その下卑た目で私を見るのはやめてください。ひどく不愉快です」
日向は間男を睨みながら凍えるほど低い声で言い放つ。
今までそれなりに長い付き合いのある僕でも初めて聞く声だった。
「酷い良いようだねェ。俺のこと知らないのか?」
「知りません。あなたの事なんて」
「なんだ。知らねぇのか。俺の事を知らないやつなんかいるんだな。この学校に」
自信満々に自分のことを語り始める。
どれだけ自意識過剰なんだ。
いや、自意識過剰なくらいじゃないと人の彼女を奪おうとしたりしないか。
「そんなのはどうだっていいです。もういいですか?」
「待てよ。俺は佐山 要ってんだ。バスケ部でエースしてるんだよ」
「はぁ。そうですか。もういいですか?」
「いやいや、そんなカス放っておいて俺と遊びに行かねぇか?」
佐山はニヤつきながら、日向のことを誘っている。
こんな奴と日向を一緒に居させてはいけない。
そう思って僕が声を上げようとした瞬間。
「カス? それは湊くんの事?」
「以外に誰かいるのか?」
「そう、私の目の前に湊くんの数億倍のカスが見えているものだから。そっちの事かと思って」
「……なんだと?」
額に青筋を浮かべながら、佐山は日向を睨む。
どうやら、自分のプライドが気づつけられたらしい。
これ以上は危ないと思い、日向と佐山の間に入る。
「もういいでしょう。僕なんかに構っていないで、ほのかのところに行ったらどうなんですか? あなたは僕からほのかを救った英雄様なんだから」
精一杯の皮肉を込めて、僕は日向の手を引いてこの場を後にする。
すでに、周囲には結構な数の生徒が集まってきていて噂になりつつあった。
周りからは浮気した最低男が別の女の子を無理やり連れて行っているとか話題になっていたけど。
そんな言葉は全て無視することにした。
聞いているだけ、僕の心が削れるような気がしたから。
「ちょ、ちょっと湊くん!?」
「ごめん。でも、ここにいるのは良くない気がしたから」
僕はそのまま手を引いて学校を後にした。
去り際に僕を見る佐山の目が憎悪に歪んでいたけど。
それは気にしないことにした。
◇
「なんであの場から逃げるように去ったの?」
「あの場で何をしても僕たちの悪い噂しか流れないからね」
「でも、湊くんは何も悪くないのに」
「そうかもしれないけど、学校の人たちは悪い悪くないはどうでもいいと思っているだろうからね。あれ以上話していても意味がないんだよ」
僕だって、あんな風に言われるのは嫌だ。
だけど、あれ以上話をしていたら日向まで悪く言われるかもしれなかったし。
それは嫌だった。
「でも……」
「いいんだよ。それより、僕のために怒ってくれてありがとね。日向」
彼女の頭をできるだけ優しくなでる。
普段は遠慮してこんなことはできないけど、今はこうしたい気分だった。
「湊くんがそういうなら……でも、絶対にあの気に食わない男子生徒には報いを受けさせるから」
「それはありがたいけど無理だけはしないでね」
僕のために怒ってくれるのは嬉しいけど、そのせいで日向が傷つくのは嫌だ。
だから、僕自身が汚名を返上できるように行動しないといけない。
「うん。私は絶対に湊くんの味方だからね」
そう言う彼女は本当に美しくて、僕の目には聖女のように見えた。
【佐山視点】
「なんだあのクソ女」
俺はさっきの一年の女の言葉に腹を立てていた。
誰があんなヒョロいゴミ以下だ。
舐めたことを言いやがって。
「さ、佐山先輩」
「ああ、ほのかか。どうした?」
「いや、さっきお前に暴力をふるったカスと話してたんだよ」
「そ、そうなんだ」
こいつは基本的に俺に従順な女だ。
最初はあのカスにぞっこんだったけど、徐々に徐々に遊びに誘ったりして依存させていった。
今では、俺なしでは生きていけない女だ。
「チッ、気分わりぃな」
「大丈夫?」
「気分転換に遊びにでも行くか」
「うん!」
俺が遊びに誘うと、嬉しそうに笑みを浮かべて俺の後ろをついてくる。
顔もいいし、胸もデカい。
こんないい女を侍らせてる俺は最高にいい男ってわけだ。
「そうだ、あのクソ生意気な後輩女も俺の女にしよう」
そうしたら、あのカスはどんな目で俺のことを見てくるのか。
今から最高に楽しみだ。
「何か言った?」
「何でもねぇよ」
俺はこれからあの顔の良い後輩女を落とすことを考えて、ニヤけが止まらないのだった。
【佐山視点終了】




