第32話 ハロウィンパーティーと無邪気な棘
あっという間に十月も後半に差し掛かり、もう少しで生徒会選挙の本番が行われようとしていた。
その間も、佐山の情報は全く入ってこなくて学校にもほとんど来ていない日が続いた。
「湊くんがこの家に住み始めてもうそろそろ二か月かぁ~なんだかあっという間だったね」
「だね。もうそろそろ生徒会選挙の本番だし。会長になったら忙しくなりそう」
「だよね。湊くんが会長になったら私は副会長になるんだもんね。一緒に頑張ろう!」
「もちろんだよ。やりたいことはある程度決まってるから、実現に向けてあとは努力するだけ」
「虐めを無くすって目標だよね。すごくいいと思うよ!」
そう。僕は虐めを無くしたい。
虐めがない学校を作りたいんだ。自分みたいな人を増やさないためにも。
「ありがとう。まあ、目標の学校を作るためにもなんとしても当選しないとね」
中間発表の結果のまま行けば当選できるかもしれないけど、人生はそう甘くはない。
結果が発表されるその時までは、決して気が抜けないんだ。
「絶対大丈夫だよ! 湊くん選挙活動頑張ってたし!」
「神凪会長の協力があったって言うのも大きいけどね」
神凪会長は選挙期間中にいろんなことを手伝ってくれた。神凪会長に恩を返すためにもなんとしてでも会長になりたい。
「そう言えば、もう少しでハロウィンだね」
「言われてみれば。日向は仮装とかするの?」
「う~ん、私は基本的に見るのが専門だったからね。湊くんがやるって言うんなら私もするけど」
「僕もそう言うのはあんまりしたことが無いからね。家の中だけなら良いかもしれないけど」
「ほう。じゃあ、すればいいじゃないか。湊」
「小雪さん!?」
休日だが、学校に行っていた小雪さんが音もなくリビングに入ってきていきなりそんなことを言って来る。
「ただいま二人とも。何やら、面白そうな話をしているからつい話に割って入ってしまったよ」
「おかえりなさい小雪さん。それで、本気で僕たちに仮装をさせる気ですか?」
「まあ、家で仮装をするくらいなら良いんじゃないか?」
「それは……そうかもしれないですけど」
「それとも、君は私達しかいない家でも仮装をしたくないというのかな?」
小雪さんにジッと睨まれて、何も言えなくなる。確かに、そこまで抵抗する理由はないかも。
仮装するといっても身内の中でだけだし、恥ずかしがる必要なんて全くないんだから。
「そう言うわけじゃないですけど。じゃあ、仮装する?」
日向の方を見て、そう言ってみれば彼女は嬉しそうに頬を綻ばせながら頷いて見せた。どうやら、仮装に興味があったらしい。
そういう事であれば、先に言ってくれればいくらでも仮装くらいはするのに。
でも、そう言うのを素直に言い出さない所も日向の魅力と言われてしまえば、そうなのかもしれないが。
「うん! 家の中なら恥ずかしいとかは無いし。どうせならお姉ちゃんも一緒に仮装しようよ」
「え!? 私もか? もう、そんな歳ではないんだが……」
「嫌なの?」
日向に上目遣いで見つめられた小雪さんは、ぐぬぬっとうなってから一つため息をついてわかったよと口にしていた。
相変わらず、シスコンな所は変わらないらしい。
「でも、ハロウィンまであと一週間くらいしかないけど。衣装はどう準備するの?」
「それは通販サイトとか、適当なスーパーで買えると思うよ。そこまでクオリティとかは考えてないでしょ?」
「それもそうだね。小雪さんもそういう事で良いですか?」
「ナチュラルに私の参加は決まってるのね。まあ、良いけどさ。仕事の終わりにでも買ってくるよ」
こうして、僕たちの間のハロウィンパーティーが決定した。
仮装をしたことが無いので、ちょっと楽しみだったりする。
「楽しみだね! 湊くん」
「うん。明日の学校帰りにでも買いに行こうか」
「やった! じゃあ、デートってことだね」
「……あのさ、仮にも姉の前でそんなにイチャイチャするのはどうなの?」
小雪さんに少し呆れられたけど、本当に日向のことが好きなんだから仕方がない。
「まあ、いいじゃん。お姉ちゃんも早く良い相手見つけないと婚期逃がしちゃうよ」
「ひなちゃん!? それは絶対に言っちゃダメな奴」
「……」
物凄い火力で小雪さんに口撃をしている日向は、本当に悪気がないみたいで無邪気な顔をしていた。
悪気のない言葉が小雪さんの心を抉っていた。
「……後でフォローはしておこう」
僕はそう心に決めるのだった。




