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2年越し②


 葵が昼頃に戻ると、やはり沖田はいない。布団は敷かれたまま、掛け布団だけが畳まれていた。葵がそのまま休めるようにしてくれたのだろう。


 布団に彼の存在を感じつつ、今度はきっちり刀を外して布団に入った。


「今日年が明けるのか……丸五ヶ月、色々あったな――」


 引きずり込まれるように眠ったあと、なんやかんやと、報告や医療手当、夕餉の支度で、あっという間に次の巡察になった。


 急いで集合場所に行くと、なんだかいつもより人数が少ない。


 隊士が肩をすくめる。


「欠員だよ、働かせすぎだよなあ」


 近頃は寒さと過労で体調不良者が増えている。昼は三人で廻ることもある。

 間もなく沖田が姿を見せた。

 

「四人で廻るので、気を引き締めるように」

 

「はい」


 しかし葵は言われた傍から気が緩み、目の前の背中を見つめて内心でため息を一つ。

 

 仕事中の彼の顔はまた違う凛々しさがある。若いながらに組を率いるのだから指示や守りも的確で、つい惚れ惚れしてしまう。


(……年末年始みたいなときこそ、暴動が起きるかもしれないし)


 (ほう)けている場合ではない。

 市中が近づけば自然と集中していた。



 ◇


 大きな事件はなく、いくつか酔っ払いの小競り合いを(いさ)めた。


「この辺りはもう良さそうだな。西の方を見て廻ろう」

 

 沖田が振り向いたのと同時に、除夜の鐘が鳴り始める。


 全員足を止めた。


「今日は大晦日だったな……」

 つぶやいて沖田は歩き出した。


 皆も黙ってあとに続く。


 暗闇に、低く静かに響く鐘の音が、じーんと骨身に沁みていく。

 ちらちら舞う粉雪が、沖田の黒髪に薄っすらかかるのを見つめながら、


(来年も無事にいられますように)


 すると、不意に歩を緩めた沖田が一瞬だけ隣に並んだ。

  

「葵」

 来年も一緒に――


 そう微笑むから、こんなに幸せな年越しでいいのかな、と胸が熱くなった。


 沖田は彼女のまつ毛に降った粉雪を、指で優しく溶かして、羽織を(ひるがえ)した。

 

 鮮やかなあさぎ色が鼻先に(かす)る。

 刀を振るうときも、愛しい人を抱きしめるときも、同じように揺れるだんだら羽織。


 自身もそれに包まれながら葵はまた、心の中で彼の名前を一人、粉雪のようにはらりと落とし積もらせた。





 

 ◇


「明けましておめでとうございます」


御慶(ぎょけい)申し入れます」


 見回りを終えた新年の朝。

 葵と沖田は同時に新年の挨拶を述べ、同時に「はて?」と顔を見合わせた。


「へえ、葵のところではそうやって言うんだね」


「はい、ここでの挨拶を知れて良かったです。御慶申し入れます……かっこいいですね」


「そう? どの辺が?」


「総司さんが言えば、なんでも様になるのかもしれません」


 そう返せば、


「葵の御慶申し入れます、も可愛い」


「ど、どの辺がですか?」


「"ぎょけい"の発音かな」

 

 イントネーションが違うらしい。


「御慶、ぎょけいギョ、ケイギョケイ……」

 ゲシュタルト崩壊を起こしそうになりながら、沖田の手本に倣う。


「うん、良くなったけど。前のも好きかな」


 そんなやり取りをして布団に入る。

 いつも通り布団は二組敷くが、使うのは一組だけ。


 少し寝たら昼前に新年の挨拶をして、そこからすぐ、将軍警護のため大阪に発たねばならない。


(大阪行かないでずっとここにいたい……)

 なんて、忠義心の厚い彼に言ったら呆れられるだろうから口を結ぶ。


 ふと大阪で、触れ合うことを「練習する」なんて大胆発言をしたことを思い出す。


 結局忙しさでそんな暇もなく過ごしていたから、この部屋に二人でいること自体久しぶりだ。


 どきどきしてきた胸を押さえる。


(いや、寝なきゃ。早く)


 疲れているはずなのに寝られなくて、閉じたまぶたをそっと開けた。


「眠くない?」


 ばっちり目が合った。

 

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