第22話 とんでもない元カノ
「私の恋人に何か用ですか?」
僕が呆然としてその場に立ち尽くしていると、その時一つの声が僕の耳朶を打った。
最近は常に聞いている声だけど、こういう状況で聞こえて来ると凄く安心感がある。
最愛の恋人の声。
「だ、誰よあんた」
「望月日向と申します。今は湊くんの恋人です。そう言うあなたは?」
「わ、私は湊の元カノでこれから今カノになる金島ほのかです」
「……」
自信満々にそんなことを言って胸を張るほのかに流石に絶句してしまう。
言葉が出ないとはこういう心境だったのかと。
「……何を言ってるんですか? あなたは」
どうやら、日向もドン引きしているらしく顔が引きつっていた。
いや、気持ちはわかるけど。
「湊はまだ私に未練があるの! だから、早く別れて」
「悪いけど、ほのかが何を言ってるのかわからない。あと、日向と別れるつもりは全くないし、君ともう一回付き合うのなんて絶対にごめんだ」
あんな裏切り方をする人間ともう一回付き合いたいと言えるほど、僕はマゾじゃなかった。
日向とは一緒に居て幸せだし、なんの不満もない。
だけど、ほのかは違う。
今思えば、彼女は傲慢で常に我儘だった。
それに付き合うのも楽しかったと言えば楽しかったけど。
もう一度、あの生活をしたいとは到底思えない。
「なっ!?」
「僕はもう君のことが好きじゃない。一番大切なのは日向だ」
辛い時にいつも助けてくれる女の子。
隣にいると楽しくて、幸せになれる。
そんな子だ。
「……湊くん」
「な、何言ってるのよ!! 湊は私の彼氏でしょ!」
「それは昔の話だ。今はもう君の恋人じゃない」
しっかりと断言する。
僕はもうすでに彼女の恋人じゃない。
今の僕は日向と恋人であり、婚約者だ。
「そういう用件なら僕たちはもう行く。これ以上、僕と日向に関わらないでくれ」
これ以上この場に居たくなかった僕は、日向の手を引いてすぐに校舎を後にする。
「大丈夫? 湊くん」
「全然大丈夫だよ。日向が来てくれたから助かったよ」
「ううん。むしろ、遅くなっちゃってごめんね」
「そんなことないって。本当に助かった」
日向が来てくれなかったら、もう少し感情的になってしまっていたかもしれない。
感情的に動くのは時に良い事であり、時に悪い事だ。
さっきの場合で言えば、感情的に動くのは良くないことだったのだと思う。
「それよりも、良かったの? あの状況ならあの人と復縁できたかもしれないのに」
「いいに決まってる。僕がいま一番大切にしているのは日向だから。それにほのかとは復縁したいなんてかけらも思ってないからね」
彼女がした行為は僕に対する明確な裏切りだ。
それだけならまだしも、彼女はデマの噂を流すことに加担した。
そんな奴ともう一回付き合いたいとはならないよな。
「そっか。でも、嬉しかったよ。湊くんが私のことが一番大切って言ってくれた時」
「本当の事だからさ。僕にとって、本当に日向が大切なんだ。多分、自分の命よりも」
「命よりもって……流石に重いよ?」
「そ、そうかな。ごめん。変な事を言った」
だけど、本当に僕は日向のことが好きなんだ。
自分の命を救ってくれた彼女のことが。
「いや、謝るような事じゃないけどさ。嬉しかったし」
「なら、良かったよ」
これから、色んなことがありそうな気がする。
日向に流れている噂だったり、進路だったりと。
僕が考えなければいけない問題は山積みだ。
だけど、そのすべてを乗り越えるために僕はこれから努力しようと思う。
【ほのか視点】
「なんなのあの泥棒猫!」
目の前で湊を搔っ攫われて、私は苛立ちを隠せないでいた。
湊は私の物なのに。
なんでポットでのあんな女に奪われないといけないわけ?
「本気で許せない」
あんな女なんかよりも、私の方がいいに決まってるのに。
なんで湊はあんな女を選ぶのか、意味が分かんない。
「そっか、無理やりいう事を聞かされてるんだね。それ以外ありえない」
だとしたら、私が湊を助けてあげないと!
そうじゃないと、湊が穢されてしまう。
そんな結末だけは何としても避けないといけない。
「そうと決まったら、あの悪魔を地獄に叩き返して湊を奪い返さないと」
私はそう決意してから、湊がいなくなった教室を後にした。
あの女のせいで私は全てを失った。
「だから、今度は私があいつから全部を奪うの」
そうと決まれば、今すぐにでも行動をしないといけない。
何をしないといけないか、まずはちゃんと考えないと。
絶対に、湊を取り戻すために。
【ほのか視点終了】
「おかえり。生徒会へ」
「ただいまって言うのが正しいんですかね?」
「正しいと思うよ~」
水無月先輩が僕のことを優しく招き入れてくれる。
神凪先輩も僕に笑みを向けてきてくれている。
やっと、日常に戻った。
そんな気がした。
「おかえり夜霧君。すまないね。最初の頃に助けてやれなくて」
「良いですって。神凪会長は立場的に簡単に行動できないのはわかっていましたし」
「だとしてもだ。何のフォローもできなかった」
「良いですって。頭を上げてください。それに、こうやって助けてくれたわけですし」
会長たちが動いてくれたからこそ、僕はこんな風にもう一度生徒会室に来ることができた。
今までは来ることができなかったからね。
「二人とも硬いよぉ~もっとリラックスしなって。せっかくこうやってみなとっちが戻ってこれたんだから」
「それもそうだな。じゃあ、いつものように生徒会業務に戻ってもらおうか」
「はい。というか、先輩方は三年生ですよね?」
「そうだな」
「そうだよ~」
「じゃあ、そろそろ生徒会長の任期も終わりなのでは?」
三年生の後期まで生徒会長を続けられる学校と言うのは中々に珍しい。
受験が忙しくなるし、他にも色んな事情があるんだろうけどさ。
「……本来であればそうなんだがな。後任が中々見つからないんだ」
「そうなんだよね~私たちとしても、そろそろお役御免になりたいんだけどさ」
「なるほど。大変ですね」
「そうだ。君が立候補するというのはどうだ?」
「……へ?」




