第17話 日向に流れる悪い噂と神凪会長からの呼び出し
「まさか、安心させてくるって言って婚約者になっているとは思わなかったな」
「一番安心させられるかなって思ったんですけど。不味かったですかね?」
「いいや。回答としては最適解かもしれないね。くれぐれもひなちゃんを泣かせるような事はするんじゃないぞ」
「わかってます。日向を悲しませるようなことをする気はないですから」
あの後、日向と婚約したことを小雪さんに打ち明けると凄く驚かれたけど。
それと同じくらいに祝福された。
本当に僕は周りの人間に恵まれてるな。
そんな事を心の底から思った。
◇
「えへへ。こうやって手を繋いで湊くんと一緒に歩くの凄く嬉しいな」
「僕もだよ。流石にちょっと恥ずかしくはあるけどね」
登校中、僕たちは仲睦まじく歩いていた。
登校時間であるため、周囲にはうちの制服に身を包んだ男女たちが歩いている。
その視線は僕たちに集められており、少し居心地が悪かった。
『なんで、DV野郎が望月さんと歩いてるんだ?』
『もしかして、無理やり?』
『いや、でも望月さん凄く笑顔だぞ? 今まで見たことが無いくらいの』
『た、確かに』
『じゃあ、男の趣味が悪いってことなのかな』
周囲ではヒソヒソと僕たちの方を見ながら何かを話している。
内容が聞こえてきて、正直いい気はしないけど。
でも、隣を歩く日向があまりにも幸せそうだから僕も周囲の陰口なんかどうでも良くなってしまう。
「湊くんはさ、私のこと好き?」
「もちろん。大好きだよ」
握っている手に力を込める。
すると、日向も手を握り返してくれる。
それだけで、さっきまでの不安感や不快感が無くなっていく。
「じゃあ、私だけのことを見ててね」
「もちろん。ちゃんと日向だけを見てるよ」
それに、今の僕たちは婚約者。
普通に考えて、僕が他の女の子に見向きをするのなんてありえない。
僕は既に日向にぞっこんだからね。
「よろしい。今日のお昼にまたお弁当持っていくね」
「ありがとう。凄く楽しみにしてるよ」
日向の手作り弁当がお昼に食べれるってだけで、この完全アウェーな学校でも俯かずに歩いて行ける。
さて、今日も個別授業頑張るか。
【ほのか視点】
久しぶりに、湊を見た気がする。
そろそろよりを戻そうかなと考えていたんだけど、湊が他の女と歩いているのを見た。
しかも、凄く仲よさそうに手を繋いで。
「意味わかんない。湊は私のことが好きだったんじゃないの!?」
腹が立って仕方がない。
湊は私の物なのに。
泥棒猫が勝手に私の湊を掠めとるなんて。
私の所有物なのに。
「絶対に許さない。あんなの浮気じゃん」
湊は私だけの物。
それを許可なく勝手に。
しかも、手を繋いで。
「そうだ、あの女を地獄に落としてやればいいんだ」
湊は今、悪い噂で注目されている。
だから、そんな湊と一緒に居る女にも悪い噂を流して痛い目を見させてやる。
湊の悪い噂を流したのは多分佐山先輩だけど。
湊の近くに居るあの女の悪い噂を私が流せばいいんだ。
「ふふふっ。覚悟しておきなさい。泥棒猫」
【ほのか視点終了】
「なあ、湊。最近、望月さんの変な噂が流れてるんだけど。お前は何か知ってるか?」
「いや、初耳。というか、学校内で流れている噂話なんて僕の所に入ってこないしね」
残念ながら、この教室は隔離されている。
生徒間の噂なんかが入ってくるわけもない。
ここで会うのなんて、日向か隆介か。
後は、個別で授業をしてくれる先生たちだから。
「それもそうか。なんでいきなり望月さんの噂なんか流れ始めたんだろうな?」
「わからない。ちなみに、流れてる噂ってどんな内容の噂なんだ?」
「例えば、望月さんは結構遊んでいる奴だとか、男遊びをしまくってるとか。そんな確度のない噂だよ」
「なんだよそれ」
そんな根も葉もない噂を一体誰が流したんだ。
意図的に誰かが流しているとしか思えない。
誰が、何の目的でそんなことをしたのか。
「わからん。ていうのと、今日の帰り……というか、さっきだな。佐山先輩が生徒会室に連れて行かれるのを見たな」
「そうなのか?」
「ああ。もしかしたら、湊にしたことがいよいよバレて罰を与えられるのかもな」
「だったらいいけどね」
日向と婚約してから約一週間が経った。
その間、特に何も進展がなかった佐山の問題についに終止符が付きそうで少しホッとした。
だけど、次は日向の悪い噂が流されるという事件が起きてしまったわけだけど。
「そういうわけだから、望月さんをちゃんと見といてやるんだぞ?」
「わかってるよ。これでも一応婚約者だからな」
「言ってたな。そう言うわけだから頑張れ。何かあったら頼ってくれよ?」
「もちろん。困ったら速攻で頼らせてもらうよ」
いつものように気のいい隆介に感謝をしながら、僕は一人で帰路を辿る。
日向は今日、同学年の友達と遊びに行くらしいので別行動だ。
帰りが遅くなるかもって言ってたし、先に帰って晩御飯でも作っておこうかな。
「ん?」
そんな事を考えていると、スマホが振動した。
送ってきた相手は神凪会長で用件は、今すぐ生徒会室に来てほしいというものだった。
「珍しい。神凪会長が事前連絡もなしに呼び出してくるなんて」
よほどの緊急事態かも知れない。
そう考えた僕は、そのまま来た道を戻って学校に戻ることにするのだった。




