第7話 湊のこれからと身勝手な浮気女
「湊~ちょっといい?」
「小雪さん? どうかしましたか?」
「ちょっと話したいことがあって。ちょうどひなちゃんもお風呂に入ってるからさ」
「はい。どこで話しますか?」
「私の部屋でいいや。聞かれて困るってわけじゃないけど」
夏休みが終わっても、僕はこんな風にこうやって望月家にお世話になっている。
もう、自分で死のうなんて考えてないけどやはり一度その傾向があった人物を一人にするのは不安という事らしい。
「わかりました。行きましょうか」
そうして僕は小雪さんの部屋に向かった。
小雪さんの部屋は作業部屋と言った感じで、本棚に難しそうな本が揃えられていて、部屋の中にはベッドと机があるだけだった。
仕事のできる女の人の部屋と言った感じだ。
「まあ、適当に座って。ベッドとか」
「わかりました。じゃあ、失礼して」
僕は小雪さんに言われた通りのベッドの上に座る。
この部屋ってほとんど黒色で揃えられていて、統一感がある。
「湊が今、学校でどういう立場なのかはわかった。ひとまず、大丈夫?」
「まあ、大丈夫かどうかで言えばそこまで大丈夫とは言えないけど」
「だよね。本当にごめん。この問題は学校にも問題がある。来週から個別で授業を受けてもらえないかな。流石にこの状況でクラスで授業って言うのは難しいと思うから」
「それは……学校側の決定ですか?」
「うん。私が話を通しておいた。だから、湊には申し訳ないんだけど来週までは家でゆっくりしておいてほしい」
小雪さんはそう言いながら僕に頭を下げてきた。
こんな風に頭を下げられるのは初めてだから、少し困惑する。
「頭上げてくださいよ。小雪さんが悪いわけじゃないですし。むしろそんな風に対応してもらってありがたいです」
こういう虐め関係の問題は隠ぺいするものだと思っていたけど、どうやらそういうわけじゃないらしい。
それだけでかなりありがたい。
学校中が敵だらけの状態から、教師陣が味方とわかるだけでもかなり精神的に楽になる。
「いや、未然にいじめを防げなかった私たちの落ち度だ。本当に申し訳ない」
「自分にも落ち度はあると思うので、そんなに謝らないでください」
「そういうわけにもいかないんだが……これ以上謝っても君を困らせるだけになりそうだね」
「はい。小雪さんが悪いわけじゃないですし」
何度も頭を下げる小雪さんをなだめていると、部屋の扉がノックされた。
どうやら、日向がお風呂から上がったらしい。
「お姉ちゃん、湊くん知らない?」
「湊なら私の部屋にいるよ。何か用事かい?」
「うん。ちょっとお願いしたいことがあって。湊くん借りてもいい?」
「もちろん。私の用件は終わったし、好きにしてくれ」
「言い方がなんだかおかしくないですか?」
まあ、日向なら変なお願いはしないだろうからそこらへんは心配してないんだけど。
「良いじゃないか。それより、ほら。早く行ってあげな。ひなちゃんが待ってるだろ」
「わかりました。今回の対応色々ありがとうございました」
「お礼なんかいらないさ。君たち生徒が健やかに成長する手伝いをするのも我々教師の仕事だからね」
そう言いながら、ウインクをしてくる小雪さんはやっぱり昔から一緒に居る僕の姉的な存在なんだなと実感させられた。
◇
「それで、僕に用事って何?」
「えっとね、髪を乾かしてもらおうって思ったんだけどいいかな?」
「もちろんいいけど、逆にいいのか?」
リビングに移動した僕たちは向かい合って話をする。
お風呂上がりの日向はなんだか、いつもとは違う色っぽさがある。
凄く可愛い。
「もちろんだよ。じゃあ、ドライヤー持ってくるね」
日向は少しウキウキしながら洗面所のほうに向かって行った。
その姿を微笑ましく見つめながら、僕は彼女が戻ってくるのを待つ。
昔っからあんな風にいつもはクールなのに、嬉しい事とかがあるとニコニコしながら移動する癖は変わっていないらしい。
「なんで疎遠になったんだっけ?」
「それは湊くんが高校に入って一人暮らししたからでしょ。まあ、お姉ちゃんの隣に引っ越すとは思ってなかったけど」
「ああ。そういえばそうだったな」
僕も高校に入って一人暮らししたし、それ以降は彼女ができたから地元に戻る機会もなかった。
だから、疎遠になったのか。
「そうだよ。はい、ドライヤー。お願いね」
「はいよ」
日向は僕にドライヤーを渡して、後ろを向く。
ふわりといい匂いが鼻腔をくすぐるけど、それに意識を向けないようにして彼女の髪をタオルで軽くふく。
「じゃあ、乾かすけど熱かったり変なところがあったら教えてくれ」
何分人の髪を乾かしたことがないから、できるだけ丁寧にドライヤーで髪を乾かす。
ぼぉ~っというドライヤーの音だけがリビングにこだまする。
「髪乾かすのうまいね。湊くん」
「そうかな。初めてだからうまくできてるのか不安だけど」
「すごくうまい。こうやって髪乾かしてもらうのすごく気持ちい」
後ろを向いてるから、表情は見えない。
だけど、声の感じから本当に気持ちよさそうなんだとわかる。
ここまで喜んでもらえると、乾かしてるこっちも嬉しい。
「あ、そうそう。私も湊くんに合わせて一週間学校休むことにしたから」
「……へ?」
「だから、学校を休むことにしたの。だって、そうしないと湊くん一人になっちゃうでしょ?」
「それはそうだけど。そのためだけに日向を休ませるのはどうなのかなと」
出席日数とかの関係もあるだろうし、勉強だって遅れる。
それが僕のせいで起こるとというのは、あんまりよろしくないと思う。
「大丈夫。勉強は湊くんに教えてもらえばいいし。お姉ちゃんにも許可はもらってるから」
「……小雪さんが許可を出したのか?」
「うん。お姉ちゃんも湊くんを一人にしたくはないみたいだから」
「そこまで気にしてもらわなくても大丈夫なんだけどね」
「屋上で飛ぼうとしてた人が言う事かな?」
「……」
それを持ち出されると、何も言い返せなくなる。
あの時は周囲に味方なんて誰もいないと思ってたし。
みんながみんな僕の敵だと思ってた。
だけど、それが違うっていうのがわかった今ではもう飛ぼうとしたりは全然思ってない。
「というわけで、湊くんは一週間私と一緒だからね」
「わかった。一緒に勉強でもして過ごそうか」
こうして、僕の一週間の予定が決まった。
こんな風に気にしてくれるのはありがたいし、嬉しいけど。
僕なんかと付き合わせて悪いなとも思う。
【ほのか視点】
「湊は今頃何をしてるんだろうな」
佐山先輩と遊んだ後に、私は自分の部屋で寝転がりながら考え事をしていた。
考えることは湊のこと。
彼が今何をしてるのか。
何を思っているのか。
「私のほうが彼を浮気したのに。こんなこと考えてるなんてバカみたい」
自分の考えていることがあまりにも最低で身勝手なことだとわかってる。
だけど、彼のことが気になって仕方がない。
湊はいつも私のことを第一に考えてくれて、常に優しく笑いかけてくれる。
そんな彼のことが大好きだった。
「もし、今謝ったら許してくれて復縁してくれるかな」
湊ならいいよって言ってくれそう。
佐山先輩とは少し魔がさしただけで、本当は湊の事が好きって言ったら。
彼ならきっと許してくれると思う。
「湊は私以外に目を向けなかったし。それに、湊のことを見てる女子なんかいないだろうし大丈夫だよね」
私はそんなことを考えながら、枕に顔をうずめる。
もう少しして、湊の噂が落ち着いたらよりを戻そう。
そうしたら、湊喜ぶだろうな~
「えへへ」
そんなことを考えて私は眠りについた。
【ほのか視点終了】




