第20話 汚名返上のための一手
「落ち着いた?」
「おかげさまで。ごめんね。迷惑かけて」
「迷惑なんかじゃないよ。むしろ頼ってもらって嬉しかったから」
「ならよかったけど。湊くんって少し大人びた感じになった?」
あれから、しばらく抱き合った後に僕たちは隣り合ってリビングのソファーに座っていた。
この子は昔から、たまにあんな風にナイーブになることがある。
それを慰めるのもなんだか懐かしいような気がしなくもないし。
「どうだろう。僕はそんな自覚はないんだけどね」
「そうかな~結構大人びて見えるんだけど」
「まあ、最近色んな経験をしたからね。そのせいで少し思考が成長したのかも?」
自分ではあまり自覚がない。
でも、言われてみればそうなのかもしれない。
いい経験じゃないのが残念なところだけど。
「なるほど。確かに湊くん、この一ヶ月でいろんなことがあったしね」
「だね。だけど、あんまり悪い気はしてないんだ」
「それは、なんで?」
「だって、あの経験があったおかげで僕はこうやって日向と一緒に居られるわけだし。僕にとってプラスマイナスで言ったらプラスなんだよ」
あのまま、ほのかと付き合っていたら。
いつか同じような結末になっていたかもしれない。
その時に僕はきっと一人だっただろう。
「湊くんってそういう事凄く当たり前みたいに言うようよね」
「本心だからね。僕はこうやって日向と一緒に居られて凄く幸せだよ」
「あ、ありがと。えへへ」
日向は顔を赤らめながら、僕の肩に頭をのせてくれる。
ドキドキするけど、それ以上に安心感が湧き上がってくる。
「どうする? もう少しくらいゆっくりしとく?」
「いや、夕飯作ろっか。もう少ししたらお姉ちゃんも帰って来るだろうし」
「わかった。じゃあ、準備しようか」
こうして、僕たちは夕飯を作り始める。
夕飯を作っている時には、先ほどのような表情の陰りも無くなっていて安心した。
でも、あんな風にいきなり不安になるという事は何かあったのだろうか?
そんな事を考えながら、日向の隣で夕飯づくりに勤しむのだった。
◇
「最近はこの部屋で君と話すことが多いような気がするね」
「ですね。何かあったんですか?」
「ああ、今日佐山が職員室に連れてこられてね。彼が湊の虐めの首謀者であることが分かって追々処分を決めることになったんだよ」
「そうですか」
あの後、本当に水無月先輩に連れて行かれたみたいだな。
あの人かなり武闘派だから、抵抗しても無駄だったんだろうな。
まあ、そんなことは僕には関係のない事だけど。
「あまり興味がなさそうだな」
「そりゃあ、もうどうでもいいですからね。それで、処分はどうなりそうなんですか?」
「良くて停学。悪くて退学といったところかな。彼に力を貸したバスケ部員も停学。バスケ部は三か月の活動停止処分になるはずだ」
「結構重いんですね」
部活の人間まで今回の件に力を貸してたとは初耳だけど。
言われてみれば、噂があそこまで広まるのが早かったのもそこら辺に原因があるのかもしれない。
「そりゃあ、虐め問題だからな。そう言うわけでよろしく」
「僕が何をよろしくされるんでしょうか……」
「ああ、この件は全校集会で公表するから湊に流れてた悪い噂も一瞬で払拭されるはずだ。だから、よろしく」
「……ありがとうございます」
しっかり学校側が今回の件を公表してくれるんなら、確かに一瞬で僕の悪い噂も払拭できるかもしれない。
そうなれば、僕は晴れて堂々と学校生活を送ることが出来る。
それに、日向に迷惑をかけることもない。
非常にありがたい。
「お礼を言われることじゃないさ。何度も言うけど、この問題は学校側の不手際だからね。湊に不利益があまり及ばないように尽力するさ」
「ありがたいですけど、無理していませんか?」
最初学校側は今回の問題を隠蔽しようとしていたところを小雪さんが直談判してちゃんと解決に向かって動いてくれた。
それだけでかなりの負担をかけている気がするのに、それ以上を求めてしまってもいいのだろうか。
「してないよ。そもそも、私は子供たちはのびのびと健やかに暮らせるようにするために教師になったんだから。湊がそんなことを気にしなくてもいいんだよ」
「小雪さんは本当にすごいですね」
「凄くなんかないさ。私は当たり前のことをやろうとしているだけだからね」
「それでもですよ。僕には到底真似ができません」
自分の立場を脅かしてまで、小雪さんは僕のために動いてくれた。
身内だから動いたという人がいるかもしれないけど、きっとそうじゃない。
小雪さんに何の関係もない学校の生徒が同じような立場だったとしても、きっとこの人は動いてくれたと思う。
「そんなことは無いさ。湊だってやろうと思えばできるはずだ。湊はそう言う奴だ」
「買い被りすぎじゃないですかね」
僕はそこまで凄い人間じゃないと思う。
でも、そうなれたらいいな。
「本当に君は自己評価が低いね。そんなことを気にしなくてもいいのに」
「気になりますよ。と言うか、こういう所を気にしなくなったら終わりじゃないですか」
「それもそうだな。うん、君はそのまま変わらないで居てくれ」
「変わるつもりは今の所ないですね」
そうそう変えようと思って人格が変わるような事はないだろうし。
日向は今の僕のことを好きでいてくれていると信じたいので、変わらないようにしよう。
「そうしてくれ。私も今の湊の方が好感が持てるからね」
「はい。それでは、僕は部屋に戻りますね」
「ああ、これからも日向のことをよろしく頼むよ」
「勿論です。任せてください」
小雪さんに笑みを向けてから、僕は自分の部屋に戻る。
そう言えば、この前は日向と添い寝をしたけど。
今日はそんなことは無いのだろうか?
……いや、違うんだよ?
別に期待してるとかそう言うわけじゃないんだよ。
「って、僕は誰に何の言い訳をしてるんだ」
変な事を考えるのはよそう。
明日も学校があるわけだし。
今日は早めに寝よう。
「うん。そうしよう」
僕は雑念を振り払って、ベッドにもぐりこむ。
そして、すぐに眠気がやってきて眠りに落ちた。




