第40話 日向の絶体絶命
時が流れるのはあっという間で、つい先ほどまでクリスマスパーティーに向けた書類仕事に励んでいたはずなのに明日にはそれが本番になる。
時間の流れは本当に早い。それだけ最近の生活が充実しているからなのか。
それとも、他に何かの要因があるのか。
「ついに明日だね。湊くん」
「だね。結構頑張ったから成功してくれると嬉しいな」
「絶対成功するよ! みんなであんなに頑張ったんだもん。あとすることと言えば、当日の運営と生徒会長挨拶で湊くんが挨拶するくらいでしょ」
「それが凄く緊張するんだけどね。明日の午前は終業式があって、午後からはクリスマスパーティー。予定がてんこ盛りで疲れちゃうよ」
少し前までは暇な学生生活を送っていたのに、ここ一ヶ月は目が回るくらいに忙しい。思えば、日向と付き合い始めてからずっとこんな風に忙しいような気がする。
それはありがたい事なんだけど。
「明日は家に帰ったらゆっくりしよ。クリスマスイブとクリスマスは旅行なんだからさ」
「そうだね。温泉旅行なんて何年かぶりだから久しぶりに心躍るな~」
「わかる。ま、温泉旅行を楽しむためにもパーティーの成功はさせないと気分的に楽しめないよね」
「ああ。といっても、今日はもうやることが無いから家に帰るくらいしかすることが無いんだけどね」
既に、窓の外は暗くなっていて最終下校時間が迫ってきていて学校の中からはあまり人の気配を感じない。
ここまでくると少し不気味に感じてしまう。
「いったん帰ろうか。夕飯の支度もしたいしさ」
「うん! じゃあ帰ろっか」
「僕は生徒会室の鍵を職員室に返してくるから、先に校門あたりで待っててくれ。大丈夫だとは思うけど、校門の外に出ないでね。変な人がいるかもだから」
「わかってるよ! じゃあ、先に行ってるから早く来てね」
「うん。あんまり待たせないようにするよ」
一旦は日向と別れて僕は職員室に向かう。
そこで小雪さんに鍵を渡して帰ろうとするのだが、呼び止められてしまった。
「湊、クリスマスパーティーの準備の方はどうだ?」
「順調ですね。というか、望月先生には毎日報告してるじゃないですか」
「それはそうだが、やっぱり気になる物は気になるんだよ。最近妙な話も聞くわけだからな」
「妙な話? どんな話ですか?」
「ああ、それがな……」
【日向視点】
最近は湊くんとずっと一緒に居れて楽しい。湊くんと付き合ってからは楽しい事ばかりだ。
「はぁ~さむ」
未だに学校の中だというのに冷える。もう冬も本番で最近では零度を下回る日も多くなってきた。
下手したら凍死しそうで嫌になっちゃう。
「にしても、今日は本当にちょっと不気味だな~」
いつもはこんなことを感じることは無いんだけど、今日はより一層そう感じてしまう。この暗さもそうだし、今日は部活が全部休みだからと言うのもあるかもしれない。
「いやぁ~こういう日は本当に何かでそうですな。なんちゃって」
気を紛らわすために声を出してそんな冗談を言ってみる。すると、後ろからポチャッと何か雫のようなものがしたたり落ちるような音が聞こえてきた。
「な、なに?」
不安になって振り返ると、そこには月明かりに照らされた長い髪の女性が立っていた。着ている服が制服であることから、ここの生徒なのだろう。
でも、そんな事よりも私の目を引くことがあった。
「な、なんでそんなものを持ってるの……?」
右手には包丁が握られていて、その切っ先からはぽたぽたと何かの液体がたれていた。暗くて色は何色かわからないけど。
凄く嫌な予感がする。直感が逃げろって警鐘を鳴らしてる。
「なんでって。そんな簡単なことを聞かないで頂戴? あなたに地獄を見せるために決まってるでしょう?」
その瞬間に包丁の切っ先をこちらに向けて、彼女は走り出してくる。
この声……聞き覚えがある。
湊くんの元カノの金島さんだ。最近話を聞かないと思っていたら、こんなことをしようとしてただなんて。
「逃げなきゃ」
今来た道は金島さんが立っているから逃げることはできない。かといって、このまま何もない場所まで逃げても追いつかれちゃう。
だったら、職員室に行くしか……
「逃がすかよ!」
次の瞬間には右足を鋭い痛みが襲ってきた。
見てみれば、投げつけられた鋭いナイフが地面に突き刺さっていた。
もしかして、あれを投げてきたの?
もし、背中に当たっていたら……
そう考えるだけで背中から冷たい汗が流れる。
「いッ」
「あひゃひゃひゃ。これでもう走れないんじゃないの~?」
不味い不味い不味い。
このままじゃ、本当に殺されちゃう。
まだ、湊くんとやりたいことがあるのに。
二人で温泉旅行にだって行きたいし、高校を卒業したら結婚したい。
子供を産んで幸せな家庭を築きたい。
だから、こんなところで殺されるわけにはいかない!
「うぐッ」
尋常じゃない痛みを訴える右足を必死に動かして、走る。
私が今いるのは一階。職員室があるのは二階だから何とかして私は階段を上る。
その間も、後ろからは狂気の笑い声を上げながら走って追いかけて来る。
ここまで叫んでいるのに誰も助けに来てくれない。
お願い、助けて。
……湊くん。
【日向視点終了】




