第2話 幼馴染の家でお泊り開始
「凄く久しぶりに来る気がするよ」
「そりゃね。湊君が高校に入学して以来、来てないでしょ」
日向の家は僕の住んでるマンションの一室の隣だ。
もっと言えってしまえば、うちの高校で教員をしている小雪さんが住んでいる隣の部屋を僕の両親が借りてくれた。
こっちに引っ越しをしたときに挨拶を来たくらいだから一年ぶりくらいだ。
「こっちが私の部屋ね。でも、着替えてくるからリビングで待ってて」
「うん」
言われるがまま、僕はリビングのソファーに腰を下ろす。
目の前にはテレビが置かれていたけど、テレビを見る気にもなれなかったからボーっと虚空を見つめる。
「お待たせ。入ってきていいよ」
日向から許可をもらって、彼女の部屋に向かう。
中に入ると、部屋の中は白を基調とした家具が置かれていた。
勉強机にベッド、クローゼット。
生活必需品は揃っているけど、逆にそれ以外の物が何もない。
言葉を選ばずに言うのなら、色がない。
「……? どうしたの。私の部屋、何かおかしい?」
「い、いや、そんな事はないよ」
呆気に取られていた僕は、日向に声をかけられて我に返る。
今考えてた事は普通に失礼な事だな。
ミニマリストと言う可能性もあるし。何事も決めつけは良くない。
「そ。とりあえず、適当にベッドの上に座って」
「わかった」
日向に促されるまま、僕は彼女のベッドに腰を下ろした。
彼女は勉強机と一緒に置かれている椅子に座って僕の方を見つめてくる。
「とりあえず、湊くんは今日からうちに泊まりなさい」
「え、ええ」
「後でお姉ちゃんに話は通しておくから」
「いや、それは流石に」
高校生の男女が一つ屋根の下、一緒に暮らすのは流石によろしくないのではないだろうか。
いくら、小雪さんがいるとはいえ。
「じゃあ、私が湊くんの家に泊まるでもいいよ。少なくとも、今の湊くんを一人には出来ない」
真剣な眼差しでそう言われてしまう。
確かに、ついさっきまで死のうとしていた幼馴染を一人にさせたくはないか。
僕が日向の立場でも同じことをするだろうし。
「わかった。じゃあ、こっちに泊めてもらうよ」
「ん。素直でよろしい。大変だったね。湊くん」
そう言って、彼女は僕のことを抱きしめてくれる。
座っている僕を日向は抱きしめているから、必然的に顔が彼女の胸のあたりに埋まる。
「……なにこれ」
「傷ついてる湊くんを慰めてる。どう?」
「う~ん、いきなりで動揺してる。でも、不思議と安心するよ」
「そ。ならよかったけど」
言いながら、日向は頭を撫でてくる。
この年になって、しかも年下の女の子に頭を撫でられるとは思ってなかったけど。
不思議と嫌な気はしなかった。
「でも、なんで日向はあの時屋上にいたの?」
「学校で流れる噂知ってて。お姉ちゃんに連絡したら、湊くんがホームルームに出てないって聞いて急いで探したの」
「それは迷惑をかけちゃったね」
「迷惑じゃないって。湊くん、自己肯定感低すぎ。てい」
「いて」
抱きしめられたまま、後頭部をチョップされた。
まあ、そこまで痛くはないんだけど。
「とりあえず、夏休みの間はうちでゆっくりしてて。学校の事とか、彼女さんの事とかは忘れて。ね」
「……ああ。ありがとね」
今は、この優しさに甘えることにしよう。
そうじゃないと自分が壊れてしまいそうな。
そんな予感がするから。
◇
「湊、大丈夫……ではなかったみたいだけど。無事でよかった」
あれから少しして、学校から戻ってきた小雪さんに頭を撫でられる。
今日は頭を撫でられてばっかりだ。
「おかげさまで。ご迷惑をおかけしてすいません」
「迷惑だなんて、とんでもない。こんな虐めを止めれなかった私達学校側に問題がある。本当に申し訳ない」
小雪さんが悪いわけじゃないのに、彼女は真摯に頭を下げている。
凄く申し訳ない気持ちになり、頭を上げるようにお願いするとすぐに頭を上げてくれる。
「ひなちゃんから話は聞いてる。今日から泊まっていくんだろう。部屋がちょうど一つ余ってるから使ってくれ」
そう言って小雪さんは僕をその部屋に案内してくれる。
中はほとんど日向ちゃんの部屋と同じで最低限の生活必需品が置かれているだけ。
違いがあるとすれば彼女の部屋は白を基調としていて、この部屋は黒を基調しているくらいだろうか。
「ありがとうございます。小雪さん」
「なに。君は私にとって弟みたいなものだからね。良くするのは当たり前のことだ」
小雪さんはニカッと笑ってサムズアップしてくれる。
日向と同じ綺麗な黒髪。瞳の色は紫紺色で静謐さが漂っている。
こんなにも美人なのに、未だに恋人ができたことが無いというのが信じられない。
「お姉ちゃん、服はちゃんと掛けてよね。皺になっちゃうから」
「ごめんひなちゃん! 今すぐ掛ける」
そう言えば、小雪さんは重度のシスコンだったな。
もしかして、恋人が未だにできない理由もそこにあるのか?
「……考えないでおこう」
割り当てられた部屋を見て、僕はベッドに腰かける。
最近、まともに睡眠をとることも出来ていなかったし。
栄養バランスを考えた食事もとっていなかった。
そんな無理を続けていたのもあってか、僕はベッドに横になるとすぐに眠りに落ちてしまった。




