第19話 手を出す相手を間違えた
【佐山視点】
なんで、なんで俺がこんな目に遭わないといけないんだ。
俺みたいな選ばれた人間がどうして……
訳が分からない。
俺のように優秀な人間がこんな風に終わるだなんて世界の損失だ。
「おい、水無月。離せ!」
「離すわけないじゃん。私は会長にお前を職員室に運ぶように言われたんだよ? 言われたことは遂行しないとさ」
「いい加減にしろ!」
「抵抗しても良いけど、制圧するよ? 手加減とかはしないからね」
こいつは女のくせに化け物みたいに力が強い。
いや、力が強いのもそうだが俺の動きを的確に封じてくる。
なんで俺がこんな目に遭わないといけないんだ。
「うぐ……」
「多分だけど、なんでこんな目にとか思ってるんだろうけど全部自業自得だからね?」
「……」
自業自得? そんなわけがない。
俺は悪い事なんて何一つしていない。
ただ、あのカスの彼女を奪っただけだ。
噂を流すように仕向けはしたけど、それだけ。
虐めを直接したりしていないはずなのに。
「あと、もう一つ言うんならね。手を出す相手を間違えたんだよ。お前は」
「は?」
手を出す相手を間違えた?
あんな何の力も才能もないカス。
そんな相手を貶めて何が悪いって言うんだ。
「みなとっちは色んな人に優しい。彼に恩義を感じている人間はそれなりに多くいるんだよ。それは私だったり。会長だったりね」
「なんだよ……それ」
「なんだもクソもないよ。ただの純然たる事実。あとは、先生たちに処分を下してもらうといいよ。流石に生徒会にはそこまでの権限が無いからね」
水無月は俺を職員室に放り込んで、教員と何やら話した後に職員室から出て行った。
これから俺はどんな処分を受けるんだろうか。
退学? 停学?
退学はないだろ。俺みたいな才能を潰すような真似学校側はしないはずだ。
「どうでもいい。絶対に俺はあのクソ野郎に復讐する。覚えておけよ。絶対にお前の幸せや生きがいを全部踏みにじってやるからな」
その決意を抱いてから俺は、教員たちに話をされるのだった。
【佐山視点終了】
「おかえり。てっきり湊くんの方が早く帰ってくると思ってたのに。何かあった?」
「いや、ちょっと生徒会の人たちに呼び出されてさ。それで帰りが少し遅くなっただけ。連絡してなかったね。ごめん」
「ううん。謝られるようなことじゃないよ。それに、私も今帰ってきたところだから。一緒に夕飯作ろ」
「だね。ちょっと待ってて。着替えてくるから」
僕は一度自分の部屋に戻ってから、部屋着に着替える。
制服をハンガーにかけて、カバンを置く。
そう言えば、日向は今学校で流れている噂を知ってるのかな。
仮に知っていたとして、どう思ってるんだろう。
「僕と同じような酷い状況ではないと隆介は言ってたけど」
だとしても、自分に向けられる悪意って言うのはしんどい物だ。
僕はそれを身をもって知っている。
出来ることなら、日向には辛い思いをして欲しくない。
「湊くん? どうかしたの?」
「いや、何でもないよ。それよりも、部屋に入って来るならノック位はしてよ。全裸だったらどうするのさ」
「制服から部屋着に着替えるのに、全裸はないでしょ」
「それはそうかも」
日向は既に部屋着に着替えていて、見慣れた服装をしていた。
黒のホットパンツに白色のTシャツ。
いつ見ても可愛い。
「でしょ。にしても、私達付き合ってるんだよね」
「付き合ってるというか、婚約してるというか」
正確に婚約をしたわけじゃない。
所詮は高校生が交わした口約束。
だけど、僕はこの約束を絶対に違えるつもりがない。
「そ、そうだよね。でも、私たちの関係性はなんだか難しいね」
「まあ、恋人ってことでいいでしょ。将来を誓い合ってるけど」
「湊くんは私なんかで良かったの?」
「なんで、そんなことを言うの?」
日向は俯きながらそんなことを言う。
なんでそんなことを不安に思ってるのか僕にはわからない。
何かがあったのかもしれないし、無かったのかもしれない。
だけど、ここで彼女を安心させるのは僕の役目だと思う。
「だって……私にはそこまで取り柄が無いし」
「なんでそう思うのか、僕にはわからないけどさ。僕は日向が好きだよ」
部屋の前に立ち尽くしていた日向をそっと抱きしめる。
少し前なら、僕は躊躇してそんなことはできなかったと思う。
関係性もそうだし、僕の精神的な脆さもそうだ。
「……湊くん」
「大丈夫。日向が僕の味方で居てくれるように、僕も日向の味方だから。何があっても」
一番しんどい時に一緒に居てくれた日向に恩を返すためにも。
大切な彼女を守るためにも。
「そっか。ごめん。ちょっとナイーブになってたみたい」
「いいよ。不安なら僕を頼ってくれていいし、言いたくないことがあるんなら言わなくたっていい。だけどさ、日向が辛い思いをしているんなら寄り添いたい。そう思うよ」
「ありがと。やっぱり私は湊くんのことが好きだな~」
「そう言ってもらって光栄だよ」
抱き着いたままの状態で、僕は日向を安心させられるように頭を撫でる。
サラサラで凄く撫で心地が良い。
きっと、髪の手入れをちゃんとしているんだろうな。
「ごめん。もうちょっとだけ、このままでいさせて。そしたら、いつもの私に戻るから」
「お安い御用だよ」
そして、僕はそのまま日向の頭を撫で続ける。
それから五分くらいたった後に、一緒に夕飯を作り始める。
最近では毎日の風景。
だというのに、関係性が変わったからかいつもと違うように感じる。




