表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/78

1年越し①

 

 文久三年(1863年)大晦日。

 深夜二時。

 

 年の瀬はゆっくり団らん――とはいきそうもなく。


 新選組は、芹沢鴨の残党である野口の処分を終え、一層組織としての地盤を固めていた。


 斎藤が言っていた通り、大阪から帰った葵はまさに馬車馬のごとく働かされている。

 

 今日も朝8時から働いて帰宅が深夜2時。

 部屋の襖をそーっと開けるも沖田は不在。

 葵は布団も敷かずに畳に倒れ込んだ。

 

「……ブラック企業過ぎる」


 年が明ければ将軍が来るとかで、京都全体がぴりぴりしている。

 前準備で偉い人が京都に続々集まるため、その警護が、普段の任務にプラスオンされているのだ。


 ただ、身体は辛くても、泥のように眠れるから余計なことを考えなくて済む。

 意外と精神は楽であり、自分は動いている方が向いているかもなと思う。

 

「年が明けたらまた大阪か。総司さん、身体大丈夫かな」


 "総司さん"と意味なくもう一度呟くと、張っていた肩や脚が楽になったような気がした。


「布団、敷か……なきゃ……」








 

 ◇ 


「――ったく、布団も敷かねえで」


 誰かがばさばさと布団を敷いている音がする。


(……そうじ……さんじゃ、ない?)


 煙草の匂いでなんとなく土方だとわかった。起きなきゃと思うものの身体が動かない。


 気配が近づいてくる。


「……触るわけにもいかねえしな」


 ぼふんと布団がかけられた。

 布の冷たさにかえって頭がはっきりした。


 ぱちっと目を開けると、土方と視線がかち合う。

 次の瞬間、起き上がりざまに頭突きしていた。


「てめっ……いってえな……」


「すみません!」

 葵は頭を押さえつつ謝罪する。

 土方は赤くなった額を擦りながら憮然としている。


「総司に言われて様子を見に来たんだよ」


「沖田さんはまだ帰ってないんですか?」

 人前だと"総司"から"沖田"に自動で切り替わってしまう。


「ああ、近藤さんとこだ。もうすぐ戻るが、すぐ次がある」


(えー、まだ働くの? 過労死しちゃうよ総司さん……)


「次ってなんですか?」


明け六ツ(朝6時頃)に市中警備だ。欠員の穴埋めだからお前でもいいぞ」


 葵が代わったとて、沖田の方が圧倒的に稼働時間が長いことには変わりはないが、少しでも彼が休めるなら御の字だ。


「私が出ます」


 言い終える前に立ち上がり、きょろきょろと刀を探す。

 土方が葵の腰元を指差した。


「差してあるぞ」


 刀も外さずに寝ていたのか。だらしないところがばれて恥ずかしかった。

 外を見ると薄っすら明るい。もう時間のようだ。


「行って参ります」


 お辞儀をして出ていくと、ちょうど沖田と鉢合わせた。


「総司さん……!」

 

 ぱっと顔が明るくなる葵を見て、沖田も頬を緩めた。しかしすぐに怪訝な顔をする。


「どこ行くの?」


「市中警備です。総司さん寝てくださいね、行ってきます!」


「ちょっと待って……!」

 

 背中に声が聞こえたが、ごちゃごちゃ言われる前にと駆け出した。

 

 葵が行ってしまうと、沖田はむっとした顔で部屋に入った。


()は葵が休んでるか見てきてくださいって頼んだんですよ? 土方さん」

 

 土方の前では"私"と言っている一人称が咄嗟に崩れた。彼は涼しい顔をしている。


「あいつが自分で行くって言ったんだよ。にしてもすごい体力だな。本当に女なのか?」


「ええ、れっきとした」


 沖田はつっけんどんに言って、刀を外して腰を下ろす。

 

 葵はここに来てから、一度食あたりになったくらいで後はぴんぴんしている。「身体が丈夫で滅多に風邪をひかない」と本人が言っていた。

 女の身でよくやると、褒めたいような腹が立つような。


「土方さんの思惑はわかりますけど、彼女は自分からは降りませんよ。無駄にこき使うのはやめてください」


「何の話だ?」


 あくまでとぼける土方にため息を吐く。


「大方()を上げさせて、安全な裏方に回そうっていうんでしょう?」


 土方は、葵の沖田への想いを利用して隊務を増やすのだから、たちが悪い。


「片桐左京の話を聞いて心配になってな。お前の話を聞くに、生け捕りするなんて甘い相手じゃねえだろう」


 沖田は頷いた。

 さらに、片桐の動機や背景が読めないことが不気味だった。


 土方は重くなりかけた空気を軽くいなす。 


「まあ、人手が足りないのも本当だ。葵は使い勝手がいいんだよ」


「鬼ですね」

 沖田が呪わんばかりの目を向けるので、土方は立ち上がった。退散することにしたらしい。


「まあ、このままじゃ本当に倒れかねないからな。隊の編成自体を見直す。

せっかくあいつが代わりに出たんだ。お前はちゃんと寝ろよ」


「言われなくとも」


 はあっと布団に横になる。

 襖が閉まる音を聞いて目を閉じた。


「そんなに頼りないのか……?」


 女に庇われるほどやわに出来ているつもりはないが。葵がやたらと自分の体調を気にするのは――


 久々の布団から葵の匂いがする。


(甘い……)


 気づけば沖田は、抱かれるように深い眠りに落ちていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ