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彼女をNTRされ絶望して全てを終わらせようとした屋上で幼馴染に拾われた  作者: 夜空 叶ト


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1/7

第1話 こうして、僕は全てを失った

「暑い……暑すぎる」


 七月ももう少しで終わり、遂に夏休みが始まる。

 今日は一学期最後の登校日……つまりは終業式だ。


「身だしなみは……っと、ネクタイ忘れるとこだった」


 普段はネクタイをつけていなくても良いのだが、式典やそう言った行事の日はネクタイをつけないといけない。

 そのことをすっかり忘れてしまいそうだった。


「夏休みはほのかと遊びまくるんだ!」


 高校一年生の頃にできた最愛の彼女との、甘酸っぱい夏休みに心を躍らせながら家を出る。

 今日はいい一日になりそうだ。


 ◇


「おう、おはようみなと。今日も機嫌がよさそうだな」


「まあな。そういう隆介だって今日も元気じゃないか」


 小清水こしみず 隆介りゅうすけ

 小学一年生の頃から一緒の学校に通っている親友。

 髪型は坊主で身長は百七十五センチくらい。

 野球部でピッチャーをしてる野球少年だ。


「まあな! 今日から夏休みだし」


「野球部って夏休みに練習ないのか?」


「いや、一週間に一日にしか休みがない」


「かなりハードじゃないか!?」


 夏休みに全く休みがないなんて。

 高校生活としてはどうなんだと思わなくもないけど、高校球児的には充実した夏休みなのかもしれない。


「ハードだけど、まあ好きだからな。野球は」


「そか。頑張れよ! 甲子園とか行ったら応援しに行くからな」


「任せとけよ! 絶対に甲子園行って見せるから。お前はほのかとデート三昧か?」


「予定ではな」


「羨ましいな彼女もちは」


 隆介と他愛もない会話を繰り広げていたら、校門が見えてくる。

 俺と隆介は別クラスだから、もう少しでお別れだ。


「そんじゃ、湊は夏休み満喫しろよ!」


「ああ。隆介も野球頑張れよ!」


 隆介と拳をぶつけて気合いを入れて、今日一日の終業式を乗り切ることにする。

 正直ここまで来たら消化試合みたいなものだから、気楽に過ごそうと思う。


 ◇


 長い終業式も終わり、これでいよいよ夏休み。

 学校終わりにほのかと待ち合わせてデートに行く予定だから、ほのかを待っていたんだけど三十分経っても中々来ない。


「何かあったのかな」


 スマホで連絡してみても、既読が付かない。

 心配になって校内を探し回ってみるけど、なかなかに見つからない。

 彼女の教室を見てみてもいないし、広い校舎を走り回ってもなかなか見つからないから不安になる。


「どこ行ったんだ? 何かあったのかな」


 凄く心配だし、早く見つけるか連絡を返してほしい。

 そう思いながら、僕は学校中を歩き回ってほのかを探すけどなかなか見つからない。


「はぁはぁはぁ、もう学校にいないのかな」


 諦めかけながらも、体育館裏を見に行くとそこにはほのかがいた。

 やっと見つかったという安堵感が全身を駆け回る。

 よかった。事件とかに巻き込まれたわけじゃなくて。


「ほの……か」


 声をかけようとして、声が詰まった。

 理由は簡単で、ほのかが体育館裏で知らない男とキスをしていた。

 それも、熱烈に抱き合って。


「な、なにしてるんだ?」


 一瞬夢かとも思ったけど、それを膝から崩れ落ちた時の痛みが否定している。

 これは夢じゃない。

 まぎれもない現実なのだと、思い知らされる。


「み、湊。これは……」


 僕の彼女である金島かなしまほのかは心底驚いたような顔を浮かべて僕の顔を見ていた。

 流れるような黒髪におっとりとした翡翠色の瞳。

 スラっとしたモデル体型に大きな胸。

 そんな彼女が違う男とキスをしていたんだ。

 しかも、すごく幸せそうな表情で。


「え? あれ誰。ほのかの知り合い?」


「う、うん。私の彼氏」


「へぇ~こんなヒョロそうなやつがね。それで、そんな彼氏君が何の用?」


「何の用って、僕の彼女と何して……」


 ほのかとキスをしていた男は何も悪びれたような様子は見せずに、僕を見下してくる。凄く嫌な奴だ。


「見てわかんない? キスしてたんだけど。あ、もしかして君はしたことが無い感じ?」


 僕のことを挑発するように、男は言うけど、それどころじゃない。

 気持ちが悪い、吐き気が止まらない。

 ほのかが自分以外の男とキスをしているところを見て、目の前が真っ暗になるような気分だった。


「ま、いいや。行こうぜほのか。こんな奴に構ってても良いことないだろ」


「うん。そういう事だから。じゃあね。湊」


 ほのかと間男は手を繋いでその場を後にした。

 僕は何もすることが出来ずに、その場に崩れ落ちることしかできなかった。

 彼女と甘酸っぱい夏を過ごす予定だった、僕の夏休みはこの瞬間に絶望と地獄に変わった。


 ◇


 夏休みが始まったというのに、どこに行くこともなく起きて最低限の食事をとって。

 また眠る。そんな灰色の夏を過ごしている。

 ピコンとスマホの通知が来たので見てみれば、それはSNSのメッセージだった。


「……なんだよこれ」


 捨てアカウントだろうか。

 意味の分からない英数字の羅列のアカウント名がメッセージを送ってきていた。

 中身は正直見るに堪えないものだった。


『浮気とか最低。死ねばいいのに』


『夏休みだし、死ねばいいんじゃない?』


『金島さんが可哀そう』


「なんだよ。これ」


 なぜか、僕が浮気している風に広まっているらしい。

 意味が分からないけど、どうせあの間男が広めたんだろう。

 本当に嫌な奴だ。


「僕が何したって言うんだ」


 浮気されたのは僕のはずなのに。

 どうして、僕が悪い風に言われないといけないんだ。

 浮気されたショックも重なって、どんどん自分の心が荒んでいくのがわかる。


「一人暮らしで良かったかもな」


 こんな惨めな姿を両親に見せたくない。

 両親は仕事で忙しいだろうし、隆介は部活できっと忙しいだろう。

 あまり、迷惑はかけたくない。


「はぁ」


 スマホの電源を落として、適当に投げる。

 見たくないものを見る必要もない。

 これ以上見ていたら、泣いてしまいそうだ。


「寝よ」


 布団にくるまって、眠る。

 嫌なことを忘れられるように。


 ◇


「ああ、今日は登校日か」


 死んだように寝て、適当に何か食べて、また眠る。

 そんな生活を夏休みの間ずっとしていた。

 スマホはあれ以降電源をつけていないから、どんな情報が広まっているかわからない。


「行きたくないけど、行くしかないか」


 鏡を見て、支度をしていると今にも死んでしまいそうな顔をした自分の顔が映っていた。ボサボサの黒い短髪に、夏休みが始まる前よりかなり濁って見える青い瞳。


「顔色悪いな」


 自分でそう思えるくらいには酷い顔色をしていた。

 学校に行ったら、もしかしたら何も起こっていないかもしれない。

 そんな希望的観測を胸に、僕は学校に向かった。


「……マジか」


 学校に行ったら異物を見るような視線に晒され、僕の方を見てひそひそ話をされる。聞こえて来る情報的に、大体が僕が浮気したと断定して凄く悪口を言っている。

 僕はそんなことしていないのに。

 彼女と楽しい夏休みを過ごそうとするのは、そんなに傲慢な事だったのかな。

 机の上には落書きがされていて、死ねとか浮気男とか、そんな暴言がたくさん書かれていた。


「はぁ」


 もう、ホームルームに出る気も無くなった僕は荷物を持ってその足で屋上に向かう。

 屋上に出ると、ため息が出そうなくらいの快晴で自分の気分が下がっているのも相まってより一層気持ちが重くなる。


「飛べば楽になる……か」


 そんな思考が頭をよぎって、フェンスの方に歩き出す。

 このフェンスを跨いで飛べば楽になる。

 僕が死んで悲しむ人間の顔があまり思い浮かばない。

 じゃあ、いいのか。


「なにしてるの。湊くん」


 僕がフェンスに手をかけながら考え事をしていると、鈴を転がしたような綺麗な声が聞こえてきた。

 僕のことを名前で呼んで、こんな綺麗な声の人物は一人しか思い当たる人物がいない。


「日向ちゃん」


 望月もちづき 日向ひなた

 小さいころからの知り合いで、中学も同じでそれなりに交流があった女の子だ。

 幼馴染と言っても、僕が高校に入学してからはそこまで交流がなかったわけだけども。


「ちゃん付けはやめてよ。私も高校生なんだから」


「ごめんね」


「それより、こんなところで何してるの? 今、ホームルームの時間でしょ?」


 長い黒髪に青いインナーカラーを入れた彼女は鋭い眼光で見つめてくる。

 晴天の空のような瞳をした彼女は、ズカズカとこっちに向かってくる。

 凄い気迫に気圧されてしまう。


「いや……それは」


 今、死のうとしてましただなんて、彼女に言えるはずもなく。

 僕は口ごもってしまう。


「やっぱり何かあったんだよね」


「……まあね」


 こういうってことは、すでに僕に起きた出来事をある程度把握してるんだろうなぁ。

 どうしよ。


「とりあえず、こっち来て。そこ危ないから」


「わかったよ」


 彼女に連れられるまま、僕は屋上の扉にもたれかかる。

 どうやら、今日死ぬことはできなさそうだ。

 燦々と輝いている太陽が、今は忌々しく感じた。


「それで、何しようとしてたの」


「死のうと」


「……はぁ、バカなんだから。なんで私たちに相談しなかったの?」


「迷惑かと思って」


「そんなわけないでしょ! 私たちは勝手に死なれたほうが悲しいに決まってるじゃんか!」


 隣で叫ばれて、ビクッとしてしまう。

 だけど、隣に視線を向けてみると涙目になって僕の胸倉を掴む日向がいた。

 ここまで悲しんでくれる人がいるとはあまり思っていなかった。


「……ごめん」


「謝んなくていいから。それよりも、今日はうちに来て。というか、今から!」


「え、それはどうなんだ?」


「大丈夫。お姉ちゃんに連絡はしとくから」


 日向の姉。望月もちづき 小雪こゆきさんは僕のクラスの担任だ。

 あの人は昔から僕のことを弟みたいに扱ってくれている。

 まあ、連絡を通してくれるんなら良いか。


「わかった。じゃあ、今から行こうか」


「うん!」


 こうして僕は日向の家に行くことになった。

 さっきまで死のうとしてたのに、今ではこうして一つ下の幼馴染の家に行くことになっているのだから、人生とはわからないものである。


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