第29話 違和感に行きつく湊と運命の出会い
「なぁ、湊」
「どうしたの? 隆介」
「お前ってマジで会長になる気なのか?」
「そりゃあ、立候補してるわけだしね」
「そうか。いや、でも案外あってるのかもな」
「案外って何だよ。失礼だな~」
僕が普通に教室で授業を受けるようになってからすでに一ヶ月くらいが経過している。最初の方はみんな僕とどう接すればいいのかと戸惑っていたけど。
今ではそんなことも無くなり、やっと普通の学校生活が戻ってきたと思えるようになった。これも日向のおかげだな。
「悪い悪い。でも、よかったよ。ちゃんと立ち直れてるみたいで」
「あの時は心配かけたね。ごめん」
「謝られるような事じゃねぇよ。で、会長になったらメンバーはどうするか決めてんのか?」
「もちろん。副会長が日向で何らかの役員に隆介を入れる事だけは確定してるな」
それ以外のメンバーについては何も考えてないけど、僕と同じようにこの学校から虐めを無くしたいと思っている人をメンバーに加えたい。
まあ、そんなのを考えるのはちゃんと当選してからになるんだけど。
「巻き込まれることが確定してる……だと?」
「もちろん。隆介が一緒に居てくれたら楽しい生徒会になりそうだしね」
「そんなんで、勝手に加入を決められるのはなんだか癪なんだがな」
「ダメか?」
「ダメじゃねぇよ。俺もお前らと生徒会やってみてぇし」
いつもみたいにニッコリと隆介は笑ってサムズアップしている。こいつと生徒会メンバーとして過ごせるように努力をするとしよう。
結果発表まであと一ヶ月。出来ることはあまり多くないかもしれないけど。
「ならよかった。僕が当選できるように応援してよ」
「当たり前だろ。俺達親友なんだからさ」
「それと、日向に流れてる噂を流してるのが誰か。知ってたりするか?」
「ああ、あの件か。悪いけど、まだわかっちゃいねぇんだ。悪いな」
「謝るような事じゃないでしょ。でも、わかったら教えてくれ」
一ヶ月経っても、神凪会長からの情報はわかっていない。神凪会長でもわからない程巧妙にやっているのか。
それとも、僕には伝えられない理由があるのか。それはわからないけど、本格的に自分でも調べ始めたほうが良い気がする。
「もちろんだ。何かわかったらすぐに教える」
「ありがとう。僕も少し自分で調べてみるよ」
何があったのか、誰が何の目的でこんな噂を流しているのか。僕はそれを知る必要がある。
にしても。佐山が停学から復帰してきたし、変に復讐とかを考えられても嫌だしな。そこら辺も警戒しておかないといけない。
「それに……ほのかのことも」
一か月前に復縁を迫られて以来、顔すら見ていない。見たい顔だとも思えないけど、ここまで顔を見ないとなんだか不信感を感じてしまう。
「あんな風に狂った思想を持っていて、それを僕や日向にぶつけてきたほのか……。嫌な予感がする」
断定はしたくない。確固たる証拠を持ってから動くべきだとは頭で理解してる。だけど……この噂を流しているのがほのかであれば?
「辻褄も合うし、動機も十分ってことね」
「ん? そんな怖い顔してどうした? 腹でも痛いのか?」
「そんなところ。少しトイレ行って来るよ」
「ああ。朝のホームルームまでは時間があるからゆっくり行って来いよ~」
隆介に見送られながら、僕は教室を後にした。向かう場所はもちろんトイレではなく、自分にとって懐かしい場所だ。
「……十月にもなると流石に寒いな」
見上げる空はどこまでも青く澄んでいて、僕の心を落ち着かせてくれる。なんで空を見ると落ち着くのか考えてみる。
もしかしたら日向の目の色と同じだからかもしれない。
「ふぅ、思考をまとめよう。じゃないと変な行動をとりそうな気がするから」
今までの違和感とそれに付随する情報を頭の中で整理する。日向の噂、それを流してメリットを得る人間。
「やっぱり、噂を流しているのは彼女なのか?」
思考をどれだけ巡らせても、答えはそこにしか行きつかなかった。
逆に言ってしまえば、日向の悪い噂を流すことでメリットを得る人間がほのかしかいないのだ。
屋上のフェンスにもたれかかってそう考えていると、屋上のドアが開かれる。
滅多に人が来ない屋上に人が来たことに驚きつつ、そちらの方に視線を向けると知らない女子生徒が屋上に入ってきていた。
「あっ……」
「ん?」
その子のネクタイの色的におそらく彼女は一年生。
僕の方を見て、驚いたのか屋上に入ってきてすぐに固まってしまっている。
わざわざ、こんな時間に屋上に来てどうしたんだろ。
考え事でもあるのかな?
そう思いながら、彼女の方を見ていると静かにフェンスを乗り越えようとし始めた。
「ちょ!? 何してんの!?」
この行為明らかに飛び降りようとしている。
自分の過去の経験からそう察してしまった僕は急いで彼女を止める。
「は、離してください!」
「暴れないで。本当に落ちちゃうから!」
「私はそれを望んでるんです! 邪魔しないで!」
僕の呼びかけも虚しく、なおも飛び降りようとする彼女の体を何とか抱き留めてフェンスから引きはがす。
一体、何があったって言うんだ。
「なんで邪魔するんですか」
「なんでって。目の前で人が死のうとしてるのに見過ごせるわけないでしょ」
「見ず知らずの他人が死んでも、あなたには関係ないですよね」
「関係は……あるかな。僕はこの屋上が好きなんだ。立ち入り禁止になったら困ってしまうよ」
この屋上は僕にとって大切な場所だ。そこに入れなくなってしまうのは困るし、悲しくなってしまう。
「そ、そんな自分勝手な……」
「話くらいなら、いくらでも聞くよ。なんで飛び降りようとしたのか。気にはなるけど、話したくないことは話さなくていいからさ」
きっと、この子は相談できる人がいなかったのかもしれない。
もしかしたら、それ以外にも要因はあるのかもしれないけど。
「なんでそんなめんどくさそうな事をするんですか?」
「う~ん、これから先生徒会長になる人間として君みたいな生徒を見過ごせないから?」
「生徒会長って……もしかして夜霧先輩ですか?」
「その通り。少し前に悪い噂が流れて、今では生徒会長選挙の中間発表一位に男の子だね」
自分で言ってて少し恥ずかしいけど、こうでも言っておかないと印象をつけることができない。
「そんな人がなんでここに?」
「少し考え事をしたくてさ。それでどうする? 最悪僕に話をしてからでも飛ぶのは遅くないと思うけど」
「……じゃあ、少し聞いてもらってもいいですか?」
「もちろん。とりあえず、隣に座ったら? フェンスの近くに座ってたら僕も話を聞こうにも集中できないからさ」
「わかりました」
素直に僕の隣にちょこんと彼女は座った。そう言えば、俺この子の名前知らないな。
「名前を聞いても?」
「あ、申し遅れました。私は佐山 秋奈っていいます」
「……え?」




