5-10お披露目②
襖が開いた時、中にいたものは全員息を止めて葵を見た。
「本当に、あおいなのか……」
誰かの呟きも、障子紙に吸い込まれていく。
皆ぼうっと見入っていたが、沖田は、一番奥に構えている近藤を真っ直ぐ見て、しっかりした足取りで進み出た。
「近藤先生、順番が前後し申し訳ございませんでした」
沖田の硬い声に、葵の緊張も高まる。
近藤は座っているだけなのに、重々しい空気が、葵の頭を床へ押しつけるかのようだった。
しかし意外にも柔らかな声が落ちる。
「総司、そんなに固くならなくてもいい。急なことで準備が大変だっただろう。
葵さんも、話は聞いている」
近藤は土方と視線を交わしていた。
短時間で場を整え、近藤を説得してくれたことに、改めて土方への感謝の気持ちが沸き起こる。
沖田も土方へ一礼すると、部屋にいる者を見回した。
一番に声を上げたのは原田だった。
「あおいちゃん、マジで女だったのかよ! 遊郭なんか連れてって悪かったな!」
永倉がふふんと笑う。
「原田、お前は鈍いな」
「永倉さんは気づいてたんっすか?」
「いや、全く」
原田が盛大にずっこける。
永倉はいやいや、と言葉を続ける。
「剣は柔らかいと思ってたぜ? あとは沖田が近寄らせねぇもんだから、怪しいとは思ってたな」
「はは、永倉さんの目はごまかせませんか」
沖田が照れたように笑う。
「まあな。だけど斎藤なんかは、しょっちゅう一緒にいたし、気づいてたろ?」
皆の視線が斎藤に集中すると、彼は黙って頷いた。
(え! 斎藤さん気づいてたの……!?)
葵の驚いた顔を見ると、斎藤は「馬鹿にするな」と鼻を鳴らす。
「気づかないほうがどうかしている」
すると、隣でずっと俯いていた藤堂が顔を上げた。
「あおい君、嘘だよね!?」
「藤堂さん……ごめんなさい。私ずっと黙っていて……」
「絶対信じない! あおい君が女で、しかも……」
「藤堂いい加減にしろっ!」
われ鐘のような土方の声を無視して、藤堂はまくしたてる。
「沖田はあおい君を弟みたいにかわいがってるだけだと……だから牽制されても我慢してたのに!!」
「ははっ、弟じゃなく、妹だったってことだ」
原田が明るくつっこみ、斎藤が頷く。
そのとき、
「嘘だ!」
「藤堂さん!!」
藤堂が飛び出し、葵も追って行ってしまった。
残された面々が呆気にとられる中、土方がはっとする。
「いいのか総司!? 藤堂の奴、何しでかすか分からねえぞ」
「……だけど、俺は葵さんが女だと知っていて、藤堂に言わなかった。公平性に欠けたのは事実です」
「やせ我慢してんじゃねえよ、お前の女なんだろうが、さっさと行け!」
沖田は立ち上がったものの足が動かなかった。
◆
藤堂は庭の隅にいた。
「藤堂さん……」
葵がそっと近づくと、藤堂は顔を上げた。
目が少し赤くなっている。
「ごめん、あおい君。僕がめちゃくちゃなこと言ってるのはわかってるんだ。少し驚いただけで……」
言葉を詰まらせて、藤堂は俯いた。
「ずっと一緒に剣の稽古して、飯食べて……
あおい君が女の子だって、全然気づかなかった。
それどころか、沖田があおい君を弟みたいに可愛がってると思って、僕も……ちょっと嫉妬してたんだよ」
最後の言葉はほとんど消え入りそうだった。
葵は胸が痛くなった。
藤堂はいつも真っ直ぐで、誰よりも仲間思いだった。
その彼を、ずっと騙していたことが申し訳ない。
「藤堂さん、私……本当にごめんなさい。
最初はただ生き延びるために男のふりをしてて、 途中から言い出せなくなっちゃって……」
葵が腰を落として藤堂の隣に座ろうとすると、後ろから静かな足音が近づいてきた。




