第11話 望月先生と小雪さん
【佐山視点】
始業式の日から、ほのかの元カレ……確か夜霧湊だったか。
アイツが絶望してる姿をもっと見たかったのによ。
学校に来なくなっちまうんじゃ、意味ねぇじゃねぇかよ。
せっかく壊しがいのあるおもちゃを見つけたと思ったのに。
「それにしても、夜霧が来ないのはわかるがなんで望月の方も学校に来てねぇんだよ」
なんだかイライラする。
望月先生ならなんか知ってんのか?
いや、知っててもあいつは教えてくんねぇな。
公私はしっかりしてるタイプだって聞いたし。
「チッ面白くねぇ。あの望月先生の妹を落として夜霧の野郎を更に絶望させたいってのによ」
俺に彼女を寝取られて、次は優しくしてくれた幼馴染を寝取る。
そうなったときにあいつがどんな顔をするのか未だに楽しみで仕方ねぇ。
「佐山先輩! 監督が呼んでます」
「今行く」
だが、そればっかりにかまけてるわけにはいかねぇ。
もう少しで、冬の全国大会の予選が始まるしな。
それで結果を残せばプロ入り間違いなしだ。
今でも色んなチームから声をかけられてる。
選べる選択肢は多い方がいいしな。
「俺がいるこのチームが負けるわけねぇ。後は、どれだけ俺が目立つ立ち回りをするかだな」
所詮、うちのチームのメンバーなんかモブだ。
俺を引き立てるだけのただのモブ。
俺と言う天才を輝かせるためだけの、いわば薪みたいなもんだ。
せいぜいいい感じに燃えて欲しいもんだ。
「おい、佐山。早く来いって。キャプテンのお前が来ないんじゃミーティング始めらんないだろうが」
「うるせぇ。今行くとこだったんだよ。黙ってろ!」
同じ三年生の田淵に急かされる。
こいつは大した実力もないくせに、俺に指図をしてきて鬱陶しいことこの上ない。
こんなんだから、彼女の一人もできないんだ。
【佐山視点終了】
「おはよう湊。今日からこの教室で各先生方から授業を受けてもらう。君に不利益が出ないように調整してるつもりだけど、何か不便な事とかがあったらすぐに私に言ってくれ」
「ありがとうございます。小雪さん。本当に何から何まで」
「学校では望月先生だ。それと、謝る必要は無い。何度も言うけど、今回の虐め騒動をもっと早くに気づいて対応できなかった学校側に落ち度がある。君が責任を感じる必要は無い」
「ありがとうございます」
一週間の待機時間を終えて、僕は久しぶりの学校に来ていた。
いつも授業を受けていた教室じゃなくて、特別教室に居る。
小雪さんの話によれば、これから問題が落ち着くまではここで先生とマンツーマンで授業を受けることになるらしい。
「ああ。それと、悪いんだが虐め関連の事件の調査はまだ進んでいない。すまないね」
「小雪さんが謝るような事じゃないですよ。むしろ、学校側が僕のために動くように働きかけてくれただけで十分です」
本来なら、僕の虐め騒動は隠蔽されていただろうし。
それに、こんな風にちゃんと勉強を出来る環境を整えてもらうことだって不可能だったと思う。
そう言う面で本当に小雪さんには感謝しかない。
「そうか。まあいい。虐め関連の捜査自体は始まっているから問題が解決するまではこの教室で授業を受けていてくれ」
「はい。むしろ、先生達にマンツーマンで授業をして貰えるなんて貴重な体験ですし」
「そうやって、前向きに考えられるのは君の美点だね。ま、そう言うわけだからさっそく授業を始めようか」
「よろしくお願いします」
小雪さんの担当科目は国語。
授業は凄くわかりやすくて、聞いていて凄く身になった。
僕自身、進路を明確に決めているわけではないけど大学には進学したいと考えている。
そういう事もあって、小雪さんの授業は本当に身になる。
「とまあ、こんな感じなんだけどわかった?」
「凄くわかりやすいです。というか、授業速度凄く早くないですか?」
「そりゃあ、一週間分こっちの都合で休ませちゃったわけだから追いつかないと」
普段、教室で受けていた授業のスピードよりも二倍くらい早い気がする。
だけど、わからないところがないくらいにはわかりやすかった。
僕も小雪さんみたいな立派な教師になれるだろうか。
「なるほど」
「でもまあ、今日予定した授業範囲は終わったから久しぶりに雑談しようか」
「良いんですか?」
「詰め込み過ぎても良くないでしょうし。私も最近は湊と話せてなかったしね」
さっきまで教師の顔をしていた小雪さんがスンっと普段の小雪さんみたいになる。
行ってしまえば、望月先生から小雪さんになった感じ。
「なら、僕は生徒の夜霧湊じゃなくて、小雪さんの昔馴染みの湊として話せばいいのかな」
「そうだね。最近はどう? と言うか、休んでた一週間は」
「楽しかった……かな。ずっと日向と一緒に居たし。あの子はずっと僕に気を使ってくれてたけど」
「日向は湊のことが大好きだからね。大切にしてあげて」
小雪さんはシスコンだけど、ちゃんと日向のことを考えているいいシスコンだ。
あの子の考えは尊重するし、間違った道に進もうとしたらちゃんと正す。
まさにシスコンの鏡だ。
「大切にしてますよ。僕が一番しんどい時にそばに居てくれたのは彼女だったので」
「そうか。それが聞けて安心だよ」
小雪さんはウインクをしながらニコッと笑う。
いつもはクールなのに、こういう時に見せる普段とは違う一面にギャップを感じる。
小雪さんってやっぱり美人だよな。
「小雪さんにもちゃんと感謝してるんですよ」
「知ってるよ。っと、雑談はここまでだね。次からの授業も頑張って」
「はい。ありがとうございました」
小雪さんがそう言って立ち上がるのと同時にチャイムが鳴った。
時間配分まで完璧だ。
流石は敏腕教師。
「ふぅ、次は数学か。苦手科目だから頑張らないとな」
両頬を叩いて、次から始まる授業に気合いを入れ直すのだった。




