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あさぎに揺れて―幕末男子の愛が重すぎます【新選組 沖田総司✕タイムスリップ恋愛小説】―疼くようなときめきと、浸るような恋落ち旅へおいでませ―【7/31に完結します】  作者: 雪城 冴 @新選組小説 連載中
【第二部】二章 文久三年 大晦日〜

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★4狸寝入り ※6/13㈯休載します(後書き参照)



 もう深夜だろうから、こんな時間まで待っていると知られたくなかったのだ。


 奥の部屋で寝間着に着替えているようだ。

 今のうちに寝てしまおうとするのに、頭がどんどんはっきりしてくる。


 行灯を消すじゅっという音がした。


(起きてるって言えばよかったな。そうしたら一緒に布団に入って……)


「葵、起きてる?」


 タイミングがばっちり過ぎる。

 今起きました、というふうに眠そうに目をこすって出ていこうか。

 だけど狸寝入りを指摘されたら恥ずかしすぎる。


「寝てるか……」


 正面というより、目と鼻の先で残念そうな声がする。いつの間にこんなに近くに来ていたのだろう。

 

 心音がアクセルを踏んでいく。

 起きてます! と手を挙げたいのに、顔だけは涼しく寝たふりを張り付けた。


 暗闇でさらに気配が近づく。

 同じ布団に身体が滑り込む。

 冷えていた背中に、熱い体温が忍び寄ってくる。

 沖田の胸が背中にぴったりと密着し、逞しい腕が腰に回された。


(くすぐった……い)


 寝たふりをしたままで、顔を反対方向に向けると、首筋に熱が落ちて、ぴくんとまぶたがかえりかけた。

 

 彼が笑ったような声がした。顔をぐっと戻される。鎖骨から徐々に唇が這い上がり、


「よっぽど疲れてるんだね。可哀想に」


 頭を優しく撫でてくれるから、解放されるかな、と葵は心の内でホッとする。

 

 次の瞬間、柔らかい唇が耳たぶに触れ、軽く吸われた。


「は……」

 びくっ、と肩が跳ねそうになるのを、必死に堪えた。

 

 交わすことも、応えることも出来ず、身体が熱を持ち、足の指が布団の中で丸まる。


 もう抑えきれない甘い声と素直な反応に、とうとう沖田が笑い出した。

 観念して瞳を開けると、彼はくっくっと手で口を押さえている。


「可愛いな本当に」

 

 指の背で自身の目尻に浮かぶ涙を拭う、彼のその仕草こそ可愛くて、

 葵の心臓のアクセルが踏み抜かれ、頬を冷たい枕に押し付ける。

  

「……気づいてたんですか?」


「うん? 消えた行灯の芯がまだ熱かったからね」


(じゃあ、最初っからバレてたってこと……?)

 

「早く言ってくださいよ。一人で恥ずかしいじゃないですか」


 沖田も同じ枕に頭を乗せた。暗闇でも表情がわかるほどの距離で、葵の潤んだ瞳を覗く。

 

「もう少し葵を見ていたくて」


 甘い囁きに、わずかに胸が痛む。

 好きの比率が自分ばかりどんどん大きくなっている気がした。恋の秤は、釣り合いが取れなくなったらどうなるのだろう。


「総司さん」


「なに?」

 

 優しい笑顔で受け止めてくれるのに、

 葵は、この期に及んで『やっぱり良いです』と言葉を飲み込みかける。


(いや)

 

「……今度出かけたいんです。二人で」


 そして顔も見ず、返事も聞かない前から、大急ぎで二の矢を継ぐ。


「と言ってもお忙しいと思うので、半日か、いえ、もっと短くても良くて――」


 彼がいるはずの右枕は、しんと静まり返っている。

 

(……返事ない。寝た? いや、後十秒待とう)


 心の中で『1、2、3……』とカウントしていると、6秒目で返事が来た。


「時間作るよ。どこに行きたいの?」


 はっ、と葵は起き上がっていた。

 急にめくれ上がった掛け布団の下で、沖田が「寒い」と震える真似をする。


「すみません」

 急いで彼に掛け布団をかけて、おまけに、隣で持て余された掛け布団も二重に掛けた。


「行く場所は私が考えるので、総司さんは身体一つで来ていただければ!」


 葵が前のめりになるから、沖田はふふっと微笑む。

 

「気合入ってるね」


「はい、楽しみにしてます!」


 胸の奥に温かいものが灯った。

 

(楽しみ、言ってみてよかった)


 布団に入り直して身を寄せた。

 沖田が一瞬身じろいだ。しかしすぐに規則正しい呼吸が聞こえてきた。



(寝ちゃったんだ。続き……して欲しかった……)


 続き……


 試しに自分で耳たぶを引っ張ってみる。首に手を当ててみる。


 なんともない。


(なんで? さっきは)


 思い出しかけて、枕を放り投げたくなった。


(駄目だ……もう寝よう……寝て忘れよう)


 溢れつつある想いの入れ物に、無理やり蓋をする。


(はあ……総司さんのこと考えるのやめよう? もっと違うことを……)


 初めは仕事のことを考えた。

 それでも彼が頭の中に割り入ってくる。


 果ては土方の面紐が赤いのは洒落てるだとか、斎藤の御朱印はどこにしまっただとか……


 瓦礫を投げ込むように、思いつく限りにことを次々浮かべた。


 だんだん思考が鈍くなってくる。やっと葵は夜に抱かれた。

 







 しばらく後―― 


 葵の意識が眠った後、寝入ったふりをしていた沖田は、ひっそりため息をつく。


「……もう無理かも」


 大阪から帰って、触れ合うことを"練習したい"なんて言うから、沖田の方で温度を調節していた。


「ん〜……」

 

 寝ぼけているのか、葵は手を背中へ回してきた。

 薄い夜着越しにいろいろ伝わって、一瞬でさっきの甘い声と、肌の感触が蘇った。


「葵……」


 手が伸びかけて、いやいやと目を閉じる。

 こんな無防備な彼女に触れたら終わる。


 わかっているのに。

  

 そっと半開きの口へ、唇を押し当てる。

 髪に触れてから、もう一度。

 

 片手を腰のくぼみまで下げて抱きしめた。

 完全に脱力した身体は柔らかくて、理性が丸裸で高波にさらされているようだ。


 もう、いっそこの波に押し流されたい――

  

「そうじさん……だいすき……」


 寝言に、はっとした。

 

 そうっと離れて隣の布団に移ろうとするのに、背に回された葵の腕は意外と強い。

 

「けじめをつけるのが先だろう……」


 呟いて、細く息を吐いた。

 

すみません、投稿ミスしてました。本日二話投稿して6/13㈯はお休みします。

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