第30話 連鎖する虐めの被害
「佐山って、あの佐山か?」
「……はい。夜霧先輩が想像した佐山で間違いないですよ。先輩の悪い噂を流して停学になっていた佐山要の妹です」
そう言って、佐山秋奈は僕の目を見ながら辛そうにしている。
おそらくではあるけど、彼女がこうやってこの屋上に来たのは佐山の件が関係しているんだろう。
「なるほど。にしてはあまり似ていないね」
目の前の少女は綺麗な茶髪をポニーテールにしていて、優しそうな顔つきをしている。
瞳は翡翠色で凄く澄んでいて、見ている僕の心まで浄化されそうなほどだった。
「兄と言っても、血に繋がりはありませんから」
「そっか」
なんと反応していいのかわからないけど、きっと複雑な家庭環境なのだろう。そこにツッコむのはあまり良い事じゃない。
「本当にごめんなさい。兄のせいで夜霧先輩には多大なご迷惑をおかけして」
今にも泣き出してしまいそうな顔で、彼女は頭を下げた。彼女が悪いわけではないのに、自分が悪い事をしたかのように。
「君のせいじゃないでしょ。君と佐山は別の人間だ。彼の責任を君が感じる必要は全くない」
「……でも」
「でももクソもないよ。もし、身内の罪が自分にも降りかかるなら、この世界は犯罪者だらけになってしまう」
だから、彼女が気にする必要なんて全くないのだ。
「それは、そうかもしれませんが」
「だから、気にしなくてもいい」
こんなことを言っても彼女は罪の意識にさいなまれるのかもしれないけど、僕はこの子のことを恨んでもいないし。
「ありがとうございます」
「お礼を言われるような事じゃないよ。それよりも、君がさっき飛び降りようとしていたのはその件が関係してるの?」
「はい。兄がああなって、その、妹だからって私に矛先が向いて」
「……そうか。僕の方こそごめん」
僕があんな噂を広められなければ。この子が虐められるような事は無かっただろうに。なんだか、申し訳ない。
「先輩が謝る事じゃないです」
「なるほど。でも、そんな理由で虐められるのなんてあまりにも理不尽だ」
「……ですね。おかげで孤立してて」
「じゃあさ、僕が生徒会長になったら役員にならないか?」
「……え?」
そうなれば、悪いイメージも払拭できるだろうし。僕のせいで一人の女の子が不幸になるのは耐えられない。
自分の手の届く範囲内にいる子は救ってあげたい。
「どうかな。もちろん嫌なら断ってもらっても構わない」
「い、良いんですか? 私なんかを加えちゃって」
「ダメなら誘わないよ」
「じゃあ、入ります! 絶対に!」
「まあ、まだ生徒会長になれるって決まったわけじゃないけどね」
まずは会長に当選することから始めないといけない。話はそこからだ。
「夜霧先輩ならなれます。私みたいなのに手を差し伸べてくれる先輩なら」
「そう言ってもらえて嬉しいよ。それと、もし現状でいじめが酷いようなら対策するから言ってくれ」
こうして、僕たちは一時間目をサボって話し合った。サボるのはあまり良い事じゃないかもしれないけど、人ひとりの命がかかってるんだ。
授業なんか受けている場合じゃなかった。
「わかりました。まあ、お昼休みの時間とか凄く教室に居づらいんですよね」
「じゃあ、僕たちと一緒にお昼ご飯を食べないか?」
「ご迷惑じゃないですか?」
「そんなことを思う人は僕の周りにはいないと思うから、大丈夫だよ」
隆介も日向も事情を話せば、迷惑だなんて言わないと思う。二人は凄く優しいから。
「なにからなにまで本当にありがとうございます。夜霧先輩」
「気にしなくていいよ。それより、君のことを秋奈さんって呼んでも良いかな?」
「良いですよ。佐山は心情的に言いにくいですもんね」
「まあね。そう言うわけで、今日のお昼から一緒にご飯食べよう。迎えに行くよ」
「ありがとうございます。これからよろしくお願いしますね」
こうして、僕は秋奈さんと知り合った。
同じような境遇をしていたから、同情していたというのもあるかもしれない。
でも、一番はただ虐めを見過ごせなかっただけなのかもしれないな。




