第4話 浮気をした側の心情と湊と日向の共同作業
【ほのか視点】
湊と知り合ったのは高校に入学してからすぐの事だった。
私は人と関わるのが苦手で、そんな時に声をかけてくれたのが湊だった。
凛とした顔立ちに、神秘的な青色の瞳。
身長が高くて、優しくて。
だから、彼に告白されたときは凄く嬉しかったのを今でも覚えてる。
「湊、どうしてるのかな」
あんなに酷いことをしておいて、私は今でも湊のことが好き。
私のせいで彼を酷く傷つけてしまっていると知っているのに。
それなのに、私は彼のことを未だに深く考えている。
都合のいい話だ。
「はぁ、どうして私、浮気なんかしちゃったんだろ」
そんな自問自答に答えてくれる声があるわけもなく。
私は淡々と日常を消化していく。
気が付けば夏休みが半分終わっていて、登校日を迎えていた。
学校中では湊が浮気したことになってて。
「湊、クラスにいない」
彼の顔を一目見たくて彼のクラスに立ち寄ったら、彼の姿は無かった。
それは当然だ。
こんな虐めを受けて学校に来たいなんて思う奴はいないだろう。
「はぁ」
私が浮気をして、私が原因であんなにも酷い目に遭わせてしまっているのに。
彼の顔を見たいと思う私は本当にどうしようもない人間なんだ。
「おうほのか。今日も遊びに行こうぜ」
「う、うん」
こうして、私は今日も今池先輩とデートに行く。
そしてきっと、そのままホテルに行って自分たちの欲望を満たすんだろう。
【ほのか視点終了】
「ねぇ、湊くん」
「どうしたの?」
「あと半分の夏休みどう過ごす?」
「どうしようかな。特に決まってないよ」
「じゃあ、私に宿題教えてよ。夏休みの」
「別にいいけど。小雪さんに教えてもらった方がわかりやすいんじゃないか?」
買い物に行く道中、僕たちはそんな話をしていた。
僕の予定で言ってしまえば、まるっきり空白だ。
本当はほのかと楽しい時間を過ごすはずだったのだが、その予定は全ておじゃんになってしまったためだ。
「お姉ちゃんは多分忙しいだろうから」
「それもそうかもね」
小雪さんは教師。
夏休みといっても、何らかの仕事があるんだろうね。
だったら、勉強くらいは僕が教えるべきか。
こうやって僕の気分転換に付き合ってもらっている恩も返さないといけないし。
「だから、教えてね? 湊くん」
「任せといてくれ」
隣で小首をかしげながら言う日向は凄く可愛らしかった。
さっきの服装からは着替えていて、水色のYシャツに白色のジーンズを穿いている。
ポニーテールにした髪には所々から綺麗な青色が覗いていて、とても美しい。
「お願いしますね。湊先生」
「先生ってガラでもないんだけどね」
「向いてると思うけどな~先生」
「そうかな」
日向がそう言うのなら、本当に向いているのかもしれないな。
将来の道について考える時に参考にしよう。
「今日は食材の買い出しだから、荷物持ちよろしくね。湊くん」
「任せてくれ。昨日から世話になってるんだ。荷物持ちくらいは任せてくれ」
元気に力こぶを作って見せる。
昨日しっかり夕飯を食べて、ちゃんと寝たおかげで体の調子はかなりいい。
これは完全に日向のおかげだ。
「うん。頼りにしてるね。湊くん」
こうして、俺達はスーパーで買い出しを済ませて数日分の食材を買い込んで家に戻る。自分の家は隣の部屋なんだけど。
不思議と帰る気にはなれなかった。
と言うよりは、一人にはなりたくなかった。
◇
「今日の夕飯はなにが良い?」
「う~ん、なんなら僕が作ろうか?」
「う~私的には湊くんに手料理を食べて欲しいんだけど」
「そういう事なら無理にとは言わないけど」
日向の手料理は凄く美味しいし、食べられるのなら食べたいけど。
居候の分際で全部の家事をやってもらうというのは、少々居心地が悪い。
「う~ん、じゃあ一緒に作るって言うのはどうかな」
「一緒に?」
「うん。私、誰かと料理をしたことないし。やってみたいな~って」
「日向がそれでいいならそうしようか」
日向とキッチンに立つのは初めてだし、ついて行けるのか心配になるけど。
僕は多少料理が出来るけど、日向みたいに凄く上手いと言うわけじゃない。
必要最低限できるってだけだから、一緒に料理して足を引っ張らないか不安だな。
「やた。じゃあ、準備するからちょっと待っててね。湊くんってエプロンとかつける?」
「家にあるからとってこようかな」
「わかった。鍵はあけとくから行ってらっしゃい」
「了解。すぐに取ってくるよ」
隣の自分の家にエプロンを取りに行く。
なんだか、凄く久しぶりに自分の家に帰ってきたような気がする。
だけど、日向の家に泊まらせてもらう事になってからそこまで日が経っていない。
「そっか、僕って浮気されてたんだな」
部屋に入って、飾ってある彼女とのツーショットの写真を見ると胸が苦しくなる。
僕が何か彼女の良くないことをしてしまったのだろうか?
「いやいや、変な事を考えるのはやめよう。死にたくなってくる」
頭をブンブンと振って、頭に湧き上がってくる雑念を吹き飛ばす。
目的のエプロンだけ取ってすぐに家を後にする。
今はこの家に居たくなかった。
「おかえり湊くん。なんだか、暗い顔をしてるけどどうしたの?」
「いや、なんでもないよ。それよりもエプロンとってきたよ」
出来るだけ、明るい笑顔を自分で作って日向に笑いかける。
自分はちゃんと笑えているのだろうか。
そんな不安さえ湧き上がってくる。
「湊くん、私の前では強がらなくてもいいんだよ?」
「……強がってなんか」
「嘘だね。凄く辛そうな顔してるもん。私には強がらないで」
日向の家に戻って玄関で立ち尽くしていると、彼女に抱きしめられる。
身長差があるから、彼女の顔が僕の胸に埋まっている感じだ。
だけど、こうしていると凄く元気をもらっているような錯覚に陥る。
「ありがとう」
「気にしなくていいよ。私も湊くんにたくさん助けられてるんだし。お互い様だよ」
抱きしめられているから、彼女の表情は見えないけど。
声の感じから凄く優しい感じが伝わってくる。
本当に、少し前から僕は日向に助けられてばかりだ。
もう少し、自分の感情に折り合いをつけれたらちゃんとお礼をしないと。
「ほら、早く一緒に料理しよ? 何かしてたら気分転換できるかもしれないだろうし」
「だね。足を引っ張るかもしれないけど、よろしくね」
「任せなさいな」
ぱっと、僕から距離を取って振り返りながら彼女はにししっと言いながら笑っていた。その顔が天使のように可愛くて、僕の心臓は高鳴りっぱなしだった。
◇
「湊くん、凄く料理うまいね」
「そうかな。あんまり自覚はないけど」
「うまいと思うよ。少なくともお姉ちゃんよりかは」
「……確か、小雪さんって家事能力皆無じゃなかったっけ」
僕の記憶の中にいる小雪さんは、家事能力が皆無だったはず。
そんな彼女比べられて、喜んでいい物なのか疑問である。
「そうだよ。お姉ちゃんが全く家事ができないから私が家事を覚えたって言うのもあるし」
「そんな小雪さんと比べてうまいって言うのは誉め言葉なの?」
「もちろん。包丁を使っても指を切ってないし。そもそもキッチンに立って物を焦がしたり、お皿を割ったりしてない時点で凄いよ」
なんて低い基準なんだ。というか、小雪さんそんなことしてたのか。
家事能力が皆無にもほどがないだろうか?
「……誉め言葉なんだよね」
「他意はないって。本当に湊くんは料理が上手いと思うよ」
こんな風に褒められて悪い気はしないな。
深読みしても良い事はないだろうし。
これ以上考えないようにしよう。
うん。
「日向は恋人とかいないのか?」
「なんでいきなり?」
「いや、恋人とかがいたら僕がこんな風に家に上がり込むのは良くないと思って」
「いないよ。というか、出来たことないし」
以外だ。日向みたいに美人な子なら彼氏の一人や二人してもおかしくないと思うんだが。
いや、一度に二人と交際するような不埒な人間だとは思っていないが。
「そうなの? なんか意外だ」
「そう? そんな事より、よそ見してると指切るよ?」
「おっと、危ない。あんまりよそ見も良くないね」
こんな感じで、僕たちは和気あいあいとしながら料理に勤しんだ。
久しぶりに作る料理は楽しかった。
いや、料理が楽しかったと言うよりは日向と話すのが楽しかった。




